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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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168/270

アークラボ⑦

魔女の家。

喜々として魔女にリビングへ案内される。


早速出されたコッチヘオイデと囁くイケボの黒いハーブティー。

また妙な路線に入ったな。ハイヤーンはそれから露骨に離れて言った。


「頼む。魔女。ダンジョンに入る方法が知りたい」


テーブルの上で土下座するウサギ。


「おやおや、これまたとんでもないねえ」

「頼む。我はどうしてもラボに行かないといけない」

「ハイヤーン……」


魔女は僕たちを見て唇に手をあてる。


「ふむふむ。おかしな話だねえ。もう少しでダンジョンは解除される。そんな堪え性が無いのがコンのウォフ少年だったかねえ」

「魔女。ダンジョンは無期限閉鎖になりました。今日ギルドに行ったらそういう通達があったんです」

「えっ? えっ? ふむふむ。少しだけ待ってくれるかねえ」


そう困惑気味に言って魔女はリビングを出る。

ハイヤーンと僕は残された。

あとコッチヘオイデ~と何故かねっとりイケボで囁く黒いハーブティー。


「なあ、我が友ウォフよ」

「友じゃないですけど、なんですか」


ハイヤーンはいつになく真剣な表情をした。

なんだどうした。


「魔女。絶対にエッチな下着をつけていると思わないか」

「…………」

「いや、すまん。冗談だ」

「つけていますよ。見たことありますから」

「な、なん……だと……っ!?」


いやそんな雷に打たれたみたいに驚かなくても。

魔女の下着ってそういう薄いのばっかなんだよな。


「なんです。その不思議そうな顔は」

「あー、まさか。そんな答えが返ってくるとは思わなくてな」

「そうですか。あと魔女の裸も何回か見たことありますよ」

「なっ……なぁっ―――!? 師弟関係ではないのかっ……貴公!」

「師弟関係ですよ」

「ならば何故、どうやって裸を見たっ!?」


なんかめんどくさくなってきたな。

普通にしばき倒したほうが良かったか。


「魔女。たまに家の中で裸になっているんですよ」

「裸族!?」

「まぁ、そんな感じで見たことがあります」

「う゛ら゛や゛ま゛じ、い゛っ!!!!」


泣くほどか。はあっとため息をつくと魔女が戻ってきた。

よいしょっと対面のソファに座りハーブティーを飲む。


「参った参った、ねえ。無期限閉鎖は本当のことだったねえ」

「原因は分かりましたか?」

「うんうん。ダンジョンの異変だね」

「だ、ダンジョンの異変―――!? で、でも異変は解決しましたよっ!」


僕は激しく動揺した。


「それはそれは、確かにウォフ少年たちが解決したねえ。でもそれとは違う。新しいダンジョンの異変だねえ」


い、今更、新しい異変……って、そ、そんなのありか。

無期限になるわけだ。それでも―――僕は尋ねた。


「それでも入れる方法はありますか」

「ほうほう。ウォフ少年。ダンジョンの閉鎖ならび封鎖時において無断での立ち入りは探索者資格の永久はく奪だねえ。それを分かって言っているのかねえ」


魔女がいつになく厳しい声だ。

第Ⅰ級探索者として、そして僕の師匠として忠告している。


「……ウォフ」

「女の子が泣いているんです。僕は彼女に泣いて欲しくないんです」


魔女の澄んだ緑色の瞳をまっすぐみつめて言った。言ってしまった。

魔女はそんな僕をジッと見たまま、くすっと魅力的に微笑む。


「やれやれ。そうだよねえ。君は、本当にしょうがないねえ。まったく、どうしようもないほどコンの愛弟子だよねえ」

「魔女?」

「そもそも、ダンジョンの閉鎖や封鎖というのは文字通り物理的に閉じられているんだよねえ。全ての到達までの階層の入り口がねえ。それを突破するのは、難しいというよりほぼ無理と形容したほうが分かりやすい。だからどんな馬鹿でも決してしないことだねえ。それでも―――入れる方法はある」

「本当か!」

「どうすれば」

「さてさて、君たち。特にウォフ少年。本当にやるのかねえ」

「はい」


僕は魔女の顔から逸らさず即答した。魔女は嬉しそうに苦笑する。


「ではでは、ウォフ少年。コンに借金しようかねえ」

「へ?」


へ?


