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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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星々は螺旋を舞う①

唖然として呟く。


「大群の真ん中……」

「実に参ったなこれは、ラボにあると思ったが……これではな。むう」

「―――ハイヤーン。この無限湧きのコアシステムは壊したらどうなりますか」

「ん? ああ、まず無限湧きは止まる。それと同時にミノスユニットも全て停止するだろう」

「ミノスも?」

「あれらはダンジョンの魔物のゴーレムに近いモノだ。兵器として不採用になった理由のひとつに個々の判断が出来ず命令系統が完全にひとつに集約されているというのがある。つまりコアシステムがミノスユニットのブレインだ。破壊されたらミノスユニットは止まる。脳が無くなるからな」

「破壊すればいいんですね。そうすれば終わる」

「そうだな。お、おい。ウォフっ!?」


僕は飛び出した。

自分ひとり行ったところであの大群をどうにかできるわけがない。

そんな当たり前のことが頭の中から完全に抜けていた。


自分のせいでこうなった。

こうなるとは思わなかったけど、これは僕の責任だ。

僕の探索がこの結果を生んでしまった。

ミネハさんのスピアーも壊してしまった。


だからどうにかしたいと思うのは当たり前の考えだと思う。

でも限度はある。誰にだって出来る事や出来ないこと。その限度はある。


それは分かっている。

分かっていて、なおもどうにか出来ると思っている僕は―――最低だ。


僕は、何も学んでいなかったんだとつくづく思う。

どうしようもないほどの馬鹿で愚かだ。

それでも僕は。












ミノスユニット。

青白い肌をしたミノタウロス。よく見るとその青白い肌が金属だと分かる。

金属製のミノタウロスが石壁に囲まれた空間に待機していた。


死んでもいいとか決して思っていない。僕だってまだ死にたくない。

やりたいこと、したいこと、たくさんある。


色々考えても悩んでも作戦を立てても、これしかなかった。

大群を相手にしながら目標を探して撃破する。


全てを倒せれば、それはそれで楽だが、僕にはそんな力はない。

誰かに助けを呼ぶことも出来ない。


簡易転移陣は既に消え、転移陣を使ったら地上に戻ってしまう。

あれらは元々脱出用だ。


自分でも馬鹿だと思う。阿呆だと思う。愚かだと思う。

無謀で、死の墓のときの経験が全く生かされていない。


でも今はこれしかない。

そう言いわけして、僕はその大群に飛び込んだ。


レリック【フォーチューンの輪】を使う。見えるはずだ。


「見えたっ」


青い光点。

この大群の向こうに確実にいる。

僕は気合を込めた。行くぞ。絶対に倒す。

僕が終わらせる。

まず手前のミノスユニットを堂々【バニッシュ】で倒す。

次に左からの攻撃をアガロさんのナイフ改で受け、弾く。

その隙に【バニッシュ】で肩から胴体を削る。

背後からの攻撃を察知して避け、【バニッシュ】で胴体の一部を消す。

右からの攻撃を【バニッシュ】で防いで、ナイフで胸を刺す。

左と斜め右と背後の攻撃は無視して回避に専念し、青い光点を追う。


「うぉっ!」


飛来した矢を【バニッシュ】で消した。射手もいるのか。

次から次へと降ってくる矢は【バニッシュ】で対応。しかし攻撃の手が緩まない。

避けて倒し、避けて逃げて、なんとか倒し、避けて弾いて、しまっ!

僕は剣をナイフで受け、【バニッシュ】で矢を消す。

その隙に別のミノスユニットに腹を殴られた。


「ぐはあっっ!」


なんて威力だ。吹っ飛んで壁に激突する。まずい。動かないと矢がくる。

槍のような大きな矢だ。

血を吐いて立ち上がり、矢を避け、斧を【バニッシュ】で消す。

革の鎧にコブシの跡が残っていた。息をすると痛い。熱い。折れているな。

エリクサーを……ポーチに手を入れると槍を持ったミノタウロスの突きが見えた。

なんとかナイフで受け、転倒するとエリクサーの入った小瓶が落ちて割れる。

仕方ない。僕はポーションの瓶を手にして飲んだ。熱は冷めたが痛みまでは無理だ。


「があぁっ!?」


ほぼ無意識だった。左の籠手で横薙ぎした鉄棍を受けるが威力で弾き飛ばされる。

転がったところに別のミノタウロスの斧撃。転がって避ける。

立ち上がり迫るミノタウロスの脚を【バニッシュ】で消滅させ、跳び下がる。

まずい。眩暈がしてきた。こんなとき、まだまだ追いついていない。

青い光点は近くない。


使うか。【ジェネラス】

いやでもこの状態だと……矢が飛んできてナイフで切る。


「…………」


【静者】を使った。頭の中が冷静になり、痛みが嘘みたいに鎮まる。

だがこれは誤魔化しだ。そう長く続かない。

僕は回避に専念した。戦うことが重要じゃない。

無限湧きのコアシステム。それを破壊することが何よりも何よりも……優先だ。

避けて、躱して、受けて、弾いて、消して、回避して、跳んで、青い光点に近づく。

避けて、回避して、受けて、弾いて、消して、跳んで、青い光点が遠ざかる。

なんでだ。なんで遠くなっている。

そうか。向こうも動いて、ミノスユニットも湧いているからか。

このままだと僕の方が限界が来る。

サイレントムーヴ……ダメだ。それならやっぱり【ジェネラス】で一気に……か。


ミノスユニットが何体も襲い掛かる。回避優先で僕は進んでいくが、敵が多い。

しかも雑魚じゃない。あと一撃でも喰らえば僕は死ぬかもしれない。

それより倒れるほうが早い。もう腕も足も身体が限界だ。


「があああぁぁっっ!?」


そのとき右脚に鋭い痛みがはしった。

鋭い槍のような矢がふとももを掠って切った。

【危機判別】をしていたのに気付かなかった。気付けなかった。


僕は倒れる。途端、身体が途轍もない疲労感で動かなくなった。

指一本すら……ナイフが手から落ちる。


このタイミングで【静者】の活動限界がきたのか。

うっすらと薄れゆく視界に迫るミノスユニットたち。


終わった。

僕は、不思議と悔しくなかった。納得していた。


出来ると、そう慢心していた。己惚れていた。

皆を守るとか責任をとるとかを理由にして僕は出来ると傲慢になっていたんだ。


だから―――こんなことになる。

なにも出来ずに……ここで……ああ、最低だ。なんて最低なんだ。


「…………ごめんなさい……」


そのとき星が瞬いた。


星のないダンジョンに星が煌めいたんだ。

その無数の星は一瞬で僕に接近するミノスユニットを全て殲滅した。


「……っ!?」


星―――いや、何か違う。星だけど星じゃない。

それは瞬きながら円を描き、ミノスユニットを近づけてないようにしている。

不用意に近づいたのが抉り切られていた。なんなんだあれは。


「なにしているの」


ふいに僕の上から声がした。

それはきょとんとしているような、平然としているような、抑揚がない声だ。


そして聞き覚えがあり良く知っている声だ。でもあり得ない。

彼女がここにいるはずがない。


「…………」


蜂蜜色の髪と瞳が星の光で幻想的に輝いてみえる。


「ミネハさん……」


いつもの鎧姿。

だがその手には青白いスピアーが握られていた。



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