グレイトオブラウンズ②
正直、どういう戦いになるのか分からない。
土ッハさんとギムネマさん。このふたりは面識がある。
土ッハさんは『シードル亭second』で相席になった。
ギムネマさんは溺れているところを助けた。
このふたりのエキシビジョンマッチ。
「ヘイ、ユー。今日こそ決着つけるヨー!」
「奇遇ですな。吾輩もそう思っていたである」
ふたりが対峙する。
アルハザード=アブラミリンが真ん中に立つ。
審判もやるのか。
『それでは、エキシビジョンマッチ。『土ッハ』の土ッハ。『海元卿』ギムネマ=シルベスターの勝負を始める。勝敗は降参するか。気絶するか。相手を殺すようなことは禁止とする。よいか?』
「おうヨー」
「うむ」
『では始め!』
合図と同時にふたりは跳び下がった。
「へい、へい、ヨー! カモナっ!」
踊るように右腕を振ると、足元から土が盛り上がって、巨大な右腕になる。
右手を握って巨拳をつくる。
「最初はそれか」
「ぶっ飛びなベイベェーっ!」
土の拳が飛んだ。
まさかロケットパンチ!?
いや次から次へと土の巨拳が造られて飛んでいく。
「ロケットパンチの連射!?」
右腕の拳だけでもかなりの連射と威力だ。
「ロケッ?」
「あっいえ、なんでも。それにしても土ですか」
「あーねー土ッハのレリックはねーたったひとつだけしかないんだよーね。レリック【土】……それだけしかないんだーでもね。彼は【土】を極めている」
たったひとつのレリックを極めた男。
「というかあれ一発でも当たったら死ぬような?」
「んー、まあーそーだね」
チャイブさんは苦笑する。
「いやそれはマズイのでは?」
「まーでも大丈夫だよ。あれくらいで死んだら第Ⅰ級じゃないからねー」
そういわれると確かにと納得する僕。
「ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ、フーユーっフォーアオォッッ!」
何故か飛び跳ねて踊る土ッハさん。
キレキレのダンスでノリにノッているなあ。意外にも黄色い歓声が多い。
対してギムネマさんはなんとかロケットパンチを回避していた。
大回りに走って大胆に避けている。これ回避できるだけでも凄い。
僕なら【バニッシュ】で片っ端から消しているかな。
なんだ? ギムネマさんを見ていたら闘技場の地面が濡れていることに気付いた。
アッという間に膝元まで水浸しになった。この異様さ。レリックか。
なんとなくギムネマさんの仕業だと感じる。ほら魚頭だし。
「アォーオーユーッ? そんなんじゃ、ミーの土ッ拳は止まらないぜ」
「それはどうですかな」
そう言うとギムネマさんの真正面に迫る土の巨拳。
危ないと思ったそのとき、巨拳は縦に真っ二つになった。
いつの間にかギムネマさんは刀を握っていた。
前世の記憶曰く白木造りの刀・ドスだ。
「出たねー『刺身包丁』」
「え」
「あれこそーギムネマ=シルベスターの愛刀『刺身包丁』だよー」
『刺身包丁』……なんだろう。この、このモヤモヤする感じ。
「ヘイ、ヘイ、ひとつ切ったぐらワオォッッ!?」
土ッハさんは慌てて飛び退いた。とつぜん巨大な四ツ目の何かが彼を襲ったからだ。
水しぶきをあげて膝ぐらいしかない水面に沈む。そして背ビレを出した。
あ、あのシルエットは!
「サメ!? なんでサメ!?」
「あれはー『海元卿』のレリックだね。確か【海舞台】と【魚介主】だったかなー」
「なんですか。その名称のレリック」
「【海舞台】は海をつくってー【魚介主】は魚介を自由に召喚して操れるーだね」
だから水浸しになってサメが出て来たのか。
『海元卿』とはそういうことか。しかし、ギムネマさん。泳げないんだよな。
それはそうと疑問がある。
「ふたりが所持しているレリックに詳しいんですね」
レリックはレアであればあるほど隠すものだ。現に僕がそうだ。
それを知っているというのは、疑ってはいないが……どうしても不安がある。
チャイブさんはすぐ答えたくれた。
「第Ⅰ級のレリックってーある程度ー公表されているからねー」
「そ、そうなんですか」
「不思議そうな顔だねーまっ確かにーこう隠しておくのも手なのはあるね。ただー公表することもーね。デメリットばかりじゃーないんだよねーウォフっち。分かるかなー?」
「いえ、わからないです……」
チャイブさんはギザギザの歯をみせるように笑った。
「抑止力だよ。知ることによって抑えられることもーあるんだよねー」
「……なるほど……」
あえて知らせることで牽制するか。
「現にーボクのレリックはみんな知っているからねー」
彼女の黒い鎧の獣フラッゼレイになれるレリックは有名だ。
そしてその恐ろしさと強さも有名だ。
あえて知らせることによって抑止力にさせる。
僕はまたひとつ学んだ。
サメは土ッハさんの周囲を回る。背ビレだけ出ていて怖い。
四ツ目のサメ。魔物だな。普通のサメよりでかくてサメ歯も凶悪だ。
「ヘイユー、実に厄介だヨー! でもミーはまだまだネー!」
土ッハさんは巨大な右腕を崩して舟にした。
舟の上に立って土の銛を手にする。なるほど。考えたな。
「そうはさせませんよっ」
『刺身包丁』を鞘に仕舞い腰に構えた姿勢のままギムネマさんが突進する。
居合の構えに似ているけど、その姿勢のまま移動はどうやって?
