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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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149/284

第V級探索者⑥


水妖の踊り子戦の後、ビッドさんに詰め寄られた。

グイグイっと接近する。近い近い。


「どういうことっスか。ウォフくん」

「ナ、ナイフならあれは」

「そうじゃないっス。いやそれもあるっスけど、囮になるってことっスよ」

「あれは……そのほうがいいかも知れないと思って」

「わかるっスけど、もう少し相談して作戦を練ることも出来たっス。結果的に倒せたっスけど、次もうまくいくとは限らないッス。こういうのは命が掛かっているからしっかりしないといけないっスよ」

「すみません」


彼女の言う通りだ。また独断専行してしまった。

反省して謝るとビッドさんは僕の頭を撫でた。


「それにしても凄いナイフっスね。オーパーツっスか」

「それが……まぁそんな感じです」

「ナイフのこと教えてくれれば良かったっス」

「すみません」


ビッドさんは笑顔で僕の頭を撫で続ける。

反省と謝罪も込めて僕は黙ってされるがままにした。


撫で終わると、僕達は祠へ。

そっと覗くと水の上に一隻の舟があった。


黒い舟だ。二人乗りにしては大きい。

前方は笹の葉みたいになっていて後方には逆尾翼が付いている。

更に舟の前方には楕円形のガードが付いていた。


後ろには妙な白い箱が設置されていた。舟の上と下で四つの箱だ。

しかも箱の後ろはスラスターになっていて、管で連結されていた。


よく見ると逆尾翼もスラスターになっていた。

繋がっているのか。ビッドさんがつぶやく。


「なんなんっスか。こんなの見たことないっス」

「…………」


この舟、かなり凄いモノだ。

こんな舟がよく残っていたものだ。林のかなり奥だから誰も来ていないんだろうな。


でも林を探索しようと考える変人や物好きは居なかったんだろうか。

まあ大河を舟で渡るのが次階へのルートだからここまで奥は居なかったかもな。


もし居たとしても、水妖の踊り子を見て逃げたか戦って負けたか。

勝てる実力者がこの林の奥に来なかったのはちょっと疑問に残る。

なんにせよ。前線の記憶がある僕には分かる。


この舟はモーターボートだ。

あるいはそれに近いモノだ。


「はぁー、舟っスけどこれはどうしようも、ウォフくん? なにしてるっスか」


乗り込んだ僕を不思議そうにするビッドさん。

舟の中は真っ白で青い光る線が真ん中に引かれていた。

座席は三つで、三角形のように配置されている。


見回して、一番怪しいのはこれだな。

三角形の頂点の座席。ちょうど前方ガードの真下。その座席に黒い台座があった。


台座には二つの黒い角が真横から生えた玉が置いてある。

黒い角は尖って無く握りやすそうなカタチをしていた。


灰色の玉でやや半透明だ。

僕は玉に手を軽く乗せる。すると光った。


「うわっ!」

「なんっスか!?」


思わずといった感じでビッドさんも舟に乗った。


玉に文字が浮かんでいる。古代文字だ。

ふむふむ。【起動】するか【停止】するかどうか。


これ指で押して選ぶっぽいな。

液晶パネル? 液晶玉? 僕は【起動】を押す。


フイイイイイイィィィィィィィィン。


「この音は」

「ナ?」

「あーもう! 今度はなんっスか!?」


何かが始動する音が後方から聞こえる。エンジンが掛かったか。

そして座席位置から、液晶玉の真横から生えている二本の角は……なるほど。

僕は振り向く。


「ビッドさん。ってちょっ、な、なにしているんですかっ!?」


ビッドさんはジャンバーを脱いで上着を脱ぐ途中できょとんとする。

黒いシャツの下には薄いピンク色のブラが丸見えだ。


慎ましくもへえ、可愛いな。じゃなくて。


「なにって、ウチにはよく分かんないっスけど、ウォフくんはこの舟で向かうつもりっスよね」

「そ、そそ、それはそうですけど、なんで脱いでいるんですか」

「なんでって、布面積を少なくすると川に落ちたとき泳ぎやすいっス」

「そ、それはそうですが、で、でも下着姿なんて」

「これは水着っスよ」

「えっ、水着?」


そうっスよ。とビッドさんは上着を脱いだ。

そしてスパッツに手を掛ける。


「そ、それも脱ぐんですか」

