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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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222/270

グレイトオブラウンズ⑤

エンスさんは格上だ。それは間違いない。

たぶんだけどアルヴェルドと互角以上に戦える。


だけどアクスさんは果敢に立ち向かって健闘した。

いいや、それ以上の活躍をみせてくれた。


素晴らしい戦いだった。

僕は気付くと立ち上がって拍手をしていた。


僕の両肩に座りながらもルリハさんもミネハさんも拍手をしていた。

セレストさんもエミーさんも拍手をしていた。


他の第Ⅰ級探索者も、あっえっと、ナーシセスさん居たのか……泣いていた。

えーと、これは見ないほうが良かったかも。泣きながら拍手していた。


感動しているように見えた。

ひょっとしてそんなに悪いひとじゃないのかも?













夕方。

そよそよと優しく涼しい風が吹く。

僕はエキシビジョンマッチの余韻の熱に浸りつつ、街中をひとりで散策していた。


街の隅から隅まであらゆる露店が左右にずらりと並んでいた。

様々な声が木霊する。


「おかーさん。あれ買ってー」

「もーあれも買ったでしょ」

「今日の試合、凄かったな」

「俺、探索者として上を目指そうかな」

「アクスとエンスって兄弟か? 似てたよな?」

「うーむ。あのエンス。20年前に助けてもらった若者にそっくりじゃったな」

「あー腹減った。シードル亭はまた混んでるか」

「ゴーロのところ行くか」

「あの食堂も混んでるぜ」

「あーマジかよ」

「でやーあ一刀断魔!」

「なんの。なんとかファング」

「こら、暴れないの!」

「安いよー安いよー。ハイドランジア名物の英雄焼きだよー」

「串焼きーっ! 串焼きーっ! 英雄肉串焼きっー!」

「ここでしか食べられない。英雄印の判焼きだよ! 判焼きー甘くておいしいー判焼きっ! 判焼きー!」

「因縁~の対決~それがふたりの~運命~♪」


ハイドランジアが沸騰している熱狂している。白熱がどこまでも続いている。

こんなハイドランジアは初めてだ。


だからか余韻の熱が微熱のように僕の心の中に続いている。

心地よい気分だ。僕は噴水広場を通った。


噴水広場は大道芸の祭典になっていた。

様々な大道芸人がパフォーマンスを披露している。

ナイフでジャグリング。輪投げ。玉乗り。演奏。ダンス。どれも見事だ。


「おおぉっ」

「きれい……」

「べっぴんだなぁ……」

「なんて踊りだ」


なんだろう。向こうに人だかりが出来ている。

ちょっと気になっていってみた。


野次馬の中心。ぽっかり空いた空間でひとりの少女が舞っていた。

蒼白いレオタードのような踊り子の衣装で薄い羽衣みたいな布を纏っていた。


青と緑のツートンカラーの長い髪を流した美少女だ。

瞳も青と緑のオッドアイ。愛らしい笑顔で激しく華麗に舞踏している。


「……『水風の舞姫』?」


そうだ。『シードル亭』で会って、会議で見た。

第Ⅰ級探索者『水風の舞姫』のロリーフさんだ。


野次馬から離れたところに全身鎧の長身騎士もいる。

彼女の 従依士ツカエシだ。雰囲気が重い。


片脚を軸にした高速ターンを決める。

ツーステップ。トリプル。ターン。凄い。動きに迷いも乱れもない。

それがまるで自然であるかのように激しく正しく舞踏している。


踊り終わると、拍手と共におひねりが投げられる。

ロリーフさんは飛び跳ねて笑顔で答えた。


なんかいいモノ見たな。

僕も僅かだけどおひねりを投げた。

それにしても第Ⅰ級が大道芸をしているなんて、驚いた。


さてと大通りの露店へと移動するか。

ちょうどいい感じにお腹も減ってきた。


広場から大通りは信じらないほど混んでいるので脇道と裏道を通る。

地元民ならではの近道だ。人影は殆どない。


「よしまずは」


露店で珍しいものを食べ。


「ちょっと、なんなのっ離しなさいっ」


またか。僕はため息をつく。細道の先。

近くの路地裏へひとりの女性が男たちに連れて行かれそうになっていた。


