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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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235/284

心からのブレスレット⓪・魔女。


あれから一週間が過ぎた。

僕はアルヴェルドに勝った後、倒壊する闘技場内で倒れた。


三日三晩、意識を失っていた。

四日目に起きて彼女たちに囲まれながら身体を整えることに専念する。


ちなみにアルヴェルドは二日二晩だった。負けた。

つい【バニッシュナックル】で殴ってしまったけど、むしろそれが良かった。


彼は【ファンタスマゴリア・ロア】を耐えた時点でどうかしている身体だった。

いやホントどうなっているんだろうあのひと。


五日目。アルヴェルドたちがハイドランジアを発つことを教えてもらう。

随分早いなと思った。


『グレイトオブラウンズ』が終わっても、その残り火は燻って熱が冷めない。

第Ⅰ級も既に離れた者もいるけど、その大部分はまだハイドランジアだ。


発つ前に彼と挨拶して話をした。

アルヴェルドはいつもの神秘的な容姿と鎧姿で言った。

右肩に掛けているマントは赤じゃなく白だったけど。


「これで互いに1勝1敗だ」

「はい」

「次で真の勝者が決まる」

「そうですね。負けませんよ」

「俺もだ。ウォフ」


固く握手していつか再戦を誓う。















起きてから後日談を聞く。

闘技場は完全に崩壊したわけじゃなかった。

それでも損害は酷く、コロシアムはしばらく使用出来ない。


修繕やら諸々はグランドギルドが出してくれるから良かったよかった。

全てを許可した偉大なグランドマスターが金額を見て引き攣ったらしいけど。


そもそも最終日の深夜の闘いは今回が初めてじゃない。

『裏エキシビジョンマッチ』と呼ばれていた。

毎回ではないが2回に1回ぐらいは行われているらしい。

頻度高いな。


しかし裏とか、もうね。なんてワクワクする単語なんだろう。

悪いことしている感じだけど憧れてしまう。


そういうわけで昼間とは違う。

『裏エキシビジョンマッチ』は第Ⅰ級探索者が本気を出して良い戦いだった。

大体が因縁の相手と決着をつける為に行われる。後は復讐とか。


驚いたのは見学者が居ることだ。

裏であっても殺し合いではないので止める為という理由はある。


ただ表と違うのは見学者はごく限られており、口外禁止の契約を結んでいる。

契約はレジェンダリーやレガシーあるいはレリックとして効力を発揮する。

内容によっては遵守できなければ死ぬというのもある。


この口外禁止がどれほどか知らない。

きっと破ったら恐ろしい罰が下るんだろう。

まあそういうわけで安心して戦えたわけだ。


そう思っていたんたけど。


「あれはあれは、ねえ。効力なんて無いんだよねえ」

「な、無いんですか」


いともあっさり言いながら魔女はいつものテーブルにハーブティーを置く。

ここは魔女の家。いつもの乱雑なリビングルーム。いつもの黒と赤のソファ。


なんだかようやく日常に戻ったという感じだ。


念のため、僕は置かれた黒いカップの中身を覗いた。

無色。ただ鏡のように僕の顔を鮮明に映す。


するとカップの中の僕の顔が口の端を不気味に曲げて笑った。

ニタアァではなくニチャアぁっという感じの嫌な笑みだ。


ちなみに僕は笑っていない。

うん。日常だなあ。絶対に飲まない。


「うんうん。その代わり、誰がバラしたか瞬時に分かるようになっているねえ」

「それだけなんですか」


魔女は対面の赤いソファに座る。

足を組んでリラックスし、三つの自分の尻尾をクッションみたいにした。


魔女を僕は改めて見た。

腰下まで長い銀髪。翡翠色のとろんとした色気しかない双眸。

尻尾が三つあり、その身体は妖艶で艶麗。国を傾けるほどの美女。


かつて王妃にならないかと国王に誘われ、第Ⅰ王子に見初められたほどだ。

真っ黒い柄のローブに真っ黒い柄のドレスを好む。


その三つの尻尾はひとつずつ実は毛色と毛並みが違う。


1番目の尻尾は根元から先端まで白銀色で、フサフサしている。

2番目の尻尾は付け根が亜麻色で先端が白色でフカフカしている。

3番目の尻尾は付け根が白銀で先端が亜麻色の尻尾でフモフモしている。


そういえば魔女の黒いドレスって何着かあるけど大体裏地が紫なんだよな。

それと座るとき胸が揺れたの見逃さなかった。真正面なんで見逃せない。


「うんうん。それだけで充分なんだねえ。第Ⅱや第Ⅰ級の上級探索者として基本中の基本は秘密を守れることだねえ」

「秘密を守る……」

「それはそれは、上級だと殆ど指名依頼になるからねえ。指名依頼には色々訳ありもあるし秘密もある。というか殆どそうだねえ。もちろん合法的にという意味でねえ」


僕は小さく苦笑した。

どこまでもが合法なんだか、そして気付く。


「あっ、口外したらバレる。つまり信頼が失われる」

「正解正解。そんな輩は間違いなく剥奪されるか始末されるねえ」

「始末ですか」


魔女は薄っすらと笑う。

それはそうか。口が軽いといつ自分の秘密がバラされるかも知れない。

その前に消すというのは簡単に行きつく答えだ。


