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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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228/284

グレイトオブラウンズ⑪


エキシビジョンマッチが終わり。

立ち上がるとエミーさんから言われた。


「ねえ。ミネハのこと頼んだわよ」

「え、あっ、はい」


とりあえず、ミネハさんのところに行ってみるか。

でも闘技場の控室には居なかった。


「あら、ウォフさん」


ルリハさんが入ってきた。大きい状態だ。

鎧を脱いでいて軽装な白いドレス姿になっている。

気付かなかったけど彼女の背丈は僕と同じぐらいなのか。


「ルリハさん。あのミネハさんは?」

「……知らないわ。でもあなたなら知っているはず」

「僕が?」

「ええ、だから行ってあげてね」


くすっと、ルリハさんはどこか寂しそうな笑顔をする。

僕だけが知っている―――ひょっとして。


「わかりました。でも、あの、ルリハさんは大丈夫ですか」

「あらあら、ワタシは平気よ。分かっていたことだから」

「平気じゃないですよね。だって今にも……その泣きそうにみえます」


今にも崩れ落ちそうな気がした。

彼女は健気に無理して笑う。


「……あらあら、そんなこと」

「僕は、女のひとに泣いて欲しくないんです。泣かせたくもない」


そう言うと、ルリハさんはちょっと驚いたような顔をした。

どうしたんだろう。


「あら、あら、ウォフさん。そういうこと、無闇に言っては駄目よ」

「でも僕は……あの、どうしてルリハさんはそんなに悲しんでいるんですか」


挑んだのはミネハさんだ。勝ってアドバイスもした。

それなのに、どうして負けたみたいにルリハさんは悲しんでいるんだ?


「悲しむ……そうね。ワタシ。あの子。ミネハを褒めたかったの。特例で探索者になったこと。新しいオーパーツのスピナーを手に入れたこと。とても……綺麗になったこと。沢山褒めて抱きしめて褒めたかったの」

「それなら褒めればいいじゃないですか」


なんでそんなことで迷っているんだろう。

母親だよな。母と娘。親子だよな。


「それなのにあの子と戦って負かしてしまったわ」

「それは仕方なく」

「もっと方法があったはずなの。あったはず……だけどそれを模索しなかった。それにワタシね。ずっとお母様って呼ばれているの知っているでしょう」

「は、はい」

「お母さんって呼んで欲しかった。一度も呼ばれていないの……小さい頃、あの子にミネハには、フェアリアルの長の娘として立派になって欲しくて、だから厳しくしてしまったの。それがあの子のなかでずっと今も続いていて……どうすればいいのか。分からないのよ。それにお母様って、どこか壁があるの。だからお母さんって呼んで欲しいの」

「なんでそれを言わないんですか。ミネハさん言ってくれますよ」

「……ええ、あの子はきっと無理して言ってくれる。無理して、お母さんって、ね」

「———それは……ルリハさん」


ああ、もうやっぱり親子だよ。このふたり。


「ワタシ。ダメね」

「ルリハさん!」


僕は思わずルリハさんの肩を掴んだ。


「ひゃいっ? あっ……ん……ウォフさん……?」

「……それでも、それでもルリハさん。ルリハさんの気持ちをぶつけたほうがいいと思います。本心をルリハさんの想いを全部ミネハさんに言ってくださいっ」

「そ、そんなことでも今更」

「今更も何も言わないから分からないんです。言わないから壁が出来るんです。別に恥ずかしくても不格好でもなんでもいいじゃないですか。情けなくなって呆れるかも知れません。でもいいじゃないですか。ルリハさんの中にあるミネハさんの気持ちは、ミネハさんに間違いなく届くんです。そしてそれが分からないミネハさんじゃなありません。彼女は必ず分かってくれます」


ミネハさんは必ず分かってくれる。彼女はそういう子だ。


「そ、そんなこと……どうしてそんなまっすぐに言えるの……なんであなたは」


ルリハさんは不安と恐怖の入り混じった潤んだ瞳を僕に向ける。

どこか睨んでいるようにもみえる。

まっすぐって、そんなの簡単だ。


「僕が信じているからです」

「……」


ルリハさんは僕を見つめたままひとしずくの涙を零した。


「ルリハさんっ?」


やばい。泣かしたっ!?


