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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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225/284

グレイトオブラウンズ⑧


魔女の乳房の谷間を伝って口の中に入ったひとしずくの甘露。

覚醒水。まだあったのか。

それともまた素材を集めて魔女がつくったのか。どっちか分からない。

そう考えられるくらい僕の意識はカメラのピントが合うようにハッキリする。


だがそこで感じたのは、いきなり水の中に落とされ、沈んでいくような感覚だった。

身体は指ひとつ動かない。どこまでもどこまでも沈んでいく。


実際、周囲は液体みたいな青々とした空間だった。

僕が吐く息も気泡となり、身体からも多量の泡が発生する。


それでも濡れているというわけじゃない。

なんともいえない不思議なところだ。

沈んでいっているのに底が見えない。


「…………」


ここは僕のなかだ。

精神とか心の中とかそういうモノの中だ。

そして前よりも、もっともっと奥へ向かっている。


「……全ての答えは僕の中にある……か」


唐突に地面に落ちた。


「いてっ……な、なんだ…………?」


ゆっくり起き上がる。

土だ。空はどんよりと曇っている。


「ここは……」


周囲は森。前方に小さな橋があり、橋の向こう側に建物が見えた。

教会みたいだ。橋に誰かいる。


「……あれは」


橋に剣を突き刺して支えに仁王立ちをしているのは、真っ黒い鎧の騎士……!?


「……っ!」


忘れられない。忘れるはずがない。例の森の黒騎士。

僕が初めて負けた相手だ。


「なんでここに……」


黒騎士は僕の姿を捉えると剣を構える。

瞬時に理解した。僕はこの黒騎士を倒さなければいけない。


黒騎士を倒す―――なんでいやそそもそも黒騎士が……?


「…………」


僕は確かめる。服は着ている。『静聖の籠手』もポーチもある。

ナイフも持っている。ナイフは最新のやつで、あのときのナイフたちじゃない。

そうか。あのときとは違う。


僕は歩く速さで黒騎士に近付く。

黒騎士が剣を構える。間合いに入ると振るう。


『アガロさんのナイフ改』で受け、弾く。

だがすぐにモノともせず黒騎士は剣を振り上げ降ろす。ギリギリで避けた。


「———やっぱり違う」


それは僕の動きだ。心が落ち着いていた。冷静に黒騎士の動きが見えている。

黒騎士はその場から一歩も動かず、間合いに入ったモノに攻撃を仕掛ける。


間合いに入らなければ―――そのとき、黒騎士が動いた。

僕に向かってくる。片手で持った剣で横薙ぎにする。


咄嗟にナイフで受けたが、弾かれた。『アガロさんのナイフ改』が宙を舞う。

後ろに下がって別のナイフを手にする。銀の十字型ナイフだ。

レリック【深静者】を使用した。剣を狙って放つ。


「【バニッシュ】」


黒騎士の剣をまずは無くす。しかしそのとき信じられないことが起きた。

黒騎士がタイミングを合わせて剣を縦に振るう。


【バニッシュ】が切られた。


「なっ……【バニッシュ】!」


また剣を狙って放つ。真っ先に黒騎士が反応して剣を振るう。

絶妙なタイミングで【バニッシュ】が切断された。

そんなことが……黒騎士が眼前まで迫り、斜めに剣を下ろす。


「くっ!」


ナイフで受けた。剣がダメなら黒騎士本体ならどうだ。


「【バニッシュ】」


黒騎士に命中して消失———していない。

黒騎士の鎧だけが消え、そこから現れたのは……なんだ。コイツ。


「…………」


鎧が砕けると男が現れた。

煌めく長い紫の髪。紫の瞳。褐色の肌。不思議な民族衣装のような軽装。

紫の髪と瞳って【ジェネラス】!?


男は僕を見ると黒騎士の剣を掲げた。刀身が赤黒く輝く。

構えると向かってきた。速い。


「【バニッシュ】っ!」


狙うと素早く剣を振って簡単に切られた。

分かっていたけど、やっぱりダメか。どうするか悩むと懐に入られた。

しまっ……赤黒い刃が僕の身体を貫いた。


「がはあぁっっっっ!?」


倒れる。ダメだ。身体が動かない。

なんだ。急に身体が楽になっていく。


「……傷がない……?」


貫かれた傷がなにもない。どういうことだ。

それに痛みもなかった。即死だったからだろうか。


「そうか」


ここは僕の心の中だ。現実じゃない。

だから死ぬことはないんだ。いいや、死ぬことはある。


それは僕の精神的な死だ。おそらく僕が諦めたらそうなる。

ゆっくりと立ち上がる。それまで彼は待っていてくれた。

三角形の不思議な赤黒く紫に光る剣を肩に担ぐ。


「ここが僕の心の中だとして、黒騎士は分かる」


こいつはなんなんだ? ジェネラスなのか。


僕は落ちている『アガロさんのナイフ改』を拾う。

構えると絶句する。


菱形の【バニッシュ】が空を覆っていた。

即座にこれがあいつの使った【ファンタスマゴリア】だと気付く。

こうなったら僕も【ジェネラス】になるしかない。


僕は【ジェネラス】に……あれ?


