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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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従依士《ツカエシ》②・手でして欲しい。


ああ、星も月もない深い闇の夜。

魔女が僕を見下ろして、みつめていた。


その淡い緑色の瞳は不思議と光って見えた。

暗闇だけどシルエットで魔女だと分かる。分かってしまう。


「…………」


魔女の吐息が聞こえる。魔女の熱い体温を感じる。

魔女の尻尾が僕の脚に触れている。


「…………」


僕は動くことも声を発することも出来なかった。

唯一出来るのは待つことだけだ。ただ待つ。それだけだ。

ほかにどうしろっていうんだ。相手は魔女だぞ。


それにしてもまるで魔女が僕を押し倒しているようにもみえる。

覆い被さるとはつまりそういうことだ。あれ、この魔女。よく見るとはだ。


「ねえねえ、ウォフ少年。コン……ウォフ少年にどうしても……してほしいことがあるんだねえ……」


熱っぽく瞳を揺らして魔女が悩める吐息を込めて言う。

小さくてもよく聞こえた。


「な、なんですか……」


声がふるえる。今まで聞いたことが無い魔女の艶やかな声。

女の男を誘う声。魔女は視線を潤ませる。目が離せない。


「うんうん。あのねえ。コンの……」


そこで魔女は動いて体勢を変える。前後が逆になる。

つまり僕の顔に魔女の尾尻……三つの尻尾がふさもふとかかる。


「ま、魔女…………?」


いつもと違う。いいやそんなのは分かっていた。

今日の昼間から魔女の様子はおかしかった。


だけどそれを聞いていいのか、僕の勘違いかもしれない。

聞いても、はぐらかされるときもある。そしてそのおかしさは続いていた。


夕食後、厨房の床下から瓶を何本も取り出す。

開けると匂いで分かった。酒だ。かくして魔女たちの宴が始まった。


そして魔女は酔った。どころではなく泥酔した。

いつもなら嗜む程度なのに最初からノーブレーキのフルスロットルだった。


ここまで酔った姿の魔女。僕だけじゃなく皆も初めてだという。

そんな状態なので魔女は潰れて寝てしまった。

後はどれだけ飲んでも顔色ひとつ変えないウワバミのムニエカさんに任せた。


そして現在、魔女はお酒の匂いをこれでもかと散布しながら悩ましげに言う。


「コンのコンの、尻尾の……毛づくろいをしてほしいんだねえ」


完全に泥酔状態だ。


「毛づくろい……えっと梳くってことですか……でも櫛が」

「いらないらない。ウォフ少年の手で直にして……ほしいんだねえ」

「でも僕は尻尾の毛づくろい。やったことがないですよ」


そもそも尻尾はみだりに触っていいものじゃないはず。


「それでもそれでも、いいの。ウォフ少年の好きなように……コンの尻尾の毛づくろいをしてほしいんだねえ」

「本当に……僕がしていいんですか」


そんな分かり切ったことを聞く僕。答えは聞かなくても分かっている。

でもだからこそ確認したかった。聞きたかった。魔女の言葉。


「して、して、ほしいこん……」


振り向き横顔で頬を紅潮させて瞳を微熱で滲ませ、尾尻をふりんっと大きく振った。

甘く濃厚でとろける魔女の蜂蜜酒の声が僕を誘う。

それなら遠慮なく手を伸ばして尻尾を掴み、指を彼女の尻尾の中に入れた。


魔女の身体が背筋がびくんっと曲がって弓なりに反った。

しっかりと多量の毛を指に絡ませ、ゆっくりと、優しく梳いていく。


「はぁっ、はぁっ…………」


魔女の三つの尻尾はひとつずつ毛色と毛並みが違う。

右の尻尾は根元から先端まで白銀色で見た目はフサフサして、触ると少し毛が硬い。


「んやっんやっ……」


真ん中の尻尾は付け根が亜麻色で先端が白色でフカフカして、触ると毛が指に絡む。


「ぁぁっぁぁっ……」


左の尻尾は付け根がうっすらと白い亜麻色の尻尾でフモフモして、触ると毛が厚い。


「ううんんっううんんっ……」


厚い。それに指がずぶりずぶりっと奥に入っていく。

暖かく柔らかく汗で少しヌルっとして何か太いのにあたった。


これ魔女の尻尾の根本か!

