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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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175/270

プレリュード②


深い深い巨大な樹木が乱立し、空を見上げると水晶が光り輝く。

その神秘的な森の中をひとりの男が走る。


そこはキャンプだった。多くのテントが並ぶ。

男は一番大きなテントに入った。


「ボスは?」

「おいおい。どうした」

「フォーカードは? ボスは? キャンプにいないのか?」

「ああ、キャンプから離れている。ここから先の西の森の奥だ」

「一緒にいるはずだぞ」

「西の森の奥だな」

「お、おい」


男は走る。

不思議な森の中を一心不乱に駆ける。

この辺のダンジョンの魔物は一掃してあるが、それでも危険なのは変わりない。

それでも男は目指して走る。


やがて倒壊した巨木の上で大きな斧槍で素振りをするフォーンの男に出会った。

上半身裸で汗が凄い。


「む。止まれ」

「ああ、トレボルさん。ボスは?」

「ボスに何用だ?」

「伝言だ。グランドギルドからの」

「それならボスはもっと奥だ」

「わかった」


男は走る。

やがて着いたのは巨大な水晶。その手前でエルフの双子が並んで本を読んでいる。

ふたりは同時に男を見た。


「そこの男」

「止まりなさい」

「クオーレさん。アルマースさん。ボスは?」

「この先だけど」

「ボスに何の用?」

「グランドギルドからの伝言だ」

「それならこの先にある泉」

「そこにいるわ」

「わかった」


男は走る。

そろそろ疲れてきた。走る速度も遅くなる。

そして息切らせてようやく着いた小さな泉。

木々に囲まれて澄んだ水を湛えていた。そこにひとりの男が佇む。


「ボス」


振り向いた男は緩やかな黄金の髪。鋭く黒い瞳。凛々しく美麗な顔立ち。

神聖さも感じられる中性的な雰囲気を漂わせていた。


何処も精巧に造られた彫刻のような美青年だ。

赤いマントに真っ白い鎧を着て、ただ佇むだけで絵画になる。

そんな男だ。


「どうした」

「グランドギルドから伝言です。『グレイトオブラウンズ』を開催する。以上です」

「そうか。もうそんな時期か。了承した。地上へ戻るぞ」

「へ、へい」


この美青年がボスこと、アルウェルド=フォン=ルートベルト。

ハイドランジア最大のクラン・クーンハントのクランマスターであり。

第Ⅰ級探索者にして『破壊の崩者』そのひとである。




















大陸最北部。グレートプロスフォラマウンテン。

中腹にまるで割れた卵のような巨大な建造物があった。

建造物の内部には巨大な白・青・赤の三角柱が建っている。


三角柱の中心には黒い巨大な金属製の輪が浮いており、中央に白いドームがある。

その白いドーム。それが探索者ギルド総本部グランドギルドだ。


ドームにあるグランドギルドマスター執務室。

アルハザード=アブラミリンが書類に老眼鏡越しに目を通す。

黒豹の貌に真っ白い髭を生やす。


既にグランドギルドでは巻物から紙束や本に移行していた。

傍らに控える気品ある黒コートと制服姿をした褐色肌の女性が尋ねた。


「グランドギルドマスター。そろそろ『グレイトオブラウンズ』の準備を進めなければなりません」

「そうか。今年だったな」


『グレイトオブラウンズ』は5年に一度行われるグランドギルドの大行事だ。

例外なく第Ⅰ級探索者が一堂に会する大会議のことである。


「はい。今年は第Ⅰ級探索者に昇級する者が3名おります」

「ようやく27の呪縛が解かれるか」


アルハザードは苦笑する。ここ何十年も27名だった。

特に27という縛りはないが増えても5年間で何人か死に、27になることが多い。


「3名はアガロ。メガディア=メガロポリス。エンス=ハイラントです」

「アガロは名を知っておる。『滅剣』じゃったな。メガディアはエッダか。メガロポリスはエッダ六家で古い家柄だったな。エンス? まさか。いやだが彼は……どういうことかね」


