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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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159/270

即席狼団⑤・これから。


しっかり大地を踏み締めて、コブシを握って力を込めて僕は殴った。

ハッキリ殴ると意志を込めて相手殴ったのは初めてだ。


ハイヤーンと名乗ろうとしたウサギは殴り飛ばされ、壁にあたって落ちる。


「ふうぅ、スッキリした」


ほんと、スッキリした。

これまでの人生で一番スッキリした気がする。


「ぬおぉぉぅ……い、いきなりなにをする!?」


ハイヤーンと名乗ったウサギは頬を抑え、困惑していた。

それはそうだ。目覚めていきなり殴られたらそうなる。


理不尽この上ないだろう。

でも僕はスッキリした。


ああ、とてもスッキリした。


「それはそうだよな。だがウォフが殴らなかったら、俺が殴っていた」

「ん……リヴも……殴っていた」


ブレードを見て言う。それで殴るつもりだったの?


「ワタシはウォフがやってくれたからいいわ」

「な、なんだ君たちは……その人として最低の暴言は、んん? なんだこの体?」


ハイヤーンと名乗ったウサギは自分の身体を触ったりして首をかしげる。

僕は尋ねた。


「ハイヤーン……なんですか?」

「い、いかにも、我はハイヤーン。神に挑むアルケミストだ。が、なんだこれは?」

「ウサギだな」

「ウサギよね」

「イエス……ラビット」

「それは分かっている。分かっているとも。あー、そこの綺麗な娘と可愛い娘。なぜ我はウサギなのだ?」

「ん……知らない」

「知らないわよ」


そう言われてもなぁ。

僕たちは見合わせる。


「どーすんだこの展開」

「ウォフ。あんた。呪われているんじゃないの?」

「えっ、いや、そんな僕のせいってさすがに」

「ん……少年……巻き込まれ……タイプ? あと……おねショタ……」

「おねショタ!?」


いきなり何を言っているんだこのひと。


「それとだ。なんで我は殴られたんだ?」


僕を恨みがましく非難めいたウサギの目線をする。

それが紫の瞳というのはともかく。


「それは―――白・青・赤にそれぞれ対応する三つの仕掛けをつくっておいて、碑文にもそう書いていて、実際は白だけで全て仕掛けが作動し、それで先に進んだらそれはズルだ愚か者よ天罰を受けよって強い魔物をけしかけるヤツが目の前にいたらどうします?」

