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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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173/284

星々は螺旋を舞う③


渡されたエリクサーを飲む。体の痛みが一気に引いた。

ナイフを拾って立ち上がる。


ミネハさんは三角形状に奇妙に欠けた青いスピアーを軽く手首で回している。

その動作に連動して無数の三角形が回転し、星になる。

レリック【遠隔操作】だ。


「ウォフ。なんとかコアってどこ?」

「無限湧きコアシステムなら、ここをまっすぐです。あの」

「なに」

「いえ、なんでも」


なんでここにミネハさんが居るんだ?

そう聞こうとしてやめた。怒らせそうだった。

インカムからハイヤーンの声が聞こえた。


『ウォフ。無事か。間に合ったようだな』

『なんとか……停止時間あんなに短いんですか。あやうく死ぬところでしたよっ』

『強制停止でシステムダウンさせたんだが、再起動が予想以上に早すぎた。ひょっとしたら罠だったかもな』


罠ってそんなこと言われてもなぁ。

そもそも罠って……どんだけ恨まれているんだ、ハイヤーン。


『ミネハさんがなんか強くなって、しかもなんでここに居るんですか』

『ついてきたんじゃないのか』

『ついてきたって……あのスピアーは?』

『造った。正しくは合成だな。壊れたオーパーツとオーパーツ。それに色々と合わせて出来た我のアルケミストのラボの完全復帰作第一弾だ』

『……新しいオーパーツなんですか』

『そうだ。久しぶりにしては良い出来だろう』


本当に出来るのか。

ミネハさんは、あのミノスユニット複数を相手にして圧倒していた。

星。その正体は『オリオネス』より大きく速く渦巻く白い三角形だ。


『オリオネス』は決定打に欠けていた。

でもそれは三角形が小さくその数も少なかったからだ。


新しいオーパーツのスピアーの三角形は大きく数も倍以上ある。

充分な威力になっていた。


三角形……オーパーツと合わせた。それとレリック【遠隔操作】

そうか。『オリオネス』と合わせたのか。


「ミネハさん」

「ウォフ。ワタシ。怒っているんだけど」

「は、はい」


睨まれた。それはそうだろう。

それでも僕はミネハさんの横に立つ。彼女は冷ややかに言った。


「あなたはラボで待っていなさい。邪魔なの。足手まといよ」

「いいえ。5分間だけそうはなりません」


僕は落ち着いて集中。第四のレリック【ジェネラス】を使った。

僕の瞳も髪も一瞬で紫色になり、『静聖の籠手』が変化する。


ミネハさんが目を見開いた。


「あ、あんた。その姿……」


あまりに驚いて操作が止まり、ミノスユニットが一斉に襲い掛かってくる。

僕は冷静に片手をかざす。


「【ファンタスマゴリア】」


無数のバスケボール大の【バニッシュ】がミノスユニットの一部を消し去る。


「今のは……ウォフ……」

「ミネハさん。詳しい話は後です。終わらせましょう」


ミネハさんは小さく頷き、僕たちは走った。











僕の【ファンタスマゴリア】で前方のミノスユニットを一掃する。

そしてミネハさんが舞うように後方のミノスユニットを星を操り倒していく。

ふいに星のひとつが斜め上に動き、槍矢を消滅させ、射手を貫く。


「危ないわよ」

「あ、ありがとう」


つたない僕の手を引いて、まるでふたりで踊っているようだった。

【ジェネシス】になった僕だけでもダメで、ミネハさんだけでもダメだ。

ふたりで一緒に―――そうやって戦いながら僕たちは進んでいく。


順調だ。しかし時間が無い。


『ウォフ。朗報だ。もう一度システムダウンが使える』

『お願いします』


即答した。やった、これで勝てる。


