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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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215/270

前夜祭③


いよいよとうとう。明日だ。明日『グレイトオブラウンズ』が始まる。

なんだか妙に緊張してきた。


今日はその前夜祭だ。

ハイドランジアの領主城の大ホールでその前夜祭の立食パーティーをしている。

参加者や招待客は30人の第Ⅰ級探索者。その従依士ツカエシ

街の名士や有力貴族などなど。


僕も慣れないスーツを着せられ、飲めないのにお酒のグラスを持っている。

ウェルカムドリンクと渡されたのでつい手にしてしまった。


僕はいま壁際に立っている。

たったひとりだ。今のところ誰も話しかけてこない。


僕の名前は完全に独り歩きしていて、魔女たちと現れたらどうなるかわからない。

なのでパーティーでは極力関わらないという風になった。


正直ホッとしている。ここから眺めても凄い光景だ。

あっエンスさんとエミーさん。さすがにアクスさんは居ないと思ったら、居た。

レルさんとホッスさんと一緒に飲んで食べて、アガロさんと話をしている。


近くにメガディアさんとアリファさんと、誰だろう。

あの見るからに強そうな赤髪の美女。

それとあの黒髪はカエデさんだ。ドレスじゃなく着物。

それも勇ましい袴姿じゃなく紺色の帯び着物姿だ。


奥に居るのはアルヴェルドか。貴族の誰かと話をしている。

あそこだけ妙な雰囲気だ。恐れ多いみたいな感じが強い。

近寄らないから別にいいけど。


そして魔女。ムニエカさん。チャイブさん。シロさん。

皆、普段はまず着ない煌びやかでセクシーなドレスを身に纏っていた。

魔女は黒だけどカクテルドレスで背中が童貞殺し……前世の記憶おかしくない?


ムニエカさんはメイド姿。ぶれない。さすが。


チャイブさんは黄色い肩が出たドレス。ドレス姿なんて初めて見た。

化粧もしているのは驚きだ。


シロさんは白いケープに白いワンピース姿。

頭に白い花飾りを付けている。なんとなく昨日のシロさんの寝巻を思い出す。

でもあれは薄くも透けてもいない。


それぞれグラス片手で談笑している。

貴族らしいキラキラとしたイケメンが群がっていた。

いやギラギラか。


僕には入っていけない世界だなと改めて思う。


「がっはははははっっっっ」

「ダッハハハハハハハハハハ!!! 見ろ。俺様の無敵要塞っ!」

「ヘイユー、ヘイユー、祭りだヨー!」

「ほう。この魚。美味いですなあ」

「魚が魚食ってるでゲス」

「ぶほぉっ、ワロタ」


僕には絶対に入っていけない世界だなと改めて思う。

ぜったい見つからないようにしよう。


『それでは~語ろう~♪』


ステージでは、もう見るからに吟遊詩人という恰好の男性がリュートを弾いている。

あんな派手で今時いない昔ながらの道化みたいな恰好。つまり吟遊詩人なんだろう。あんなに吟遊詩人を主張するのは初めて見たけど。


『~数多くの英雄譚~英雄は色を好むというが~♪』


なにを唄っているんだろう。


『彼ほど~色を身に纏うものはいない~♪』


英雄譚なのかな。どんな英雄なんだろう。


『だが彼はまだ英雄で非ず~だが彼はまさに英雄にならんとしている~♪』


英雄を目指す物語か。ヒロイックサーガかな。嫌いじゃない。


『彼が挑むは~苦難の~困難~誰もが成し遂げられぬ~前人未踏~♪」


そういうの乗り越えるのってワクワクするなあ。


『~難攻不落~♪』


ん? 


『~挑戦する者~挑戦する者~難攻不落を攻略せし者~♪」


んん?


『~夜の挑戦王ウォフ~♪ 夜の攻略王ウォフ~♪ 夜の英雄王ウォフ~♪」


「ぶっふほおぉぉぉっっっっ!?」


噴いた。盛大に噴いた。そして腹が痛くなった。

でも僕に気付くひとは幸いにも居なかったが……なんだよあの唄っ!


しかも夜ってなんだよっ! 夜って! 

そりゃあ昨日はシロさんと添い寝したけど!


シロさんの肌触りと抱き心地はひんやりと柔らかく温かったけど!

とてもいいぬるさで心地良かったけど! あっという間に寝たけど!


それとやっぱり下着つけてなかったけど!

抱き心地はそのまんまの意味だけど!


