即席狼団④・そして、そうして。
ミネハさんのスピアーが真っ二つになり、ミノタウロスの斧が横に振られる。
「ミネハさんぁっっ!?」
ミネハさんは!?
「ミネハさんっっ!」
「平気よ。そんな声を出さないでよ」
声をするほうを見るとミネハさんがいた。
小さくなって床に座り込んでいる。
咄嗟に元に戻ったことで斬られたのは免れたようだ。
でも彼女の武器が……ミネハさんは大きくなったままのスピアーを見ている。
「うおおぉぉっっ、せやあぁっ!」
『ゴオオオオオオォォォォッッッッッ』
「……宙の型……昴……マイアブレード……!」
アクスさんの剣とリヴさんの赤い斬撃がミノタウロスの亜種と切り結ぶ。
ミノタウロスの亜種は巨体とは思えないほどの素早さでふたりの攻撃を捌いていた。
強い。
一歩も動かずミノタウロスの亜種は四本の腕を巧みに動かす。
ふたりの攻撃に二本の腕で対応し、残り二本の腕で反撃する。
「うおぉっ、ぐぅっ!」
「ん……にゃろっつ……!」
アクスさんとリヴさんは攻めてはいるが、少しずつ押されている。
単なる力任せじゃない。あのミノタウロスの亜種は技を持っている。
いやレリックかも知れない。
「ウォフ。ワタシのことはいいから加勢してあげて」
「……」
そうだ。ミネハさんの言う通り加勢しないと、でも、どうする。
正直、ふたりとミノタウロス亜種の戦っている間に入れる気がしない。
むしろふたりの邪魔になってしまう。
「うぉぉぉっ、舐めるなぁっ!」
アクスさんが押し返して切り返す。凄いっ!
「……宙の型……昴……メロペブレード……」
ブレードが青くなるとリヴさんの動きが変化した。
一打で受けていたのを2打3打4打と高速で剣撃が増えていく。
うっすらとリヴさんの残像が見えた。
『オオオオオォオオオオォッッッッ』
耐えられなかったのかミノタウロスの斧が破壊された。
明らかに身体能力が上がっている。
「やるじゃねえかっ」
「ん……油断しない……それにもう……時間切れ……」
ブレードの青い光が点滅し、リヴさんは後ろに下がった。
そしてブレードの青い光が消える。
「ん……クール……タイム……少年」
「は、はい」
「任せた」
「……で、でも」
「ん……アクス……やばい」
「ぬぐぐぐぐぐうぅっ」
アクスさんがミノタウロス亜種の大斧に押されている。力負けしそうだ。
まずい。僕はアガロさんのナイフ改を構えて向かおうとすると。
「ウォフ。あんたのナイフ。1本、貸しなさい。気になっているのがあるの」
「わ、わかりました」
気になる?
不思議に思うとミネハさんはまた大きくなり、僕は言われたナイフを渡す。
その間、見かねたリヴさんがブレードを飛ばし、アクスさんを援護していた。
アクスさんは少し離れ、衝撃石を投げる。ミノタウロス亜種は衝撃で怯んだ。
『オオオオオオオオオォォォォ』
なるほど。ああいう風に使うのか。
「やっぱりね」
ミネハさんは呟いた。
僕はハッとする。彼女に促されて渡したのは、あの奇妙なナイフだ。
青色の鞘に納められていてソードガードは無い。
刀身はギザギザしていてまるで小さな三角形をいくつも繋げたみたいだ。
実は僕が持っているナイフの中では一番長い。
たぶんギリギリの長さのナイフ。
アガロさんが討伐した盗賊団の頭が持っていた三つのナイフのひとつ。
いや最後に残ったナイフだ。
「ミネハさん?」
「―――あなた。『オリオネス』っていう銘なの。良い名前ね」
ミネハさんはナイフを振った。するとナイフの刀身が三角形に分離していく。
えっまさか。
「レリック【|リモートオペレーション《遠隔操作》】」
三角形は床に落ちず、ピタッと空中で止まった。
「……ミネハさん。それって」
「オーパーツよ。しかも、あら嬉しい。レリック系統ね」
ミネハさんがナイフの柄を振ると無数の三角形は渦を巻く。
「……」
オーパーツかなって思っていたらやっぱりオーパーツだった。
しかもレリックが生まれるやつ。ビッドさんといい。最近、流行っているのかな。
どんな流行りだよ。
「アクス。下がりなさいっ!」
「っ!」
咄嗟にアクスさんは弾いて後ろに飛びのいた。
ミノタウロスの亜種が気付くが、遅い。
「ボルテックス!!!」
無数の三角形の刃の渦がミノタウロスに襲い掛かる。
『オオオオオオオオオオオオ』
切り刻まれていくミノタウロスの亜種。だが決定打にならない。
そしてボルテックスは長くは続かないだろう。
その間に討伐方法を考える。
アクスさんが言った。
「ミノタウロスの弱点は首だ」
「ん……それは……あらゆる……生物の……共通」
「まあ、それはそうだがミノタウロスの身体で唯一、柔らかい部分なんだよ」
「じゃあ首を落とせば」
「ところが俺の剣技だと切断できねえ。リヴは?」
「……ある……でも……今は無理……とっておき……使っちった」
「さっきのあれか。あれはあれで助かった」
「アタシのスパイラルなら、でもスピアーが……それと、そろそろヤバイ」
僕の【パニッシュ】なら……だが狙うのは首か。
「ナ!」
いきなりダガアが飛び出した。ナイフになって僕の手に収まる。
「使えってことか」
「ナ!」
「えっ、スパイラルをあんたにぶつけろ?」
ミネハさんが驚きの声をあげる。
「ナ!」
「エンチャント……そうか。それがあったわね。ウォフ。受け取りなさい!」
ダガアナイフにミネハさんが【スパイラル』をぶつける。
ダガアナイフに【スパイラル】がエンチャントされた。
「ナ!」
はいはい。分かったよ。
僕はアガロさんのナイフ改を仕舞う。
あれ、僕ミネハさんにエンチャントのこと話したっけ?
