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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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154/284

即席狼団⓪・最後のひとり。

当日2週間前。

最後のひとりがまだ見つからない。


ビッドさんは【瞬足】がとてつもなく嬉しかったのか。

修行といって遠征に行ってしまった。お土産期待してっスと言われた。


僕は初めての依頼を終えた後、次の依頼は受けていない。

最近はずっと魔女のところに行っている。


魔女はようやく修復の仕事がひと段落した。

なので来てもいいと使い魔の手紙にあった。


それは好都合だ。魔女にはどうしても教えてほしい技術があった。

それを魔女に頼むと承知してくれて、その技術を学んで護身術の訓練もする。


いつ最後のひとりが見つかってもいいように準備はする。

まあ出来ることは少ないけど、僕はこの機会に装備を整えた。


丈夫でなおかつ軽い魔物の革鎧と真新しいジャケット。静聖の小手。

ナイフは増やしたいが、動ける限界というのがある。


今も4本でかなり重い。

なので増やせない。それと1本たりとも折ってはいけない。

誓ったんだ。もう僕はナイフを折らない。


しかし装備重量は実際、馬鹿に出来ない。

僕は体が小さい。13歳だから当然だけど、同年代と比べても少しだけ背が低い。


でも悲観はしていない。まだ成長期が来ていないだけだ。

そうまだ成長期が来ていないだけだ。


「……おなか空いたな」


今日も魔女の修行でヘトヘトだ。

よしシードル亭に行くか。大きくなる為にバターライス大盛を食べるぞ。

シードル亭は今日も賑わっている。空いている席に座って注文する。

ふと声が聞こえてきた。


「おい。そろそろらしいぞ」

「なにがだ?」

「街のダンジョンだよ。調査団の報告結果でそろそろ解禁されるらしい」

「やっとか。結構、依頼溜まってんだろ」

「商会の指名依頼もあったよな」

「なんだかんだ。あのダンジョンでしか採取や討伐できないモノもあるな」

「それでいつぐらいなんだ?」

「早くて1週間。長くて2週間か1か月」

「んじゃあ、まぁのんびりと待つか」

「そうだな。おーい。こっちにエールをふたつ」

「あいよー」


街のダンジョンが解禁される。そうすれば12階へ行ける。

箱舟遺跡か。その前にゴミ場の聖室か。


「ふう」

「あれ。アクスさん?」


僕の横を通り過ぎるフォーンの男性。アクスさんだ。


「ウォフか」

「どうも」

「……そこの席、いいか」

「えっ、どうぞ」


アクスさんは僕の対面に座る。


「レルさんたちはいいんですか」

「あ、ああ、今はソロだ」

「え? 雷撃の牙として活動してないんですか」

「解散したわけじゃない。その、なんというかふたりは……逃走中だ」

「へ……?」

「ああ、なにか犯罪をしたわけじゃない。すまん。特大エールをひとつ」

「あいよー」


アクスさんは通り掛かったウエイトレスに注文する。


「なんで逃げているんですか」

「なんで、というか。レルの姉から逃げているんだ」

「あー……シェシュさんですか」


ジューシイさんは妹。ドヴァさんは体力無さそう。

そうするとシェシュさんだ。有名な傭兵で護衛。

アクスさんは驚いた。


「知っているのかっ」

「はい。僕も彼女たちとは、妙な縁がありまして」

「そうなのか。さすがウォフだな」

「え?」

「それならタサンだって知っているのか」

「はい。もちろん。えっと、レルさんならまだしもホッスさんもですか」


何も関係ないのでは?