「全力でぶん殴る」


ハイヤーンは真顔だった。


「なのでしました」

「あ、ああ、なるほど……そういうことか」

「納得しましたか」

「納得はしたが……うーむ」


なにかこう引っ掛かるみたいな顔をする。

アクスさんは訝しんだ。


「つか、本当にハイヤーンなのか」

「うむ。我はハイヤーン。アルケミスト・ハイヤーンである」

「三つのたまごの?」

「うむ。いかに……三つのたまご?」

「童謡よ。ハイヤーンは三つのたまごを持っているって」

「持ってはいたが……童謡?」

「ええ、実在していたのね」


それでミネハさんはふーんっと興味を失くす。

元々興味なさそうだった。


「待て。それで終わり? ハイヤーンだぞ。あの伝説のレリック【アルケミスト】の錬金術師のハイヤーンだぞ!?」

「そう言われてもね。歌の三つのたまごしか知らないのよ」

「他になんかあったか」

「……リヴは元々……知らない」

「童謡だけ!? え? ハイヤーンだぞ……?」


ウサギもといハイヤーンは愕然としている。

まあ色々と調べても殆ど資料無かったからなあ。

アクスさんが彼?を一瞥して、ため息をついた。


「なぁ、どうする」

「どうするのよ。ウォフ」

「なんで僕?」

「ん……だんちょー……だから」


まぁしょうがないか。


「あの、ハイヤーンさん」

「なんだ。我を全力で殴った少年」


根に持つタイプか。自業自得なんだけどな。


「なんでウサギかはさておいて、どうして……生き返っているんですか」


死んだら人は生き返らない。

それは世界の常識だ。


そして人は何度も蘇生を夢見ている。当然だ。

永遠の命と甦りは人類の夢だ。

このウサギがその成功例とは微妙に言い辛いが、一応はそうなはずだ。


「それは簡単な話だ。卵を使ったからだ。フェニックスの蘇生卵だ」


僕たちはざわついた。フェニックスの……蘇生……あるのか。

そんなのが。本当に? ハイヤーンは続ける。


「だが我はそのまま生き返るつもりは無かった。世界は腐っていた。世界は我を否定して敵になった。だから未来に希望を託し、我は未来に蘇生されることになった……はずだが」

