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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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241/270

心からのブレスレット⑥・メガディア=メガロポリス。


もはや常連になりつつある『シードル亭』の2階。レッドルーム。

2階は常連になってはいけないんだけどなあ。


対面にくつろぐようだらしなく座るメガディアさん。

長い艶やかな黒髪かつ姫カット。紫の瞳で身長はゆうに190近くある。

そして常に黒紫に少し白が入ったゴスロリ衣装だ。

フリフリのスカートにはスリットが入っていて、生足が見える。


今日も黒に裏地が紫……魔女と同じ合わせだな。流行りかな。

紫の瞳をしていた。貴族種族のエッダである。


メガディア=メガロポリスが本名。

なんとあのハイヤーンが先祖という気の毒な……あっ。


「あ」

「? どうしたの」

「まぁいいか」


あなたの先祖。全裸の男たちが倒れているところに置き忘れましたなんて言えない。

しかもそのウサギ。全裸の男たちの仲間です。なんて絶対に言えない。

なので忘れることにしよう。さらば、ハイヤーン。


「それにしても会えてうれしい。奢るから遠慮なく食べてね」

「いいんですか?」

「ええ、お金ならあるから」

「では甘えて遠慮なく」


こういうとき断るのは失礼だ。バターライスの大盛とレモネードを頼む。

それだけでいいのと言われたけど、それだけで充分だ。


彼女の眼前のテーブルには酒瓶がずらり並んでいた。特大エールジョッキもある。

相変わらずの酒好きだ。しかもアガロさんに勝つほどのウワバミだ。


メガディアさんはワイングラスの中の赤ワインを回す。

ゆっくりと飲む。ふと僕と目が合った。


「あら、ジッと見られると照れるわね」

「す、すみません」

「ふふっ、ここでこうして会うのも久しぶり……」

「そうですね」


パキラさんと一緒のときだった。

ほんの数か月前だけど本当に懐かしいし、あのときは緊張もしていた。

今は気楽に話せている。不思議だ。


「でも、ふたりっきりは初めてよね」

「そ、そうですね」


メガディアさんが何故かとろんっと潤んだ瞳をする。

なんかドキっとした。紫の色が潤むとこんなに色っぽいのか。

そうだ。今がちょうどいい。


「メガディアさん。実は渡したいものがあるんです」

「なにかしら」

「あの、手を差し出してもらっていいですか」

「こう?」


スッと素直に手を差し出してくれた。真っ白くて長くて細い腕と手だ。

指には赤くマニキュアが塗ってある。ワインみたい色。ワインレッドか。

メガディアさんは口紅も赤だ。


「赤……好きなんですか」

「ええ、そうね。黒と赤が好きよ」


少し考え、僕は差し出された腕にブレスレットを通した。

赤い輪で黒い宝石が填め込まれブレスレットだ。


「どうですか」

「素敵ね。いいの?」

「はい。お世話になっているというか、すみません。僕のせいでハイヤーンが」


そう言うとメガディアさんはなんともいえない苦笑いを浮かべる。


「ウォフくんのせい?」

「あれを起こしたのは僕なんです」

「そうなの。でも、それでも悪いのはウォフくんじゃないわ。それは、先祖がウサギになっていたのはビックリしたけど、ウォフくんが悪いわけじゃないし、そういう面白いのも嫌いじゃないわ。だから気にしないで」


