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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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穏やかなハイドランジア②・風が吹く。


遠距離武器といえば、やはり弓だ。

なんといっても弓である。


前世の記憶にある銃はこの世界に無い。

理由はレリックだと思う。


レリックが銃などの兵器の役割を果たしているといえる。

ただラボのデータにあるかも知れない。だからといって造らないけど。


「……近接では無理なんですか」

「あのあの、あの、地上に降りたときは近接でも狙えるチャンスです。ですがその機会はあまりありません」

「……ジューシイさん。僕、遠距離武器を持っていません」


ジューシイさんは驚いた表情をする。それから困ったようにした。


「あ、あの、ウォフ様は遠距離武器を扱ったことはあります?」

「昔……少しだけ……ですね」

「あの、それはなんです? わん。投げナイフです?」

「さすがに投げてもナイフでは遠距離、無理ですよ。弓です」


投げナイフを遠距離武器……いや中距離が精々だろう。

ただし、そういったレリックが別だ。ミネハさんの【遠距離操作】とか。

さて肝心の弓は、故郷で狩りをするときに少しだけだったからもう忘れた。


「あのあの、どうしましょう」

「すみません。僕も知らなくて……あの、僕やめます」


自分でベッドの素材を得たかったけど、しょうがない。

大人しく買うことにしよう。まず魔女に相談。


良ければチャイブさんのところで購入しようと思う。

あそこは違法以外はなんでも揃っていると豪語している。

さすがに法外な値段にはならないはずだ。


「わんっ、そうです! ウォフ様、あたくしが弓を教えます」

「えっ、いいんですか」

「わんっ、はい。あのあの、ふつつか者ですがよろしくおねがいします!」

「こ、こちらこそ、よろしくおねがいします」


僕たちは互いに頭を下げる。ジューシイさん。三つ指ついている。

なんか違う気がするが、弓を教えてもらえるのは嬉しい。


それにこのままでいいのかと僕は思った。

特に理由は無いが僕は遠距離武器を今まで扱って来なかった。


だが、こういうこともある。

ナイフばかり拘ってきたが、弓を使ってみてもいいかも知れない。


「参ったな。窓口が少ないから時間が掛かった」


レルさんが戻ってきた。僕たちを見て不思議そうに言う。


「どうしたんだ」

「あのあの、兄さま。ウォフ様は弓を扱ったことがあまりないのです」

「そうなのか。遠距離に使えるレリックはあるか」

「すみません。ないです」

「それで風のダンジョンはかなり厳しいぞ」

「すみません。知らなくて」

「あのあの、それで、あたくしが教えようと思います」

「ジューシイが?」

「わんっ、はい」

「……」


レルさんは眼鏡をクイっとあげて考えているようだ。

ジューシイさんは不安がる。耳も尻尾も垂れ下がる。


「あ、あのあの、ダメでしょうか」

「いいだろう。やってみろ」

「わんっ、ありがとうございますっ!」


ホッとして明るくなる。

ふとレルさんは僕を見た。なんて言おうか少し迷ったような感じで口を開く。


「ウォフ。妹をよろしく頼む」

「頼むのは僕が言うセリフでは?」

「そうか。そうだな」


レルさんは笑った。

それから僕たちはギルドを出て、近くの武器屋で弓と矢を買った。

初心者用の木の弓だ。引いたときの感触を重視して購入する。















風のダンジョンはハイドランジアの北にある。

常に風が吹く特殊な谷。『風の回廊』が入り口だ。

回廊を通り過ぎると、そこから先は風のダンジョン1階。


「ここが……」

「ああ、風のダンジョン1階。鳥の高原だ」


青々した大地が見渡す限り続いていて、多くの鳥が飛んでいた。

遠くには山々が見え、一番高い山の頂付近に神殿らしき建物が見える。


見上げる空は青かった。


「地上と全く変わらないですね……」

