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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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アークラボ⑤

ビッドさんが顔をしかめて呟くように言う。


「ねえ、扉の手前にある台……鍵穴がいくつもあるっス。ひょっとしてこの鍵束で開けられるんじゃないっスか」


手前の台座の黒いプレートに鍵穴があった。

ひとつじゃない。全部で8つ。鍵束の鍵は10だ。そのうちふたつは使った。


鍵には番号が振られていた。振られていないのはふたつ。なるほど。

しかし鍵穴の方には何も無い。ハイヤーンが僕の肩越しにのぞき込む。


「ふうむ。そのカギを決められた順番通りに差し込んでいくタイプだな」

「鍵は分かるんですけど」


鍵穴に入れるのは問題ない。合わなけば入らない。

だから確認すれば全て入れることができる。


とりあえず8つの鍵穴に鍵を挿し込んでいく。

問題はここからだ。プレートには何もない。


「まさか1から順番にとかそんなオチか」

「さすがにそうだとしたら馬鹿すぎるかと」

「だよなぁ」


そうだ。鍵を回す順番が分からない。

決められた順番が分からない。


「ん……難解……」

「失敗したらどうなるか不安っスね」

「扉を破壊したほうが手っ取り早いのでは?」

「出来るかっ!?」

「ん……リヴだと……ちょっち……無理」

「ウチも無理っス」

「俺もさすがにこれはなあ」

「私めも難しいでございます」

「だったらなんで言ったんだよ」

「可能性の模索です」

「おまえなぁ……」

「あはは、僕も無理ですね」


でも【パニッシュ】だといけるか。いやどうだろうか。

金庫扉の構造なんて当然だが僕は知らない。


うっかり削ってはいけないところを削るかもしれない。

そもそも常識的に考えて金庫扉を破壊なんて。


「では、我の出番だな」


そう言ってハイヤーンが僕の肩から台座に降りた。

僕も含めて今度は何をやらかす気だと冷たい視線が彼に集まる。


だがハイヤーンは全く気にせず、プレートの鍵と、周囲を交互に見る。


「……ふむ。理解した」

「えっ、なにか分かったんですか」

「それは諸君。もちろん。全てだ」


そう言うとハイヤーンはひとつずつ何か法則があるように鍵を捻っていく。

迷いなく止まらずに捻っていく。本当に分かったのか。


「だ、だいじょうぶなんっスか」

「ん……神に祈る……」

「お、おい。いいのか」

「私めは強運のはずですが」


ハイヤーンは信頼度も好感も低いので僕たちは不安がる。

しかしハイヤーンは堂々と述べた。


「言っただろう。ほら開くぞ」


全ての鍵を捻ると、黒い菱形の部分が動いて四角になる。

そして真ん中から両開きに開放されていく。


完全に開き終わると、黒い部屋があった。

ガラスケースに展示された美術品。壁に掛けられた絵画。

ただ、その奥に場違いほど地味な巻物棚と事務机があった。


「こいつは」


レオルドはガラスケースの美術品や絵画に見向きもせず巻物棚へ向かう。

巻物をいくつか出し、事務机に置いて開いて読み始める。


ムニエカさんも巻物を見ていた。

僕たちは金庫室の中を見回し、ガラスケースの美術品や壁の絵を見る。


「これ宝なんっスか」

「ん……さっぱり……」


ガラスケースの中は黄色もあるけど殆ど緑だ。ただ巻物は青もあった。

でも僕は興味がないし、きっとろくでもないものに違いない。


レオルドとムニエカさんは巻物を熱心に見ている。

このふたり。何者なんだろうか。

どうもクーンハントの探索者ってだけじゃない気がする。


それはたぶん僕だけじゃなく、リヴさんもビッドさんもそう感じていると思う。

レオルドさんたちはいくつかの巻物を手にし、僕たちは金庫室を出た。


『ドラゴン牙ロウ』の本拠地から離れ、レオルドの隠れ家に案内される。

そこで僕たちは書類などから分かった事や黒幕や真相を説明された。


そして最後に報酬をもらう。

素直にありがたく受け取り、早々に立ち去る。


こうして『ドラゴン牙ロウ』は壊滅したのである。













スラム街から離れていく僕たちの気持ちは実に曇天だった。

レオルドから語られた話があまりにもひどかったからだ。


黒幕はさる大貴族の子息だ。

しかも落ちこぼれで好色な性格だった。つまりエロ馬鹿である。

そのエロ馬鹿は王都でも名が知られているトルクエタムを手に入れたかった。


稀なほどの美少女ぞろいのパーティー。実力も申し分ない。

だから手に入れたい。その美貌も力も身体も全て。


その理由にリヴさんが嫌悪を噛み締めたような無表情をする。

