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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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従依士《ツカエシ》⑧・EVENT。


僕がキマイラを見るのは本当に久しぶりだ。

しかも亜種じゃないキマイラを見るのは初めてだった。


蛇の尻尾。獅子の身体。鷲の頭がオスで羊の頭がメスだったか。

大きさは大型トラックぐらいか。最大で象ぐらいもあると聞いたことがある。


大型トラック……十分脅威だ。

突進されたら異世界転生しそうだが、残念ながら死ぬだけ。


「それにしても、こんなにキマイラって大群でいるんですか」


10体以上はいる。ちょっと多くないか。


「実は、わらわも、あまり聞いたことが無いのう」

「だからこその調査ですの」

「ん……また……ダンジョンの異変は……お腹いっぱい……」


それはなあ。それはそう。

13階の迷路に開けた場所が出来てキマイラの群れが現れた。


その中にはキマイラの亜種がいる。

シロさんが聞く。



「ひとつ聞くけど」

「なんじゃ?」

「いつも同じパターンなの? キマイラの群れと戦っているとき、キマイラの亜種は逃げる……それが繰り返されているの?」

「そうじゃのう」

「そうですわ」

「ん……ループ……している……?」


シロさんは頷いた。


「これは『イベント』ね」

「なんじゃそれは」

「始めて聞きましたわ」

「リヴも……初耳」


もちろん僕も初めてだ。イベント?


「―――ダンジョンの人工物がかつて地上にあった建物や遺構を何故か再現しているのは知っているわよね。それと同じで、稀に事故や事件や現象が同じように再現されることがあるの。それが『イベント』よ」

「そんなことが」

「つまりあのキマイラの群れと亜種の行動は、かつてどこかにあった『イベント』なんですの?」

「ん……配役はダンジョンの魔物?」

「そうね。配役はダンジョンの魔物よ。さっきのハグレも何かの『イベント』だったかも知れないわね」


あー、そういうことか。

かつて地上で起きた事故・事件・現象を再現しているのが『イベント』か。

そして配役はダンジョンの魔物……なるほど。


「つまりキマイラを囮にして亜種が逃げるのは、かつてそういうことがあった再現だからですか」

「そうなるわね」


群れを囮にして逃げる。いや逃がす。

なんか沢山ありそうなシチュエーションだな。


「道理で違和感があったのじゃな。見よ。わらわたちを視認できる位置におっても、なにもせぬ」


それはさっきから気になっていた。

明らかに互いに見えているのに気配も感じているのに、キマイラは襲って来ない。


つまり『イベント』の範囲に入ってないってことか。

んん? そうすると。


「ん……それで……どうする……の」

「『イベント』は決まった行動をするだけ。だから行動はとても読めやすいわ」

「つまり先回り出来るってことかのう」

「問題はどう先回りすれば良いかですわね」

「……えっと、ひとつ気になったんですけど」


僕はキマイラ亜種の後ろにある、迷路には不自然な洞窟を小さく指さす。


「あの洞がなにかのう?」

「ひょっとしてキマイラ亜種はいつもあそこに逃げ込むんですか」

「ん……そのとおり……」

「追うと分岐が複雑な路に繋がっているんですの」

「それでいつも逃げられてのう」

「あれだけの巨体を見失うんですか?」


いくら分岐が複雑だといってあの巨体を見逃すのは難しい気がする。


「そう言われるとのう」

「迷路の幅が大きければそれも仕方ないですが」

「幅は普通ですわ」

「ん……通ってきたの……と同じ」


そうするとむしろ通れないのでは?

