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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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253/284

アヴスドラクドゥの遺跡②

3人が生存していた。驚くと共に僕は安堵する。

互いに武器を収めると、【危機判別】の赤い点が消えた。

敵となる条件が無くなったからだ。


赤い点・敵となる条件は僕に対して敵意や殺意がある。

僕に対して攻撃の意志があることだ。


今回のことを端的に言うとだ。


『相手が誰か分からずそれでも誰か来たと警戒し武器を構えて攻撃の意志』がある。


それだけで【危機判別】の表示は赤い点になる。

相手を確認し武器を収めたことで赤い点ではなくなった。


「俺はスィード。『タルタロスの蓋』のメンバーだ」


槍を手にした短い金髪の男性はそう名乗った。

見た目的にアガロさんと同い年ぐらいか。目の上に切り傷がある。


「オイラはドッカス。同じく『タルタロスの蓋』のメンバーだば」


スィードの次に名乗ったのはドワーフだった。

ホッスさんにどことなく似ているが髭が生えている。


「わ、わたしは、ミレース=コーンウェル。ギ、ギルド所属の、い、遺跡点検員です……」


おどおどした態度で女性が答える。長い灰色の髪に目が隠れていた。

大きな狐耳とふたつの尻尾。魔女と同じ狐人種だ。尻尾がひとつ足りないけど。

眼鏡をかけているが、メカクレだから意味があるのかな。


「俺はアガロ」

「うらはナーシセス=ユートピアよ!」

「あのあの、あたくしはジューシイ=タサンです」

「僕はウ……ウォルです」

「!」

「!」

「? なに言ってんの。あんたは」

「いやー生きてて良かったぜ! ホント良かった。立ち話もなんだ。どこかでじっくりと話を聞きたいな!」

「ああ、俺たちが拠点として使っているところがある」

「こっちだば」

「あ、あぅ……」


3人が案内する。


「えっちょっと」

「ナーシセスさん」


僕は彼女に耳打ちする。


「なに? ふむふむ。ああ、そういうこと」

「だからお願いします」

「気にしなくてもいいのに……まっ感じ方はそれぞれね。分かったわ」


僕が偽名を使った理由。それは騒がれたくないからだ。

うぬぼれかも知れない。


ただ『ケルベロスターン』の反応を知ると決してそうじゃない気がする。

だから僕は偽名を名乗った。あまり騒がれたくないし、そういう空気じゃない。


着いたのは台座がある制御ルームだった。

隅にシートが敷かれて寝袋がふたつ置かれている。


「この制御ルームってところをメインに四つの部屋を使っている」

「四つ?」

「ああ、食料製造室。シャワー室。休憩室。トイレだ」

「食料製造?」

「ミレースがそこの台座を使って見つけた。なんでも栄養価の高いペーストとかいうのが製造出来て、それを俺たちは食べている。見た目は悪いが味はマシだ。何十種類もあるから飽きは来ないのも良い点だな。飲み物もあるぞ」

「酒は?」

「それは残念ながらねぇよ」


スィードさんは笑う。アガロさんはガッカリする。


「話を続けるぞ。シャワー室はシャワーというのから湯水が出て身体を洗うことが出来る。休憩室はミレースが使っている。トイレは言わなくてもいいか」


「わ、わたしだけ部屋、ひ、ひひ、ひとりで、つ、使って、ご、ごめんなさい」


ミレースさんは頭を下げる。


「いいんだよ。ミレースは女で、あんたが居なければ俺たちは餓死していた」

「命の恩人だば」


ミレースさんはもう一度、ふたりに頭を下げる。


「しっかり生活できて、なんだか安心したぜ」

「そういえばアガロたちはどこから来たんだ?」

「それなんだが、まずは」


アガロさんはポーチから探索者タグを慎重に取り出し、彼らに見せる。

それを見て、まずスィードさんとドッカスさんは察した。

ミレースさんが遅れて分かったのか崩れ落ちて震え出した。


「あっ、ああぁっ……ぁっ……」

「ちょっとだいじょうぶ?」

「あのあの、平気ですか」

「す、すみません……」


彼女はナーシセスさんとジューシイさんに任せよう。


「なにがあった?」


アガロさんが尋ねると、スィードさんは語り出した。


「44階へ点検に行くと、ガラの悪い連中に襲われたんだ。返り討ちにしたが、どうして特別階にこんな盗賊団が居るのか。ギルドに伝えようとしたが、そのときヘマをしてミレースが連中に攫われた。さすがに放っておくわけにもいかない。ましてや女だ。ギルドに報告に行っている間に何をされるか分からない。だから俺たちは救出にこの町へ向かった。連中にネクロマンサーが居て、そいつの操るゾンビが厄介だったが、俺たちは盗賊団をこのアヴスドラクドゥの遺跡に追いつめた。ミレースも救出して盗賊団のボスも殺した。そこまでは良かった。だがこの遺跡にはとんでもないモノがあって、更に最悪なモノが封印されていた。ネクロマンサーの野郎はそれを解き放った。そのときに他の3人と別れ、俺たちはここに逃げ込めた。運が良かったが、別の問題が発生した」