「あいつ。咄嗟にレルの姉の剣を受け止めてしまってな」

「あー……」


やっちまったわけか。


「だからしばらくふたりは街から出ている」

「それでソロなんですね」

「まぁな」

「お待たせしました。特大エールです」

「お待たせしました。バターライス大盛です」


僕とアクスさんの注文品が同時に来た。

アクスさんは特大ジョッキを掴むとエールを豪快に飲む。


「ぷはぁっ、やっぱこれだな」

「うぅーん。これ。これ」


僕はバターライスを食べて満足に頷き、アクスさんに言った。


「それなら今は依頼とかなにもないんですか」

「そうだなぁ。今は特に無いなぁ」

「それなら、指名依頼があるんですけど、どうですか。参加してみませんか」

「指名依頼?」

「あっ、その前に僕、特例で探索者になったんですよ」

「マジか!?」

「ああ、でも第Ⅴ級ですよ」

「……魔女か」

「はい」


さすがアクスさん。すぐに察したなぁ。ははは。


「にしても第Ⅴ級に指名依頼か。その物好きは誰なんだ」

「アルハザード=アブラミリンです」

「……ん?」

「ですからアルハザード=アブラミリンです」

「―――それって……近所の肉屋のおっさんとかじゃねえよな。ほらアンブラミカルビタンとか」


なにその焼肉。


「は、はい。グランドギルドマスターのアルハザード=アブラミリンです」

「…………………―――マジで?」


目が点になるアクスさん。


「はい」


素直に頷くとアクスさんは残ったエールを無言で飲み干す。

特大ジョッキを空にすると、また同じのを注文し、僕に言った。


「経緯、聞かせてくれるか」

「はい。ことの起こりは―――」


パキラさんたちのときとほぼ同じように語る。

アクスさんは再々注文した特大エールを飲んで頷いた。


「なるほど……なんだが」

「どうしました?」

「その発端となった屋敷……トルクエタムの拠点なのは知っている」

「知っていたんですか」

「ああ、そりゃあトルクエタムは有名だからな。あれだけの美少女が3人だぞ。女が苦手の俺でも耳には入る」

「まぁ確かに」


なにかと目立つのはあるけど、まだ女が苦手だったのか。

アクスさんは尋ねた。


「それで屋敷に入ったんだな」

「そうですね。リヴさんに誘われまして」

「……さすがウォフだな」

「え?」

「いいぜ。俺で良ければ、参加したい」

「あ、ありがとうございます」


さすがってなんだ。

さっきからこうなんか。


「それで他のメンバーは?」

「はい。ミネハさんとリヴさんです」

「リヴってトルクエタムの?」

「はい。そうですが」

「ああ、なるほど」

「ミネハもか。そういえば、あいつ。どこに住んでいるんだ?」

「えっ、知らないんですか。僕の家ですよ」

「……ウォフの?」

「はい。さっき話した中庭の塔に勝手に住んでます」

「なるほど……さすがウォフ」

「え? あのさっきから僕が何を?」


だから、さすがってなんだ。なんか誤解していないか。

アクスさんはやや言い辛そうにしてから口を開く。


「あー、相変わらず女と仲が良いんだなあと」

「……否定はしません……」


僕は苦笑いする。それはさすがに否定できない。

アクスさんはすまんと謝って。


「いや俺もいつまで女が苦手っていうのは、その自覚はしているんだ。それに苦手だけど嫌いっていうわけじゃない。俺も男だからな」

「はあ、まあ、わかります」

「だから、そのさすがウォフってつい言ってしまった。わりぃな」

「いえ、まあ別に……理由が分かったんですけど、アクスさんってその女性の好みのタイプとかあるんですか」

「いきなりだな。そ、そうだな……エルフかな」

「エルフが好きなんですか」

「……おふくろがエルフなんだ」

「あー……」


エルフなのか。へえー。


「いや待て。変な意味じゃないぞ。その、身近の女性がエルフだから」

「じゃあルピナスさんとか」

「あれはない」


即答された。


「えっでもエル」

「あれはない」

「はい」


喰い気味に否定された。


「それで、おまえはどうなんだ?」

「え? 僕は、その、まだそういうのはよく分からないので」

「おいおい。じゃあこの話はやめよう」

「はい」


アクスさんはエールを飲む。

僕も喉が渇いたのでレモネードを飲んだ。ぷはっ。


「なんにせよ。楽しみだ」

「はい」

「まずはウォフが探索者になったことに」

「ありがとうございます」

「そしてアブラミリンの爺さんの指名依頼が成功するように」

「はい」


そうアクスさんは乾杯して一気飲みした。








次の日。

シードル亭で僕たちは集まった。

テーブル席に僕。ミネハさん。リヴさん。アクスさんの順で座る。

エールとか頼んでからアクスさんが微苦笑した。


「まぁ今更、自己紹介しなくてもいいな」

「そうね。アクス。久しぶり。師匠と連絡取れた?」

「まだだ。おふくろ。まだ戻っていないらしい」

「師匠らしいわね」

「まったくだ。それで、えーと久しぶりだな。リヴ」

「ん……アクス……知り合い……ホッとする」

「まぁ、今回の依頼は知り合いしか頼めませんから」

「それもそうね」

「そうだなぁ。さてと、じゃあまずはパーティーの名前からだ」

「やっぱりそうなりますか」


ちょっと僕は呆れる。ろくな思い出がない。

ミネハさんが尋ねる。


「それで案はあるの?」

「ん……ウォフ様調査隊」


リヴさんが真っ先に言う。どこか聞き覚えがあるなぁ。

つか却下だそんなの。


「まあまあ、良い案ね」

「いやいや、なんで僕の名前が」

「そりゃあ、これはおまえの指名依頼だからな。でだ。即席狼団ってどうだ?」

「どういう意味?」

「ん……狼……って?」


少なくともウォフ様調査隊よりは100億倍マシだ。

アクスさんはエールを飲んでから言う。


「ウォフとミネハ以外、俺とリヴはパーティーに入っているが今はソロだ。ソロってことはつまりロンリーウルフだ。そんなロンリーウルフが即席に集まっている。だから俺たちは即席狼団だ。どうだ?」

「いいですね。とってもいいです!」


僕は大賛成した。そのロンリーウルフっていうのはよく分からなかったけど。

狼っていうところから格好良い。ウォフ様調査隊よりは1000億倍マシだ。


ミネハさんは自分の体の倍もある骨付き鶏肉を食べて言う。


「悪くないわ。リヴは?」

「ん……恰好良い……からよし……グッド」

「決まりだな。俺たちは即席狼団だ。ウォフ団長頼むぞ」

「やっぱり僕ですか」

「そうよ。団長」

「よっ……団長」

「よし。全員、ジョッキを持て」


僕たちはアクスさんの言われた通りにする。


「ウォフ団長。乾杯の音頭をお願いします」

「は、はい。えっと、即席狼団に乾杯!」

「かんぱい!」

「乾杯」

「ん……乾杯」

「ナ!」


杯を打ち鳴らした。

こうして即席狼団が誕生した。


僕は全く思わなかった。

まさか、これから何度も即席狼団の名前を使うことになるなんて。



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