僕は何故だか握りたくなって掴むと丁寧に尻尾を扱く。


「それ、だ、ダメえぇねえっっっ!?」


今更なんだが、僕は尻尾の毛づくろいをしているだけだ。

自由に僕の思うままに魔女の尻尾を手で毛づくろいをしているだけだ。


根本に沿って1本ずつ尻尾を毛ごと指を立ててなぞるように引っ掻く。


「尻尾ダメぇぇ」


魔女の身体が激しく痙攣し、ソファから転げ落ちた。


「魔女っ!?」

「はぁっはぁっ……ウォフ……少年……」


魔女はそう呟くと、くたっと倒れた。


「………………」


ど、どうしよう。

僕は今更だが後悔した。











魔女が目を覚ます。

起きるまでそんなに時間は掛からなかった。


「んん……んん……ウォフ少年……? ううぅあっ、頭が……痛いねえ」

「気が付きましたか」


僕は水筒の三日月の器を魔女に渡す。中身は酔い覚ましによく効く、ポーションだ。

魔女はこくこくっと飲んで、自分がソファに寝ているのに気付き、首を傾げる。


「コンはコンは、いったい……あ」


思い出したみたいで魔女は狐耳の先まで一瞬で沸騰した。

慌ててソファの上で正座し、真っ赤な顔のまま深く俯いてしまう。


「まずは、その、ご、ごめんなさい」

「んん……んん……なんで、ウォフ少年が……謝るのかねえ……」

「えっと、毛づくろいのとき、魔女が僕の指で喘ぐのがとっても楽しくて……手加減せず好き放題にしてやめられなかったです……」

「うはあっうはあっ、は、恥ずかしい……ねえ……」


魔女は絞るように声を出した。体中が赤くなって汗が流れる。


「でも、どうしてこんなことを……?」


その質問に魔女は顔をあげた。頑張って僕を見る。

微苦笑する。


「それはそれは、不安だったんだねえ……ウォフ少年が変わっていって、それが成長だと分かっていて師匠のコンは嬉しいことなんだけど……どこか置いてかれた気がしたんだねえ……」

「不安ですか」


それは僕にも覚えがある。

なんで僕が好きなのか尋ねた理由。それは不安だったからだ。


「たとえたとえ、師匠と弟子でも……師弟関係でも……なにかしないと……いけないって……思って、あのねえ。コン。こんな気持ちになったの初めてで……だから怖くて……悲しくて……切なくて……寂しくて……ねえ」


僕をみつめる瞳から一筋の涙が頬を伝う。

ドキっとする。


「寂しいのは僕も同じです。魔女はずっと出掛けてばかりだったから」

「ああ、ああ、うんうん。ごめんねえ」

「だけど僕の為というのは分かっていました。それでも寂しいって思っていました」

「それはそれは、コンと同じ……なのかねえ。不安で寂しくて心が、胸が痛いの」

「はい。同じです」


僕の言葉に魔女は切なそうに微笑んだ。

魔女も僕も同じだ。独りでずっと生きていけると思っていた。

だけどそれは違う。違うんだ。


もう僕たちは独りでずっと生きていけない。

僕は、魔女いや違う。師匠これも違う……そうか。


「魔女。あなたの名前を教えてもらえますか」


僕は魔女の名前を知らない。

魔女もそれに気付いたようだ。小さく頷き、口を開く。


「ラァラリリィよ」


僕はやっと魔女のこと。

彼女ラァラリリィを知った気がした。



















魔女は満足そうに自分の部屋に戻っていった。

再び僕は黒いソファに横になる。


「……」


あーああああああっっっっっっ!!!!!


今更ながらとんでもないことをしてしまった。

実際に性行為的なのはしてはいない。


だけどそれに匹敵するようなことをした気がする。

あるいはそれ以上の―――いいのか。13歳がこんなことしていいのか。


「というか魔女。はだ」


あっ、忘れていた。僕は慌てて隣を見る。

隣の白いソファにはチャイブさんが寝ていた。それを僕はすっかり忘れていた。

チラッと覗くが黄色いフードに変化なし。どうやらグッスリと熟睡しているようだ。



彼女も飲み過ぎてべろんべろんに酔っぱらって酩酊していた。

なおシロさんも酔い潰れ、最後は呻き声だけを発する人形になっていた。

魔女たちの宴はざるのムニエカさんがいなければ地獄になっていただろう。


ホッとして僕は起き臥して目を閉じた。

ウトトぉっとしたところで人の気配がした。

目を開けると、灰色の猛禽類の熱に酔った双眸が僕をみつめていた。


「え」


獣の耳があって脚に尻尾がつく。

だけど魔女じゃない。明らかに背丈が足りてなく小さく痩せた裸体をしていた。

魔女の妖艶な身体とまるっきり正反対だ。未熟で綺麗な見覚えがある裸。


「……チャイブさん……?」

「―――ウォフっち。あのねーボクのレリック【魔獣フラッゼレイ】は鎧を着た魔獣フラッゼレイに変身できるんだけどーそれにも……い、いくつか形態があって……第一形態は獣人種みたいにー……こ、こうやって黒い耳と真っ黒い毛の長い尻尾が生えるの……それでねぇー……ウォフっちにお願いがあるんだけどー」

「おねがいですか……」


頷き、チャイブさんはクルリと後ろを向く。

闇の中でもハッキリ見える真っ黒い毛の尻尾が僕の顔をぺちぺちと叩く。

長くて毛が濃い。


「ボクの尻尾もー……あなたの好きにして……」


濃密なメスの情熱に誘う声。我慢できる男なんているわけがない。

チャイブさんの尻尾に手を伸ばし、その黒い毛を強く掴んで一気に引っ張った。

チャイブさんの小さな裸体が響く嬌声と共に激しく跳ね上がって歪曲する。


ああ、僕はなんて駄目で最低な人間なんだろう。

だけどこれがそんな僕です。





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