「ああ、あれが外にあるから出られなくなったのか」

「それもあるが、もうひとつの問題も……ある」

「もうひとつ? スィード。そいつは、なんだ」

「その前にアガロ。おまえたちはどうやってここに?」

「そ、そと、外には、あ、あれが、あれが……」

「だば。地上からは絶対に無理だば」

「そいつは―――」


アガロさんは話す。

スィードさんとドッカスさんとミレースさんは愕然とした。


「はあぁっ? あれを倒した……!?」

「本当だ」

「どうやってだばっ!?」

「た、たた、倒す……た、倒した? ど、ど、どうやって、ど、どのように」

「それは―――悪いな。答えられない」


僕がやりました。


「だ、だよな……さ、さすがだなぁ。第Ⅰ級探索者」

「あれを倒せるとか尋常じゃねえだば」

「……ほ、ほんとうに……あ、あれを……」

「うらも第Ⅰ級よ。もっともあんなのは倒せないわ!」


自信満々に言うナーシセスさん。


「お、おう」

「だ、だば」


ナーシセスさんのノリに若干、引くふたり。


「で、では、そ、外に、出られる……ですね」

「そうだ。強制転移石もある。今すぐにも出られるぞ」

「スィード!」

「す、スィードさん……」


ドッカスさんとミレースさんがどうするんだという風に彼を見る。

彼は苦悩する表情を浮かべ、頭を軽く振ってからアガロさんを見た。


「…………あれを倒せるのなら……アガロ。もうひとつの問題がある」

「それはなんだ」

「実は絶対に壊さないといけないモノが最下層にある」

「絶対に?」


なんだ。


「なによそれ?」

「それは……イベント発生装置だ」


スィードさんは重々しく言った。


「イベント発生装置……?」

「イベントを任意に発生することが装置だ」


イベントを任意に?


「ふーん。それはまた大そうな代物ね」

「あのあの、あの、とても大変なモノです!」

「う、うん。と、とても、や、ヤバイから……」

「そんなものがあるんですか」


半信半疑だが、最下層の紫の光はそれかと納得できるところもある。


「あるんだ。壊さなければいけない理由はアガロなら分かるだろう」

「……ああ、そいつは壊さないといけねえな」


もし自由自在にイベントを発生することが出来るなら、そんな分かっている。

それは絶対ロクなことにならない。


「あのあの、あの、壊さないといけないのです? イベントを任意に起こせるならその逆も可能じゃないのです?」

「可能じゃないんだ。イベントを起こすだけしか出来ない」

「それにだば、例え消すことが出来てもあれは管理できるものじゃないだば。悪人の手に渡ったら大変なことになるだば」


現に盗賊団が悪用しようとしていた。


「現に大変なことになってしまった。あれの封印を解いたのはそのイベント発生装置の力だ。封印を解くというイベントで封印が解かれた」

「最悪だな……」

「そんなの。なんでもありじゃない」

「そんな装置と同じ場所に封印されていたんですか」


僕の当然の疑問。

簡単に封印がいつでも解除できるようなものだ。


「いいや。あの装置はネクロマンサーが持ってきたものだ。まあ見ればわかる。その装置がどういうものか。これで分かっただろう。イベント発生装置———なんとしても破壊しなければいけない」

「そうだな」

「派手にぶち壊すわよ」

「———だったらなんでおまえがやらないんだ。スィード」


アガロさんは落ち着いた口調で聞いた。

そうだ。壊したほうがいいならとっくに壊しているはず。

スィードさんはため息を吐いた。


「……ネクロマンサーだ。あいつはあれの封印を解いた代償でアンデッドになった」

「アンデッドになって装置を守っているだば」

「し、しかも、そ、そのアンデッドが、り、リッチなんです」

「リッチか」


リッチ。金等級上位のアンデッド。レリック【闇】の使い手だと聞く。


「しかもあいつはネクロマンサーのレリックを持ったままリッチになりやがった」

「厄介だな」

「でも倒せないわけじゃない。そうよね。『滅剣』」

「ああ、とっとと倒してその装置もぶっ壊して帰るぞ」


やっと終わりが見えてきた。



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