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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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248/284

即席狼団Ⅱ⑤


まさかの事態に心の中で笑うしかなかった。


「王! 王! 王! さすがね。ウォフ!」

「あのあの、あの、ウォフ様すごいです! わわん。さすがウォフ様です!」

「……あー、けっこう広まっててなぁ……」


高揚するナーシセスさんとジューシイさん。

対するなんとも困った顔のアガロさんとの落差がひどい。

僕はこれまたなんともいえない溜息をつく。


こんな噂が広まっている。道理であんなモテない連中が襲ってくるわけだ。

僕は何故か先頭で腕を組み不敵に笑うハイヤーンに率いられた男たちを連想させた。


ふと探索者3人が僕たちに近付いてきて、真ん中の狼人種の少年が前に出た。

黒髪で狼耳と尻尾。同じ狼人種でもジューシイさんと全然違う。


やはり彼女は実家の犬か。いや実家の犬じゃなかった。

狼人種の少年は丁寧に頭を下げる。なんだろう。気品を感じる。


「助かりました。ありがとうございます」

「よう。無事か」

「はい。誰も怪我はないです」


槍の男性も頭を下げる。続けて杖のエルフの女性も下げた。


「ボクらは『ケルベロスターン』というパーティーです。ボクはリーダーを務めています。ナベルです」

「俺はコラン」

「私はプランシーよ」


剣盾の狼人種の少年がナベルでリーダー。

槍の男性がコラン。杖のエルフの女性がプランシーか。

槍の男性・コランさんが話し始める。


「俺たち実はドジっちまって」

「ドジ?」

「25階で依頼をこなしてたんですが、隠し部屋を見つけて」

「へえー、それはラッキーだな」

「お宝あったの?」


ナーシセスさんがずいっと前のめりで聞く。

プランシーさんが苦笑して答えた。


「それで転移陣を踏んでここに飛ばされたのよ」

「あー、ドンマイ」

「不運ね」

「あのあの、ご愁傷様です」

「それでボクら。ここが何階か分からなくて」

「42階だ」


アガロさんの言葉に3人は驚愕と恐怖の混じった表情を浮かべる。


「うわあぁ……」

「飛ばされるにも限度があるでしょ……」


25階から一気に10階以上は怖いものがある。


「あ、あのぉ……それでボクら戻りたいんですが」


ナベルさんが気まずそうに言う。

地上に手っ取り早く戻る方法として強制転移石というのがある。

割ったら1階へ強制的に転移される便利なレガシーだ。


ただし高い。ひとつ辺り大体50万オーロはする。

まあアガロさんクラスになるとひとつかふたつは持っているだろう。


そして購入も苦じゃない。

だけどアガロさんは彼らに易々と譲らないだろう。

渡すかどうするか迷っているはずだ。


40階にある転移陣がある部屋を教えるか。

転移陣は双方向なので40階のを踏めばギルドの地下に移動できる。

だがあの転移陣は一応、機密だ。安易に教えられない。


ちなみにその強制転移石。

魔女の家の汚いリビングルームに置かれた木箱の中に雑に入っている。

前にその木箱を見つけたら魔女がいくつかくれた。というわけで。


「もしよかったらこれを差し上げてもいいですよ」


僕はニコニコとポーチから強制転移石を出して見せた。

ナベルさんが目を見開いて息を呑む


「こ、これ―――!?」

「で、でかい」

「なんか原石らしいですよ」

「原石!?」

「お、おい。ウォフ」

「あの、あのあの、ウォフ様。それってとても高い……」

「ふーん。なかなかいいものね」

「これ、い、いいんですか……?」


ナベルさんが気の毒なほど不安そうにしてみている。

もちろん。良い。ただし。条件がある。


「もちろん。困っていますから。その代わりなんですが、ひとつお願いがあります」

「な、なんですか」

「俺らに出来ることなら」

「なんでもってわけじゃないけどお礼はするわ」

「いやいや、そんな大したことじゃないんですよ。出来る限りでいいですので、僕に関する噂を薄めて欲しいんです」

「うわさ?」

「はい。あなたたちがさっきほざ、言った噂です。実はそれ、あることないことばっかりでして」

「えっ、そうなんですか……?」

「はい。もうウソ八百で」

「嘘八百?」

「ええ、もうだから迷惑しているんですよ」


軽い感じで苦笑いを浮かべる僕。

するとナーシセスさんが怪訝な顔で口を開いた。


「でもウォフが魔女の弟子でシロやチャイブやあのムニエカと仲良いのは事実よね。『難攻不落』の半分の従依士ツカエシとして一緒の部屋に居たもの」

「あのあの、あの、ウォフ様は『トルクエタム』の皆さんとビッドさんとお姉さまたちとも、あとメノスドールのメイドさんたちとも、とっても親しいですっ!」

「……あー、ま、まあ、そうだな」


うをい。外野は黙って!! あとアガロさん。歯切れ悪いのはなんでですかぁっ!

