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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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257/284

心からのブレスレット⑧・ムニエカ=エルドラド。



魔女の家の2階の客室のひとつが、今はムニエカさんの部屋になっている。

ムニエカ=エルドラド。第Ⅰ級探索者『オートドール』。

8体のミノスユニットのメイド隊を率いている。


金色のショートヘア。

切れ長の眉に鋭く射貫くような青い瞳。

凛々しく整い過ぎた顔立ち。

白と黒を基調としたメイド服を皴ひとつなく着こなしている。


背丈は高い。そしてスタイル抜群だ。

ゆったりとしたメイド服からでも胸の膨らみがハッキリと分かった。


女としてこれ以上ないほど魅力的な肉体をしている。

その凍れる美貌と佇まいはまるで精巧に造られた人形のようだ。


オート系統のレリックのみを所持。

その容姿も相まって『オートドール』と称される。


種族はエッダだが、髪飾りによって目の色を変えていた。

そして何故か僕のメイドをしている。何故か。


「ご主人様。おかえりなさいませ」

「ただいま。ムニエカさん」


話があると言ったら部屋に連れ込まれた。

この部屋でふたりっきりは過去に1度だけあった。

僕は彼女のベッドに座らされる。


「ダンジョンは如何でしたか」

「色々とありました」


本当に前回もそうだけど今回は更に盛り沢山でした。

あれだ。前世の記憶の大半が野菜マシマシ脂少なめ味ふつう麺硬めが好きだ。

でも前回のが野菜マシマシ油ふつう味濃いめ麺硬めだった。


そして今回のは野菜マシマシ脂マシマシ味濃いめ麺バリカタだった。

これは前世の記憶のごく少数が好みというかひとりだけしか好みじゃなかった。

つまりそれほど濃かった。


特に『デス・アブストラクト』は【レーヴフォルム】が無ければ勝てなかった。

例え全員でフルで挑んでも勝てなかったと思う。


アレはそもそも前提が違う。戦うというのが違う。

マイナスの特に死が主だったエネルギーの実体化。つまり死と戦うようなモノだ。

前世の記憶風でいえば死神。


そんなの勝てるわけがない。だから封印されていた。

複雑だけどアルヴェルド=フォン=ルートベルトに感謝だなぁ。

ムニエカさんは僕に頭を下げた。


「私めはご主人様が無事に戻ってきてくれて何よりです」

「ありがとうございます。実はムニエカさんに渡したいモノがあります」

「ブレスレットですか」

「えっ、知って」

「もちろん。毎日シャルディナたちが自慢してきます」

「あっ……うっ」


言葉に詰まる僕。

ムニエカさんが無表情のまま機嫌悪そうにして続ける。


「直接、自慢はしていません。ですが彼女たちは服務規程違反にはならないのですが、いつもブレスレットを身に着けていて仕事の合間にちょっとした間があれば、そのブレストレットを見つめているんです。まるで恋しいひとに大切なモノを貰ったかのように。シャルディナでさえ、ブレスレットを恥ずかしそうに優しそうな眼差しで見ていて、それをただひとり持っていない彼女たちの長たる私めの気持ちを考えてください。旦那様」

