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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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191/284

従依士《ツカエシ》④・シャルディナと。


シャルディナ。

最初に出てきたミノスドールだ。


真っ白い肌の女性。髪は金色で長い。

実はこの白い肌は初期設定のミスで、以降のミノスドールは青い肌だ。


容姿をベースにしているからムニエカさんに似ている。

青い牛の角を生やし、ムニエカさんと同じ白黒のメイド服を着ている。


ムニエカさん曰く4年前の姿になっているという。

その頃のムニエカさんは……迷走期・暗黒期だったらしい。


珍しくムニエカさんはその頃の事は話したくないと言った。

そしてシャルディナ。彼女は色々と怖いので僕が出禁にした。以降、会っていない。


なのに……なんで出てきたんだ。


「おわー? 出禁のシャルディナだー、ムニエカ呼んだのー?」

「いいえ。呼んでいません。カルタロヴェダを呼んだはずです。シャルディナは、ご主人様に言われてから出してません。だから出て来れるはずがありません」


そう。出て来れるはずがない。

なのに出てきている。


「おやおや、なんだか面白いことになっているねえ」

「あのミノスドール。意志を感じるわ」

「ほうほう。それはそれは、出禁にするのも頷けるねえ」


外野がうるさいなぁ。

やや後方でティータイムしていて呑気なことだ。


シャルディナは目を開いて僕をジッと見ている。

その瞳は僕を睨んでいるような気がした。


出禁に恨んでいると感じたが何か違う気がする。

……挑んでいる?


そうだ。彼女は現れてからずっと僕に負け続けている。

負け続けているんだ。悔しいじゃないか。


僕もアルヴェルドに負けて悔しい。とても悔しい。


でもそれは感情があるからこそだ。ミノスドールには感情がない。

だが今のシャルディナを見て、僕はそう言えない。


「……」


【静者】を使う。

聞こえるはずだ。彼女の心の声―――それがあるならば。


( 押シ倒ス……押シ倒ス押シ倒ス……押シ倒ス押シ倒ス……押シ倒ス……デス)


「待て待て、待てぇいっっ!」


思わず僕は叫んだ。

皆、びくっとする。シャルディナもビクッとした。


「そ、それは違うと思います。シャルディナさん」


(……何ガ?……デス?)


小首を傾げ、返事して聞き返した。

何がってそもそもなんで押し倒すになるんだよ。


「シャルディナ。戻りなさい」


ムニエカさんが静かに言う。

シャルディナは一瞬だけムニエカを見て、それから僕に視線を戻した。


従う気がないみたいだ。

ムニエカさんは彼女にしては珍しく表情に感情をのせた。


「シャルディナ!」


それでも無視する。意地で無視しているみたいだ。

ムニエカさんは実力行使と言わんばかりに彼女へ一歩。


「ムニエカさん。ちょっと待ってくださいっ!」


僕の声で足を止め、ムニエカさんは不満そうにする。


「ここは僕に任せてくれませんか」

「かしこまりました」

「……シャルディナ。僕と勝負しよう。ただしいつもとは少し違う」


(何ヲスルデス?)


「これから僕は君にレリックを使う。それに耐えたら君の勝ちだ」


(勝ッタラ何カ褒美ガ欲シイデス)


「まあいいけど、何が欲しい?」


(……考エテ無イノデ、勝ッタラ考エルデス)


「ま、まぁ、それでもいいけど」

「んーねー、ウォフっち。さっきからーひょっとしてシャルディナと会話しているー?」

「あっ、あーまぁ、そうですね……」


しまった。シャルディナは喋っていない。心の中で言っている。

僕は【静者】が心を読めるのは魔女にも言っていない。これだけは誰にも言えない。


「ふむふむ。ウォフ少年にだけ聞こえる声……ねえ」

「おそらくマスター権限を有しているからでしょう」

「えっ? いやいや、ムニエカさんが普通はマスターでは?」

「私めは次の権限のサブマスターでございます」

「なんで……?」

「ご主人様がマスター権限を持つのは当然でしょう」

「えぇ……」


というかどこまで僕をご主人様にするつもりなんだ。

ずっとムニエカさんは僕をからかっているとばかり思っていた。


だけどここ最近、薄々と感じている。

本気で僕と主従関係を結んでいる気で接しているようだ。

なんでだか分からない。何故そんなに……?


