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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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231/284

深夜祭①・再戦。


僕がこのことを知ったのは昨日だった。

ナーシセスさんが再戦の依頼をして、それをアルヴェルドが受諾した。

彼からの指定が最終日の深夜。闘技場だった。


「それでは始めるか」


夜でも緩やかな黄金の髪を輝かせ、闇よりも深い黒の瞳で僕を見る。

その彫りの深い西洋彫刻のような表情からは何の感情も見えない。


片方の肩に掛けた赤いマントに白い神秘的な鎧を纏っている。

初めて彼を見たときそのままの神々しい姿だ。何も変わらない。


「おねがいします」


僕は挨拶して、【深静者】を発動して唱えた。


「【バニッシュ】」

「【クラッシュ】」


激突する。まるで鍔競り合いするかのように妙に甲高い金属音が木霊する。


「【バニッシュ】」

「【クラッシュ】」


互角だ。全くの互角。

それはアルヴェルドも感じているはずだ。

僕を見る黒い瞳に僅かだが光が宿ったように思えた。


「【バニッシュ】」

「【クラッシュ】」


全く同じタイミングで全く同じ威力で衝突する。その音が金切り声をあげる。


「【インパクト】」

「っ!?」


突然の衝撃が僕を襲った。強く弾かれて痛みがはしる。


「見事だ。この短期間でここまで仕上げたのは称賛に値する」

「【バニッシュ】っ!」

「【クラッシュ】―――【インパクト】」

「ぐっ!」


相殺された直後に衝撃波が放たれた。まともにまた喰らう。


「どうした。地に伏せるのはまだ早いぞ」

「…………そうですね」


【クラッシュ】と【バニッシュ】が相殺して後に追撃で【インパクト】か。

それがあまりにも早い。タイムラグが殆どないから対処できない。


いや―――ある。僕は『アガロさんのナイフ改』を抜いた。

青い炎みたいな刃で刀身がまるで液晶パネルみたいに波紋を打っている。

構えて僕は走った。


「【バニッシュ】」

「【クラッシュ】―――【インパクト】」


相殺され衝撃波がくる。そのタイミングをポインターで合わせ、ナイフを振る。


「ほう」


衝撃波が切断された。『アガロさんのナイフ改』は概念を切る。

それなら衝撃波も切れるはずだ。 


そして僕はアルヴェルドの眼前に一瞬で迫った。ワン・ステップだ。

突然、目の前に現れた僕にアルヴェルドの黒い瞳が……暗く光った気がした。

なにかするつもりだろうが、僕の方が早い。右手のナイフを振り上げる。


「ミスディレクションっ!」


振り下ろす『アガロさんのナイフ改』が右手から消える。

同時に空いている左手にナイフが現れた。


「むっ」


完全な死角からアルヴェルドを斬り付ける。

瞬間アルヴェルドは華麗に回避し、僕のナイフは彼のマントを切り裂いた。


「……避けたか」


避けられた。さすがだ。

僕の左手にあるのは『アガロさんのナイフ改』じゃない。

どこにでもある見た目のナイフ。『マジックナイフ』という。


ミスディレクション。

注意を一方に惹きつけて、注目されていないところで仕掛ける。


マジックの基本技術。

そう。これはレリック【ナイフマジック】だ。

ナイフの女神に与えられたレリック。


「面白いな」


アルヴェルドはそう言うと引き裂かれたマントを脱いだ。

マントの下には帯剣がみえる。アルヴェルドは剣を抜いた。


高級そうな造りの両刃の剣だ。オーパーツだろうか。

特に派手でもない。実用性が高いのが分かる。彼らしい剣だ。

アルヴェルドは構えてから初めて先に攻撃を仕掛けた。


まっすぐと鋭い剣撃。咄嗟にナイフで受ける。重い。

かち合うアルヴェルドの剣がほんの少し軽く引かれ、滑らかに押された。

僕のナイフの刀身がストンっと切断される。


「っ! 【バニッシュ】」

「【クラッシュ】」


激突するふたつのレリック。まだだ。まだ『マジックナイフ』はあと2本ある。

このナイフは【ナイフマジック】専用のナイフ。


レリック【ナイフマジック】を使用すると手元に現れる。


【ナイフマジック:使用すると『マジックナイフ』が3本現れる。『マジックナイフ』を使用したマジックを行うことが出来る。ナイフが無くなるとクールタイムに入る。:クールタイム6分】