男たちは六人。探索者風の格好。人相が悪い。いつも通りだ。

女性はローブを纏ってフードを被っていた。


体格がいい男に腕を掴まれて強引に引っ張られている。

抵抗むなしく路地裏へ連れて行かれた。後を追う。


「うわああぁっっ」


路地裏に差し掛かったとき、急に女性ではなく男の悲鳴がきこえた。


「ぎゃあああああぁぁっっっ腕があああああああぁっっっっっ」

「な、なんだおまえっ」

「来るなっ来るなっ!」


な、なんだ。様子が明らかにおかしい。

裏路地を覗くと、そこには……うっなんだ。これ。

腕を失くした男や逃げ惑う途中で脚を失くした男や死体があった。


そしてフードを目深に被った女性が僕を見る。


「ウォフ。まさか、これはあんたの差し金っ!?」

「え?」

「仕返しのつもりなのね!」

「へっ、なにを?」

「やっぱりこの最低下劣めっ!」


バッといきなり襲い掛かってくる。その手にあるのは半透明の四角い……まさか。


「【バニッシュ】!」

「うおっ、【バニッシュ】っ?」


咄嗟に半透明の丸い球の【バニッシュ】で応戦する。


そのときフードが取れた。紫の髪と瞳がハッキリと見える。


「ナーシセスさん!?」


『ジェネラスの再来』……なら【バニッシュ】も当然、使えるか。

それにしても四角なんだな。じゃなくて、なにか誤解している。


「死ね! 死ね! 女誑し! チャラ男! パリピ!」

「ち、違っ!」

「女の敵ぃぃっ!」

「うわっ、ちょっと、話を!」


僕の丸い【バニッシュ】と彼女の四角い【バニッシュ】が激突する。

異なるふたつの【消失】が空間に衝撃を与えて歪ませている。


くっ、同じ【バニッシュ】だからやりづらい。

ナーシセスさんが止まった。やっと誤解が解けたのか。


「やっぱり、認められない」

「っ!?」


ナーシセスさんの手にある半透明の四角い【バニッシュ】が細長く伸びた。

棒のようになり、動きが変わった。急接近して振り下ろす。


まずい! 僕は【バニッシュ】で受け止めた。

ナーシセスさんは巧みに腕と手を回し、【バニッシュ】の棒を振るう。


何打か【バニッシュ】で受けて弾いて、うまく距離をつくった。


「はぁっはぁっ……はぁっ……」


動揺する息を整える。

やばいやばい。あんなの少しでも触れたら……っ! 


まさか【バニッシュ】があんな変化するなんて。

ナーシセスさんは舌打ちする。


「チッ、見えるんだから避けられるか。でも」


【バニッシュ】の棒のカタチが変わる。先端が伸びて歪曲して鎌のようになる。

戦慄する。背筋が一瞬でぞわってなった。


「これならどう?」

「……なっ」


これは―――殺される。僕は直感して【深静者】を発動させた。

ナーシセスさんは軽快な足捌きで速いっ……間合いに入られた。


「だえぇぇいぃっっスラッシュ!」


裂帛の気合と共に彼女は【バニッシュ】の鎌を横に振るう。

怖い。恐ろしい。

でも―――その薙ぐタイミングを冷徹に見計い、僕は狙い、放った。


「【バニッシュ】」

「っ!」


彼女の【バニッシュ】の鎌を大きく弾いた。

ナーシセスさんは驚いて跳び下がる。


「今のは……その青い光る瞳……なに」


彼女は【バニッシュ】の鎌を下向きに構えて警戒する。

紫の瞳が鋭く僕を映す。


「ナーシセスさん。誤解です。僕はこいつらとは関係ないです」

「じゃあなんでいるのよ」

「誰かが連れて行かれるのを偶然見て、助けようと来たんです。彼等との接点はありません。信じてください」


男たちは皆、死んでいた。死因は出血多量だろう。

触れてはいけないモノに触れた報いだから同情はない。


それはいいとして、なんでこんな誤解になっているんだ?

ナーシセスさんは悩むような顔をして、やがて頷いた。


「……それもそうね」

「ホッ、わかってくれましたか」

「よく考えたら、認めたくないけれど、こんな手口を使うクズに堕とされる連中じゃなかったわ」

「落とす?」


なんだか分からないけど納得してくれたようだ。

ナーシセスさんは【バニッシュ】の鎌を消す。


「あっ、【バニッシュ】が使えるなら」

「?」

「こいつらの片付けを手伝ってくれませんか」

「?」


小首を傾げられた。



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