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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season3

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177/284

穏やかなハイドランジア①・彼のベッド。

魔女のベッドは何回も見ている。

あれはよく分からない。やたらでかいしゴチャゴチャ色々のっていたりする。

いくつかのクッションとか枕とか服とか下着とか。

まあ買えないだろう。あれは。


ちなみに魔女からの例の億単位の借金。

どう考えてもまともな方法では返せない金額だ。


それに関して魔女は考えがあると言った。

だから現在持っているお金もこれから稼ぐ金も借金とは別だと言われた。


そんな借金あるか? 

取り立てるつもりは無いっていうのはさすがにな。

でも月間で仮に100万オーロずつ返済しても何年もかかる途方もない借金だ。


それと借金に関してミネハさんとハイヤーンも返すのを手伝うと魔女に言った。

ハイヤーンはともかく、ミネハさんは巻き込みたくない。


でもミネハさん。頑固だから絶対に借金は払うと言って聞かない。

まあ今は魔女に任せるしかない。


それと早めに気付いて良かった。

危うくミネハさんにベッドのことを聞くところだった。


「とりあえず、あのウサギを殴ろう。うん」


さっそく家に帰って見張り塔へ行く。

1階の隅っこの壁に不自然な姿見の古い鏡がある。


これがゲートだ。貰ったキーを入れると別の風景を歪んで映す。

そして通るとラボへ続く通路に出た。

通路には左右二つずつ部屋があるがドアは開かない。


そしてゲート横の通路も行き止まりになっているが僕には分かる。

斜めに入る不自然な切れ目からシャッターだろう。硬く封鎖されていた。

この辺はリヴさんがジッと見ていたのが気になった。


さて、気にせずまっすぐ行くと自動的に扉が開き、ラボに着く。

前面ガラス張りになっていて手前にタッチパネル式のコンソールがある。


四つの長い台座みたいな万能テーブルが四角になるように設置されている。

周囲は石壁でもレンガ壁でもない不思議な灰色の壁に覆われている。


ガラス張りの向こうはよく分からない。

ハイヤーンはコルドロンシステムとか言っていた。

コルドロンって確かに魔女の釜だったか。


それとコルドロンシステムは液体に満たされているという。

なんでも永遠に保護する為の液体らしい。なんだそれ。


ハイヤーンはタッチパネルと格闘していた。

ウサギの手足だとやりづらいと愚痴をこぼしている。


ひとつ変わったところはハイヤーンは白衣を着ていた。

白ウサギの白衣ってなんだかなと思ったが本人はこれが気に入っている。

というかこの世界にもあるんだな白衣。


「ハイヤーン」

「ウォフ? いま面白いデータが手に入り」

「殴る前にひとつ尋ねたいんですが」

「待て。殴るとは?」


ハイヤーンはきょとんとする。

僕はコブシを強く握った。


「―――女子に寝具を聞けばいいというのは本心からのアドバイスか」

「お……おまえ。まさか聞いたのか……? いや聞けたのか。ウソだろ。答えてくれたのかっ!」


ハイヤーンは驚いていた。

ウサギのでかい瞳がもっと見開かれる。


「ああ、彼女たちはしっかり答えてくれましたね」


僕は握りこぶしを振り上げて接近する。


「彼女たち。待て、たち、達? 複数形だと……!? よもや、何人も答えてくれたというのかっウォフ!?」

「ああ、答えてくれましたよ」

「ば、馬鹿なっ、馬鹿なっ! ばぁかなぁっ!! かつて我がそれを聞いたとき、下着の色を聞くよりも気持ち悪いと言われたんだぞ我はっっ! つまり貴殿は何人もの女の子の下着の」


僕は殴った。














「……ベッドのデータ?」

「うむ。快適☆彡寝具のデータがあった。素材があれば造れるぞ」


タンコブのハイヤーンがパネルを操作する。

空中に映像が現れる。この名称の☆彡はなんだ?

