モーリュ草④
まさかリヴさんと同行することになるなんて、全く予想外だ。
でも妙に疑われなくて済んだのは幸いだった。
たぶん彼女の不思議ちゃんもとい大らかな性格的なところが大きい。
洞窟の中を進む。
僕は斜め上に浮いている光球をちらっと見た。
「便利なレガシーですね」
「……うん」
あれレガシーじゃない。
洞窟は暗い。ダンジョンみたいに明かりはない。
本当に真っ暗で何も見えない。
だから入ってすぐ僕は松明をつけようとした。
するとリヴさんが腰から何かを取り出した。
正しくはスーツの収納スペースからだ。
それを放るとこの光球になった。
世界を探せばこういうレガシーはあるだろう。
レジェンダリーもあると思う。だがこの光球は違う。
惑星探査用か。
あるいは緊急時のサバイバルキットみたいなものがあるんだろうな。
前世でやったゲームにそういうのがあった。
あまり考えていなかったが、この世界って惑星なのかな。
月と衛星があるからたぶんそうなんだろうけど。
まっ考えてもしょうがないか。興味もそんなにない。
「そこ、何かが2匹居ます」
「……了解」
曲がり角の動く赤いポイント。隠れていたゴブリンを斬る。
豆腐を切断するようにゴブリンたちがバラバラになった。
切り口が精巧過ぎて無機質だ。
肉片が何かのブロックかと思ってしまう。
「討伐部位は回収しないんですか」
「……それは……ボスだけでいい」
「なるほど」
巣の奥に居るゴブリンのボス。
そいつを討伐すれば残ったゴブリンは巣を捨てる。
ボスがいなければゴブリンは群れ無い。
「……欲しかったら……少年に……あげる」
「いえ、僕もいらないです」
「……そう」
貰っても討伐者じゃないから売れない。
僕はついブレードを見る。
「凄い剣ですね」
「……これ……興味あるの……」
「は、はい」
リヴさんはわざわざ僕の目線に持って来て見せた。
「……プレイアデスブレード……リヴのオーパーツ……」
一体形成された黒いブレード。
鍔は無く丸い輪がいくつも重なっている。
全部で七つか。
刀身や柄に模様や文字らしきものが所々に描かれていた。
さすがに読めない。そしてこの剣はオーパーツじゃない。
「あっだから昴か」
「……うん……」
「凄いですね」
「……凄いのは……少年のレリック……だと思う」
「そ、そうですか」
「……うん……危険判別……探索向きのレリック…………便利」
「あ、ありがとうございます」
僕のレリックはひとつを除いて探索者向けだ。
だから故郷を出て探索者になろうと思った。
「……少年は探索者になるの……?」
「はい。来年に成人するのでなります」
そう僕は来年、探索者になる。
でも探索者になるのが夢とかそういうのはない。
探索者がたぶん向いていて生活出来そうだからなるだけだ。
「……そう……うん。少年ならなれる……」
下へと降りる。
さっそく赤く動くポイントが4つ。
伝えるとリヴさんの剣閃が炸裂する。
一瞬で4匹がバラ肉になる。
強い。
これだけ強くても鵺じゃなかったキマイラには負けたんだよな。
だけどあのキマイラのアルビノ体。
時短でアレを使ったけど、そんなに強くは感じなかった。
あるいはあのキマイラ。
僕の時には使わなかったレリックがあったのか。
それなら僕のときにはどうして使用しなかったのか。
いや待てよ。何か目に見えないモノを【バニッシュ】で消したような。
それがキマイラの切り札だったのかも知れない。
まあさすがに聞くことなんて出来ない。
「リヴさんは、どうしてソロでゴブリン討伐に?」
「……実地……訓練プロトコル……」
「訓練ですか」
「……修行……特訓……鍛錬……する……」
「強くなる為にですよね」
キマイラに負けたからかな。
それは無理もないか。
「……うん……目的がある……」
「……それは聞いても?」
「……例の森……挑む為……」
例の森ってあれか。
入った者が誰も戻って来ないという。
「あっ、その先。多いです」
「……わかった」
「全部で7匹です」
「……便利……」
リヴさんは駆け出した。光の球は付いて来ない。
桃白い髪が暗闇に消える。
「リヴさん!?」
「……宙の型……昴……ケライノブレード」
複数の低い悲鳴と共に黄色い歪曲線が見えた。
それは剣の軌道ではまずあり得ないほど歪んで曲がった斬撃線だった。
「だいじょうぶですか」
「……心配ない。進もう」
「は、はい」
これだとゴブリン程度では束になっても相手にならないな。
僕たちは順調に洞窟を探索していく。
出てくる魔物はゴブリンだけで罠も無い。
それと単なる洞窟なので宝箱もない。
ただ目当てのモーリュ草も無い。
もっと奥に行かないと生息していないのか。




