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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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第Ⅴ級探索者⑪


『グレイトオブラウンズ』まで残り1週間。

もうあと1週間しかない。それなのに僕はまだ1度も成功していなかった。


「ふーむ」


ハイヤーンが腕を組んで唸る。

トレーニングルームが明るくなり、僕は膝を崩した。

連日連夜。休憩を挟んでいるがトレーニングの毎日を送っている。


まったく光明が見えない。

そもそも視線とか視界とか目線とか、見えないものでどうすればいいんだ。


ただひたすら目玉を【静者】使って集中してもまるでダメだ。

どうしても放った【バニッシュ】は目玉ごと消してしまう。


出来ないことはないのは分かっている。

アルヴェルドは出来ている。

あの口ぶりではそういう専用のレリックじゃないだろう。


完全に技術だ。

だから出来ないということはない。それが超絶に難しくてもだ。


「はぁっはぁっ……ダメだ……くうぅっ」

「ウォフ。しばらくトレーニングは中止する」

「なんだって!」

「今のままでは何時間やっても無駄だ。それはおまえが一番分かっているだろう」

「……ハイヤーンに言われた……」

「待て。我が言ってなにが悪い。とにかく休んだ方がいい。こういうときはな」

「…………分かった。休むよ」


正直、心身がまるでダメなのは僕がよく分かっていた。

それでも心が焦る。悔しい。ああ、ちくしょう。ちくしょう。

トレーニングルームの壁を叩きたくなるが、それは我慢した。


失意のままトレーニングルームを出ると、シャルディナが居た。

トレイを持っていてコップがある。僕を見る。


「水だ、飲め、デス」

「あ、ありがとう」


喉が渇いていたから助かった。喉を通る冷たい水が僕を潤してくれる。


「ちゃんと、飲んだ、デス?」

「ああ、ありがとう。すっきりした」

「それなら、それで、いい。デス」


それから僕をジッと見る。相変わらず挑むような……青い瞳。

それと青い角。青い瞳。青い……青……青…………青。


「……」

「な、なん、デス?」

「青―――あっ! ああっ!!」


思い出した。思い出した。火のダンジョンに青い光があった!

忘れていた。すっかり忘れていた。


青い光。スーパーウルトラレアっ! それを忘れるなんて!