「ご、ごめんなさい。すみませんでした」


申し訳なくなり僕は謝った。思わずソイル・アンダー・オッカーラしそうになった。

いやまさか彼女達がそこまで大切にしてくれているとは思わなかった。


その気持ちはとても嬉しいんだけど、その、ムニエカさんにはすみません。

なんなら今からソイル・アンダー・オッカーラします。

だから彼女の『旦那様』呼びもスルーしている。


「それで、旦那様。私めも戴けるのですか?」

「は、はい。もちろん。あります。ちゃんとムニエカさんの分もあります。日頃の感謝の証です」


僕はポーチからブレスレットを出す。

彼女は自然と手を差し出した。僕は彼女の手を取ってブレスレットを通す。


金色ではなく白金色の輪で紫ではなく青紫の宝石が填め込まれたブレスレット。


「これが私めのブレスレットですか」

「はい。輪の色は基本的に渡す相手の髪の色です。ムニエカさんの髪の色は金ですが、ムニエカさんの髪は銀色に近い金です。なので白金にしました」

「なるほど。宝石が青紫なのは」

「エッダとしての紫とメイドとしての青です」

「嬉しいです。とても……ありがとうございます。旦那様」


ムニエカさんはブレスレットをみつめている。

僕はそんな彼女にもうひとつ。贈り物といっていいのか迷うけど渡すモノがあった。


これを持ってきて良かったのか僕は今も迷っていた。

だけどもう持ってきてしまった。それなら最初に考えていた通りに渡すだけだ。


「実はムニエカさんにもうひとつ渡すモノがあります」

「ブレスレットの他にですか」

「はい。これは……ダンジョンの遺跡にありました」

「遺跡ですか」


不思議そうにするムニエカさん。僕はポーチから木の小箱を出す。

少し手が震えていた。小箱をムニエカさんに渡す。


彼女は素直に受け取り、開けてもいいか僕に尋ねた。

頷くと開けて、そして止まる。


「ムニエカさん?」

「旦那様。こちらをどこで手に入れたのでしょうか」


僕は全てを話した。

遺跡のこと。

『デス・アブストラクト』の封印のこと。それを討伐したこと。

そしてアランスさんには話していない彼女のこと。


『ルニエリカ=エルドラド』


ムニエカさんは黙って聞いていた。

話し終わると、ムニエカさんはいきなり自分の胸元に手を入れて何か取り出した。


「こ、これは」


それは紐が掛けられた銀色の懐中時計。全く同じものだ。


「エルドラド家の女性に代々伝わるモノです。私めは祖母から譲り受けました。これは遥か大昔の先祖が母親にあげた誕生日プレゼントと同じモノです」

「……」


カードには『誕生日おめでとう。娘より』ってあったな。

母親と同じ懐中時計を持っていたのか。


「まさかこうして巡り合えるとは思いませんでした」


ムニエカさんはとても大切そうにふたつの懐中時計をそっと抱きしめた。


「僕もそう思います」


持ってきて良かった。僕はどこかで安堵する。

ムニエカさんは手にしていた懐中時計ではなく、首に提げていた懐中時計を外した。

それをなんと僕に差し出した。


「こちらは旦那様が持っていてください」

「えっ、でもそれはエルドラド家の」

「はい。私めにとって大切なモノです。とてもとても大切なモノです」

「それならどうして」

「それと、こうして奇跡的に巡り合えたふたつの懐中時計をまた別れさせるのはどうかと思っていますよね」

「それはもちろん。そうです。なんで」


それなのにどうして僕に?


「———この懐中時計は言い伝えによると、かつて母の身を想う娘がプレゼントしたものです。そして同じモノを自分が持つことによって離れていても心は通じていると信じていました。ですが結果は……」

「それは」


僕は辛くなる。どうしようもないとはいえ、僕が殺したんだ。

俯いてしまう。ところがムニエカさんは予想外のことを口にした。


「ですが旦那様は彼女を救ってくださいました」

「えっ、いや僕は……ころしたんです」

「いいえ。救ってくださいました。研究者だからとはいえ魔物の一部になってしまいずっと封印されてきた。それが世に出れば死が蔓延していたでしょう。それは彼女も……ルニエリカも決して望まなかったと思います。旦那様。いいえ。ウォフ様は彼女の心を救ってくださったのです。エルドラド家を代表してありがとうございます」


ムニエカさんは丁寧に深く頭を下げる。

僕は……彼女の言葉を聞いて少しだけ救われた気がした。


「旦那様。私めも旦那様のことを想って、例え遠く離れていても心が通じていると信じて、この懐中時計を旦那様に差し上げたいのです。ムニエカ=エルドラドより感謝と心を込めて」


ムニエカさんは微笑んだ。


「……わかりました。受け取ります」


ここまで言われて、その笑顔を見て断ることは出来ない。

僕は立ち上がって懐中時計を手にした。


「仕舞ったままにせず普段使いしてください」

「は、はい」


その貰った懐中時計は生暖かかった。

ふとムニエカさんの顔が近い。目の鼻の先という距離になっていた。


「そしてこれはブレスレットのお礼よ」


そうささやいて彼女は僕の唇……ではなく額にキスした。


なにか一瞬だけ迷っていた気がした。けど、あの……長いです。長くない?

僕は目の前で生地ごと垂れ下がるふたつのふくらみを見て思った。


額にキスしたままムニエカさんは動かない。


「ちゅっ、本当はここにしたかったけど、これで我慢します」


そう言って僕の唇に指を軽くちょんとあてて離れた。


僕は沸騰した。



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