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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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第V級探索者⑦


いったいどうしてこうなったのだろう。

操縦稈を握った途端、横に折れてまるでバイクのグリップみたいになったからか。

そして前世の記憶でバイクに乗ったことがあるからか。


グリップはバイクなのにアクセルとブレーキは車みたいに下部にあったからか。

それからアクセルとブレーキを踏み間違えたからか。

クリッブを握ったら最初からフルスロットルで発進して祠を壊したからか。


そのまま大河を爆走し続け、これヤバイなと感じたのでブレーキを踏む。

そう思ったらアクセルだったからか。

気付いて慌ててブレーキを全力で踏んでも何故かまったく効かず。


それどころか更にスピードアップする始末。

とんでもない速さで大河を暴走して、片っ端から水棲の魔物をフッ飛ばしたからか。


外からするとまるで黒い弾丸なんだろうなと呑気に思う。単なる現実逃避だ。

それとも黄色い光だったからか。なんだかろくな目にあってない気がする。


そして黒い舟は空を舞った。










気付くと地面の上に転がって寝ていた。

なにかが顔を叩く。ぺちぺちと、ぺちぺちと、誰だ?


「ナ!」


ダガアが赤い瞳を大きくして僕を見ていた。


「おまえか」

「ナ!」

「……助かった。けど、ここは……?」


身体を起こす。


「はあぁーはぁー……あっ、うっ、し、死ぬかと思ったっス……!」


声がする方を見ると、やや離れたところでビッドさんが横向きに倒れていた。

叫んだので無事なようだ。


「……島か」


土の匂いがする。大河で土があるのは島だけだ。

ビッドさんが上半身を起こす。小振りの胸を揺らす伸びをして僕を見た。


「ウォフくん。だいじょうぶっスか」

「は、はい。なんとか」

「お互い生きていて良かったっス……あの舟は?」

「えっと、わかりません」

「んじゃあ探すっス」


ビッドさんは立ち上がった。


「探すんですか」


僕はちょっと驚いた。


「そりゃあそうっスよ。あんな凄いレジェンダリー。滅多にお目に掛かれないっス。一攫千金のチャンスっスよ!」

「それはそうですけど」


僕は不安になった。あれは完全にブレーキが壊れていた。

そればかりではなく両方ともアクセルになっていた。


あんなの危険過ぎる。

それを察しているのかビッドさんが言う。


「だいじょうぶっスよ。乗るわけじゃなく調べるだけっス。それにウォフくんも気になるっスよね」

「それはそうですけど……」


気になる点は多い。


「では探索出発っス!」

「あの、ところでこの島ってどこか分かります?」


ビッドさんは周辺を見回した。

ニッと自信満々に微笑む。


「わからないっス!」

「そうっすか」


まっ、それならそれで探索するか。

かくして僕達は黒い舟を探すこ。



ドッカアアアアアアアァァァァァァァンッッッッッッ!!!!!!



突然、島を震撼させるほどの爆発音とともに爆風が僕達を襲った。


「っ!?」


身体が浮いて地面に叩きつけられて僕は転がった。

痛みで息がつまる。


「ウォフくんっ!」

「ナ!」


とても濃い煙が周囲を包んで風で流れ去る。

次はいったいなにが起きたんだ……?


