心からのブレスレット⑤・メガディア=メガロポリス。
男たちは10人ぐらいか。もうちょっと多いぐらいか。
チンピラと言ってもいいが、探索者とも言っていい。
まあどっちもそう変わらない。
ハイヤーンを投げ込むと、彼等は慌てた。
それはそうだ。いきなりウサギを投げ込まれたらビックリする。
「ってめえ!」
ハイヤーンをぶつけられた剃髪の男が怒る。
切れ味の悪そうなサーベルを振り上げる。
なおハイヤーンは逃げた。脱兎の如く。
「なんで僕を狙ってきたんですか」
狙われる覚えは……あるようでない。
いや、あるか?
うーん。覚えというとクーンハントだが、こいつらはそうは見えない。
クーンハントの探索者は、実力はともかく装備がいい。
さすが腐っても町一番のクランだ。
ところがこの男たちは見た目も装備もそんなに良くはない。
「俺らはおまえに怨みがある」
「恨み?」
本当に覚えがない。
「おまえ。魔女の弟子だって本当か」
「本当です」
「ふざけるなっ!」
「えぇ……」
なんで怒鳴られないといけないんだ。
「あの爆乳デカ尻ムッチリふともも尻尾エロ魔女のその弟子だと! ゆるざん!!」
なに言ってんだこいつ。いや言っていることは間違っていないか。
「おうおう。『トルクエタム』と仲が良いみてえじゃねえか」
「ええ、まあ」
「尻尾のパキラとエッチなリヴと……ルピナスと仲が良いだと!」
なに言ってんだこいつ。あとルピナスさん何も無いの?
「ミネハさんとも親しいんだってなぁ!」
「そうですけど」
「あの濃厚な蜜のような淫靡で妖艶でこの世のお色気全開のむちむちむんむんのミネハさんと……親しいっ!! ゆるぜんんんんっっっっ」
この筋骨隆々のいい歳したオッサン。10歳相手にマジでなに言ってんだ?
こいつら。なんなんだ。気持ち悪い。
「『難攻不落』を攻略しているんだってなあっ!」
「それは嘘です」
「既に半分は攻略してるんだろっ!」
「していません」
「あの『不死身の白薔薇姫』と『シードル亭』の2階へ行くの見たぞ!」
「それは事実です」
そう答えるとおおっと何故か歓声が上がった。
なんだこの記者会見みたいな質疑応答。おまえら記者か。
だけどなんとなく分かってきた。
彼等の言葉は妬みで全て女絡みだ。つまりはそういうことだろう。
美女と美少女に囲まれている僕が気に入らない。
気持ちは分かる。分かるけどやっていいことと悪いことがあるだろう。
それにだ。
「こんなことしているからモテないんですよ」
「あんだとてめえええええっっっつ!!!!」
「言っていいことと悪いことがあんだろおおぉぉっっっ!!!」
「モテるからって調子ノってんじゃねえぞおおおぉ!」
「この女誑しがあっっ!」
「夜の攻略王めっっっ!」
「夜王っっっ!」
「無類の女好きっっつ!」
「う゛ら゛や゛ま゛じ゛い゛ガチで刺すぞ貴様ぁっ!」
「そうだそうだ。刺しちまうぞコラあぁぁっっ!」
「やっちまおうぜっっっ!」
「そうだそうだ。やっちまうぜ、てめええぇぇ!」
「モテねえ恨み覚悟しろおぉぉっっっっ」
という感じで男たちが襲い掛かってきた。結局はそうなるか。
ところで罵倒の中にハイヤーンが居た件について。見逃さないし逃がさない。
さて、一気に【バニッシュ】を使えばそれで終わる。
あっけなく終わる。だけどそれはしない。
確かめたいことがある。アルヴェルドと戦って得た自分の強さ。
アルヴェルドに勝つ為に得た力。それがどれだけ一般的に強くなったのか。
それにしても一斉に武器を持って、これだけの人数でたったひとりに向かってくる。
情けないと思わないのか。それと殺す気かな。殺す気か。殺す気だよなあ。
そんなんだからモテないんだよ。それと殺気があるなら僕も容赦はしない。
戦闘開始だ。