言いながらブレスレットを見る。ふふっと笑う。


「ありがとうございます」

「いいわ。これ。とっても気に入った」

「よかったです」

「ウォフくん。センスあるわね」

「露天商の腕が良かったんですよ」


あの露天商に感謝だ。


「それでも選ぶセンスも必要だわ」

「ありがとうございます……」


褒められて照れる。そうすると注文した品がやってきた。

僕は大盛バターライス。レモンネード。


メガディアさんはソーセージ5種盛りに燻製チーズと発酵魚漬け。

うん。酒のツマミだ。


さっそくいただきます。

スプーンで野菜と肉とバターライスをすくって食べる。


やっぱ、いいな。バターライス。この味、ずっと大好きだ。

『シードル亭』のバターライスは軽く炒めたご飯にバターをのせている。

そして野菜と肉と特製ソースだ。


炊いたお米を野菜と肉と一緒に炒め、その上にバターをのせ、特製ソースをかける。

ごはんの熱でバターを溶かし、ソースとご飯と混ぜて食べるのが基本スタイルだ。


このバターライス。

僕の前世の記憶にある喫茶店のバターライスがモデルだ。


この味をなんとか再現したくて頑張って、どうにか満足できる味になった。

特製ソースが苦労した。


食べていると思い出す。前世の記憶にある大学生の頃。

毎年に夏だけその喫茶店でバイトをしていた。


まかないは店のメニューから選べたけど、僕はいつもこのバターライスオンリー。

そういえば同じバイトをしていた後輩に言われたっけ。


『———ねえ。毎回、同じまかないで飽きないの?』


言いながら悪戯っぽく笑う後輩。


「…………」


何の因果か。全く別の世界でも食べているよ。そう彼女に伝えられたら。


「楽しそうね」

「えっ」

「食べながら笑っていたわよ」


そう指摘してメガディアさんは燻製チーズを口に入れる。

僕はなんだか恥ずかしくなった。メガディアさんは女神のように微笑む。


「好きなモノを笑いながら食べられるのは幸せよね」

「は、はい」

「そういう子……あーしは好きだわ」

「え」

「ふふふふっ、楽しいわね」

「はい」


それから普通に雑談をする。

話は色々だ。従依士ツカエシだったパキラさんのこと。僕のこと。


そういえばメガディアさんは、僕とアルヴェルドの闘いを観戦したのだろうか。

秘密厳守だから聞いてくることはないけど、ちょっと気になった。


だからといってそのことについて僕から話すのは、なんだか悪い気がする。

そして僕は彼女達の事を語る。


「ムニエカとナーシセス……このふたりに出会ったのね」

「はい。お知り合いですか」

「ええ、ふたりともあーしと同じ六家だから」

「そういえばそうでしたね」


エッダの特に古く権威があるのがエッダ六家。

ナーシセスさんもムニエカさんもメガディアさんも六家だ。


「特にナーシセスのユートピア家は特殊で神殿家なのよね。エッダの神【ジェネラス】を祭っていて、知っているでしょう。彼女の髪の色」

「紫……『ジェネラスの再来』ですか」

「ええ、でもその再来が何を意味するのか分からなくなったわね」

「それはどういう」

「本人に聞きなさい。あなたなら聞く権利があるわ」

「わかりました」


そこでこの話は終わった。

ムニエカさんとナーシセスさんの話は僕から振った。


彼女が僕に対して聞きたいことを尋ねやすくする為だ。

だけど彼女はそうだと気付いても尋ねなかった。僕の意図に気付いても。


それでいいなら僕も追及はしない。

ちょうど食べ終わる。ふう。ごちそうさまでした。


「完食ね」

「はい。お腹いっぱいです。ありがとうございます」

「いいのよ。でもそうね。ありがたいと思うなら、ちょっとこっちに来てくれる?」

「はい?」

「ね、いいでしょ?」

「は、はい」


なんだろう。

僕は立ち上がり、メガディアさんに近付くといきなり腕を掴まれた。

グイっと手前に引き込まれ、ぼふっと何かとても柔らかいものが顔と頭に当たった。


これは……メガディアさんの……というかメガディアさんソファで寝転がっている。

僕はその上に覆うように乗って、まるで彼女を押し倒したみたいになっている。


「ふふっ、ちょっと、思ったより悪戯しすぎちゃったわ」


メガディアさんの頬がうっすらと赤い。紫の瞳が深く煌めいた。

僕を映している姿はまるで【ジェネラス】のようだ。


「わぷっ!?」


いきなり両腕でギュっとされた。そして間近にあったメガディアさんの顔が揺れる。

斜め横に動いて僕の首筋に何か生々しい感触がする。


「ふふふっ、あーしのしるし。つけちゃった」


舌を滑らかに動かす。まるで生き物みたいだ。

すると、ごくんっと僕の喉が無意識に鳴る。


「し、しるし……?」

「キスマークよ」

「えっ……」

「ブレスレットのお礼ね」

「お礼って……」


メガディアさんは魅惑的に笑って僕を離した。

ちょっと名残惜しそうに僕は身体を起こしてソファから出る。


「とっても楽しかった。また会いましょう」


寝転がった姿勢のままのメガディアさんの言葉に僕は小さく頷いた。

僕の心臓の音が激しく鳴り響く。



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