よく見ると彼の足元の水面に大きな影が映っていた。何かに乗っている。
「おおー亀だー」
亀?
なるほど。亀に乗って移動していたのか。
舟に接近すると亀が跳んだ。同時にサメが襲ってくる。
その瞬間、バァンっといきなりサメが吹っ飛んだ。
「ワオォッ!」
「ジェニファーっ!?」
次にギムネマさんが乗った亀も盛大に吹っ飛ぶ。
「ハァオォッ!」
「マドンナっ!?」
ギムネマさんは咄嗟に亀の背からジャンプして舟に降りる。
ジェニファーとかマドンナとか名前つけているのか。
狭い舟の上でふたりは睨み合う。
土ッハさんは頑強な土のプロテクターを生成して着けていた。
手の部分は球体になっていて硬そうだ。
あれでサメ(ジェニファー)と亀を殴ったんだろう。
土ッハさんは両手で顔を隠し、腰を少し落とし、狭い足場でステップを踏む。
あの構え。あれは―――ボクシング?
「ヘイ、ヘイ、ヘイヘイっ! ヘイヘイヘイヘイっ!」
一気に接近して土ッハさんはラッシュを放った。
あらゆる方向からのラッシュ。猛ラッシュだ。
ワアアアアアアアアァァァァァァァァッッッ!!!
観客もわく。防戦一方になるギムネマさん。
「ぐっ、さすがですな。だが!」
絶妙にジャブを躱してギムネマさんは『刺身包丁』を抜いた。
刀身が煌めく。
「一刀断魔!」
あの技は、アガロさんの!?
一閃———土ッハさんのプロテクターとこぶしの球体が切られた。
「ワオォッ! さすがだヨー! ユーのおかげでミーは燃えてきたヨーっ! ホッハッアァ!! ヒッハートァァァッッ!!」
興奮した土ッハさんはそのまま土も使わず素手でギムネマさんの顔面を殴った。
「ぐほおぉっ!?」
「ヘイミー、滑るヨウっ鱗がついたヨー」
「魚だからなぁっっ!」
ギムネマさんも叫んで土ッハさんの顔を素手で殴る。
ふたりとも離れて血反吐を吐く。
「ギムネマああぁぁっっっ」
「土ッハあぁぁぁぁっっっ」
それからはもうガード無しの殴り合いだ。
「うおおおぉぉぉっっっっ」
「でええええぇぇっっっっ」
顔を殴って腹を殴って顔を殴って顔を殴る。
まるでB級アクション映画おなじみのラストバトル・肉弾戦だ。
「あーあー、始まっちゃったー」
呆れるようにチャイブさんはぼやく。
「始まったんですか?」
「ウォフっち。ああーなるとね。ふたりともー止まらないんだよー」
「凄い勢いで殴ってますよねえ」
なんと泥臭い。ひたすら泥臭い。レリックとか第Ⅰ級とかどこいったんだ。
だけど闘技場の大半の観客は大興奮していた。
ワアアアアアアァァァァァアアアァァァァァァッッッッ!!!
大歓声が鳴り止まない。
「あーそろそろーほら」
それはほぼ同時だった。
土ッハさんの拳とギムネマさんの拳が互いの顔を強く殴打する。
ここまで殴る音が聞こえるほど強烈で、崩れ落ちるようにふたりとも倒れた。
そのままピクリとも動かない。
「……引き分け……ですか」
「だねーもう前もそうだったよー」
審判のアルハザード=アブラミリンが別の舟に乗って出てきた。
ふたりが倒れている舟に接近すると交互に見る。頷く。
『両者ダウン! 試合終了ぉぉぉぉっっっ!!』
ワアアアアアアアアアアアアアアァァァァッッッッッッ!!!!!
割れるような歓声が闘技場を震わせる。
こうして初日のエキシビジョンマッチは大盛況に終わった。
夜。『シードル亭second』に行く。
包帯だらけの土ッハさんとギムネマさんが飲み比べをしていた。
ポーション使わないのかな。