「ど、どうした、デス?」

「よし。行こう!」 

「えっ、どこへ、デス!?」


僕はラボを出て、自分の部屋へ入り、足を止めた。


「すぅー……すうぅ……すう……」


僕のベッドに軽装のミネハさんがまた眠っていた。

しかも大きい状態でスヤスヤと寝ている。近くには同じくダガアも睡眠している。

ひとりと一匹。幸せそうだ。


僕が家に戻ったとき驚いたのがこれだ。

さすがに夜はないが昼間や午後。

戻ってきてからも彼女は僕の部屋で寝ていることがある。


「……」


そっとしておこう。今日は魔女たちは居ない。

第Ⅰ級が全員ハイドランジアに集合したので一度、招集がかけられている。

当然アルヴェルドもそうだ。


だがそうでなくてもアルヴェルドの再襲撃は無い。

それはもうずっと前から分かっていた。


僕は忘れるといけない。途中の武器屋で分厚いナイフを買った。

切れ味は微妙だが頑丈さは保証できる。


もう1本欲しかったが、躊躇った。

ナイフを折る頻度や速度が早くて僕自身も怖くなっていた。


だから新しいナイフを見ると折ってしまうかもと気になってしまった。

とはいえ、僕が得意に使えるのはナイフだ。


【ナイフマジック】も苦労して習得した。

だからこれまで以上に慎重に扱うことが僕に求められる。

でも……僕自身諦めてしまっているところもあるにはあるのが。


ふとシャルディナが剣を見ていた。

壁に掛かっている。カトラスか。主に海戦で使われる刀剣だ。

ジッとみている。


「欲しいんですか?」

「ワクシメを呼んでいる、気がする、デス」


お、おおう。壁に掛かっているのに安かったので買ってあげた。

こんなところにカトラスか。気になったので店員に聞いた。


なんでも店主が探索者時代に海域のダンジョンで見つけたモノらしい。

へえー、オーパーツかなと思ったけどシャルディナは特に何も言って来ない。


ところで彼女なんで付いてきているんだろう。

まあ、いいか。とっとと火のダンジョンへ。


3階でファイアトカゲを倒すと、声をかけられた。


「ウォフ殿」


振り向くと唐笠を被って唐草模様のマントを付けた陸ナマズがいた。

煙管をふいている。唐草模様……あるのか。


「アレキサンダーさん!」

「お久しぶりでやす。御無沙汰しておりやした」


ぺこりと頭を下げる。本当に久しぶりだ。


「なに、この魔物、デス?」

「おやおや、無機物な牛の匂いがするメイドでさ」


シャルディナとアレキサンダーさんが一瞬だけバチっと睨み合った。


「シャルディナ。相手は元第Ⅰ級です。ヘタするとムニエカさんより強いですよ」

「メイド長、より強い、デス……?」

「たぶん」

「ムニエカ? おやおや。これは異な。メイドの顔立ち。ムニエカ殿にそっくりでやすなあ」

「ミノスドールといいます。ムニエカさんをベースにしているんです」

「ミノス……道理で、しかし面白いことをしやすねえ」


アレキサンダーさんは煙管を吸う。


「ところでアレキサンダーさんは転移陣の設置ですか」

「いやいや、ここへはイベントの確認と処理でやす」

「それって13階のキマイラのところですか」

「おや、知っているということはウォフ殿、関わっているんでやすか」

「まあ少しだけ。今からそこに行くところです」

「奇遇でやすな。あっしもお供してよろしいでやすか」

「もちろん。シャルディナもいいかな?」

「マスターが、決めたなら、それでいい、デス」


思わぬ助っ人を得て、僕たちは13階へ進んだ。


「そういえば今年の『グレイトオブラウンズ』は愉快になっていると聞きましたぜ」

「そうみたいですね」

「ウォフ殿のことも聞きましたぜ。魔女だけでなく、難攻不落を半分落とすとは、あっしも驚きやした」


アレキサンダーさんは愉しそうだ。

シャルディナは頷く。


「マスター、すごい。すけこまし。女誑し、デス」


どこで覚えたそんな言葉。


「あの、僕は別に落としたとか、そういうつもりはないんですよ」


仲良くなったというのはある。

いやまあだけど……こう……そう言われると仕方ないところはある。


「しかしでやすねえ。従依士ツカエシに指名したということは、そう捉えられてもおかしくないんでやすよ」

「……でも指名が無ければギルド職員がやると聞いてますよ」

「確かにそうでやす。だがね。ギルド職員といってもそいつはグランドギルドの職員ですぜ」

「どう違うんですか」

「グランドギルドの職員はギルド職員の最高峰で選ばれしギルド職員なんですぜ。まあ場合によってはと前置きしやすが、グランドギルド職員は各支部のギルドマスターも扱うことが出来るんでして、また第Ⅰ級探索者もグランドギルドの職員でもありやす。単なるギルドの職員でないことを忠告しやすぜ。ウォフ殿」