「んっ、そうっスけど?」

「……」


スパッツは肌にピッタリと張り付くから、ビッドさんはゆっくりと脱ぐ。

途中、スパッツが足に引っ掛かり、引っぱって取るのは僕には刺激が強過ぎた。


なぜだろう。とてもエッチだった。

ビッドさんは微苦笑する


「てへへっ、転ぶところだったっス」


脱いだ服をポーチに仕舞って水着姿になると、青ジャンバーを着る。


「あれ、それはいいんですか」

「これ、水に落ちたとき浮輪になるっスよ。それとすぐ乾くっス」

「なるほど……便利ですね」

「リヴさんに貰ったっス」

「あーなるほど」


しかし……水着姿にジャンバーとか、なんかこう。


「なんっスか。ウォフくん?」

「あっ、いえ、似合っているなって」

「そ、そうっスか。えへへっ、嬉しいっス」


照れるようにビッドさんは笑った。

僕はなんかドキドキするなあと一番前の席に座る。


祠の中とはいえ長い時間晒されているはずだ。

なのに椅子は新品同様でフカフカしている。


それで気付く。この舟の中、埃がひとつ落ちていない。

更にベルトを閉めて気付く。ちょっと背が足りない。


そう感じたら座席が勝手に調整された。

何気に凄い技術だ。いやいや、なんなんだこの舟。

不安になってきたがもうここまで来たら乗るしかない。


「えっ、座るってこの椅子っスか?」

「はい。座ったらベルトを閉めてください」

「ベルト……? あっ、あったっス」


ビッドさんは座ってベルトを閉める。

それを確認した僕は液晶玉の横から伸びる黒い二本の角―――操縦桿を握った。









水のダンジョン。3階の大河は探索者が最初に訪れる大河である。

対岸が見えないほど幅広く、大小様々な島があり、それらを舟で向かう。


大河には水棲の魔物が潜んでいて、特に気を付けないといけないのは大型魔物魚だ。

その中には舟ごと探索者を飲み込む厄介なのもいる。


3階なのでそんなに強いのはいない。

だが舟という狭く限られた場所で戦わないといけない。


しかも周囲は水だ。落ちれば魔物の餌になりかねない。

それよりも危険なの河に流されることだ。


運よく島に辿り着けばいい。

だが大河の終わりは滝。大滝だ。


しかも次の5階を飛び越して次の13階の大河に繋がっている。

その高さと水の濁流。まず命はない。


「うおおっ、くそっっ、漕げ漕げ漕げ!!」


10人以上が乗っている大舟の探索者たちは必死にオールを漕いでいた。

背後から迫るのは大型魔物魚のバオゴーンだ。

キラキラと鱗を光らせ、大口を開けている。


何人か攻撃するがなかなか当たらない。

不規則に揺れる舟からの攻撃を当てるには、もはやレリックしかない。


しかし彼等の中にはそのレリックを持っている者は居なかった。

属性レリックと近接攻撃に特化したレリックが殆どだ。


「うおおぉぉっっっ、次の島だっ! 次の島まで!」

「リーダーっ! 島が見えましたっ!」

「よっしゃああっっ、もう少しだっ! 漕げ漕げ漕げこ」

「リーダーっ!?」


リーダーの頭に鋭い何かが当たって、彼は大河に落ちた。

すると水面から何匹も小さな魚が飛び出て来る。


一つ目で尖った口が銃口になっている。

それを見て探索者のひとりが叫んだ。


「鉄砲魚だあぁぁぁっっっっ!!」

「うそだろおぉぉっっ!?」


大舟はたちまち穴だらけになる。沈む寸前、鉄砲魚たちは逃げた。

バオゴーンの接近に気付いたのだろう。かろうじて何人か生き残った。


だが背後からはバオゴーンが大口を開けてやってきている。

もうおしまいだと絶望する探索者たち。


そのときだ。聞き慣れない強烈な衝突音がして、バオゴーンが宙を舞った。

意外と貧相な下半身を晒してバオゴーンは前方の島に落ちた。


陸に上がった魚はただの肴である。

バオゴーンが食べられるかどうかはともかくまな板に乗った鯉も同然だった。


「い、いったいなにが」

「と、とにかく助かった……」

「あ、ああ……」

「なんだったんだ。あの黒いの」


謎は残ったが彼等は助かった。

途轍もなく凄まじいスピードで何か黒いモノが取り過ぎていく。








「ちょっ、ちょっと、ちょっと、今なにかにぶつかったっス!」

「えっ、そんなこといっても全然止まらなくてっっっ」

「うわうわっ島っス!?」

「おわぁっ! とととと、止まれええぇぇっっ」


黒い舟が空を舞った。


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