キマイラは大型トラックぐらいある。


「なるほど。おそらくですけど、今のままではキマイラの亜種を討伐することは出来ませんね」

「なぬ?」

「あら、どうして」

「キマイラ亜種が逃げるまでが『イベント』だとしたら、たぶんあの洞窟に入った時点で消えていると考えられます」

「じゃから追えないと?」


パキラさんが信じ難いという顔をする。

二つの白い尻尾もふにゃんふにゃんと懐疑的に揺れた。


「いわれると向こうの通路も同じ幅だから追えないというより……」

「……通れない……ね」


そう、ここの迷路。通路幅を考えるとキマイラが通れない。

そのことに今更気付いて『トルクエタム』の彼女たちはショックを受けていた。


「分かっただけ良かったじゃない」

「それはそうじゃが……」

「問題はそれが変わったからといって何も解決してないことですわ」

「ん……どうやっても……リヴたちだと……逃がす」

「パキラさん。あの制約レリックは?」

「空が無いと使えぬ」

「それに攻撃すると即座に逃げるんですの。あの亜種」

「これは……難しいですね……」


というか僕たちでは決め手が無いような気がする。

それより話を聞いているとミネハさんが必要不可欠だ。


彼女のオーパーツ『妖星現槍』は遠距離も可能だ。むしろそれが真骨頂だ。

でも倒すというのはそれでいいかも知れないけど……これはそうじゃない。


「ねえ、疑問に思うんだけど、そうまでしてこれに拘る理由はあるの? 14階なら別のルートもあるわ」


ここの迷路は色々なところに通じている。途中で転移陣も見掛けた。

『トルクエタム』の3人は見合わせて強く頷く。


「くだらぬがわらわたちにはある」

「復讐ですわ」

「ほう」

「ん……以前……ボロ負けした……次は負けない……」

「いいわ。どうせ素材も手に入れないといけないから、手を貸すわ」


シロさんはそう言うと、白いポーチから何か取り出した。

それは杖だった。真っ白い金属製の杖。

シンプルな造りだが、それが返って洗練されているように見えた。


杖を軽く回して振り上げ、唱える。


「それは白く聖なるかな。『ホワイトテンプルム』」


四本の白い円柱が現れ、それを基点として光の壁がキマイラの群れを取り囲んだ。

驚く僕たちに平然と言った。


「これで逃げられないから思う存分、復讐していいわよ」


唖然とする僕たちを後目にシロさんは背中のテーブルを出して置いた。

ポーチからティーセットを取り出す。白いカップに白い液体を入れる。

そして僕を見る。


「飲む?」

「あっいや、僕もキマイラの方へ行きます」

「気を付けて」


優雅に茶を嗜む。

僕たちはキマイラの群れに向かっていった。


















キマイラの群れは僕たちが来ると果敢に襲ってきた。

だが白いキマイラだけは逃げようとし、光の壁に阻まれる。

ダンジョンの魔物なのに攻撃しようとせず真っ先に逃げるのは違和感しかない。

これが『イベント』か。


キマイラを1匹ずつ抜群のコンビネーションで倒していく『トルクエタム』。

だが1匹ずつが精々で、他は牽制するのが精いっぱいだ。

他のキマイラを近付けない役割だったのがミネハさんだったのだろう。


それなら僕が代わりを務める。

これだけ居るなら大丈夫だろうと、手をかざして唱える。


「【バニッシュ】」


何体かのキマイラを巻き込んで消去する。

うわあ……パキラさんが僕の背中越しに言う。


「なるほどのう。それが本来なんじゃな」

「はい」

「確かに危険極まりないですわね」


ルピナスさんは大盾を押してキマイラを退けた。


「ん……そらの型……すばる……マイアブレード……」


赤い斬撃がそのキマイラの蛇の尻尾を切り、パキラさんの風の刃が前脚を切る。

バランスを崩し転倒したところをリヴさんが黒いブレイドで鷲の頭を潰した。


ようやく群れの半分を倒したところで妙なことが起きた。

残りのキマイラが掻き消えた。


「えっ」

「なんじゃっ?」

「どういうことですの!?」

「……でも好都合」


リヴさんだけが冷静だった。

全てのキマイラが消えたわけじゃなかった。

たった1体だけ残る。


二つの長い蛇の尻尾。白い虎の身体。雄々しく禍々しく大きな羊頭。

何も反射しない黒い双眸―――キマイラ亜種だ。


キマイラ亜種の瞳が光ると同時に何か吐いた。

【邪視】だ。しまっ……僕の身体が動かない。

そこに吐き出された液体の弾がぶつかる。直前、誰かが前に出た。


ルピナスさんだ。大盾を掲げて液体の弾を防ぐ。

それは地面に垂れると蒸発させながら地面を溶かした。


「厄介じゃのう。溶解液か」

「ん……当たったら……裸じゃ……すまない……きゃっ」

「骨すら残らんわ」


ルピナスさんが僕に尋ねる。


「ウォフさん。だいじょうぶですの?」

「あ、ありがとうございます。ルピナスさんは……だ、大丈夫ですか」


いくら大盾でも液体を弾いたときの飛沫は防げない。

現にルピナスさんの手脚から薄っすらと煙が出ている。


「これくらい平気ですわ」


ニコッと微笑む。だけどやせ我慢なのは分かる。

【邪視】で相手を停めて溶解液で一気に溶かす……えげつないコンボだ。


特に液体は厄介だ。

溶解液みたいなのは飛沫でも致命的なダメージを負うこともある。


「えええいっ、しつこい!」

「……ちょこまか……うざい……」


パキラさんとリヴさんは亜種のふたつの尻尾に追われていた。

尻尾はどうやら毒蛇で、白毛に覆われた蛇の口に黒赤と薄緑色の液が牙にみえる。


【邪視】と溶解液の弾と毒蛇か。前のキマイラ亜種と違う。

亜種も種類があるのかな。しかし、間合いをとる。


ルピナスさんが盾を構えて言う。


「強い。というより厄介ですわね」

「うむ。強さだけでいえば前のキマイラ亜種の方が上じゃのう」

「ん……同意……うざすぎる……だけ……」


『トルクエタム』の3人もそう思ったようだ。

浅い階層のキマイラの亜種だからだろうか。


「気を付けないといけないのは【邪視】じゃのう」

「そういえば邪視防止のサングラスは?」


僕が尋ねると3人は顔をそむける。


「結論からいえば使えんかった」

「洞窟内でサングラスはしないほうがいいですわ」

「……なんも見えない……」

「な、なるほど……」

「じゃが【邪視】の対策はルピナスの盾にある」

「ええ、わたくしが囮になりますわ。その間にパキラとリヴは毒蛇の尻尾をお願い」

「ん……とっとと……切り落とす……」

「そろそろ火が使いたいのう」

「ウォフさんは下がってもらいますわ」

「すまんのう」

「……リヴたちの……超える壁……」


そうだ。これは彼女たちの復讐だ。

僕はパキラさん。リヴさん。ルピナスさん。『トルクエタム』を見る。


「わかりました。気を付けて」


心配ない。彼女たちなら。


ルピナスさんが大盾を構え、真正面からキマイラの亜種を誘う。

キマイラの亜種は【邪視】を使って溶解液の弾を吐く。


それらを全て大盾で受けるルピナスさん。

その隙にパキラさんが疾風を起こして2本の尻尾の毒蛇を翻弄。

リヴさんがレイザーブレイドでまとめて切断した。


金切る悲鳴と共にバランスを崩して倒れるキマイラの亜種。

それはもう俎板の上の鯉だった。


横倒れの羊頭はルピナスさんの大盾に押されて封じ。

同じく横倒しの胴体には無数の風の刃が降り注ぐ。

トドメはリヴさんのレイザーブレイドで首を刎ねられた。


倒した直後、『トルクエタム』の3人は笑顔でハイタッチする。

彼女たちの復讐は終わった。


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