「ご主人様。後で話があります」

「は、はい」


ムニエカさんは僕の様子にそんなことを言ってきた。

なんとなく何の話か分かる。


(……勝負シナイノデス?)


どこか拗ねるように聞こえた。


「ああ、ごめん。始めよう」


そう僕が言うとシャルディナは両腕を胸の前で合わせた。

防御の構えだ。見た感じ堅固なのは分かる。


僕は手をかざす。

覚醒水を通じて本来の【バニッシュ】の使い方を思い出した。

それを解き放つ。


「【バニッシュ】」


唱えて発動する。瞬間、衝撃が空気を震わせて空間を消した。

一瞬だった。


この一瞬でシャルディナとその周辺全てが消去された。なにもなくなっている。

その範囲は僕が見える範囲で、後ろの木々もまとめて消えていた。


「………………」


僕は思い出した。なにもなくなる。

これは初めて【バニッシュ】を使ったときの光景だ。


恐怖してこんなもの使えないと怯えて叫んだとき、そうだ。

近くに居た叔父が笑って言ったんだ。


『そんならよぉ。使えるようにしようぜ。いいもんあるんだ。とっておきだぞ』


そのとき、叔父が取り出したのは―――『覚醒水』……?

僕が【バニッシュ】を使いやすいようにしたのは、そう出来たのは叔父の覚醒水で?

というか叔父さん。なんでそんな途轍もない貴重なモノを持っていたんだ?


魔女が感想を述べた。


「これはこれは、凄まじいねえ」

「危険極まりないわね」

「うーはぁー……こいつはやばいねー、ゾモロドネガルでも切れるかどうかーってところかなー」


ゾモ? なんだろう。ムニエカさんが口を開いて呼ぶ。


「シャルディナ」


あっ、シャルディナ!?


「シャルディナっ!」


完全に消去されて影も形もない。

僕は愕然とする。こんなはずじゃ……こんなはずじゃ。そのときだ。


ムニエカさんの隣に浮いているミノスドール有限増殖コアシステムが光った。

地面からシャルディナが生成される。


「シャルディナっ!?」


シャルディナは自分を見回し周囲を見回すと僕と目が合った。

目が合うなり僕に向かってきて涙目でポカポカと僕を叩く。


(押シ倒ス……モウ押シ倒ス押シ倒ス押シ倒ス押シ倒スオシタオスデスっ!)


「いたいっいたいっ、悪かった。悪かったっ」


地味に痛いし、シャルディナの方が僕より背があるので頭に当たる。

ムニエカさんはため息をつく。


「シャルディナ。その辺でやめてあげてください」


シャルディナはムニエカさんを見てピタリと止めた。

そして悔しそうにこぼす。


(次ハ勝ツデス)


僕をひと睨みすると消えていった。

シロさんがぽつり。


「コミカルで面白かったけれど、でもこれは使えないわね」

「……ですね」


どうしようか。難問か出来た。

ふと魔女は腕を組んで、狐耳を立たせると三つの尻尾を並んで横に振った。

そしてニヤリと笑う。


「それはそれは、なんとかなるかも知れないねえ」

「本当ですか」

「うんうん。ウォフ少年。ここまで来たらあと一歩だねえ。その一歩、ちょっと確かめてくるねえ」

「確かめる?」


そう言うと魔女はちょっと出掛けてくると出て行った。

シロさんがその後姿を見て言う。


「万年引き籠もりがえらくアグレッシブになったものね」

「あはははっー、でも変わったよねー魔女ー本当にさ」

「あら変わったのは魔女だけかしら」

「……さぁーてねー。そういう誰かさんこそーいつも独りなのに珍しいねー」

「なんのことかしら」

「ボクー知っているんだけどなぁー君がウォフっちの」

「死にたいみたいね。いいわ。白く甘い死を教えてあげる」

「ちょっまっ」


なんか向こう。穏やかにバチバチしているような。気のせいかな。


「ご主人様」


ムニエカさんが僕の前に三歩下がった位置に立つ。

そこまでするかと苦笑してしまうが、彼女は本気だ。


それがその立ち居振る舞いから伝わる。




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