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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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259/270

心からのブレスレット⑩・シロ&ナーシセス。

シロさんがチャイブさんの部屋から出てきた。


白い髪飾りに腰下まで流れる銀ではなく白い髪。切れ長の眉に白い瞳。

白雪のような肌をした美少女だ。着ている服も白いゴスロリドレス。

頭のてっぺんからつま先まですべてが真っ白い。


シロ=ホワイト=ヴァイス=ブランシュ=アルブム=セフィド。

第Ⅰ級探索者。『不死身の白薔薇姫』と呼ばれている。


見た目は僕より一つぐらい年上にしか見えないが、魔女と同類なので年齢は不明。


「これでいいわよ」

「ありがとうございます。すみません。どうしても僕だと」


シロさんは気絶して汗だくのチャイブさんを風呂場に連れていった。

身体を洗って着替えさせて部屋に寝かせてくれた。ありがたい。


「いいのよ。これくらい。それで、なにがあったの」

「実は……」


僕はブレスレットのことを話した。

シロさんはムッとする。


「その感謝の証。シロは貰ってないんだけど」


急激に空気が冷たくなり氷が混じった。


「す、すみません。ちゃんと用意してあります」

「そう。それならいいけど」

「手を差し出してください」

「こうかしら」


シロさんはスッとどこか優雅に腕を出す。

真っ白で細くて柔らかくて、ブレスレットを通す。


白い輪に白い宝石が填め込まれた白いブレスレット。

これこそ彼女に相応しい。


「白ね」

「はい。シロさんですから」

「ええ、シロだもの。それにしても全て真っ白は珍しいわね」


弾む声でブレスレットをみつめている。良かった。気に入ってくれた。

そして僕を見る。


「シロさん」

「なるほどね。これはお礼をしたくなるようになっているわ」

「したくなるように?」

「ウォフくん。このブレスレットはレガシーよ」

「レガシー……ですか」

「だけどね。悪いことじゃない。ええ、悪いことじゃないわ」


唐突にシロさんが僕にキスした。

唇に心地いいひんやりとした柔らかさが伝わる。それと、ちょっと驚く。

ストロベリーアイスを口にしたような甘酸っぱさが口の中にひろがった。


「……んっ……シロさん……」

「ふぅっ……はじめてキスしちゃったわ……」


照れたように唇を引く。いくつもの透明な糸が垂れていった。


「し、シロさん」

「なあに?」

「ど、どうしてお礼がキスなんですか……」


彼女ならその理由を知っているはずだ。

シロさんは僕の唇に指を当てた。とんとんっと軽く叩く。


「ひみつ」


そう呟くように言って指を離して。


「ねえ、ウォフくん。シロ、ちょっと遠くに行くわ」

「……出て行くんですか」

「どうしても、シロが届けなければいけないものがあるの。でも勘違いしないで。お別れじゃない。また会える。会えるから」

「……はい。また会いましょう」

「そのときは―――このキスの続きをしたいわ―――ね」


シロさんは淡く微笑んだ。














夕方近く。ミネハさんに言われて夕飯の材料を買いに行く。


「あれは」


ナーシセスさんだ。

サイドテールにした濃い紫の髪と鮮やかな紫の瞳。勝ち気な美女だ。

数名の男たちと一緒に裏路地へ。ああ、うん。はい。


ちょっと待ってから裏路路地な行くと、死屍累々の山の上にナーシセスさんがいる。



「ウォフっ! ちょうど良かったわ。手伝って!」

「掃除ですね」

「そうよ!」

「じゃあやりますか」


僕は【バニッシュ】を使った。

掃除が終わり、ナーシセスさんはすっきりした顔をする。


「準備運動にはちょうどいいわね」

「いつもこんなことしているんですか」

「たまによ。利用しているうらが言うことじゃないけど、治安悪いわね」

「そろそろ街も元に戻りますよ。祭りみたいな一過性です」


人の流れも元に戻りつつある。


「そういうものなのね」

「ちょうど良かった。ナーシセスさんに聞きたいことがあります」

「なに?」

「……【ジェネラス】の剣を知っていますか」

「剣?」

「剣の神様らしいのですが」

「ああ、それなら知っているわ」

「本当ですか」

「ええ、剣のカタチになった剣の女神ね。ジェネラスの王の愛剣だったわ」

「それです! ん? ジェネラスの……王?」

「そうよ。知らないの。ジェネラスは種族よ」

「種族……」

「だから、うらも正式には再来じゃなく末裔なの。ジェネラスの末裔。それも直系」

「それじゃあ少年神というのは」

「最後の王のことね」


あー、ツタンカーメンみたいなものか。


「それで剣だけど、折れたのよ」

「えっ、折れた?」