「だが間違いなくダンジョンの中だ。あの神殿が見えるか」

「はい」

「あれが風のダンジョンの最下層といわれている」

「いわれている? 最下層?」

「この風のダンジョンは特殊なんだ。1階しかないが途方もなく広い」

「そういうのもあるんですね」

「しかも出てくるのは空を飛ぶ魔物だけだ」

「だけなんですか」

「ああ、そうらしい」


変なダンジョンだ。

でも練習にはうってつけというわけか。


「あのあの、あの、ウォフ様。さっそく教えます!」


ジューシイさんはやる気満々だ。

瞳がキラキラしていて眩しい。


「おねがいします」

「それでは、まず」

「ジューシイ。ウォフ。オレは向こうで狩りをしている。何かあったら呼んでくれ」

「あのあの、わかりました。お気をつけてです!」

「はい。レルさん。気を付けて」


レルさんは手を振って向こうに行った。

ジューシイさんは弓を出す。


エリクサーでコーティングされた魔女製の『エリクサーボウ』だ。

アンデッド特攻だが普通に弓として使える。


「あのあの、ウォフ様。まず、あたくしの構えを見てください」

「わかりました」


ジューシイさんは弓を構えた。

肩幅に足を開き、少し腰を落として背を反らし、矢を番えた弓の弦を摘まんで引く。


自然と感じられるほど流麗な所作だった。

弓を構えたまま止まるジューシイさん。チラッと僕を一瞥する。


「…………」


僕はジューシイさんを眺める。

足の開き。腰の位置。背中の反り。弓を持つ手。弦を摘まむ手。

張り詰めた胸。真剣な顔つき。鋭い目線とその先。


こうしてじっくり眺めていると前々から知ってはいた。

ジューシイさん。体つき抜群なんだよな。


13歳でこのプロポーションってどうなんだ。

身体を動かすのが好きだから引き締まっているのは分かる。っと、いかんいかん。


えーと弓はこうして握って、弦は本当に指先で摘まんでいる。

足はこう開いて……う、うーむ。難しい。


「あのあの、ウォフ様。今からあの鳥を狙います。見ていてください」


あの鳥……あれか。うっすらとしか見えない鳥が空を飛んでいる。

あれに当てるのか。遠いぞ。


ジューシイさんは弓をやや斜め上に動かし、放った。

矢がまるで吸い込まれるように弧を描いて鳥を落とす。


「当った!?」

「わん。あのあの、ウォフ様、やりましたっ!」

「すごいです」


本当に当てた。ジューシイさんの弓の腕前は死の墓で見ていたけど、これほどとは。

さっそく僕たちは鳥が落ちたところへ。


「わんっ、ウォフ様。ビッググースです!」

「でかっ!?」


普通の鳥の倍以上もある水色のダックが死んでいた。

矢は首に刺さっている。こんなにデカいのか。


な、なるほど。この羽毛を使うのか。

ジューシイさんはビッググースに近付いて矢を抜き、首を掴んで持ち上げた。


鳥はでっぷりと重そうだが彼女は軽々と持っている。

しかしグースなのに空を飛ぶのか。この重量が飛ぶのか。


疑問符を浮かべているとジューシイさんは羽毛を剃って解体していく。

羽毛はまとめてもらった。ベッドの素材ゲットだ。だが、まだ足りない。


肉はジューシイさんがポーチに仕舞った。

あれだけの肉塊が入る……収納か。まぁ持っているよな。侯爵家だし。


改めて考えると、ドヴァさんもジューシイさんも侯爵令嬢なんだよなあ。

レルさんも侯爵子息。


タサン侯爵家。古い貴族でこの国で第3位の権力を持つ大貴族。

侯爵家もタサンだけだ。とても失礼だけどそう見えない。


タサンの全員がそうじゃないと思う。

だけどドヴァさん。シェシュちゃん。ジューシイさん。レルさん。

皆、区別も差別もせず親しく接してくれる。


「…………」


対して『ドラゴン牙ロウ』のボスもスティールランドっていう貴族だった。

僕の前世の記憶に何故かある『貴族』はむしろスティールランドのほうだ。


ドヴァさんが言っていた馬鹿貴族。

もちろん僕が好きなのはタサン家みたいな貴族だ。


「あのあの、あの、ウォフ様もやってみましょう!」

「は、はい。こうかな」


僕はジューシイさんの姿勢を思い出しながら真似るように構えた。

ジューシイさんは僕の構えを採点するようにあらゆる方向から眺める。