アルハザードは顔をあげた。


「はい。こちらの資料をご覧ください」


渡された資料をアルハザードは受け取って読む。


「……ふうむ。ダンジョンはまこと摩訶不思議よ。こんなことがあるとはな」

「はい」

「それで開催地であったな」


開催地はグランドギルドではなく各都市と決められていた。


「はい。それと申し訳ありません。失念しておりました。それとは別件ですが至急、判を頂きたい書類が2枚あります」

「どれかね」

「先日、発生したミノスユニットの事後処理の臨時予算申請書です」

「確かハイドランジアであったな」

「はい。発生地点である街のダンジョン12階は完全に崩落し、立ち入り禁止となりました。転移陣の接続は完了しております」

「チャイブか」

「はい。その請求書も添付してあります」


アルハザードは書類の金額を見て眉根を寄せた。


「……少し高くないかね」

「これでも最初よりはかなり安くなりました」

「そうかね」


アルハザードは仕方なく判を2度押す。

女性は受け取った。


「ありがとうございます」

「それで開催地か」

「はい。候補はこちらに」

「ふむ。ふむ。悪くはないが」


アルハザードは渡された資料を眺め、しっくり来ないと呟く。

どれも何回か開催した地で、安定感はあるが面白味はない。


「楽しむことではありませんが」

「それでも探索者としての魂は必要だ。我らは探索者なのだからな」


立場的なのもあるが、ここ数十年ほどダンジョンを探索していない。

ふと彼は思い出した。


「魔女の弟子」

「はい?」

「魔女はハイドランジアに居たな」

「はい」

「ミノスユニットが出没したのはハイドランジアだったな」

「はい。そうですが」

「資料はあるかね」

「はい。こちらです」


差し出された資料にアルハザードは老眼鏡をクイッとあげた。


「出没地点は12階。箱舟遺跡―――あの見張り塔の壁画……魔女の弟子と会話してそれほど経過していないのに、これか。これは偶然で片付けるか否か。実に面白い。なるほど魔女の弟子。まったくもって、楽しいではないか」

「なにか?」

「決めたぞ。今年の『グレイトオブラウンズ』の開催地はハイドランジアだ」


アルハザードは何年ぶりにとても満足そうだった。


ハイドランジアにかつてないほどの大祭が訪れる。


















王都。

歴史古き都の北東に不自然な穴が開いている。

その穴の底にあるのが『エッダ貴族荘園』だ。


そこは自然あふれる地下世界。

森の中や湖の畔や山の峰などに無数の豪邸や城がある。


その中に古い神殿がある。

エッダ六家で祭事を司るユートピア家の神殿だ。

祭っているのはそうエッダ神の【ジェネラス】であった。


「あのガキ……」


彼女しか入れない古代祭殿でひとりの少女が苛立っていた。

紫の髪。紫の瞳。褐色の肌。見目麗しさに幼さがまだ残った顔立ち。


青い布を幾重にも巻いた白い祭事用ローブを着ていた。

腰から足首までに深いスリットが入って太腿が丸見えだ。


彼女は彼女だけが礼拝できる神像に舞う。

そして【バニッシュ】で両隣の紙垂を消す。

目を閉じて小さく息を吸い、大きく息を吐く。


「こんなにも……偉大なのに偉大なのに……この世界で最も偉大なのに……それなのに、あいつめ。あのガキ。あの子供。己を知らぬタダビド。己を弱いと思い込んでいる恥知らず。許さん……許さない……許しはせぬ。思い知らせてやる。ウォフ」


『ジェネシスの再来』であるナーシセス=ユートピアは固く誓った。















――――――――――――――――――――


ありがとうございます。

Season2はここで終了です。

このままSeason3といきたいところですが、しばらくお休みします。

その間にSeason2のキャラ紹介や設定などをまとめます。

更にSeason3のストックも現在ゼロ。

ある程度は安定して更新したいので5話か10話ぐらい溜めたいです。


休みは1週間か2週間ぐらいを予定しています。

しばしお待ちください。

よろしくおねがいします。


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