必要なのは、スライムブロック。固定液。保存袋。よく分からない。


「あれ……スライムブロックって、これパキラさんのベッドかな」

「なに? パキラ嬢の?」

「スライムベッドで手間が掛かるって言ってました」

「ふむふむ。なるほど。試作段階で手間が掛かるから凍結とあるな」

「他には無いんですか」


まあ僕は藁以外ならなんでも。羽毛でいいかな。


「おっ、羽毛布団があるな」

「あるんですか」

「快適・羽毛布団。材料はビッググースとウインドダックの羽毛とある」

「どちらも魔物っぽいですね。どのくらい必要なんです?」

「それぞれ5羽だな。合計10羽分あればいい」

「ビッググースとウインドダックは風に関するダンジョンに生息している」


風か。あるな。風のダンジョン。まだ水以外は入ってないんだよな。

行ってみるか。そうだ。どうせならギルドで依頼を受けよう。

少しでも稼げるときは稼ぐ。


家を出て街中を歩くと分かる。

ハイドランジアはいつもより慌ただしく活気ある感じがする。

つい数日前の不安なんか嘘みたいだ。


それは今から6日前。

突然、ギルドではなくハイドランジアの行政府から大々的に発表された。

大々的という意味は貴重な拡声器系や通信のレガシーを使った周知のことだ。


街全体に周知させるなんて滅多に行わない。

だがそれをする必要がある出来事が起こる。


このハイドランジアが1か月後、『グレイトオブラウンズ』の開催地になる。


『グレイトオブラウンズ』は探索者ギルドの大本であるグランドギルドの大行事だ。

5年に1度行われて、第Ⅰ級探索者が一同に介する大会議である。


そう会議だ。

だが街を上げての大祭といっていい。

なにせ第Ⅰ級探索者が全員一人残らず集まるのだ。


吟遊詩人が街角や広場や酒場などで歌う英雄たち。

その彼らを生きて実際に見ることが出来る唯一の機会である。

1か月前に告知されるのも祭りの準備をする為だ。


そしてこの祭りの為に錚々たる人物たちも集まる。

この国を司る王侯貴族。

そして国のトップ。国王もやってくる。


まぁ『グレイトオブラウンズ』に僕は関係……無いとはいえない。

ほんのちょっとだけ関わっている。第Ⅰ級探索者の魔女の弟子だからだ。


ギルドに入ると、相変わらず理路整然としていた。

ただズラリと並ぶ窓口のいくつかは停止中になっている。


『グレイトオブラウンズ』の準備に駆り出されていると聞いた。

だから人手が足りていない。そればかりか周辺の街や村からも出張してきている。


次から次へと大変だな。

その一端の原因が僕にもあるので頭が上がらない。

さて風のダンジョンの依頼、依頼。


「あっ、採取でビッググースの肉か」


羽毛は貰って肉だけを渡せばいい感じだな。

1羽辺り200オーロ。最低10羽か。これ、いいかも。

えーと番号は……ふむふむ。


「あのあの、わんっ、ウォフ様!」

「え?」


振り向くとまっしぐらに走ってきたのは黒髪の犬美少女ジューシイさんだ。

抱きつく手前で止まった。えらいえらい。

尻尾が千切れんばかりにブンブン振っている。あと狼だった。


「ウォフか」

「レルさん。こんにちは」


レルさんが声を掛ける。

レルさんは長い銀髪で銀縁眼鏡をかけた黒コートのエルフの美青年だ。

見た感じからクールな印象がある。


ドヴァさんに雰囲気が似ていた。それはそうだ。実の弟なんだから。

そしてジューシイさんのお兄さんでもある。珍しい組み合わせだ。


「ギルドで会うと少し驚くな」

「あのあの、ウォフ様は探索者です」

「分かっている」

「あれ、アクスさんとホッスさんは?」

「アクスは風邪だ。ホッスが看病している」

「えっ、それはお大事に」

「なので暇だからな。14番目の妹が弓を上達したいと言っていたのを思い出した」

「あのあの、わん。兄さま。あたくしはジューシイです」


ジロっとレルさんを見るジューシイさん。


「すまん。つい癖だ」

「あのあの、気を付けてください。姉さまたちに知られたら困るのは兄さまです」

「そ、そうだな」

「あの、ところで、ウォフ様はどうしてギルドにいるのです?」

「僕はベッドの素材とあの依頼を受けようと思って」


示すとレルさんが読んで頷く。


「……ビッググースの肉か」

「あのあの、ベッドとは?」

「そろそろ藁から卒業しようと思いまして」

「なるほど。羽毛布団か」

「はい」

「ふむ。ちょうど我々も風のダンジョンに行くところだ」

「あのあの、よろしければウォフ様も一緒にどうです? いいですよね。兄さま」

「ああ、もちろん」

「いいんですか」


一緒なら大歓迎だ。

風のダンジョンのことを僕は知らない。


「構わない」

「それならよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく」

「あのあの、わんっ、嬉しいです。よろしくです!」


ジューシイさんは楽しそうに笑顔をみせる。

レルさんが依頼をしてくると窓口に行って僕たちは近くのベンチに座った。


尻尾を大回転させながらジューシイさんは嬉しそうに僕だけを見ている。

脚をぶらつかせてずっと輝いた瞳でみつめている。そ、そうだ。ちょうど良かった。


「なんでジューシイさんは僕に、構ってくれるというか、好感度が高いんですか」


出会ったときからそうだった。

それが不思議で、前々から尋ねてみたかった。

ジューシイさんは、んーと考えてから。


「あのあの、ウォフ様はバターライスが好きですよね」

「ええ、まあ」

「あの、なんで好きなんです?」

「どうしてって……味とか」


それに懐かしい感じがする。

前世の記憶の更に奥の……ああいうバターライス。食べていた気がする。


「あのあの、味ですか」

「味もそうですけど……ほかにも色々とあってそれで好きですね」

「あの、あたくしもそうです」

「え……」

「あのあの、わん。同じ理由なのです」


ジューシイさんはニコっと笑う。


「な、なんか分かったような……気がします」


僕も微笑む。なんとなく言いたいことは分かった。

なんとなくだけど、そうなのだろう。


それにこれだけの美少女に好かれるのは照れるけど悪くない。

たけどジッと熱い眼差しを向けられるのは、その、緊張する。


「そ、そういえばジューシイさん。結局、特例で探索者にならないんですね」

「あの、わん。はい。誕生日が近いのです」

「えっそうなんですか」

「あのあの、来月です」

「近っ、ということは……14歳になるんですか」


ジューシイさんはニッコリとする。14歳になれば探索者になれるからな。

待てよ。そうすると……僕より年上になるのか。


なんとも複雑な気分になる。

僕の周り、女性陣はミネハさん以外もう年上しかいない。

それにミネハさんも見た目だけはお姉さんだし。


なんだかなあ。

とりあえずプレゼントは用意しよう。


「あのあの、それにしても、ウォフ様も遠距離武器を所持していたんですね。あたくし知りませんでした」

「え、遠距離?」

「あの、わんっ、風のダンジョンの魔物は常に空を回遊しているんです。撃ち落とさなければ倒せません」

「なんだって……」


そして初めて気付く。

遠距離武器……僕、ひとつも持っていない。




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