「ずるい」


ルリハさんはいきなり僕に抱きついた。え。


「え」

「ずるい……ずるいわよ……なによ……なによ。まだ会ってそんな経ってないのに……子供のくせに……ちょっと肩が座りやすくて…ていうか久しぶりに旦那以外で座ったわよ……ミネハと仲が良くて……仲が良いっていうか……それなのに魔女とかシロとかチャイブとかおまけにムニエカ……他にも……色々と聞いているんだから……なのになのに……ずるい……ずるいずるいずるいずるい……ずるい」

「えっと、ルリハさん?」

「ずるい……ばか」

「ええっと」

「ばか」

「あ、あの」

「ばか」

「……ごめんなさい」

「ばか」

「……すみません」

「ばか」


なんだこれ。

ルリハさんは子供みたいにムッとして僕に抱きついている。

なに言っても、「ばか」しか言わない。


「えーと……良かったらミネハさんのところに一緒に行きませんか」

「ばか……いいけど、このまま連れてって」

「このままって、さすがにこのままは……無理ですよ」

「じゃあキスして」

「えっ、えっ、な、なにを?」


なにを!?


「キスして」

「あ、あの……」

「して」

「……」


僕が彼女をこうしてしまったのは分かる。

なにかこう僕はとても致命的な何かをやってしまったんだろう。

なにをやったのか全く分からない。


だけど前世の記憶が言っている。大人の女性をこんなにしたらダメだ。

もうダメだ。なんてことしてしまったんだ。


いつもいつも僕はやってしまう。

何故だろう。僕は叔父さんの言うとおりにしているだけだ。

小さい頃、叔父さんは僕に言った。


『いいか。ウォフ。これだけは覚えておけよ。女の子は泣かせてはいけない。女の子は悲しませたらいけない。いいな。何があってもそれだけは忘れるな』

『うん。わかった』


それはそうだ。僕も強く納得してそう思うから、そうしないように頑張っている。

だけどそれが……何かこう……なんでだろうな。間違っているときがある。


だからといってだ。

僕は悲しむ女の子や泣きそうな女の子を放って置けない。

放ったりしては、それはしちゃいけないんだ。


皆には幸せになって欲しい。皆には笑顔になって欲しい。

だから僕はルリハさんの……唇はさすがに悪いので、頬に唇を当てた。


「ん……」

「これでいいですか」

「やさしいキス、ね」


ルリハさんは僕から離れた。

抱きつかれたとき、気持ち良かったし良い匂いもしていたから少しだけ惜しかった。


「行きましょう。ミネハさんのところに」

「そうね」


ルリハさんは僕の頬にキスして微笑んだ。

不意打ちすぎる。




















僕の家。見張り塔。

その頂上にミネハさんは居た。


「ウォフ……お母様……」


ミネハさんは大きいままで座り込んでいた。

僕たちを見て驚いている。ミネハさんの視線が僕の肩に座るルリハさんに止まる。

ルリハさんはフェアリアル状態だった。


「ミネハ」

「……」

「ルリハさん」


僕が促すと、ルリハさんはミネハさんの傍へ飛んだ。


「お母様……」

「ミネハ。話をしましょう。ワタシ。あなたに伝えたいことが沢山あるの」

「お母様がアタシに?」

「ええ、あのね。アタシね。ミネハ。あなたのことが大好きよ」

「えっ……お母様……?」


ルリハさんはミネハさんを熱く抱擁する。

僕は邪魔にならないようその場を後にした。

自然と笑みがこぼれた。


母娘っていいよな。




















そろそろいいかな。久しぶりに自分の部屋で休んでから見張り塔へ行く。

何やら声が聞こえる。まだ話しているのか。


うん。いいことだ。どんな楽しい会話をしているのかな。


「このクソババアぁっっ! いい歳してなに言ってんのよっ!」

「だったらあんたがそのエロさでなんとかしなさいっ!」

「なんですって! 10歳の実の娘になに言ってんの!」

「あんた。王都の高級娼婦ジュエルもぶっちぎりで負けるほどエロいのよっ! ドチャシコドスケベなのよっ! 10歳って絶対にウソでしょっっ!」

「嘘なわけないでしょっ、自分の娘の年齢疑うとか耄碌しすぎよっ!」

「なんですってっっっ!!」

「なによっっっ!!」


えーと……なにこれぇ……どうなってんの?

ルリハさんとミネハさんが罵り取っ組み合いをしていた。


なぜ。




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