まず男たちの……手前にいた男Aの眼前に移動した。ワンステップだ。
「うおぁっっ!」
驚く男Aの腹部にパンチしながら足払いして倒す。
次の男Bにワンステップ移動し、顔面にパンチしながら掴んで投げた。
「うああああぁぁっっっ!?」
「うおおおぁぁぁっっっっ!?」
何人か巻き込む。ハイヤーンが潰れる音がした。やったぜ。
すかさず……男Cにワンステップ移動。手刀を彼の首筋に落として失神させる。
これでまず3人か。ここまでやってふと思う。
このワンステップ。ひょっとして連続で出来ないか。
なんか出来そうな気がする。よし。やってみるか。
まず男Dにワンステップして殴り倒し、男Eにツーステップして蹴り倒す。
男Fにスリーステップして殴り倒し、男Gにフォーステップして蹴り倒す。
そこで致命的な弱点が発覚した。
「ふうっ……ふぅっ、ふうぅっ、ふうぅ、参ったな。思ったより疲れる……」
疲労がヤバイ。そりゃそうだ。
瞬間的な連続移動に攻撃を加えるんだから疲労は倍以上だ。
残りは……まだ沢山居るな。しょうがない。
「———【レーヴムーヴ】―――」
残りはこれで行くか。電光石火で全滅させる。
前世の記憶でこういうの『アクセル全開』っていうらしい。なるほど。
じゃあ―――『アクセルステップ』だな。
ということで一気に魔女直伝のコンボも使ってモテない男たちを倒した。
なんか殺せ殺せと敵側で叫んでいたウサギが巻き込まれたがきっと気のせいだろう。
「さてと後始末か」
ここから殺すのは面倒だから、まあ生かすことにする。
まず武器は【バニッシュ】して、ナイフは貰う。迷惑料ってやつだ。
まず1本目。木の柄で握りやすいが刃が短い。ひょっとして果物ナイフか。
いきなり出鼻をくじかれた。
気を取り直して2本目だ。
これは……この独特な片側が櫛状の刃。こいつはソードブレイカーだ。
刀身の片側がギザギザの凹凸でこれに剣を引っ掻けて折るナイフだ。
「面白いのが手に入ったな」
普通じゃ売っていないナイフだ。たぶんダンジョンで手に入れたんだろう。
他には……3本目。へえー、黒い刃のナイフか。珍しい。
後は無い。ナイフはこれで全部だ。良かった。
ナイフの女神様曰く、触ると所有者になる。
だからこの場合は所持するしかない。だけど僕も所持量は制限がある。
後は貨幣の迷惑料を貰ってからが本番だ。
こいつらの服を脱がして【バニッシュ】して……全裸にして……きつい。
だが縄が無いし衛兵呼ぶにもこの場から離れることになる。
その間に目を覚まして逃げられるのは更に面倒だ。
こいつらを全裸にするしかない。
しかし脱がすのか……嫌だな。
「……ピンポイントの【バニッシュ】で服だけいけるか?」
やってみるか。レリック【深静者】で光点を服に当てて、【バニッシュ】してみた。
おっ成功した。服だけ消えた。よしよし。この調子でやっていくか。
「【バニッシュ】……【バニッシュ】…………【バニッシュ】……」
そうしてひとつずつ地味に服と下着を消していく。
少しして全員をやっと全裸にした。
途中で起きたりするので気絶させるのに苦労した。
それと精神的に疲れた。男を裸にしていくのはきつい。
それも殆どがオッサンだ。やってられない。
あー疲れた。
「腹減った。飯に行くか」
腹が減りすぎて眩暈がした。
今なら山盛りのバターライスも完食できそうだ。
僕は全裸の男たちを放置して裏路地を後にする。
彼等は起きた後、どうなるのか。
とりあえず確実に衛兵に捕まるだろう。
その後は何事もなく『シードル亭』に《《独りで着く》》。
今日は珍しく店内は空いていた。
普通にテーブル席かカウンターに座れそうだ。
「ウォフくん」
呼ばれた。聞き覚えのある声だ。
見回すと、2階にメガディアさんの姿があった。
蠱惑的に微笑んでいる。




