探しモノ⓪
朝。
新しく替えた藁のベッドから出て着替えて顔を洗う。
ベッドは木枠に藁を敷いて古い布団を更に敷いたものだ。
ベッドから起きた真正面は台所になっている。
前世のシステムキッチンみたいな上等なモノじゃない。
とりあえず竈とまな板を置く台。
水切り場と水を溜めた樽ぐらいはある。
竈に藁と発火石を入れた。
発火石を砕くと発火する。
竈にはフライパンが置いてある。
鉄でも銅でもなく岩石製で分厚くゴツゴツして底が深い。
握り手には布が何重も巻いてある。
前世で似たようなフライパンを使っていた覚えがあった。
だから道具屋で見つけたとき迷わず買った。
食料壺からベーコンの塊と卵とパン豆をふたつずつ出す。
ベーコンをそれなり分厚く切って、フライパンに入れた。
はみ出るがじっくりと焼く。
「……いい匂いだ」
肉の焼ける音もいい。
焦げ目がついたらひっくり返す。
脂がいっぱいだ。
よし。出来上がり。
少しカリカリな分厚いベーコンを深皿に入れる。
火を【バニッシュ】で消し、脂は多いので油壺へ。
廃油に近いが再利用し、3日ぐらいで消している。
ちなみに生ゴミや粗大ゴミ。それにトイレの尿や糞便なども消している。
レリック【バニッシュ】。便利だ。
僕の棲家はスラム地区の住宅街のちょっと変な立地にある。
宿でもアパートでもなく借り家でもない。
持ち家だ。
正確にいうと叔父の持ち家。
この街に来たのもこの家があったからだ。
棲家は煉瓦造りの建物と石造りの白い石造りの建物の間にある。
一見すると木製の狭く小さな物置きの入り口にみえる。
建物の後ろには古い塔がある。
実はこの物置きの入り口。
両隣の煉瓦造りと白い石造りの建物の入り口だ。
外見はまるで別々の建物のように見える。
だが内部は繋がっている。
部屋は全部で5つだ。
地上で3つ。地下でひとつ。塔でひとつ。
そう後ろの古い塔も棲家の一部だ。
僕は主に2つの部屋を使っている。
左側奥の寝室。左手前の洗い場。それと右のトイレだ。
右側の部屋は物置としている。
寝室と洗い場をふたつ合わせた部屋で樽と木箱でいっぱいだ。
洗い場の地下は貯蔵庫。塔の部屋は小部屋。
最上階にあって見晴らしがいい。
ふたつも建物を使っている。
なのに棲家は見た目と違って広さはあまりない。
周囲の壁が厚いからだ。
棲家は叔父曰く冬場はいいが夏場は蒸し暑い。
暑さ対策として塔から風通しが良いようにはしてある。
それでも暑かったら地下を上手く使えと言われた。
去年言われたとおりにしたら夏場は快適に過ごせた。
地下は冷たい。
だから貯蔵庫として使うのにぴったりだ。
「……」
卵をふたつ割ってフライパンへ。
水筒の中身・冷えた牛乳を入れて塩コショウして掻き混ぜる。
ほどよく混ざったら火を付けてバターを投入。
木ヘラで混ぜ混ぜして焼く。
半熟になったらベーコンのある深皿に入れる。
後はパン豆を添えれば出来上がりだ。
「うん。いい出来だ」
ベーコンとスクランブルエッグ。
前世の朝食でよく作っていた。
この世界でも、たまにつくっている。
「それにしてもホント便利だな」
レジェンダリー・三日月の器。
特に浄水機能と冷温機能が使い勝手が良すぎた。
貰ってまだ5日だが、これがないと生活できない。
調合機能は様子見だ。
これを本格的に使うには僕に足りないものが色々ある。
まず知識。
ベーコンを食べてスクランブルエッグを口にする。
「……スクランブルエッグに塩はいらなかった……」
ベーコンの塩辛さと相まってしまった。
歯応えはいい。カリカリとした肉の食感も悪くない。
ただ塩辛く濃い。
おかげでパン豆が捗るが、ちょっと間違えたな。
食べる合間に水筒を口にする。
冷たい牛乳。おいしい。
「ふうぅ」
なんとか食べ終わる。
塩加減が課題だとしみじみ思う。
深皿とフライパンを洗って歯磨きする。
炭を口に含んでミガという木の枝で歯を磨く。
歯磨きは終わった。
次は、毎日の訓練。
レリック【バニッシュ】の訓練だ。
【バニッシュ】は使い勝手がとてもいい。
だが危険が無いわけじゃない。
なんでも消せる【バニッシュ】は一歩間違えたら大怪我じゃすまない。
だからこそ毎日の訓練としてルーティンに組み込んでいる。
「…………」
利き手に【バニッシュ】を出現させる。
最大化から徐々に小さくして指先のビー玉ぐらいの大きさにする。
これを3回繰り返す。
「……少し早くなったかな……」
ビー玉くらいにした【バニッシュ】であそぶ。
指先を伝わるように面白く転がる。
だが決して指から手から離れることはない。
それとナイフ捌きと日課の訓練を終える。
水筒の冷たい牛乳を飲み干す。
「ふう」
これで僕のいつもの朝は終わりだ。
今日は何をしようか。




