モーリュ草①
僕は渋々と頷く。
「……はぁ、わかりました。いくつ欲しいんですか」
「うーんうーん。そうだねえ。最低でも5つは欲しいねえ」
「5つもあるんですか」
「だいじょーぶだいじょーぶ。群生するからそれくらいあるねえ」
「わかりました」
「それでそれで。ひとつにつき、600オーロでどうかねえ」
5つで3000オーロ。
薬草採取では破格の値段だ。
「そんなに?」
「なにせなにせ。とても貴重だからねえ。そうだ。そうだ。これも付けようかねえ」
いきなり魔女は近くの木箱に頭を突っ込んだ。
ちょっ、ちょっとスカートっ!
見えるっ! 黒いスケスケなのが!!
というかそんなの普段履きとか魔女か!? 魔女だ!
見ないようにする僕を尻目にがさごそと漁って何かを取り出した。
「これは?」
テーブルに置く。丸い形をした皮製の……水筒?
大きな三日月が描かれ、薄汚れている。
「これはこれは、コンが昔、手に入れて使っていた水筒でねえ」
コンは魔女の一人称だ。狐だからか。
「年季が入っていますね」
何十年物だこれ。
「まあまあ、古いモノだからねえ。しかししかし、これは優れものでねえ」
「水筒がですか」
「なんとなんと、浄水機能が付いているんだよねえ」
「浄水!?」
「ふふ、ふふ、驚いたかねえ。この水筒はレジェンダリーなんだよねえ」
「レジェンダリー……!?」
僕は素直に驚いた。
1年前。
いつものようにアリファさんにゴミ場の成果を買い取ってもらうとき。
僕はふと疑問に思った。
「レガシーってあるじゃないですか」
「ん? それがどうしたんだい」
「レジェンダリーってなんですか」
「へえーそうだね。ウォフも探索者になるなら覚えておいたほうがいいね」
「は、はい」
「まずレガシーはレリックのような効果があるアイテムの総称だ。これは分かるね」
「はい」
現世の記憶風に言うならば魔法アイテムだ。
「レガシーは消耗型と回数型と永続型の三つのタイプがある」
「はい。知っています」
「その永続型をレジェンダリーと言うのさ」
「永続型はレジェンダリーなんですか」
「そうだね」
「なんで永続型だけ別名義があるんですか」
「永続型は滅多に無いとても貴重なモノなんだよ。だから敬意を込めてレジェンダリーと呼ばれているのさ。特に有名なのは『三日月の器』だね」
「レジェンダリーって中々手に入らないんですか」
「全く手に入らないね。もし手に入ったら……そうさね。この骨董屋ぐらいなら5店舗ぐらいは楽に買えるね」
「そ、そんなに」
「レジェンダリーはそれほどの価値があるんだよ」
「…………」
僕は素直に驚いた。
「……え」
「おやおや、どうしたのかねえ」
「いやだってレジェンダリーって」
「そうそう。その水筒はレジェンダリーだねえ。浄水機能が付いているねえ」
「とても貴重な……それを報酬にですか」
「うむうむ。コンはもう使わないからねえ」
「レジェンダリーを?」
「そうそう。心配いらないねえ。ちゃんと洗ってあるからねえ」
「いやそれは」
「おやおや、ほうほう。洗っていないほうが良かったかねえ」
「ち、違いますっ!」
なんでニヤニヤしているんだこの魔女。
「そんな貴重品を簡単にあげるのはさすがに」
「ふむふむ。このレジェンダリーは今後も使う予定がないからねえ。それならこれから必要としている前途ある弟子のウォフ少年に譲るのが、一番良いとコンは判断したんだけどねえ」
「そ、それは……ありがとうございます。ん今なんて?」
「それにそれに、ウォフ少年はレジェンダリーが欲しくないのかねえ」
「えっ欲しいですけど、本当に貰っていいんですか」
「うんうん。もちろんもちろん。良いよねえ。ただしモーリュ草を採取してくるのが条件だねえ」
「わかりました。必ず持ってきます」
「よしよし。ありがたいねえ」
「それで場所とモーリュ草の特徴とかは教えてください」
「うんうん。それは地図とイラストを渡そうねえ」
予め用意していたんだろう。
魔女は僕に二つに折り畳んだ羊皮紙を渡した。
「それではいってきます」
「ノシノシ。気を付けてねえ」
モーリュ草の採取、開始だ。




