表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

172/270

星々は螺旋を舞う②


鍛冶屋はどこへ行ってもダメだった。

スピアーを直すことは出来る。でもオーパーツとしては無理だといわれた。

ハイドランジアで唯一オーパーツの復元と整備が出来る鍛冶屋でもダメだった。


そのとき言われた言葉が心に残っている。


『こいつはもうオーパーツじゃねえ。こいつにはそのチカラはもうねえんだ』


厳つい顔なのにドワーフの親方は言葉を選んで優しく言った。

知っている。ワタシの愛用の武器『妖精幻槍』はそんなに強くないオーパーツだ。


能力もワタシの『スパイラル』を強化するだけ。

その強化具合も大したことがない。


そもそもワタシのレリック【スパイラル】自体が珍しい。

それに合うオーパーツなので価値はあるが力は弱い。


母様はかつて言った。これはレプリカだろう。

これを見つけたのが魔女でそれを整備したのが父様なのは知っている。


魔女と師匠と母様は同じパーティーを組んでいたときがあったという。

今の『トルクエタム』みたいな女性だけのパーティー。


母様の大切な思い出。父様の大切な形見。

だからずっと使ってきた。

そんなワタシを見て母様は呆れたようにため息をつく。


『手放すなとは言いません。でもそれを武器として扱うのは、もうやめなさい』

『でも母様』

『それは思い出の形見でしかありません』

『…………』

『―――いつか後悔しても知りませんよ』


母様の言った通りだった。

分かっていた。いくら大切に扱っても『妖精幻槍』は弱いオーパーツ。

母様に貰って4年。むしろよく持ったほうだ。


師匠は何も言わなかった。

だけどアクスを通して今なら分かる。


師匠は失った後悔も悲しみも糧にして成長してほしいと思っていたんだろう。

だからあえて何も言わなかった。


忠告してくれる母様は優しい。

ワタシが成長してくれると信じている師匠にも嬉しい。


だけど、そのふたりでも諦めろと、そういっているように思える。

それは正しい。ふたりともワタシを想っている。


「……それでもワタシは……なに?」


いつの間にかワタシは探索者ギルドに来ていた。

なにやら騒がしい。集まっている? 野次馬? いいや見知った探索者もいる。

え? ギルドが閉鎖している? どういうこと?


「……無期限閉鎖……は?」


どういうこと?

困惑しているとワタシの視界にウォフとエロウサギの姿が目に入った。

あのエロウサギ。|ワタシの席を踏んでいる《ウォフの左肩》。


ハイヤーンとかいうエロウサギ。

ホントあのウサギは、女の子の胸とかお尻とかなんだと思っているのよ。

そういえば……本当なのかしら。


ラボに行けば直せる。癪だけど詳しく聞いてみるか。

ふたりに近付くと何か話している。え? ダンジョンに行く? 

それって―――ワタシはそっとウォフのポーチに潜り込んだ。


ウォフ。気付いてないけど彼のポーチ。収納容量があるレジェンダリーなのよね。

さすがに部屋ひとつとか倉庫とかじゃないけど見た目より広い。


それで色々と入ってて、なんか男の子って感じ。

あっエリクサーの神聖卵。本物の……たまご。


「……」


たまごを見ていると変な感じになる。

それは昔、母様から『フェアリアルはたまごから生まれる』と聞いてからかな。


そっとたまごに触れる。

なんでだろう。中に入っているのはエリクサーなのに……熱い。


たまごで生まれた。ワタシもいつか。


あっ、えっと声がする。魔女とウォフとエロウサギ。

コッチヘオイデってなに……? イケボだけど、どっちかというとウォフの声が好き。


声ね。声。


は? ダンジョンに入るってそれ違法よ重罪! 永久はく奪もあるのよっ!

いくら無期限だからってどうしてそんなに……えっ、新しいダンジョンの異変!?

だからって。


『女の子が泣いているんです。僕は彼女に泣いて欲しくないんです』


それって……ワタシだ。ワタシのことだ。

ウォフ。ワタシね。あのとき言われた言葉、忘れていないよ。


『僕は、僕はミネハさんにそんな顔をさせたくないです』


嬉しいけど、だけど……胸が苦しい。ねえ、どうして。


え?

12階層……青白い金属のミノタウロス……!?

ミノスユニット。ワタシ達がエロウサギを起こしたから。


ワタシたちの所為。ワタシたちの責任。

止めないといけない。

だけど無断でダンジョンに入ったら永久に探索者資格をはく奪される。


ウォフはひとりで誰にも言わずワタシにも言わず……終わらせるつもりだ。

そこに探索者資格の永久はく奪があっても。


「………………」


ワタシはどうすればいいんだろう。










ああ、とうとうこの日が来てしまった。

答えが見つからないままワタシはまたウォフのポーチに潜り込んでいる。

でも気付いたんだけど、隠れていてもここまで来たら同罪なんだよね。


潜り込んだ時点でワタシも探索者資格の永久はく奪か。


「……変な感じ」


後悔とかそんなのは無くて、妙にアッサリしていた。

あれだけの葛藤も悩みもなにもかも通り過ぎていく。ねえ、どうすればいいの。


ラボに着いた? どんなところ。

ワタシはこっそりとポーチから出た。


なに、ここ……あっ、故郷の近くの遺跡に似ている。

とにかく。ここがラボなんだ。

じゃあ後は無限湧きコアなんとかっていうのを見つけて壊せば。


えっ、大群の真ん中って―――ウォフ!?