『ただし、これが最後だ。次はないぞ』

『わ、わかりました……やってください』

『3、2、1、0。システムダウン!』


ガクンッとまたミノスユニットが停止する。


「えっ、なに? 止まった?」

「急ぎましょう」


あともう少し、青い光点が近い―――あと、もう……一歩。


急に視界が晴れた。

目の前のミノスユニットに青い光点と黒い点が重なる。

だがそのミノスユニットは普通と違っていた。


「あれは……っ!?」

「あいつは!?」


それは四本腕で四ツ目のミノスユニットだった。

ミノスユニットよりも巨体だ。


四本の腕にはそれぞれ武器を持っている。

剣。斧。槍。拳。確か名称はミノスガーディアン。


こいつが、無限湧きのコアシステムか。

しかも2体居る。AとBだ。


「これはこれは、いいところで会ったわねえ」


魔女みたいな口調でミネハさんはとても良い笑顔を浮かべた。

とても楽しそうにスピアーを構える。


ああ、そうか。僕を助けるとはいえ、スピアーを壊されたからなぁ。

別物だけどリベンジがしたいんだろう。


ミネハさんはスピアーを構える。


右側を倒すことに決めたみたいだ。

そうすると僕は左か。


「……ウォフ」

「はい」

「まとめてやるわよ。ふたりで」

「え」


ミネハさんは接近しながら、全ての星を2体へと降り注いだ。


『ブオオォッ』

『ブモオオオォォッッ』


ミノスガーディアンAとBは悲鳴をあげながら武器を振るう。

星がいくつか弾かれた。

こいつらはシステムダウンが効いてない!?


『ハイヤーン。無限湧きコアシステムにシステムダウンが効いてませんっ』

『なに……それはミノスユニットか?』

『違います。ミノスガーディアンです』

『ユニットにしかシステムダウンが効かない』

『なるほど』


「生意気よっ!」


ミネハさんはムッとしてスピアーに【スパイラル】を付けて突く。

ミノスガーディアンAの斧を弾いた。


「硬いっ!」


僕は【ファンタスマゴリア】を放った。

無数の【バニッシュ】がミノスガーディアンAとBを取り囲み、ダメージを与えた。

だが倒すには至らず、多少のダメージという程度に終わった。


ミネハさんが弧を描くように星を降らせた。

ミノスガーディアンAとBは翻弄される。


やはり硬い。前に戦ったヤツよりも硬い気がする。

まずい。もう残り時間が1分しかない。


それなら決定打だ。

僕はアクスさんのナイフ改を仕舞って、ダガアナイフを手にする。


「ナ?」

「起こして悪いな。手を貸してほしい」

「ナ!」

「ん?」


ダガアナイフを引き抜くと違和感があった。

握りはいつも通りだが刃が変化する。


鏃のような少し尖った三角形で、しかも二又みたいに真ん中が開いている。

その二又の中心に大きく涙形の宝玉が輝いていた。

これってダガアの額にある謎の宝玉か。そういえば今まで反映されていなかったな。


「ナ!」

「えっ、【ファンタスマゴリア】をエンチャントする? 宝玉に使えって?」

「ナ!」

「……」

「ナ!」

「分かったよ。どうなるか知らないぞ」


残り40秒。もう迷う時間すら惜しい。

僕は【ファンタスマゴリア】を宝玉に使った。


無数の【バニッシュ】を全て叩き込むようなイメージだ。

すると宝玉が紫色に光り輝き、直感する。


僕は片手で軽く横に持っていたが、《《このままでは危ないと》》自然と両手で握り掲げた。

ゆっくり振り下ろすと遥か頭上の天井が揺れ、石柱と巨石が降ってきた。


そればかりか12階全体が微震し、あちらこちらから倒壊する音が聞こえる。

そして振り下ろし終わるとミノスガーディアンBは切り割かれていた。

そればかりじゃない。その遥か奥も切断され、箱舟の船底の一部も瓦解する。


「な、なんだこれ」


<…………ああ………そんなにも…………する……なんて……>


「え?」


なんだ今の? なに、だれ? いや誰も……えぇ……?


