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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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穏やかなハイドランジア④・シロのティータイム。


『シードル亭』は、その名の通りシードルが看板商品の酒場だ。

だが誰もシードルを頼まず、エールなどを注文する。

元探索者のドワーフが店主だからか探索者がよく利用する。


酒場だが、つまみも料理も豊富で僕のように食事目的も多い。

そしてシードル亭には2階がある。


2階は個室になっていて、それぞれの部屋が離れるような造りになっていた。

なので隣り合った部屋はひとつもない。全部で確か6部屋。


2階は誰でも利用できるわけではない。

まず使用料が高い。次に紹介制。最後にある程度の地位と名誉が必要だ。

そしてこれが一番重要。必ず女性同伴であること。


そのなにもかも足りない僕だけど、ここの店主に言えばすんなり使える。

店主のバーンズさんは僕がハイドランジアに来たとき、随分とお世話になった。


そのとき前世の記憶にある料理をいくつかアドバイスしたことがある。

大したことじゃない。でもバーンズさんにとっては違うようだ。


そのお礼として、2階のVIPルームが空いているときタダで使える権利をくれた。

だからといってしょっちゅう使うところじゃない。


ここ最近はまったく使っていない。これからもないだろう。

そう思っていた。


「面白い部屋ね」


赤い壁紙に囲まれた部屋を何から何まで白い美少女は見回す。

珍しく白いティーテーブルは畳んだまま部屋の隅に置かれていた。


「……えっと、シロさん。なに食べます?」

「そうね。白い食べ物はあるの?」


真っ白い双眸で僕を見ながら尋ねた。

それは銀じゃない。白く不思議な虹彩をしていた。


少しドキっとする。

シロ=ホワイト=ヴァイ……とにかく長い名前の彼女は第Ⅰ級探索者だ。


見た目は頭からつま先まで真っ白い十代後半のまるで凍ったように美しい少女。

その麗しげな容姿は背中に背負ったティーテーブルがなければ誰もが惚けるだろう。


だが外見=年齢じゃないんだろうな。種族は僕と同じ普遍人族かな。

どちらにしても僕よりは年上だ。


今は僕の対面、黒いソファに足を組んで優雅に座っている。

このソファ。魔女の家にあるのと同じだな。


「白い食べ物ですか」

「それと肉類は好きじゃないわ」

「そうするとホワイトソースのパスタかクリームシチューですね」

「それでいいわ」

「……いやあれがあったか。ミルクチーズライス」

「興味があるわ」

「じゃあそれにしますね」


僕はバターライスとオレンジジュース。

シロさんはホワイトリキュール。お酒か。まあ酒場だから当然だけど。


僕は部屋のドア横に設置してある防音箱を開け、小水晶に注文を言う。

この水晶は厨房にある大水晶と繋がっている通信用のレジェンダリーだ。


店主のバーンズさんが若い頃ダンジョンで手に入れたお宝だ。

ただし破損していて、それを魔女に修理してもらった経緯がある。


小水晶と大水晶があって、小水晶はいくつもあるが大水晶はひとつしかない。

全ての小水晶は大水晶に繋がっていてそれで双方向通信をしているんだったか。


さて何故、僕がシロさんと一緒に2階のVIPルームにいるのか。

別に深い理由は無い。


ほんの数十分前。

お腹が空いたのでシードル亭に行くと、かつてないほど店は混んでいた。

理由は明白だった。ここにはアガロさんが居る。


『グレイトオブラウンズ』の開催地に決定したと同時に第Ⅰ級昇級者も発表された。

その瞬間、アガロさんはハイドランジアの人気者だ。

腕は立つが酒癖と飲み比べて数々の酒場を出禁になった男が英雄か。


「うーん。これだと入れないな」

「困ったわね」

「あれ」

「あら」


同時に振り向く。シロさんだ。

白皙の美少女。全身まさかの驚くべき白さ。


