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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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201/270

アクス最大の厄日⓪


『グレイトオブラウンズ』開催も迫り、明後日に会場入りする予定の僕。

日課のトレーニングも絶好調。

最近は【邪視】の数を増やしたりして難易度を上げている。

それも終わり、今日はのんびりしようとしたら。


アークラボ。


「わたくしはそれを見た瞬間、衝撃で何も言えなかったんですの。ミネハが繰り出すスピアーの星。それがとても幻想的で圧倒的でしたわ」


ルピナスさんはうっとりと僕たちに告げた。

頬が紅潮しているところはまるで恋する乙女のようだ。


「つまりああいうのが欲しいということであるな」

「ええ、要約するとそうですの」


専用の椅子に座るハイヤーンにきっぱりとルピナスさんは答える。

兎のハイヤーンでもゆったり座れる椅子でレトロ的にオシャレだ。


昔の喫茶店とかにある背の高い丸クッションの椅子に背凭れがある。

白衣姿と相まってなんともいえない。


それはさておき、ルピナスさんだ。

かなり珍しくひとりで僕の家に思いつめた感じで訪れたときは何事かと思った。

でも分かる。トルクエタムは役割分担がしっかりしている良いパーティーだ。


ただひとつあげるのならばメインタンクが弱い。

あまり詳しくないけど前世の記憶によればだ。


メインタンクつまり盾役というのは味方を守ることではない。

その本質は囮である。


敵の攻撃を一手に引き受け、そ味方に攻撃するチャンスや隙をつくる。

ゆえに盾であり頑強だ。


ルピナスさんのメインタンクに足りないのは、その囮だ。

敵の攻撃を一手に集中する手段がないからただ守るだけになっている。


雑魚ならそれで充分だった。

しかし大型の魔物や強敵ではそうはいかない。


だから囮になる。敵の攻撃を一手に引き受ける方法があれば。


「ですからわたくしにも攻撃力が欲しいんですの」

「それは違うっ!」


思わず僕は叫んだ。ルピナスさんとハイヤーンが驚く。

ルピナスさんは目を細める。


「どういうことですの」


僕はメインタンク。メイン盾について説明した。

ルピナスさんが目から鱗が落ちたような表情をして口元に手をあてる。

ちょっと震えている。


ハイヤーンは話の途中からパネルを操作し始めた。

データベースを検索中か。話し終わるとルピナスさんの瞳に星が宿った。

キラキラしている。そして熱く燃えている。


「わたくし。メインタンクになりますわ! ウォフさんの語り。まさしくロードデントン家の心髄! わたくしは攻撃力などと……愚かでしたわ……」

「まぁバトルタンクやガードアタッカーというのもありますから」


身体を固めて攻撃するというのもある。

確か魔女曰く『人間要塞』と呼ばれる第Ⅰ級探索者がバトルタンクだとか。

というかバトルタンクって戦車だよな。


「メインタンクといい。お詳しいですわね」

「ウォフはたまに変なことに詳しいからな」

「さすが魔女の弟子ですわね」

「はははは……それでハイヤーン。見つかったんですか?」

「オーパーツは無かったが近いモノはあった。だがこれはレジェンダリーだな」

「ああ、デコイか」

「デコイ?」

「人が囮になるのではなくモノが囮になるんですよ」

「そういうのもありますのね」

「おっ、これもオーパーツではないが戦術としてかなり近いのがあったな」

「どういうのですの?」

「ウォフの説明通りでそういう兵士をつくる計画書だ。かなり早い段階で没になっているが、面白い提案がある。敵を誘き寄せる方法として魔物が使う挑発をレリックとする方法だ」