「ハイドアンドシーク!」


僕は跳び下がりながら『マジックナイフ』を投げた。

アルヴェルドは苦も無くナイフを弾く。思った通りだ。


弾かれたナイフは消え、突然アルヴェルドの左斜め下から飛び出した。

それも弾かれるが、今度は右斜め上から落ちて来るが、弾かれた。


「ほう」


弾かれても狙うようにナイフが襲う。

どこから来るか分からない。だから『ハイドアンドシーク(かくれんぼ)』だ。


さて1本なら余裕だがもう1本増やしたらどうかな。

2本の『マジックナイフ』がアルヴェルドを付け狙う。

避けても弾いても砕かない限りナイフは襲い続ける。


増やしても冷静に対処している。

さすがだ。さすがアルヴェルド=フォン=ルートベルト。


だけどそれで終わりじゃない。僕は四角い鉈のようなナイフを手にする。

2本のナイフに僕が加わる。


「これはこれは」


アルヴェルドはそれでも対処する。

死角から攻撃する2本のナイフを避けて弾き、僕の攻撃も受け止めて弾く。

ミスディレクションにも完璧に対応する。


決して派手ではないが正確無比の剣技はアクスさん以上に感じる。

いやエンスさんと互角かもしれない。


それにアルヴェルドには余裕が感じられる。

やはりまともにやっては勝てないか。


「……【レーヴムーヴ】」


頭の中で理想の動きを思い浮かべる。

確実にアルヴェルドにダメージを与える僕が出来る限界で理想の行動。


2本のナイフを同時に弾いて落とす。僕が真正面から攻撃を仕掛ける。

それを難なくアルヴェルドは躱す……前に僕の姿が掻き消える。


アルヴェルドの背後に現れてナイフで斬る。だが防御された。なんてヤツだ。

しかし始めてアルヴェルドの黒い瞳が見開いた。


【レーヴムーヴ】は残り2回か。

斜め左右の上下から2本のナイフがアルヴェルドを狙う。

僕はまた正面から仕掛ける。


「小賢しい」


2本のナイフを絶妙に回避し、僕が攻撃すると同時にアルヴェルドも剣を振るう。

先に攻撃したのは僕なのにアルヴェルドの方が早い。でも当たる前に掻き消えた。


するとアルヴェルドは即座に背後へ攻撃する。それを待っていた。

僕は先程と同じ場所に現れ、ナイフを突きながら唱える。


「【バニッシュ】!」


アルヴェルドの鎧が砕け、僕のナイフが彼の脇腹を掠めた。

血が出る。初めてのダメージだ。


「ぐぅっ、【クラッシュ】」

「【バニッシュ】」


消滅。

凄まじい衝突音と余波が響き渡る。

そのとき、そのときだった。アルヴェルドは唇を動かした。


「———【ブレッヒェン】―――」


咄嗟に僕は『静聖の籠手』でガードした。瞬間、崩壊する。

そればかりか2本の『マジックナイフ』も砕け散った。それも内側からひび割れた。


3本失って【ナイフマジック】は6分のクールタイムに入る。

【レーヴムーヴ】も残り1回だけ。


「……はぁっ、はぁっ……はあぁっ」


荒い息が出る。だけど、僕よりアルヴェルドの方がダメージは大きい。

それにしてもさっきのレリック。


静聖の籠手が砕けたんじゃなく全体から崩壊した。

ナイフも内側からヒビが入って全体に砕け散った。


【クラッシュ】でも【インパクト】でもない。

【ブレッヒェン】―――あれが『破壊の崩者』の本領なのか。


「ふうぅ……人に使うつもりは無かったんだが」


アルヴェルドは腹部の血を手で拭う。

血を見て、彼は笑った。


「久しぶりだ。いや人に傷つけられるのは何年ぶりだ」


ナイフの傷は思ったより深くはない。

それは当然だ。僕は彼を殺したいんじゃない。


勝ちたいんだ。


「僕は勝つ!」

「来い。【ブレッヒェン】」

「【バニッシュ】」

「【クラッシュ】」

「てぇあっ!」


『アガロさんのナイフ改』で切る。


「【インパクト】」

「ぐはああぁぁっっっ!!」


衝撃波で吹っ飛ばされた。

くっそ、三つのレリックのコンボはきつい。手が足りない。 

僕の希望はたったひとつだけ。


温存している【レーヴムーヴ】の1回が逆転のチャンスだ。

どうにかうまく使わないと、勝てない。



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