「借金……?」

「それはまたどういうことかね。魔女」

「それはそれは、入る為に必要なものがとてもとても高価だからねえ。最低でも1億オーロが必要なんだねえ」

「1億……っ!?」


僕は言葉を詰まらせる。

ハイヤーンが続けてくれた。


「いったいなにが必要なんだ」

「ふむふむ。うんうん。まず絶対に必要なのは簡易転移陣だねえ」

「転移陣……転移陣ってあの」


何度も使ったあの転移陣。ハイヤーンはなにやら思案顔になる。

長い兎耳をビンッとまっすぐ立てて、ハッとした顔になった。


「転移陣で階層スキップするつもりか」

「ほうほう。気付くか。その通りだねえ。階層の入り口は封鎖されているからまともに通るのは無理だねえ。ひとつでも解除したらギルドにバレるからねえ。だけど転移陣なら関係無いねえ」


階層スキップ。ああ、あれか。水のダンジョンでやったあれか。

転移陣を使ってダンジョンの階層をいくつか素っ飛ばすやつだ。


「もともとねえ。街のダンジョンの階層には転移陣が設置してあるねえ。だからそれに接続するようにすれば、ここからでも行けるねえ。ただし無断接続は違法で許可なく転移陣を設置するのも違法なんだねえ」

「違法ばかりだな」

「でもでもねえ。バレなければ違法じゃないんだねえ」


魔女は悪い笑みを浮かべた。

そしてそのバレないことが出来るのも魔女だ。


「簡易転移陣というのは?」

「それはそれは、レガシーだねえ。使い捨ての転移陣のことだねえ」

「使い捨てを使用するから証拠隠滅になるわけか」

「……なにもかも合法がひとつもない」

「うんうん。それが今からミネハの為に君がしようとしていることだねえ」

「それでも僕は12階層に行きたいんです」


改めて覚悟する。魔女は小首を捻った。


「んん? んん? 12階層が目的地なのかねえ」

「そうです。箱舟遺跡です」

「ふうーむ。ふうーむ。ふーむねえ。ひょっとしたら、今回のダンジョンの異変。君たちと無関係じゃないかもしれないねえ」

「それはどういう意味です?」


嫌な予感がした。魔女は思い出すように述べる。


「えーとえーと、コンが掴んだ情報によるとねえ。そのダンジョンの異変は青白い金属製のミノタウロスの大群らしいんだよねえ。そしてその大群は12階層から湧いて出てきたらしいねえ」


12階層! 青白い金属のミノタウロス!―――僕は咄嗟にハイヤーンを見る。

テーブルの上に二本足で立つ白いウサギは歯をむき出して目を見開いていた。

ショックを受けているようだ。


そのミノタウロスって僕たちが戦ったアレだよな。

それが大群か。そんなのが発生した原因は考えなくても分かる。


そう、このウサギだ。

ハイヤーンは呟くように僕たちに話をする。


「それはミノスユニット。ダンジョンの魔物のミノタウロスを模したゴーレムだ。まだ試作段階だったが、完成していたのか」

「なんで動き出したんです」

「起動したのは、おそらく我をウサギにした何者かだ。我が目覚めると同時に起動させるように仕掛けたと考えたほうがタイミング的に妥当だろう」

「止めることは?」

「ラボだ」

「……魔女。なにがなんでもどうしても僕たちは行かないといけなくなりました」

「ふむふむ。どうやらそうみたいだねえ」


呆れたように魔女は笑う。僕も乾いた笑みを浮かべた。

探索者になって1週間もしないうちにはく奪されそうになっているってなんなんだ。


だけどやらないと、やるしかない。

しでかしてしまったから。僕たちというより元は僕がやらかしてしまった。


なんかこう僕の人生設計、もう完全にぶっ壊れているなあ。

なんでこうなったのやら。

数か月前までゴミ場漁りで四苦八苦していた頃が懐かしい。


「ではでは、それじゃあ、さっそくコンに借金しようねえ。ウォフ少年」

「お、お手柔らかに……それでまずはどうするんですか」


魔女は答えなかった。その代わりに胸元から何か取り出して放り投げる。

それを僕とハイヤーンが反射的に見上げると、景色が一変していた。


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