「ひょっとして【咆哮】か【ウォークライ】か」


挑発の定番だとこれだよな。


「いいや【スタンプ】だ」

「あー」

「なんですの?」

「踏んだりして音を立てて挑発するんです」

「そういうのもありますのね」

「ふむ。叫ぶか。方向性は同じだな。音で挑発して集める……ふーむ。データベースには残念ながら有効な挑発系レリックは無いな。よし。つくるか」


やっぱりそうなるか。


「つくるってレリックですの?」

「このくらいなら作成できる。素材は必要だがな」


それが普通じゃないけど作成できるならそれでいい。


「…………」


困惑に近い顔を僕に向けるルピナスさん。

苦笑するしかない僕。


「ついでにさっきデータベースで面白いのを見つけてな。ルピナス嬢の盾の防御力も上げよう。そのままだと耐えられない恐れもあるからな」

「よろしくお願いしますわ」

「ただし。ふたつとも素材が必要だ。それは自分で採取してもらう」

「当然ですわ。それで挑発系は要望がありますの」

「なんです?」

「なんだ」

「叫ぶ。咆哮でお願いしますわ。わたくし。声量には自信がありますの」


ニッコリと微笑むルピナスさん。

まさかの要望に僕とハイヤーンは見合わせた。

ふと、盾というので僕はちょっと思いついた。というか頭に浮かんだ。


「ふたりとも。こういうのどうです?」


僕のアイディアで新しいルピナスさんの盾の形状が決まった。

ハイヤーンから必要素材が告げられる。


「魔物の声のサンプル……」

「咆哮系だからな」

「それはそうですけど」

「これらの鉱石類は取り揃えられますけれど。これはなんですの?」

「それが今回の盾の一番の核だ」

「ブルーグリーンクリスタル……?」


なんだこれ。青く緑色に光るパワークリスタル?