「あとあと、アルヴェルドはそういうのは絶対に許さないからねえ」

「なるほど……」


確かに許さないだろう。

アルヴェルド=フォン=ルートベルトは確実にその輩と連なる者たちを始末する。

しかし不思議だな。


「だからだから、ウォフ少年。改めて安心していいんだねえ」

「わかりました。あの、ひとつ疑問があるんですが」

「おやおや、なにかねえ」

「アルヴェルドは『クーンハント』のボスですよね。どう考えてもアルヴェルドがボスだと思えない酷さなんですが」


アルヴェルドがボスだときっと規律厳しい軍隊みたいになっているはずだ。

そしてそれは地上最強のクランになっただろう。


「ふむふむ。とても簡単なことだねえ。アルヴェルドは実質的なボスではなく『クーンハント』の雇われ的なボスが実態。彼の主な役割は広告塔だからだねえ」

「……そういうことですか。しかしよく彼がそれを引き受けましたね」


アルヴェルドがそういうのを引き受けるのは少し妙に思った。

魔女は苦そうに微笑する。


「それはそれは親族の依頼はさすがのアルヴェルドも断れないだろうねえ。元々彼は依頼を断らない信念を持っているからねえ」

「ということは、『クーンハント』はルートベルト家のクラン?」

「まぁまぁ、そういうことになるねえ。実際は複数のスポンサーの貴族どもで成り立っているんだけどねえ」


コングロマリット的なクランか。案外多いのかも知れない。


「ああ、ウォフ少年が潰した大貴族家も有力スポンサーだったねえ」

「僕は潰していませんよ」


潰したのはレオルドだ。

要は『ドラゴン牙ロウ』の大手バージョンみたいなものか。

やはり『クーンハント』は敵だ。敵でしかない。


「だからだから殆ど放置していたんだねえ。腹心の『フォーカット』とその部下たちを連れてダンジョンに行っていたからねえ」

「『フォーカット』?」

「おやおや、知らないのかねえ。アルヴェルドの忠実な4人の部下。全員が第Ⅲ級か第Ⅱ級探索者だねえ」

「あーなるほど……」


いわゆる四天王的なのか。そういうの居そうだけどやっぱ居たのか。

なんかいいな。そういうの憧れる。


あっ、そういえば廊下でアルヴェルドと遭遇したとき、なんか居たな。

彼等がその『フォーカット』だろう。


「ちなみにちなみに、レオルドがその『フォーカット』のリーダーだねえ」

「へぇー……あのおっさんが」


見た目はホント冴えない酒臭いリス人種のおっさん。だけど強い。

ぶっちゃけ第Ⅰ級ぐらいの実力はあるだろうな。


しかも第三王子なんだよなあれでも。あと優秀なのも分かる。

見た目が冴えないおっさんだけど。


さて雑談はこれくらいにして本題に入ろう。


「魔女。遅くなりましたけど、アルヴェルドに勝ちました」


僕は今日、戦勝報告に来た。

魔女は慈しむような微笑みを浮かべる。


「うんうん。しっかり見ていたねえ」

「僕のワガママに付き合っていただきありがとうございます」


僕は頭を下げる。本当に迷惑を掛けっぱなしだ。

魔女が居なければ僕はアルヴェルドに絶対に勝てなかった。


魔女だけじゃない。ムニエカさん。チャイブさん。シロさん。他に皆。

僕ひとりだけじゃ勝利は得られなかった。


「これこれ、ウォフ少年。顔を上げるんだねえ。師が弟子の為にしてあげたいというのは、何も特別なことじゃないねえ。それにコンは嬉しかったねえ」

「嬉しい?」

「うんうん。弟子といっても、ウォフ少年は何故かコンにあまり頼らないようにしていたからねえ。ここ最近は頼りにしてもらってとても嬉しいんだねえ」

「……そ、そうですか。それでその、魔女に感謝の気持ちを込めて渡したいモノがありまして」

「えっ、えっ、渡したいモノ……だねえ?」

「はい。あ、あの、それで、その手を差し出してもらえますか」

「えと、えと、こうかねえ?」


魔女はおずおずと利き腕を僕に差し出した。

僕はポーチからブレスレットを取り出す。


銀色の輪で緑色の宝玉が填め込まれている。

露天商で最初に魔女の髪の色と瞳に似ていると思って目に入ったブレスレットだ。


そのブレスレットを魔女の細い腕に丁寧に填めた。

魔女はきょとんと腕を引いてブレスレットをまじまじと見る。


「ど、どうでしょうか」


魔女はブレスレットをジッと見ている。

ブレスレットに指先で触れる。銀色に輪が光り緑色の宝玉が煌く。


僕は【鑑定】も無いし装飾のことはよく知らない。

それでもこのブレスレットはとても良いモノだと思う。うん。とてもいい。

あの露天商で買って良かった。


「ねぇねぇ。ウォフ少年。本当にコンがこれを貰ってもいいのかねえ」

「はい。もちろんです。感謝の気持ちです。それに似合っています」

「ふふっふふっ、ありがとう。ありがとうねえ。ウォフ少年。コン、このブレスレットとっても気に入ったねえ」

「そう言ってくれると嬉しいです」


良かった。ホッとする。

女性にこういうプレゼントは……前世の記憶抜きで初めてだから不安だった。

魔女はブレスレットを心優しい眼差しでみている。


「うんうん。コンの髪のような銀の輪とコンの瞳のような緑の宝玉。ウォフ少年がコンを想う心がよく伝わってくる。大切に大切にするねえ」


魔女は幸せな笑顔を僕に見せてくれた。



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