「ウォフ! あんた。なにしたのっ」

「それがその、わからなくて……」


『ブモオオオォォッッ』


ミノスガーディアンは吠える。

四本腕を巧みに動かし、ミネハさんに迫る。


「うっさいわね」


その全てを星で迎撃し、強烈に弾き、ミノスガーディアンの巨体を浮かせた。

しかも僕を睨んだままだ。


ミネハさんはスピアーを地面に突くと、その柄頭を両手で抑えるように持った。

よく剣でやるあのポーズだ。


「光栄に思いなさい。見せてあげるわ。『妖星現槍』」


スピアーを敵に向けると八つの星が一列に並ぶ。

ミネハさんから溢れる張り詰めた迫力と威圧が場を支配していく。


「スターライト」


スピアーを振り上げる。

八つの星がミノスガーディアンを取り囲んで回り出す。


「ボルテックスっ!」


振り下ろすと、九番目の星がミノスガーディアンの頭上から堕ちた。

途端に激しい光り輝く渦が発生し、ミノスガーディアンは飲み込まれていった。


「……お、おおっ……」


スっとミネハさんが掲げる。

九つの星が戻ってきて填め込まれ、白い螺旋模様を描く青いスピアーになる。


『……無限湧きコアシステムの停止を確認。よくやった』

『……ふう』


一息つくと、ふいに目が合ったミネハさんに抱擁された。

驚く間もなく強く優しくせつなく抱きしめられて。


「……」


僕は黙った。




























同時刻。12階。箱舟遺跡。

石の台地にあまりに不自然で違和感しかない白いティーテーブルが置かれていた。

そのテーブルに黄色いローブにフードを目深に被った人物チャイブが寝そべる。


「うーあー、ガチで危なくなるってなんなのー?」

「この程度、シロには問題ないわ」


隣に座る全身真っ白い少女が時折、青紫に光り輝くハーブティーを飲んで言った。

そんなふたりから少し離れたところに魔女とメイドが横に並んでいる。


「いやはやいやはや、驚いたねえ」

「本当にあの子はあなたの弟子なのですね」

「ふふ、ふふ、自慢の弟子だねえ」

「そのウォフっち。ちょーだい」

「シロもあの子供には興味が」


魔女は笑いながらふたりを睨む。

メイドは我関せずという無表情さで、倒れているミノスユニットの残骸を見た。


「魔女。今回のミノスユニットは最初期のモノでしょうか。最新型に比べてレリックは使用していませんが、かなり硬いです」

「そうだねそうだね。このタイプはコンでも一度、冥魔の門のダンジョンの最下層で見たっきりだねえ」

「えー、そんな代物がーこんな浅い階とかー本当に危なかったんだねー」

「そうだねそうだね。無限湧きがこんな浅い階層で現れるのは恐ろしいことだねえ」

「それにしても、さすがあなたの弟子だと言えます」

「うんうん。ウォフ少年は自慢の弟子だねえ」

「褒めてないわ。師弟そろってダンジョンを破壊するんじゃないわよ」


呆れたようにシロは言う。

魔女は笑った。メイドはため息をつく。


「にしてもさーいくら危機だからってー過保護じゃない魔女? そりゃあ初めての弟子が可愛いのは分かるけど、ボクたちこのダンジョンに居ちゃいけないんだよー?」

「まあまあ、そう言われるのは無理もないねえ。うん。そのずばりその通りだねえ。過保護で結構。可愛いのも事実だねえ。だからだから、弟子には死んでほしくないんだねえ。その可能性が少しでもあるならコンは迷わず助けるねえ」

「わーおー、ウォフっち。愛されてるねー」

「シロも恋愛に興味があります」

「それで私め達を連れてですか」

「それはそれは、この街に居たからねえ。なんでこんなに第Ⅰ級がいるのか知らないけれどねえ」

「まあーボクはアフターサービスも万全なのがモットーだから」

「シロは伝言としばらく此処に居ないといけないから、丁度いいから居たの」

「私めはバカ王子の護衛でございます」

「それならそれなら、使うのは当然だよねえ」


魔女は眼下を眺めて微笑み。


「おやおや、シロがしばらく居ないといけないってどういうことかねえ」

「ちょー珍しー」

「なにかあるのでございますか」

「ええ、そうだったわ。あなたたちにグランドギルドマスターのアルハザード=アブラミリンからの伝言を伝えるわ」


シロは彼女たちに言った。



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