そうしたらコランさんがそういえばという表情で言う。おい。


「……実は俺、ウォフさんが『シードル亭』の2階へ行くの見たんだよな。相手はあの『黒呑み』のメガディア」

「どうやら皆さんは帰りたくないみたいですね」


僕は残念そうにポーチへ強制転移石をしまおうとする。


「まっ、待って!」

「ちょっ! いやー思えばそんなことは無かったな! まったくない! うん! ないない! あはははっ…………すみません」


コランさんは頭を下げた。僕は嘆息する。


「分かればいいんですよ。それで引き受けてくれます?」

「わ、わかりました。ボクたちが出来る限りで良いならば、引き受けます」

「お、俺も他の探索者に声をかけてやってみます……」

「頼みましたよ」


僕はナベルさんに強制転移石を渡した。

受け取ったナベルさんはぎこちない感じで頷いた。

コランさんは押し黙り、プランシーさんは微苦笑する。


「あまり期待しないでね。私たちまだ第Ⅳ級だから」

「ほお、イチガンドッグ相手によく戦ったな」


感心するアガロさん。

第Ⅳ級。僕よりひとつ上でアクスさんたちと同じか。

確かにたった3人で銀等級中位の群れに健闘するのはすごい。


「いやー、前に隠し部屋で戦ったことあるんですよ」

「ああ、隠し部屋はたまに強いのとか居るからな」

「そうなの?」


ナーシセスさんが目を光らせる。戦闘民族かな。

ジェネラスってそんな感じがするよね。


「あのあの、さっきも隠し部屋でした」

「ああ、俺ら。れりっ」

「コランさんっ」

「おっと、いけね。てなわけでちゃんとやっておきますから」

「そ、それじゃあ、そろそろ帰るわ」

「皆さん。本当に助かりました」


ナベルさんがまた丁寧に頭を下げる。やはり気品がある。


「おまえら。気を付けてな」

「うら。あなたたちのこと覚えておくわ」

「あの、あのあの、お気をつけて!」

「はい。それでは」


ナベルさんが強制転移石を割る。


「本当に頼みましたよ」

「「「はい!」」」


威勢の良い返事と共に彼等の姿が淡い緑の光の粒子となって消えた。

これで悪評がなんとか減ってくれればいいな。


その後、3回ぐらいイチガンドッグの群れと戦った。

それとサハギンとゾンビの死骸が所々にあった。


互いに戦って倒されたか。イチガンドッグに倒されたか。

しばらく進むと今度は第Ⅱ級探索者の男女コンビに出会った。


ふたりは依頼でこの階に来たという。

軽く共闘し、43階へ行く情報を貰って別れた。


二人の言う通り森の中に塔を発見。

そして二人の言う通りに塔の中に降りる階段があった。


43階。

階段の先は城になっていて、42階の塔はこの城の尖塔だった。

城から外の景色が見える。


黒紫の空に青い光が瞬く。まるで星空だ。

そして姉妹たち(衛星)に囲まれた夜の女王(満月)が君臨していた。


「夜か」

「はあ? あれは造り物の空よ」

「違う。ほらみろ」


アガロさんは黒い石をみせた。

これは昼夜石。地上の時間と連動していて、白は昼。黒は夜を示す。

つまり地上は夜だ。


「ちょうどいい。この城で一泊するか」


異論はなかった。皆なんだかんだと疲れていた。

城で一泊なんて贅沢だなと僕は呑気に思う。


軽く城を探索する。

確認した範囲では魔物は居なかった。

それと、それほど大きい城ではなかった。


ホールと謁見の間はあったが玉座が無い。

王城じゃなく地方領主の城とナーシセスさんは言った。


それにジューシイさんも同意する。

タサンの城はこれの5倍以上ってマジか。


謁見の間に野営することにした。

結界石を四方に置き、アガロさんがポーチから寝袋を人数分出す。

野営の準備が終わったのでさっそく僕は夕飯をつくる。


その間、女性陣は入浴だ。探索中に風呂を見つけた。しっかりお湯がある。

その当時をそのまま再現しているので、そういうことがあるとアガロさんは言った。


謁見の間から少し離れているのでアガロさんが念の為に警護する。

覗いたら殺すとナーシセスさんが言って、誰が覗くかよっとアガロさんはぼやいた。

ポーチから徳利瓢箪を出して持っていたので飲みながら見張りをするんだろう。


夕飯は雑肉スープと白黒のパン豆。それと野草とキノコのチーズ焼きだ。

野草とキノコは42階の森の中で採取した。


アガロさんは飲みながら食べて、ナーシセスさんとジューシイさんはおかわりする。

ダガアは雑肉スープに夢中だ。よかったよかった。


食べ終わって僕は入浴。

あがるとアガロさん以外でカードをやって時間を潰す。


ナーシセスさんが圧倒的に弱かった。

そしてダガアが強過ぎた。なんなんだこいつ。


アガロさんはずっと飲んでいた。いつもみたいに飲み比べ的な感じじゃない。

僕らから離れて窓枠に座って外を見ながら、ちびちびと徳利瓢箪をあおっている。

色々と思うところがあるんだろう。


そろそろ寝ようということになり、就寝する。















深夜。

僕は謁見の間から続くバルコニーに出ていた。

なんか、ぼんやりと景色を眺めていると誰かが来た。


ジューシイさんだ。








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