しかもすぐわかったことから、一緒のとき使ったことあるような感じがする。
あるな。あり得るな。
ダガアに教えて使ったとか容易に想像できる。
まったくそういうのは慎重にしないといけないのに。
だがこれでお膳立ては揃った。
「ん……なにしたの」
「エンチャント。おふくろに聞いたことがある。だがそれは大変希少なオーパーツでしかも属性だけだったはずだ」
アクスさんが訝しむ。
ミネハさんが平然と言った。
「ワタシも師匠に聞いたことあるわね。まあ、たぶんダガアはレリックならなんでもエンチャントするんじゃないの。それより、もう限界。だから後は頼むわよ」
ボルテックスが切れ、切り傷だらけのミノタウロスの亜種が咆哮する。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォ』
角が真っ赤になった。激怒している。
「ん……アクス……」
「しゃあねえな」
リヴさんとアクスさんがミノタウロスに立ち向かう。
「ふたりとも」
「俺らが囮になるから、ぶちかませよ。団長」
「……任せた……ぞ……少年」
『オオオオオオオォォオォッッッッッ』
三本の斧が滅茶苦茶に振り回され、リヴさんとアクスさんが剣を振るう。
僕は【静者】を使用する。心が落ち着く。だがなんだろう。
魂の器に静かに燃える炎がある。
「せええぇぇぇぇっっっ、一刀断魔! うぉっ、硬っ?」
「……宙の型……昴……タユゲテブレード……あっ、無理」
『オオオオオオオオオオオオォォォォォッッッ』
ミノタウロスの亜種はふたりを激しく弾く。
ここだ。僕はおふたりには悪いけど待っていた。
アクスさんとリヴさんを往なして無防備になった、この一瞬。
振り下ろした斧。振りあがった斧。弾かれた斧。
この確実な隙。
絶対な刹那の瞬間。たった数秒に満たない。それでも十分だった。
ほんの隙間があればそれで勝てる。
「―――サイレントムーヴ」
意識が戻るとミノタウロス亜種の首が落ちていた。
貫かれ弾け飛んだのを落ちたというならそうだろう。
僕のほうは、五体満足でなにも無かった。
アクスさんが疲れた吐息を出す。
「よう、やったな」
「ん……でかした」
「ありがとうございます。おふたりのおかげで」
「ナ~」
ダガアがふにゃっと力を失う。
ナイフのカタチを保てなくなると、リヴに抱きついた。
「ん……よしよし……」
「どうしたんだあいつ」
「エンチャント使うといつもああですよ」
「ねえ。ウォフ」
「あっ、ミネハさん」
「ワタシ。分かった」
まっすぐ僕を見て言う。
「え、なにがですか」
「はいこれ返すわ。なかなか使えたわね。『オリオネス』」
そう言ってミネハさんが僕にナイフを渡す。
青い鞘に収まる。三角形の刃が一列に連なっていた。
「……僕はこのナイフの名前を知りませんでした」
「それはそうよ。オーパーツは資格者にしか銘を教えないから」
「それならもうこれはミネハさんのナイフです」
僕はナイフを返した。
受け取ってミネハさんは僕をジッと見る。なんだろう。
「そう、それならありがたく使わせて貰うわ」
「それとスピアー。僕のせ」
「違うわよ。そういうこと言わないで。誰のせいではないわ」
破壊されたスピアーは欠片ひとつも残っていなかった。
全て回収したんだろう。
その後、討伐部位だからとミノタウロス亜種の赤い角をアクスさんが入手する。
そして黒い扉を開けた。
黒い柱。赤い祭壇。石碑。祭壇の上の台座。
「……碑文読みますか」
「別にいいわよ」
リヴさんとアクスさんのほうを見ると、ふたりとも興味なさそうだ。
僕はエリクサーの神聖卵を置いた。
黒い柱が二つに割れ、上だけ回転してさがり、鍵が―――んん?
そこにあったのは鍵ではなく、なんだこれ。
「なんなの」
「ん……球。なにか入っている」
「結構でかいな」
そう柱の上に球体があった。
卵かなと思ったがそれにしてはでかい。
するとその球体が消え、中にあるものが……丸まったものが起きる。
それは真っ白いウサギ? ウサギだ。どう見てもどこから見てもウサギだ。
普通のウサギよりやや大きいがウサギだ。あるいはウサギの魔物。
それが目覚めた。
「かわいい」
「ん…………めちゃカワ」
「なんだなんだ」
パチっと紫の瞳をみせる。
「むらさき……!?」
そのとき、僕は喜んだ。そう喜んでいた。
戸惑う。この喜びはなんだ。
なんで僕はこのウサギが目覚めて喜んでいるんだ。
僕の心にあるのは確かな歓喜だ。
前世の記憶が―――このシチュは、いやだが……まさかまさか。
このシチュはあれか。だから僕は喜んでいたのか。
ああ、この奇跡に僕の目の前に現れてくれてありがとう―――自然とこぶしを握る。
そのウサギは紫の瞳で僕たちを眺めて、言った。いや笑った。
「ハッハハハハハッッッー!! ハァッーハハハハハッッー!! 聞け。我の名はハイヤーぐぇはぁばあぁっっっ!?」
僕は殴った。