「はぁー、勝手なことばかり唄っている。ん?」


のそのそと青い大きな犬がやってくる。『剣の剣』だ。

第Ⅰ級のうち最強は誰かで必ず挙がるのが『剣の剣』と『破壊の崩者』

第Ⅰ級で最強ということはこの世界での最強のひとり……ということだ。


それがまさか本物の犬だとは思わなかった。

オオサンショウウオもとい陸ナマズも元第Ⅰ級だし、なんなんだこの世界。


『剣の剣』は僕を一瞥すると隣に座ってそこから寝そべる。

そのつまらなそうな態度に僕は、まあ犬ならそうだよなと妙に納得した。


「でも……」


壁際で一歩引いてみるパーティーの光景はなかなかに面白い。

煌びやかで騒がしく、雅でやかましい。不思議な混雑さを眺めて楽しむ。

愉悦なり。


「おんや。君は楽しんでいるみたいだネ」

「え……っ!?」


唐突に何の気配も無く、そこにピエロが現れた。

赤と黄色の派手な衣装に白と赤の化粧。ピエロだ。

おどけたように僕から離れる。


「アハッ、怖い顔だネ」

「クラウン……」

「いやいや、ぼくは『ナイトメアパレード』だヨ」

「……」


ピエロはうやうやしく挨拶をした。


「しがない道化師さ。クロウ=ディスター。よろしくネ」

「ど、どうも」


落ち着け。クラウンはもういない。だけどピエロはいる。

ダンジョンの魔物のアンデッドとしてのピエロは各種健在だ。


それに大道芸やサーカスの道化師も消えてはいない。

そしてあれは人だ。ダンジョンの魔物じゃない。


「おんや。『剣の剣』もいるんだネ。アハッ、つまらないって顔だネ」


『剣の剣』はクロウを見て、それから顔をそむけて目を閉じる。

ふと弟子のセレストさんは何をしているのだろうと思った。


「アハッ、君はこんなところで何を楽しかったのかナ?」

「一歩引いたところから見たこの前夜祭の光景を眺めて楽しいと思いました」


素直に答える。別に隠すようなことじゃない。

実際、楽しい。


「なるほどなるほど。傍観者ってわけだネ」

「そうですね」

「ギャラリーはどんなところでも必要不可欠サ。君はキャストよりギャラリーを好むのかイ?」

「あまり目立つのは好きじゃないんです」

「アハッ、そいつは道化師のぼくには皮肉になるネ」

「……そういうつもりじゃないですよ」

「ジョーダンジョーダンだよ。アハッ、どんなカタチでもいいヨ。パーティーはパーティーサ。楽しんでネ」


そう言うとクロウは軽快な足取りでジャグリングしながら去っていった。

あれが『ナイトメアパレード』か。

やっぱりピエロは苦手だな。


というか第Ⅰ級探索者……今更だけどろくでなしばかりじゃないか?

さっきクチャラーの女エルフも居たし。

凄い美人だけど料理を見向きもせず自分が持ってきたモノを食べていた。

あとピンクの球体も目撃した。

まあ正直、言うと第Ⅰ級を目指す時点で変人だしな。


ああ、でもミネハさんの姿はまだ見掛けない。

確か母親の『妖精女皇』の従依士ツカエシだから居るはず。


「おぬし……ハルスか」

「パキラ―——様。お久しぶりでございます?」

「パキラでよい。わらわは『トルクエタム』のパキラじゃ」


パキラさん……と、誰だろう。

ホールの外……ベランダから聞こえる。


「パキラですね?」

「ハルス。他の者は」

「……わかりません。気付いたらわたし独りでしたから?」

「ここに居るということは、従依士ツカエシなのかのう」

「はい。今は『探索者騎士団』に所属しております。御存じないので?」

「聞いたことはある。おぬしが居るのは知らなかった。すまぬ」

「こちらもパキラはもう死んだと思っていたかも?」

「まぁそれは仕方がないのう。わらわも他の者が死んだと思っておったから、まったく探しておらんかったわ」

「国はもう無いので……滅んでおりますゆえ…………?」

「そうじゃのう…………」


なんか聞いてはいけない事を聞いてしまった気がする。

そういう事情があったのか。そしてパキラさん。やっぱり偉いんだな。


それにしても相手は独特な口調のハスキーボイスの女の子だけど、姿が見えない。

おっと聞き耳しているのバレそうだ。離れて、ホールを出て廊下へ。

ちょうど通り掛った―――ジューシイさんと目が合った。


「あっ」

「……ウォフ様」


ジューシイさんは赤い花咲くようなドレス姿だった。

薄く化粧をして唇に紅をさす。

いつもの抜群な可愛いらしさではなく、抜群の綺麗さをみせていた。


ただ彼女の尻尾はぶんぶんっと揺れていた。


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