「ちょっと!」

「おわっ、み、ミネハ嬢!?」

「ちょっとエロウサギ。どういうことよっ!」


エロウサギの元へ飛んでいく。


「待て、落ち着け。なんでここにミネハ嬢が」

「ずっと居たわよ。ポーチの中に、ね!」

「むうう。では気のせいでは無かったのか……」

「ほら、答えなさい。ここにあるんじゃなかったの?」


ワタシは怒っていた。エロウサギは困ったように答える。


「あるはずだった。しかしこの地図を見たまえ。移動している」

「なんで移動しているのよっ」


というかこの浮いている地図……なに?

数えきれないほどの沢山の赤い点。その真ん中に青い点がある。

でもどれも動いている。


「移動しているのはそういう風にしたからだろう」

「この赤い点はなに? 凄くあるんだけど」

「それか。それが全てミノスユニットだ」

「これ全部が敵ってこと? それじゃあウォフは!」

「……待てっ、ミネハ嬢」

「離して、ウォフが! ウォフが!」


このエロウサギ。腕を掴む力が意外に強い。


「ミネハ嬢が行っても事態が改善するとは思えない」

「だったらなんでウォフは行かせたのよっ!」

「止められなかったんだ……」

「あんたねえっ……!」


でも確かにコイツの言う通りだ。ワタシが行ってもどうにもならない。

『オリオネス』は強力だけど決定打に欠ける。

レリック【スパイラル】も同じだ。


今のワタシは―――エロウサギに問う。


「ねえ、このラボでオーパーツが修復できるって本当なの」

「ラボなら可能だ」

「……だったらこのスピアーを直して」


ワタシは大きくなってスピアーの破片をポーチから出してテーブルに置く。

エロウサギはそれらを冷たい眼で眺めて、言った。


「オーパーツとして復元は可能だ。しかしこんなモノでは戦力にもならん」

「……分かるの?」

「我はハイヤーンだぞ。それぐらいは見れば分かる」

「どうすればいいの……」

「ふむ。このスピアーはレリック強化型だな。ミネハ嬢のレリックは?」

「……なんであんたに言わないといけないのよ」

「そうでなければ造れないモノがある」

「…………レリックは【スパイラル】と【妖精の化身】と【遠隔操作】よ」

「【スパイラル】は珍しい。ほう。遠隔操作? それのオーパーツは?」

「これよ」


『オリオネス』を見せる。


「これは、その三角形が分離するタイプだな」

「え、ええ、そうだけど」


なんで見ただけで分かったの?


「確か前に近距離。中間距離。遠距離。オールマイティに対応できる兵器の試作設計があったな。あれは……くっ、ウサギの脚だとやりづらい」


なんか乗っている台を叩いているけど何をしているの?


「ねえ、さっきからなにを」

「あった。アーカイブはしっかりと第0機密まで閲覧可能か。権限制限はしてないとはな。さてデータを確認する限り、試作設計を何度もやり直しているが、なるほど。ソードタイプで考案していたのか。ふむ。ではこれを別のタイプにして組み込むと」


なに、空中に絵? この絵は……これって、これは……スピアー。

だけどこのスピアーは『妖精幻槍』じゃない。


「なんなの。これ……」

「欲しいか」

「なに、どういう意味?」

「今からこれが造れる。ただしその『オリオネス』が必要だ」

「―――本当に出来るの? このスピアーが?」

「我はハイヤーンだぞ。ラボを扱えるアルケミストの力を見せてやろう」


ワタシは悩む。すると手にある『オリオネス』が……ええ、分かったわ。

あなたも強くなりたいのね。


「お願いするわ」

「任せろ。天才錬金術師復帰作としてこれほど素晴らしいオーパーツはない。コルドロンシステム起動。管理者名はハイヤーン=メガロポリスである」


背後のガラス張りの奥が鮮やかに銀色に光り輝き、中心の変な球とかが回り出す。

エロウサギもといハイヤーンが何か言っている。


殆どというか古代語だったのでよく分からない。

指示された通り、『オリオネス』をもうひとつのテーブルの上に置く。


テーブルが輝くと『妖精幻槍』と『オリアネス』が消えた。

そのあと赤い文字と音が鳴る。


「なに、なんなのっ?」

「ふむ。規定値以下か。なるほど。ならば色々と混ぜるか。これとこれと、これと、アンオブタニウム? それも入れておくか。どうだ」


ハイヤーンが台を叩くと赤い文字と音が消えた。

数字が現れ、それが100になると中央のテーブルにスピアーが現れた。


「完成だ。素晴らしい。ミネハ嬢。あなたの武器だ。手に取るがよい」


ワタシはそれを緊張しながらゆっくりと握る。

瞬間、伝わった。

そう、あなたの名前は―――そうなのね。


















「行くわよ。『妖星現槍ようせいげんそう』!」


星が瞬いた。

正確にはミネハさんの持つスピアーの一部が三角形となって分離していく。

スピアーは全体的に青くなっていて、穂先から螺旋を描いた部分が白くなっていた。


その白い部分が三角形に分離して回転し、星のように瞬きながら宙に浮く。

『オリアネス』より大きく速く渦巻く三角形の星々はミノスユニットを貫いていく。


「みっともないわね」


そうミネハさんが言いながら僕に小瓶を投げて渡す。

エリクサーだ。


ミネハさんは星と舞った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