「それがウサギ?」

「わからん。さすがの我もなんでウサギなんだかさっぱりだ。それになんでラボではないのだ?」

「ラボ?」

「ここはスペアキーの保管庫じゃないか」

「……スペア……」

「これのことか」


アクスさんが鍵をハイヤーンに見せる。

腕を組んで偉そうにしてからハイヤーンは頷く。


「まさしく。ラボのスペアだな」

「ひょっとしてそのラボって12階の箱舟遺跡にありませんか」

「箱舟……遺跡とはなんだか分からないな。12階とは?」

「ダンジョンです」

「ふむ? ルドベキアではないのか」


ルドベキア? 地名かな。

アクスさんとミネハさんは首を傾げている。

リヴさんがあっと言った。


「ん……そこ……とっくに……滅んでいる……4500年前……ぐらい」

「4500年!? 今は4500年後だと……?」


ハイヤーンは愕然とする。


「よく知っているわね」

「……パキラが……読んでいる本に……あった」

「で、では、ここは!?」

「ハイドランジアです」

「……あの異国の辺境の?」


おや異国? 僕は経緯を説明する。ハイヤーンは何度も頷き、唸る。

いちいち長い耳が動くのはなんだろう。


「ダンジョンの再現保存機能をうまく利用しているのは理解した……何者かが我の魂をこのウサギの身体に閉じ込め、スペアキーの保管庫に押し込んだというわけだ」

「それで4500年ね」

「本来なら100年後に目覚めるはずだったんだが?」

「知らねえ。気の毒なのか。自業自得の果てなのか」

「後者っぽいわね」


僕もそう思う。

ハイヤーンも思い当たりがあるみたいだ。ブツブツと何か呟いている。

何人か女性らしき名前が出てきている。後者だなこれ。


というかリヴさんとミネハさんに綺麗な娘と可愛い娘とか平然と言ってたよな。

スラスラとあんな軽い言葉が出るのかとちょっと驚いた。

リヴさんがつぶやく。


「ん……少年も……気をつけないと……ああ、なる……」

「いやなりませんよっ!?」


なに言ってんだこのひとは。


「いや、なりそうだぞ。我を全力で殴った少年」

「もう一度殴りますよ。あと僕はウォフです」

「ああ、俺はアクス」

「ミネハよ」

「……リヴ」

「ミネハ。リヴ。容姿と同じように響きが美しい」


無視された僕たち。それはともかく、やっぱもう一発殴ったほうがいいかなコイツ。

リヴさんとミネハさんは露骨に嫌そうだ。アクスさんは呆れている。


「それで、これからどうする」

「戻るしかないわね」

「ん……収穫なし……しょぼん」

「我はラボに行きたい」

「……」

「……」

「……」

「……」

「諸君。なぜ黙る?」


僕たち全員がこれどうしようと思った。

まあ連れ帰るしかないよな。












「ほう。ここがウォフの家か」

「……ああ、そうですよ」


リヴさんには真っ先に断られ、アクスさんはそもそもハイヤーンが拒否。

僕の家しか無かった。ミネハさんが冷めた目で言う。


「ウサギ。塔に入ったら殺すから」

「は、はい」


本当に殺しそうだ。

僕はため息をつく。


「じゃあ、こっちだな」

「むう。何故こんな扱いを? こんなに我は可愛いのに……アルケミストなのに」


不満そうに言う。僕はジト目をした。

コイツ。帰りにひと騒動起こそうとしやがった。

ウサギに落胆していたのに、それを利用して女の子をナンパしようとした。


「紫の瞳がバレてどうなってもいいならご自由に」


やや本気で突き放す僕。

ハイヤーンはバツの悪そうな顔をする。ウサギなのに。


「うっ、これは知らなかったんだ」


紫の瞳のウサギなんてトラブルの元でしかない。

聞けば、このウサギ。もといハイヤーン。

なんと種族はエッダ。だからウサギの紫の瞳なのか。そうなのか?


「ところでウォフ。あのうらやまけしからん生命体はなんだ?」

「ダガアのことですか。あれはペットでナイフです」


ぐったりしているダガアはミネハさんが持っていった。

ひょっとしたらと僕は期待した。ダガアはハイヤーン関連かも知れない。

しかし彼は舌打ちする。


「うらやまけしからんっ」

「……それ以外にないんですか。あれってあなた関係では?」

「まったく見たこともない。覚えもない。ただ、うらやまけしからん」


本当にアルケミストなのかコイツ。期待がドンドン落ちていく。

仕方なく僕の部屋に通した。見回して一言。


「少年って感じの部屋だな」

「それはそうですが」

「我は嫌いじゃない」

「それはどうも」

「ラボとはこういうものだ」

「いや部屋ですけど」


気にせずハイヤーンはベッドに座る。


「ふう。ここに来るときに見たのは街だった。ハイドランジアは湖では無かったか」

「南のほうにありますよ。水のダンジョンになっています」

「……4500年か」


ハイヤーンはアンニュイな表情をする。

そりゃあショックだよな。

起きたら4500年経過しててウサギになっていたなんて。


「…………」


よく考えなくてもショックどころじゃないな。

人によっては自害してもおかしくない。

ハイヤーンは目を細めて空を見上げるようにつぶやく。


「フッ、4500年後のあらゆる美少女と美女か」

「……」

「む。なんだ。そのゴミを見るような目は」

「さてと腹減ったな」

「おい。貴公。無視するな」


無視して僕は台所に立つ。

こうして僕はご飯をつくり、皆で食べる。


そのときのミネハさんはフェアリアルに戻っていて、ハイヤーンは驚いていた。

更に10歳と年齢を聞いて驚愕していた。騒がしいなあ。


相変わらずよく食べているが、ミネハさんの様子が何か変だった。

考え込んでいるような悩んでいるような。僕は心配そうに見守る。


スピアーのことで落ち込んでいるんだろう。

あれは彼女が母親から貰った大切なオーパーツ。


【スパイラル】を強化する効果があると聞いたことがある。

長年の相棒が無くなったんだ。


僕も最初のナイフが折れたときはかなり落ち込んだ。

その気持ちは痛いほど分かる。


いやだからといって折れ慣れたわけじゃない。

今だって折れたら悲しいし、絶対に折らないぞっていう覚悟を持っている。


さて食べ終わったので片づける。


「ナ!」

「こら、なにをする貴様っ! なんなんだこの生命体は!?」

「ナ!」

「やめるんだっ、このうらやまけしからんっ! 例えメスでも、我にはそんな趣味はないっ!」


片付け中。すっかり元気になったダガアがハイヤーンで遊んでいた。

まあ、危なくなったら止めるか。ってダガアはメスなのか。


知らなかった。というかなんで分かったんだあのウサギ。

まあいいか。ダガア。性別あったんだな。だからなんだという話だけど。


ふと、お茶を飲んでいたミネハさんが僕の肩にとまる。


「ねえ。ウォフ」

「なんですか」

「ちょっと話があるんだけど」

「話?」

「……塔の上で」


僕は目を見張った。

そしてミネハさんの張り詰めたような表情に頷いた。

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