ついでに好みの女探索者も欲しかった。あわよくばに魔女とあったのは失笑する。


それと好色でハイヤーンに女性陣のジト目が注がれたが、それはしょうがない。

話を戻す。そこでエロ馬鹿はタサン家の女性探索者支援に目を付けた。


大貴族家はタサン家と犬猿の仲だった。天敵といってもいい。

そこでタサンのやることを潰す条件にエロ馬鹿は実家から資金を得た。

大貴族家もトルクエタムが手に入るならばと思っていたらしい。


この時点で大貴族家も加担しているといえる。

エロ馬鹿は実家の資金でクランを作り探索者を集めて、実行に移す。


だが思わぬ邪魔が入った。そう僕です。

彼らの計画に僕はあまりに邪魔だったらしい。


排除は楽だろうと思っていた。

しかしままならず、おまけに5人の所属探索者も行方知れず。


こいつら。僕が魔女の弟子だって調べてないのか?

なんというかこれ計画というのか。


だが実は危なかったところでもあった。

度重なる失敗にエロ馬鹿は戦力が足りないと判断。


大貴族家御用達の第Ⅰ級探索者かそれに見合う実力者を導入するところだった。

トルクエタムはそこまでの強さはない。まず敗北するだろう。


ただ導入したから、トルクエタムを手に入れられるかというと、そうじゃない。


何故ならば彼等がしようとしているのは誘拐だ。

歴とした犯罪であり、重罪だ。


更に奴隷が禁止されており貴族だろうが死罪の国。

それに子息は気付いていないが見張られているからすぐバレる。


ちなみにそのエロ馬鹿は、あの狼の入れ墨をしたドレッドヘアーの男だった。

『ドラゴン牙ロウ』のボス。レリック【爆発】の持ち主。

あんなのが大貴族の息子か。


ああ、あと、あの金庫室は大貴族家のデータベース。それも最高機密だ。

しかも大貴族家の闇の心臓部。あらゆる加担や計画した悪事が収められているとか。


怖いなぁ。エロ馬鹿は無断で使っていたようだ。

ちなみに鍵束はレオルドに渡し、ハイヤーンが鍵の順番を教えた。


レオルドにそこまでしていいのか。そう思うが正直、関わりたくない。

向こうも関わって欲しくないだろう。だから口止め料を渡した。


「ん……アンニュイになる」

「ウチもなんともいえない気分っス」

「……」


男の僕も気分が悪い。でもふたりになんと声を掛けていいか分からない。


「いつの世も理不尽だ。だからこそ力を付けないといけないのではないか」


いきなり僕の肩に居るハイヤーンがふたりに向かって言う。

リヴさんとビッドさんはハイヤーンを見て少し黙り、フッと微笑んだ。


「……言われなく……ても……分かっている」

「強くなるのは当たり前っス」

「……」

「なんだ。ウォフ?」

「まともなことも言えるんですね」

「なんだ。我はいつもまともだぞ。な、なんだ。諸君。その目は、失礼だぞ」

「……リヴの……胸……見ながら……言われても」

「あ、あの、ウチのおしり、さっきからチラチラと見ないで欲しいっス」

「……おまえ」


ハイヤーンはそっぽを向いて口笛を吹く。

このウサギめ。


こうして僕たちは別れた。

いつものように肉屋へ寄って買い物して家に帰る途中。

僕は気になったので、おっとり巨乳美人のエルフでにやけるハイヤーンに尋ねた。

人の頭の上でなにしてんだ。


「なんで鍵の順番が分かったんですか」


プレートに番号は無く、8つの鍵を順番通りに捻らないといけない。

ヒントのようなものも近くにない。どうして分かったんだ。


「ヒントはあった」

「あった? どこに」

「ウォフ。次からの参考にしたまえ。人は忘れる。メモを常に持っていても忘れる。それならばわかりやすいところにあればいい。例えば紋章とかだ」

「あの紋章にヒントが?」

「そうだ。鍵の捻る順番はあの紋章に記されていた。よく見れば紋章に点と古代語の数字が打ってある。あるのだよ。ああいう為政者ぶった貴族は分かりやすいところに大事なモノを隠す。その順番を線で結べばあの紋章になる」

「……ぜんぜん分からなかった」


このウサギ。本当は凄いのか。

するとハイヤーンは長い耳を向け、声を張り上げた。


「おっ、おおっ、見ろ。ウォフ。あの乳! ビキニアーマーはやはりどの時代でも良いモノだ。なあウォフ!」

「…………」


僕は無言でハイヤーンを近くの英雄像に置いた。


「ウォフ? ウォフ? ちょっとウォフくーんっ!?」


帰ったらごはんつくって食べるか。


「ウォフくぅ―――んっっ!!」


ミネハさんも戻っていると思う。












夜。

とおく遠く誰かが呼ぶ声が聞こえた。


(ウォフ…………目覚めなさい……目覚めるのです……)


「え?」


目を覚ますと真っ白い空間にいた。ん?




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