「シロさん」

「あなた。魔女の弟子の……ウォフ君ね」

「はい。シロさんもシードル亭ですか」

「ええ、そのつもりだったけど、これでは無理ね」


シロさんはため息をついた。

僕も諦めようとしたがそれは独りだったからだ。

それに男だったというのもある。


「……方法は無いわけじゃないですが」

「あら、そうなの?」

「はい」


というわけで今に至るわけだ。














料理が来るまでシロさんと話をする。

シロさんは見た目のクールさに反して話好きだった。


「それにしてもここVIPルームよね。あんなにあっさり使えるなんて、見た目に寄らないのね」

「どういう意味ですか」

「女が居なければ入れないってこと、その意味。知らないなら教えてあげるわよ」


シロさんの白い眼差しに妖しい光が見えた気がした。


「遠慮します」


シロさんはあら残念っと冗談を言う。


「ところで、あなたは魔女についてどのくらい知っているのかしら」

「弟子でも知らないことは多いです。シロさんは魔女の友達なんですか」

「友……シロのこと何も聞いてないの?」

「無いですね。魔女はそういうことあまり話しませんから」

「友と言ったわね」

「はい。違うんですか」

「違う。あの魔女に友達なんていないわ」


キッパリと言うので僕は面食らった。


「えっ」

「腐れ縁よ。単なる。それだけ」

「……」

「あの魔女はずっと独りで生き続けると思っていたわ。それが出来る女だから……まさか男が出来たなんて」

「弟子ですが」

「あなた。男よね」

「男ですよ。ですが弟子は恋人じゃないですよ」

「それなら、ねえ。ウォフ君は魔女のこと好きじゃないの」

「好きですよ」

「だったら男が出来たの間違いじゃないじゃないの」

「いや弟子ですが」


そこのところ混合しないで欲しい。

シロさんは頑固ねと呟き、ふと何か気付いたような表情を浮かべる。


「魔女が好きなの?」

「はい」

「本当に?」

「本当もなにも……あんなに優しくて僕の事を色々気に掛けて考えてくれて協力してくれて、教えてくれて説いてくれて、それは僕が弟子だからっていうのはありますけど、そこまでしてくれたひと。好きにならないわけないじゃないですか」


シロさんは僕を唖然とするように眺める。

開いた口が塞がらないみたいな顔だ。


「優しく……? シロの知っている魔女じゃないわ」

「そうなんですか」

「やはり男が出来たのね……男が出来ると女は変わる」

「もう、それでいいですよ―――ひょっとして、シロさん。魔女が心配なんですか」


すると場の空気が止まった。いや変わった。冷たくなる。

シロさんは僕を見つめたまま、瞬きせず逸らさない。

僕も逸らせなかった。


可愛らしさと何処か妖艶さが映る絶妙な美貌の持ち主に真正面からみつめられる。


一生に一度あるかないかの経験だろう。

それにしてもこのひとはホントどこまで真っ白なんだろうか。


まるでこの世の美しさじゃないみたいだ。

彼女の白く塗られた唇が滑らかに動く。


「…………ウォフ君。そういう突拍子ないこと言うの。魔女みたいよ」


シロさんは言い終わると僕から視線を逸らした。


「恐縮です……」


まぁ感じたままを率直に口に出したから思われてもしょうがない。

そしてこのタイミングで料理が到着した。


ミルクチーズライスがシロさんの目の前に置かれる。

というか。あれリゾットだよな。

さっそくシロさんはスプーンで一口し、ぽつり呟いた。


「やさしい味。こんなにやさしい味があるのね」


その言葉も声も優しかった。いたく気に入ったようだ。

それから僕たちは食べながら歓談して、楽しく食事をする。

満足して食べ終わりシードル亭を出て、それじゃあと別れるときだった。


「決めたわ」

「え?」

「シロはあなたに決めたわ」

「なにを?」

「では、また。ウォフ君」


シロさんは答えず、僕の前から歩き去った。

僕がその発言の意味を知るのはまだ後の話だ。





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