「ウォフくん。だいじょうぶっスか」

「な、なんとか……ビッドさんは?」

「なんとかっス」

「ナ!」

「おまえも無事か」


まあ無事だろうな。僕はゆっくりと立ち上がる。

身体の節々が痛む。だが酷い怪我というわけじゃなさそうだ。

打ち身や捻挫もしていない。


「あれ、なんなんっスかね」


ビッドさんが首で示す。

モクモクモクモクっと真っ黒い煙がゆらゆらと立ちのぼっていた。

周辺の木々は倒され、何本か吹っ飛んで大河に落ちている。


「……行ってみますか」

「そうっスね」


たぶん。おそらく、爆発したんだろう。あれが。

それしかない気がする。


辿り着くのは容易かった。途中で魔物に遭遇したが大したことじゃない。

水吹きトカゲ。アクアエッジウルフ。それと水妖の兵士3体。


「すごいっスね。水妖の兵士が肉みたいに切断されたっス」

「でも……よくわからない感触でした」


攻撃を避け、袈裟斬りするとそう感じた。

例えるなら重みのあるゼリーを切ったような。

水妖の兵士は水妖人形シリーズの兵士。全身が水の兵士だ。


「ナ!」

「―――出番が無いからって俺の頭を叩くなよ……」


さっきからこの調子だ。ぺちぺちと僕の頭にのって額を叩く。


「あははっ、ご立腹みたいっスね」

「ナ!」

「だから叩くなよ」


痛くないけど目障りだ。

まったく最近、変に刃物としてプライドを持ち始めたみたいだ。


ビッドさんがダガアを僕の頭から取って胸に抱く。

大きな目印があるので辿り着くのは容易かった。


島の中腹に小さなクレーターが出来ていた。

クレーターから黒い煙があがっている。


中心に見覚えある黒い残骸が散らばっていた。

折れたグリップ。液晶玉の破片などもみえる。

ビッドさんは察して駆け寄ろうとするが、僕は止めた。


「な、なんっスか」

「行くと死にますよ」

「なっ!? なんでそんな……レリックっスか」

「はい」


念の為にレリック【危機感知】を使った。

あのクレーターは真っ黒だ。黒=死だ。


「離れましょう。この辺も危険です」

「……わかったっス」


この辺も赤い。赤は危険だ。怪我をする。ダメージを負う。

ガスか何かか分からないが僕達は立ち去った。


そのあと島の反対側で舟を見つける。

オールで漕ぐ普通の白い舟だ。


僕達は舟に乗った。大河に漕ぎ出す。

対面で座る。ビッドさんはオールを丁寧に漕ぐ。

どこか力無い。僕は話し掛けた。


「……おそらくあの爆発は僕達が乗っていた舟でしょう」


残骸という確実な証拠が物語っている。

ビッドさんは溜息をついた。


「やっぱりそう思うっスか……」

「はい」

「はぁ、一攫千金……」

「また機会がありますよ」


がっくり俯くビッドさんを慰める。

こういうの苦手だな。うつむき加減に彼女はぶつぶつと呟く。


「機会なんてそうないっス。はあぁ、『ザン・ブレイブ』解散とかウチは本当にツイてないっス。昨日食べた干し肉が腐っていてお腹がえらい目にもあったっス」


それは関係無いような? 

しかし、うーん。まあ僕のせいだからなぁ。


「ビッドさん」

「さげまんのウチになんっスか」

「さげ……『フォーチューンの眼』を知っていますか」

「そりゃあ知っているっスよ。それがどうしたっス?」

「僕、それの上位互換のレリックがあるんですよ」


ビッドさんは顔を上げた。驚いた表情をしている。


「あっだから、あの奇妙な舟が分かったっスか。てっきり林の奥で」

「てっきり?」


林の奥?


「な、なんでもないっス。でもなんでそれをウチに?」

「お詫びというか。水妖の踊り子でも迷惑をかけてしまったので、あの、同じくらいの何かこう宝とか」

「本当っスか!? えっと、いいんっスか?」

「いいですよ」

「…………それなら、実はウチ。このダンジョンで見つけてしまったっス」

「みつけた?」

「―――その前に回復の泉っスね」


ふふっとビッドさんは微笑む。


「あっ」


僕はハッとした。忘れてた。


「続きはウォフくんの初めての依頼を終わらせてからっス」

「……わかりました」


地図で確認すると、回復の泉がある島はここからふたつほどの島だった。

先程に比べると遅いほどだが魔物にあまり遭遇せず、無事に目的の島へ着いた。


1階の回復の泉とあまり変わらない泉だった。

調査キッドを使って同じようにする。異常は無かった。


「休憩所なのに人がいませんね」


無人だった。そういえば1階もビッドさんだけだった。


「まあ、あまり使われてないっスからね」

「そうなんですか」

「回復って言っても単なる泉っスからね。それと魔物が来ないってわけじゃないっスから」

「利用者が少ないんですね」

「水も大量にあるっスからね」


見渡す限りあるよなぁ。


「まあ僕の依頼が無駄とは言わないけど」

「ウォフくんはなんでこの依頼を受けたっスか?」

「探索っていうのと、面白そうだからですね」

「面白そうっスか。確かに色々な意味で楽しかったっスね……」


ビッドさんは遠い目をする。僕は苦笑いした。


「まだ終わってませんよ。6階へ行きましょう。ここから6階へ行ける島があるんですよね?」

「あるっスよ。ウチはそこから3階へ戻って来たっスから」

「ということは6階に?」

「もうちょっと下っスね。さすがに40階とかはウチだとソロじゃ無理っス」


まあ、水妖の踊り子みたいなのが普通に居るんだろうな。

再び僕達は白い舟に乗って大河を漕ぐ。

小物だが水棲の魔物に遭遇し、戦い通り過ぎる。倒す必要はない。


6階のショートカットがある島に着いた。

その島には石造りの祠があった。


さっきの祠とは明らかに違う親しみのある祠だ。

祠の中には……なるほど。


「転移陣ですか」

「そうっス」


白く緑色に光る転移陣があった。



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