「わたくし。知りませんわ」

「ちなみに我もどこにあるか知らん」

「魔女に聞いてみますか」


それしかない。


「お願いしますわ。魔物の声のサンプルなんですけれど、これはどうすれば良いんですの?」

「それについては今から録音機を作成する」

「ですよね」

「録音……ですの?」


ハイヤーンはパネルを操作する。

そして出来上がったのは四角い箱だった。


使い方の説明を受け、テストすることになった。

ルピナスさん。僕。ハイヤーンの声を録音する。


再生して流れたルピナスさんの声に彼女は「恥ずかしいですわ」を連呼する。

真っ赤な顔を手で覆ってイヤイヤする。かわいい。


僕とハイヤーンの声も聴いて、しっかり作動することが分かった。

まだ耳まで赤くしたままルピナスさんは僕たちに礼を述べて帰った。


魔物の咆哮サンプルは『トルクエタム』として収集に当たる。

もし何かあった場合は僕に頼む。


僕は魔女にもうひとつの素材について聞くことを頼まれた。

まぁでも本格的に動くのは『グレイトオブラウンズ』が終わってからだ。

パキラさんも従依士ツカエシに指名されているのもある。


明後日か。
























オレたち『雷撃の牙』のアジトは潰れた宿屋である。

2階建ての小さな宿屋で、1階はエントランスと食堂になっている。


その食堂のテーブルに珍しい客がいた。

ミネハだ。大きい姿で椅子に座っている。


「手紙ね」

「そうだな」


対面に座るのが我ら『雷撃の牙』のリーダー。アクスだ。

ふたりとも浮かない表情をしている。それはそうだろう。


何か月も連絡がないひとから突然の手紙が来たのだから。

それはアクスの母親でありミネハの師匠。


オレは会ったことはないが、確かエミーという第Ⅱ級探索者。


「それで手紙にはなんと?」

「ここに来るらしい」

「来るからってあったわ」

「ハイドランジアに?」


オレは開いた席に座る。

厨房ではホッスが調理していた。


「そうみたいだけど、いきなり過ぎなのよ。師匠」

「だよなぁ」

「確かに」

「今まで手紙を何通送っても返事が無かったのに」

「だよなぁ……」

「師匠らしいっていえばそうだけど」

「だよなぁ……」

「ねえ、師匠にどんくらい会って無かったっけ?」


ミネハは手紙を指で器用に回しながら言う。


「俺は何年もだ」

「そういえばそうだったわね。アタシは何か月ぐらいだったかしら」

「確かアクスの母親はエルフだったな」

「ああ、エルフだ」

「あまり詳しく聞かなかったが、どういうひとなんだ?」

「どうって、そうね。見た目は可愛らしいわね。性格は大胆なところや厳しいところはあるけど、お茶目で意外に気弱なのよね」

「見た目はともかく、大胆っていうのはそうだな。まぁ俺の場合は割と早いときからおふくろと距離を置いているから、ミネハより詳しくはねえ」

「小さい頃はどうだったのよ」

「…………たまに泣いていたのは覚えている。今にして思えば、オヤジのこと思い出してたんだろ。ああ、そうだ。その気弱っていうのに足しておくぞ」

「なにをだ?」

「足す?」

「臆病」


ふむ。アクスは続ける。


「俺はオヤジのことなんも知らねえんだよ。知っているのは俺と同じフォーンってことだけだ。あと探索者だったってことだな」

「アタシは母様から少しだけ聞いているわ。強かった。それと第Ⅰ級探索者に成り立てで、母様と同時に昇級したって」

「オヤジが第Ⅰ級!?」

「知らなかったのか」

「えっうそ」

「知らねえよっ! 初耳だっ! なんも聞いてもねえぞっ、あのババアぁ……」


悪態をつくアクス。自分の母親をババア呼ばりは感心せんが今だけは許そう。

ミネハも普段ならアクスを叱るがさすがにこれは許したようだ。


「まぁ、母様曰く見るからに砂糖多めのイチャイチャカップルだったみたいね」

「そういうのは聞きたくねえなぁ」

「あんたが師匠のお腹の中に居て良かったみたいなことも言ってたわ。居なかったら後追いしてたかもって」

「良かったな。アクス」

「……何も言えねえんだが」


アクスは深い溜息をつく。

ちょうどホッスが出来上がった料理を持ってきた。

テーブルに並べる。ミネハのところは大盛の山盛りの餡かけ肉焼きライスだ。


よく食べられるものだ。ただ10番目の姉ほどではない。

今は王都にいるらしいが、王都の飲食商会が傾かないことを祈る。


「そういえぱ、あんた。従依士ツカエシやるのよね」

「あーそれな。正直なんもわからん。ウォフが相変わらず酷いのは理解した」

「それは同意。本当に何をやっていたのかしらね。あいつ」

「 まあウォフだべよ」

「そうだな」


ふむ。この雑肉パスタ。美味いな。


「ミネハは母親のだったか」

「そうよ。『妖精女皇』」

「母親と会うのは久しぶりになるんだよな」

「そういえばそうね。でも手紙でやり取りしているから疎遠ってあまり感じて無かったわ。それよりアクス。本当に覚えがないの?」

「ねえよ。誰だエンスって」

「苗字あったわね。ハイラント」

「貴族か」

「貴族だべな」


アクスはバターライスを食べる手を止めて唸る。


「……そのハイラントっていうのはどっかで聞いたことあんだよな」

「それは覚えがあるのね」

「でもわかんねえ。おふくろの手紙にも何も書いてねえ」

「でも、ここに師匠が直接、来るってことはそれ絡みでもあるかも」

「だよな。俺もそう感じる。今日、会うからそんときに聞いてみるか」

「そうね」

「今日なのか」

「また急だべ」

「いきなりだろ?」

「手紙が届いたのが今朝なのよね」

「それは……なんとも言えない」


オレは郵便事情は明るくない。

だが世界情勢や不安定な地域治安や距離などを観見すれば遅滞は仕方ない。


郵便は現在、探索者が依頼の一環として引き受けて行っている。

個人的に言えば専門組織を立ち上げてもいいと思うが課題は多いだろう。


探索者ギルドは転移陣を使った独自の郵便や通信ネットワークがあるという。

効率という面からすればこれほどのコスパは無い。

ただじ転移陣がとても希少なので一般的普及は無理だ。


「場所はハイドランジアグランドホールとあるんだが」

「ハイドランジアの中央区にある大劇場ね。見たことあるでしょ。闘技場みたいな建物よ」

「ああ、あったなそんなの」

「確か『グレイトオブラウンズ』もそこでやるはずよ」

「ふーん。とりあえず、おふくろに会いに行くか」

「そうね」

「まっ、気を付けてな」

「土産話楽しみしているべ」


そうオレたちが言うとアクスは怪訝にした。


「いやおまえらも来るんだぞ。『雷撃の牙』に会いたいって書いてあったからな」

「そういうのは早めに言ってくれ」

「んだばべ」


オレとホッスは苦笑した。



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