「そんなに……なるほど」


本店や本社社員が支店長より偉い話か。


「それと指名するというのは親しい仲で、特に親族や友人を選びやすが、異性を選ぶというのはまた違うんでやすよ」

「違うんですか」

「違いやすよ。同じ部屋で過ごすんでやすからね」

「え? 同じ部屋……?」

「『グレイトオブラウンズ』が始まると従依士ツカエシは第Ⅰ級探索者につきっきりになるんでやすよ。当然、部屋も同じでやす」

「……そうなんですか……」

「詳しくはまた説明されやすが、つまりはそういうことですぜ」


それは……確かにそう思う。思われるのは無理もないか。


「ちなみに指名でこうなったことはあるんですか」

「ないでやすね。前代未聞でやす。他の第Ⅰ級探索者は、特に古株は驚いていると思うでやすよ。目立つのは必至ですぜ。ウォフ殿」

「マスター。目立つ。さすが、デス」

「……ははは」


諦めの心境になる。おかしいな。なんでこうなったんだろう。

そんな気持ちを込めて、9階でファイアウルフの群れに囲まれるが一蹴する。


ムニエカさんの記憶なのか。シャルディナはカトラスを見事に扱っていた。

見たこともない剣技でファイアウルフたちを翻弄して切り刻む。


そういえば彼女はオート系のレリックを持っているのだろうか。

アレキサンダーさんは相変わらず飄々と戦う。


僕は【バニッシュ】を使った。何体かファイアウルフを消し飛ばした。

戦闘が終わってアレキサンダーさんが話しかけてきた。


「以前と違う使い方でやすな」

「実は特訓中なんです。でもうまく扱えなくて」


僕はひょっとしたら何か先達として助言をくれるかも知れない。

そう思って事情を吐露する。


「なるほどでやすな。視線で扱うのがうまくできない」

「はい」

「それはあっしから、つたないでやすが助言するなら、焦点が定まっていないと思いますぜ」

「……焦点ですか」

「ひょっとして、ウォフ殿は前だけを見ていたでやすか」

「え、ええ、まあ」


アレキサンダーさんは煙管を取り出した。


「前だけを見ていて実は周辺を見ているんでやすよ。目の視界は扇形ですぜ。それを一点に集中しなければ、とても扱えたとはいえないんでやす」

「……一点に…………」


点。点か。そういえば前世の記憶にあるゲームでポインターというのがあったな。

えーと、そうだ。ターゲットポインターだ。光点だ。ああ、あったな。


光点? あっ、ある。光点。あるじゃないか。そうか、これだ。これだっ!!

あるじゃないか。《《僕には光点があるじゃないか》》。


いける。

やれる。

そうだ。これだ。


「ありがとうございます。アレキサンダーさん。何か掴めそうです」

「そいつは、それはなによりですぜ」


出来るかも知れない。

トレーニングの最中は全くあてが無かったし分からなかった。

だけど今は見えた。見えた気がする。


10階。

広い空間に炎を纏った大蛇が現れる。キーパー・サラマンダラだ。


「あの、アレキサンダーさん。シャルディナ。ここは僕に任せてくれませんか」

「いいでやすよ」

「マスターの命令、従う、デス」


僕はサラマンダラと対峙する。

目的はサラマンダラの身体の火を消すことだ。


ハッキリ言えばあれだけで出来るとは思っていない。

ただ何か掴めたと思った。そして光点には覚えがある。


ナイフを手にする。今日買ったばかりの分厚いナイフ。

構えて、レリックを使う。


【危機判別】と【静者】だ。

同時に使うと、サラマンダラに赤い光点が見える。

そうだ。これだ。光点だ。【危機判別】の判別の白と赤と黒の光の点。


僕にある。僕だけが分かる光の点。

僕は【静者】で意識を赤い光点に集中する。


『シャアァァァァ』


サラマンダラが大口を開けて襲い掛かる。僕は避けつつナイフで弾いた。

燃えているので熱い。


「マスターっ!?」

「大丈夫でやすよ」


光点。これは【危機判別】の判別をする光の点だけじゃない。

ターゲットポインターだ。ロックオンだ。

敵から光点は外れない。【危機判別】の赤や黒の光点は決して外れない。


【静者】で集中する。僕は今更ながら気付いた。

僕にはあったんだ。最初からなにもかもあったんだ。


悔しい。とても悔しい。だけど嬉しい。とても嬉しい。

ようやく並ぶことができる。

【危機判別】の赤い光点に【静者】で集中し、手を翳さず唱える。


「【バニッシュ】」


サラマンダラの炎だけが消し飛んだ。

その瞬間、ダンジョンが揺れて何かが心の中で弾けた気がした。


【深静者:心を落ち着かせた状態で集中すると、ターゲットポインター・光点が現れ、思考操作で合わせることができる。心の声が聞こえる。使用時間10分。クールタイム3分】


ターゲットポインター……使用時間が伸びてクールタイムは変わらない。

思考操作。思ったところにターゲットポインター・光点を動かせるのか。


『ジャアアアアアア』


「【バニッシュ】」


赤ではない光の点が付いたサラマンダラの頭部だけが消えた。


「ほう。やりますな」

「マスター、すごい、すごい、デス!」


シャルディナが笑う。

僕はアレキサンダーさんに頭を下げた。


「ありがとうございます」


本当にありがとうございます。

さあ、進もう。


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