なにかしっくり来ないみたいな表情を浮かべた。


「あのあの、ウォフ様。失礼します。『構え重ね』します」

「かさね?」


いきなりジューシイさんは僕の手に自分の手を重ね、背中から身体を密着させた。


「っ? ジューシイさんっ?」


背中に硬くしなるものが当たる。

胸プレートか。なんだかガッカリする。


すると、ジューシイさんはスっと離れた。

それから自分の胸元を見ると、無造作に胸プレートを外した。


驚く僕を見てまた背中から密着する。

僕の弓を持つ手と弦を引く手に自分の手をピッタリと合わせる。


脚と腰の位置もしっかりくっ付けて目線までも重ねた。

あっ、かさねってそういう。


納得したがそれよりもなによりも、背中に密着したそれの柔らかさ。

もう尋常じゃなかった。

僕の構えに重ねるから自然と彼女の胸が僕の背中に当たるわけだ。

僕の背で彼女のおっぱいが信じられない柔軟さと弾力で潰れているのが分かる。

全く構わず更に僕の背中にグっと胸を限界まで押し付け、ジューシイさんは言った。


「あのあの、ウォフ様。脚をもっと狭めてください」

「こ、こうですか」

「あの、わん。わん。背筋はもう少し前です」

「こ、ここ、こうですか」


うおっ、背中で潰れたジューシイさんのおっぱいが擦れて動く。

マシュマロいや弾力があるこれは、ああ、マシュマロスライムだ。


極限まで柔らかいふたつのマシュマロスライムのクッションだ。

この世でこれより柔らかいものはあるのか。いいや無い。


な、なんなんだこの状況。

ハイヤーンみたいな思考になってて軽く死にたくなる。


「あのあの、ウォフ様。これが『構え重ね』です」

「な、なるほど。あのでも、なんでプレートを外したんですか」

「わふ。あのあの、一度、構え重ねして分かったんです。プレートがあるとかなりの隙間とズレが出来ます。この隙間とズレは、あの、構えに影響が出るんです」

「な、なるほど」


だからプレートを外したのか。

この構えを重ねることにより正しい姿勢を学ぶ。それは分かる。

重ねて正しい構えに矯正していく。一番上達しやすい。それも分かる。

僕の背中にジューシイさんの胸部が押しつぶされる。うん分かる。


し、しかし……そのジューシイさんは何も感じていないのか。

こんなに女の子と密着していると、変な意味じゃないけどドキドキする。


僕はそんな気持ちでジューシイさんの横顔を見た。

彼女は真剣でその眼差しはまっすぐだった。そこで僕は察する。


きっとこの重ね合わせを姉妹の誰かと彼女もしたんだろう。

そう考えると僕の中の邪な気持ちは―――あっ無理。

ジューシイさんの胸の感触がヤバすぎてまったく消えちゃくれねえ。


ミネハさんといい。最近の女の子って発育良すぎないか?

その発育抜群の美少女ジューシイさんはジッと空を鋭く見ていた。


ふと僕の視界にビッグガースと違う鳥の魔物が見えた。

ジューシイさんは僕の手を握ったまま弓をほんの少し上向きにする。狙うのか。


「あのあの、あの、わん! ウォフ様、今です!」


号令と共に矢を放つ。信じられないくらいあっけなく鳥の頭を射抜いた。


「……やった!」


鳥が落ちる。


「あの、わんっ、上手です。ウォフ様!」

「あ、ありがとうございます」


ジューシイさんは離れて落ちた鳥の元へ向かう。

僕は空を見上げ、大きく息を吐いた。彼女の感触が背中から離れない。


それから何度か構え重ねして、ビッグガースとウインドダックを射る。

当分、僕の背中にはあの感触が残りそうだ。


レルさんと合わせてビッググースを20羽。ウインドガースを15羽も狩った。

本当はもっと狩れるが、持ち運びが難しいのでこの辺でやめた。


羽毛は全て貰って、肉も1羽ずつ貰う。

依頼で収めた金額は三等分した。


かくして我が家に羽毛布団とシーツがやってきた。

さらば、藁のベッド。

ありがとう。藁のベッド。


それと定期的にジューシイさんに弓を教えてもらう事になった。

もちろん。当然のことだが『構え重ね』を何度もすることになる。

いつか罰が当たりそうだ。




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