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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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232/284

深夜祭②・際戦。


深夜の闘技場。VIPエリア。

そこには第Ⅰ級の探索者が全員ではないが観覧していた。

上座のアルハザード=アブラミリンは髭を撫でて言う。


「本当に勝つつもりなのだな。君の弟子は」

「それはそれは、当たり前だねえ。その為に色々とやってきたからねえ。なにをどうやったのかは、どうせ知っているんだろうねえ」


魔女の翡翠色の瞳が妖しく彼をみつめる。

アルハザード=アブラミリンはため息をついた。


「……正直、君がそんなに過保護だとは思わなかったよ」

「おやおや、弟子の為に懸命になるのは師として当然だねえ」

「それもそうだ。どうやら君も彼のおかげで大人になったようだ。喜ばしい」

「元々、コンは大人だねえ」


イラッとする魔女にアルハザード=アブラミリンは笑った。


その真下の席に座っているのがパキラとメガティア=メガロポリスだった。

パキラは膝にダガアをのせている。ダガアは丸まって寝ている。


「……強いのう」

「そうね。予想以上ね」

「あれほどウォフが強いとは、わらわは知らぬ……かった」

「強くなったんでしょう。魔女が何かしたのよ」

「それはそうじゃが」

「自分が知らなかったことがそんなにショック?」

「それは……あるかも知れぬ」


小さく答えてパキラはふたつの白い尻尾を絡める。

メガディアはぽつりとつぶやく。


「ウォフくん。かなり人気あるわ」

「……そうじゃのう」

「英雄は色を好むからそれは別にあーしはいいと思うんだけど」

「そうかのう?」


パキラは難色を示す。

メガディアはくすっと笑う。


「あーしは別に気にしないってだけね」

「おぬし……」


パキラはジト目になる。

メガディアは唇に指をあててさらに妖美に微笑んだ。


「あのとき、雇い仔にしたいっていうの今も本気よ」

「あやつはもう探索者じゃぞ」

「あら、探索者を雇い仔にしてはいけないってことはないわ」

「そうじゃが最大の壁があるぞ。女狐じゃ」

「おやおや、おや、白猫。コンに何か用があるのかねえ」


魔女が上からパキラに声を掛けた。

それは思わず誰もが見惚れるような優艶な笑顔を浮かべている。

パキラは膝上のダガアを撫でながら余裕に言う。


「盗み聞きとは良い趣味じゃな。魔女」

「あらあら、あら、子猫たちが聞こえるような声で言っていたんだけどねえ」

「そうかのう?」

「普通の声量だったと思うけど。魔女」


メガディアはやや呆れるように口を出した。

魔女は曖昧に微笑する。


「ふむふむ。それではコンに用は無いということかねえ」

「それより師匠が弟子の大事な勝負から目を離して良いのかのう」


パキラが言うと魔女は黙る。メカディアは微苦笑した。

ダガアは小さく欠伸をしてその赤い瞳を瞬きさせた。

その片隅にほんの一瞬だけ映った光景。


ウォフが血だまりに倒れている姿だった。





















僕は困って焦る。

手札を使い過ぎて、決め手に欠けていたからだ。そしてふと思った。

どうでもいいことだけど、【レーヴムーヴ】は『静聖の籠手』付じゃないんだな。


その『静聖の籠手』もまたバラバラになってしまった。

自動再生されるけど、なんだか魔女に申し訳ない。


僕としてアルヴェルドの鎧を砕き、傷を負わせたのは大金星だ。

でもその為に【ナイフマジック】は全て費やし、クールタイムに入っている。

奥の手の【レーヴムーヴ】は残り1回。【深静者】も使用限界が近付いていた。


攻撃で使えるのは【バニッシュ】とナイフがふたつ。

もう1本ナイフを増やせば良かったと少し後悔している。


アルヴェルドは僕を遥かに超える剣技と【クラッシュ】と【インパクト】。

そして【ブレッヒェン】か。崩壊か破壊の類のレリックだと思う。


彼は人に使うつもりは無かったと言っていたが、なんとなく分かる。

それを僕相手に使ってくれるのはなかなかに光栄だ。


しかし攻撃手段が多い。それ以上に強い。分かっていたけど強すぎる。

レリックの使い方もそうだが、剣技だ。


元々の才能もあると思うが、その腕前の大部分は鍛錬の賜物だろう。

アルヴェルドは鍛錬を苦とは思わない男だ。

だから憎々しいほど尊敬してしまう強さを身につけている。


アルヴェルドは鎧の下に黒いインナーみたいな服を着ていた。

脇腹に穴が空いている。浅い傷だったのか血はすっかり止まっていた。

アルヴェルドが言う。


「この短期間でここまで君を仕上げる魔女の研鑽は見事と言うしかない。そしてそれに応えた君も……誇らしい」

「ありがとうございます」


素直に嬉しかった。アルヴェルド=フォン=ルートベルトに認められるのは栄誉だ。

アルヴェルドの黒い眼が本当に切れそうな視線を宿して僕を見る。


「だからといってオレは負けるつもりはない」

「僕もです」


決めた。【レーヴムーヴ】を使う覚悟を決めた。

そして先に動いたのはアルヴェルドだった。


「【クラッシュ】」

「せぇいっ!」


【バニッシュ】を使わず、僕は【クラッシュ】を切った。

アルヴェルドは動じずに放つ。


「【ブレッヒェン】―――【インパクト】」

「【バニッシュ】」


【ブレッヒェン】は相殺し、続いてくる衝撃波は避けられない。

ナイフを振るのも間に合わない―――いいや。間に合わせる。

これが最後の【レーヴムーヴ】だ。


「一刀断魔っっ!!!」


全力で放った剣撃が【インパクト】を切り裂く。

そしてアルヴェルドに届いた。その身体に荒々しい縦の傷を負わせて壁に激突する。


同時に僕も斬られた。閃いて薙ぐ剣が僕の胴体に鮮やかな横の斬り傷をつくる。

あの一瞬でアルヴェルドは反撃した。いいやカウンターか。


血反吐を吐いて地に伏せる。腹部から血が流れて溜まりをつくった。

僕は見た。アルヴェルドも倒れている。


「…………」


薄れゆく意識に抗いなんとかポーチから小さな小瓶を取り出し、中身を口に入れた。

傷が瞬く間に癒えて意識がハッキリとして疲れが全て取れた。


回復薬をエリクサーを使ってはいけないというルールはない。

それでも卑怯だと感じながら僕は立ち上がる。


壁に寄り掛かったアルヴェルドは荒く息をし、血を吐いた。

黄金の髪の隙間から僕を何よりも夜よりも暗い瞳でみつめる。


心がゾクッとした。そして感じる。

いま初めてアルヴェルド=フォン=ルートベルトの心を垣間見た気がした。


おそらく誰も見ることも触れること出来ない彼の心をほんの一寸でも見た気がした。

僕も彼を見ながらポーチからもうひとつ小瓶を出した。


「アルヴェルドさん」


彼に放って投げる。

受け取って怪訝にするアルヴェルド。


「次の5分間で決着をつけましょう。言っている意味は分かりますよね」

「………………ああ」


頷くとアルヴェルドは小瓶の中身を飲んだ。

傷が癒えて彼は立ち上がった。


そしてニヤリと初めて嬉しそうに笑うと、唱えた。


「我は王を守護する千の神なり。疑似化神レリック【サウザンド・キルアルコス】」


アルヴェルド=フォン=ルートベルトとの最後の戦いが始まった。




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