「———あれ、なれない?」


何度、意識を集中しても【ジェネラス】が使えない。


「どうなって」


いるんだと言う前に僕は降り注ぐ【ファンタスマゴリア】でバラバラになった。

すぐさま何事も無かったように再生するが……本当になんなんだよこいつ。


「……どうする」


残る手は【ナイフマジック】だけど、今のままだと通用しない。


「あとは……」


あれか。あれしかないか。


【サイレントオートムーヴ(ハーフ):素早く精密な高難易度の行動を必ず1回だけ成功させる。その行動中に意識はある】


【深静者】がそろそろ切れそうだ。やるしかない。


「———【サイレントオートムーヴ】」


発動させると身体が跳ねた。

自分でも信じられないほど凄まじい速さの挙動でアイツの四角に回り込む。

『アガロさんのナイフ改』を振り上げ、アイツの腕に傷をつけた。


やった。


だが身体の動きも限界がある。

その隙をつかれて僕は三角形の剣に叩き切られた。















夜。

雨はまだ激しく降っていた。

時々稲光が空を照らし遠雷の音が聞こえた。


みつめて、ゆっくりとベッドに眠るウォフの頭を彼女は撫でる。

こうして見ると、ただ眠っているようにしかみえない。

実際それに近い。ただし見る夢が幸せとは限らない。


「ねえねえ、コンは信じているからねえ」


願いを込めて祈りを込めて。


「だからだから、必ず戻ってくるんだねえ。ウォフ少年」


額にそっとキスをする。

どうかどうか。この想いがウォフに届きますように。






































立ち上がる。

ああ、僕は何回……死んだんだ。


わからないけど数えきれないほどアイツに殺された。

アイツ。強い。【ジェネラス】ってあんなに強いのか。


普段、自分がどれだけチートだったのか思わず苦笑してしまう。

だけど、ズタボロだけどまだ、まだだ。まだ立ち上がれる。


「……ふうぅっ」


それに手はないわけじゃない。

もう少し……あと少し……何かが掴めそうだ。


「———【サイレントオートムーヴ】っ!」


もう何度も使っている。

正直このアクロバティックの動きは出来ない。オートだから出来ると思う。

でも、もしも、オートじゃなくてもあの動きが自分の意志で出来るだとすれば。


出来れば……勝てる。

アイツの振り下ろした三角形の剣を受け、流すを失敗して切断され、切り刻まれる。

なんて重さの剣だ。


「そ、それも使えるのかよっ」


アイツの【バニッシュ】を通した【宇宙そらかいな】で殴られた。

僕は消滅する。そして数秒も経たないうちに元に戻る。


「……便利なんだか便利じゃないんだか」


幸い痛みもないから復帰も容易だ。

それにアイツも待ってくれる。

まあ現実じゃなく僕の心の中だからある意味なんでも……あり?


なんでもあり。


「……ひょっとして」


握っている『アガロさんのナイフ改』をみつめて思う。

すると『アガロさんのナイフ改』がエリクサーナイフに変わった。

エリクサーを塗ったナイフでとうに失われたアンデッド特攻ナイフだ。


「やっぱり」


なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ。

ここは僕の心の中だ。僕の心の中なんだ。つまり僕なんだ。


僕の心ならば僕に都合がいいのは当たり前だ。

死なないのも痛みがないのもそうだ。


この空間もアイツも今の僕もぜんぶ僕の心の中にあって僕の心が造り出している。

そしてそれが出来るのは覚醒水の効果だ。


「それなら」


それならば僕に僕の心の中で出来ないことはないはずだ。

あっ、今なら【ジェネラス】になれる。

気付いたからなることができると分かった。


だけど僕はこのままでアイツを倒す。

そうしないと意味が無い。


そうか。僕が黒騎士と戦うことを願ったのは、このままで倒していなかったからか。

心の中の片隅に後悔というか未練というか。心残りになっていたんだろう。


「それなら、まず場所が辛気臭いんだよな」


こういうとき、相応しい居場所がある。前世の記憶の中にある風景が浮かんだ。

その瞬間、例の森から景色が変わる。


青空と雲が果てしなく続き、足元にも青空と雲が果てしなく映る。


「ウユニ塩湖だ」


フッと不敵に笑う。

ふと額にやさしい熱を感じた。



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