「そう神々の戦でポッキリと折れた。それでその折れた刀身の破片でいくつも剣が造られたわ」


それは知らなかった。


「その剣が今はどこにあるかは」

「知らないわ!」

「ですよね……」


そんな自信満々に言われても。


「だけど、そんなモノを探してどうするの?」


そんなモノって、まあ彼女になら教えてもいいか。


「実は、僕。剣が持てないんですよ」

「持てない?」

「どうもその剣の女神に呪われているみたいです……呪われているから剣が持てないんです…………」

「そうなの。大変ね」

「ナイフは持てますから」

「そういえばそうね」


しかし折れているのか。

しかも刀身の破片が剣になっているのか。


「教えてくれて、ありがとうございます」

「いいのよ。これくらい」

「そうだ。あの腕を差し出してくれますか」

「なによ。いいけど」


ナーシセスさんは腕をまっすぐ出す。僕はブレスレットを通す。


濃い紫の輪に薄い紫の宝石が填め込まれたブレスレットだ。


実はポーチに入っているブレスレットは全部、無地だ。

しかし握って思い浮かべるとそのカラーと宝石になる。


「へえー、腕輪ね。いいわね。これ」

「ブレスレットです」

「うん。いい腕輪だわ。くれるの?」

「はい。感謝の証です」

「感謝……そうね。そうなの?」


まあ色々とあったけど感謝しているのは本当だ。


「はい。感謝しています」

「……そ、そう。ねえ、それでブレスレットのお礼がしたいんだけど」


来た。ナーシセスさんは頬を朱に染めてモジモジしている。


「ナーシセスさん?」

「どうすればいいの」

「え?」

「だからお礼はしたいんだけど、どうすればいいの?」

「どうって……」


これは新しいパターンだ。

ナーシセスさんは困ったように僕を見ている。


「お礼をしたいのよ。こんないい腕輪を貰ったから、何かウォフにしたいの」

「ブレスレットです」

「でも、どうすればいいか分からないの」

「そう言われても……別にお礼は」

「嫌よ。貰ったままなのはうらのプライドが許さないわ!」

「とは言われても」


このお礼をしたいというのはブレストレットの効果だろう。

なのにナーシセスさんはどうして困っているんだ? どうして分からないんだろう。


「そうだわ。感謝の証ってことは他の人も貰っているのよね。この腕輪」

「ブレスレットです」

「貰ったひとはどんなお礼をしているの?」

「えっと、それは…………キスです」

「は? ちょっとふざけないで」


ナーシセスさんはムッとする。


「ふざけていません。本当にキスなんです。主に頬とかにですが」

「き、ききき、きき……ちょっと待って。ウォフに?」

「はい。お礼として」


あっ、ナーシセスさんの顔が耳まで真っ赤になった。


「き、ききき、ききき、きききき、キスって!?」

「別にしろと言っていませんよ」

「で、でも、お礼で皆がしているのよね」

「それはまぁ、何故かそうですね。だからといって別にしなければいけないってことはないですよ」


無理にしなくてもいい。


「ね、ねえ、今まで誰に渡したの?」

「魔女とかムニエカさんとかシロさんとか」

「なっ、そいつらもキスしたの……?」

「しました。だけどだからといって」

「するわ」

「えっ、いやでも無理にしなくても」

「するわよ。お礼にき、きき、ききき、きききき、キスっ」


ナーシセスさんはうっすらと涙目になっている。

顔は今にも湯気が出そうなほど真っ赤だ。どう考えても無理をしている。

相当無理をしている。


「ナーシセスさん。やっぱりやめ」

「眼を閉じて!」

「えっ?」

「いいから目を閉じて!」

「わ、わかりました」


言われた通りに目を閉じる。


「ぜ、絶対に目を開けたら駄目だから!」

「は、はい。わかりました」


お礼なんだよな。

すると何か近付く気配がして、両頬が手で押さえられる。


「い、いくわよ」


そう小さな声がした後、唇に軽く柔らかく濡れた感触があった。

それで終わりかと思ったら舌が口の中に入ってきて驚く。


「っ!?」


絡めて舐めて吸うと舌が引っ込んで口から全ての感触が唐突に消えた。離れたんだ。

両頬から手が退かれて目を開けていいと言われたので開ける。


「……あの、いま」

「お礼だから」

「だけどその」

「お礼だから」


言いながらナーシセスさんの全身は真っ赤になっていて、顔を僕から背けていた。

ナーシセスさんは最後に腕輪ありがとう。そう言って別れた。

ブレスレットです。


路地裏から出て、ふと僕は大通りに向かう

相変わらずの人の多さだが、前よりは少なく感じる。


「よう。にいちゃん」

「あ、あなたは」


声を掛けられて驚く。

僕がブレスレットを買った、ターバンの露天商だ。




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