第V級探索者④
探索者ギルド・ハイドランジア支部。
呼ばれて来ることが多いが自発的に来るのは初めてだ。
まずは壁の依頼を見に行く。
壁一面に貼られた依頼は階級ごとに分れている。
依頼書には番号があり、その番号を覚えて依頼受理受付の受付嬢に伝える。
そしてその依頼が受けられるかどうか確認作業が完了し、依頼の詳細が聞ける。
受けられるかどうか。それは重複だ。依頼は基本的に先行順。
つまり最初に依頼を受けた者の権利となる。
依頼書を変更する作業時間は決まっているから番号の確認作業がある。
だからもし金稼ぎか目的がある依頼ならば朝早くに来ないといけない。
さて掲示板に貼ってある依頼は通常依頼。
誰でも受けられる依頼だ。
ギルド依頼は探索者ギルドが探索者にする依頼。
安くてキツイが昇級する為のポイントが高い。
指名依頼は依頼主が直接指名する依頼。
指名依頼のギルド仲介料が高いので大体は貴族が多い。
依頼内容は基本的に四つ。
【採取】・【討伐】・【探索】・【護衛】だ。
そのうち【採取】と【討伐】と【護衛】はどんな依頼か想像はつく。
だが【探索】とはなにか。
第Ⅵ級が必ず最初に受ける基本依頼にもあった。
説明を受けて、まあ必要だけど、なんとも地味だなと思った。
でも僕は興味をもった。
だから【探索】の依頼を受けることにした。
第Ⅴ級の掲示板の依頼書を眺める。
討伐。討伐。採取。護衛。採取。護衛。護衛。探索。あった。
『水のダンジョン。回復の泉の調査。依頼料1200オーロ』
安い。他と比べると……一番安い。これギルド依頼だな。
【探索】は通常依頼だけどギルド依頼も含まれている。
というかアガロさん曰く【探索】の殆どがそうらしい。
にしてもあれだ。ゴミ場漁りに比べると1200オーロは大金だ。
「―――これにするか」
僕は番号を覚え、依頼受理の受付へ向かった。
依頼受理の受付に行くと番号札を渡された。
受け取って近場の長椅子に座る。
なんかこう番号札をもらってこういう長椅子に座って待つ。
妙な懐かしさが込み上げてくる。
「……変な感じだな」
「ナ?」
「……騒がしいのに妙に静かにも感じる」
「ナ?」
そういえばこのところ。いつも誰かが居たような気がする。
少し前まではずっとひとりだったからな……なーんて変な感じで苦笑した。
しばらくすると番号が呼ばれる。
「あー、お待たせしました……依頼受理ですね。探索者タグを提出してください」
受付嬢はエルフだった。
プリンみたいな黒い金髪を簡素な木の手作り髪飾りで折り畳んでいる。
青い瞳で目の隈が濃い。右耳にピアスを四つほど付けて、長い耳だから目立つ。
なんていうか……ギャル? 名札には『コルテ』とある。
僕はタグを提出した。コルテさんは裏面を目視で確認。
「はい。確認しました。それでは依頼番号をどうぞ」
「Vの1566です」
「少々お待ちください」
コルテさんは離れると、少しして一枚の羊皮紙を手にして戻る。
「えー、これですね。『水のダンジョン。回復の泉の調査。依頼料1200オーロ』―――ああ、これ。これでいいんですか」
内容を読んでコルテさんは不思議そうに言った。
まあ、そういう反応になるよなぁ。
「はい。それでお願いします」
「んー、では説明しますね。まず水のダンジョンはご存知ですか」
「はい。場所は知っています」
ハイドランジア。
大陸でも珍しい無数のダンジョンが周囲にある大ダンジョン都市だ。
街の中にもあり、ハイドランジアを中心に東西南北に火水風土のダンジョンがある。
火のダンジョンは西。水のダンジョンは南。
風のダンジョンは北。土のダンジョンは東。
そして四つのダンジョンの周囲に小さなダンジョンがいくつかある。
「あー、水のダンジョンはその名の通り、豊富な水源のダンジョンです。魔物も水棲が多く、また液体系も他と比べると多いのが特徴です。他のダンジョン同様。未だ最深部は不明ですが、階層を下るにつれて毒沼などの危険な液体が増えてきます。ウォフ様は第Ⅴ級ですので階層は30階までとなっています」
「はい。わかりました。回復の泉ってなんですか」
「んー、回復の泉は水のダンジョンの6階層までにある計3か所の休憩所です。えー、回復とありますが、普通に飲める水質の水が湧き出る泉があり、休憩できるので回復の泉と呼ばれています」
「なるほど……」
「それで調査というのは、これから渡す調査キットを使って回復の泉を調べてもらいます。回復の泉は1階。3階。6階にあります。そこまでの地図もありますのでご安心ください」
「地図……水のダンジョンは広いって聞きます」
「そうですね。なので迷わぬように地図を活用してください」
「わかりました」
「んー、他に聞きたいことはありますか」
「水だから火は有効なんでしょうか」
「あー、そうですね。属性で火があれば有利に進めるのは確かです。ですがそれだけで進めるというものではありません。あれば有利というだけです。ただ属性が無ければ安い火石や衝撃石などのレガシーを持つのをお勧めします」
「衝撃石ですか」
確か投げれば衝撃を発生させる属性石と同じ使い捨てのレガシーだよな。
「衝撃石は便利です。階層が浅いところなら大抵の魔物に効果があります」
「ありがとうございます。さっそくいくつか買ってみます」
「注意がひとつだけあります。ウォフ様は雷の属性を持ってますか」
「いいえ。属性のレリックはないんですよ」
「んー、それなら……一応、覚えておいてください。雷は危険です。水は雷を通すのでヘタをすれば死にます」
「わかりました」
「えー、質問は他にありますか」
「この依頼は期限とかありますか」
「あー、そうですね。1週間です。それと、んー、一応ですけど調査キットと地図は売ればすぐ判明します」
「売るひとがいるんですか……」
「えー、たまにです。たまに」
いるのか。コルテさんは苦笑する。
「……わかりました。もう聞きたいことはないです」
「それでは調査キットと地図を渡します」
コルテさんは小さな木箱と巻物を出す。
そして木箱を開ける。
「あー、調査キットの使い方を教えますね」
「よろしくお願いします」
コルテさんの説明をしっかり聞く。
説明が終わり礼を述べて、そうして僕は水のダンジョンへ向かった。
ハイドランジアから体感で徒歩2時間ちょっと。
乗合馬車なら40分ぐらいか。周辺に沈んだ街の残骸が見え始める。
残骸の先に大きな湖がある。
それは不自然なほど真円で水鏡のような湖面になっていた。
まるで水の器―――ハイドランジアのようだ。
「……ここが」
「ナ!」
湖の名はハイドランジアという。
紛らわしいが、この湖は僕達の住む街の元ネタだ。
もっともその名で呼ぶ者はいない。
水のダンジョン―――この湖はそう呼ばれている。
湖に近付くと古い砦跡があるのが分かる。
ぐるりと壁に囲まれており、その壁の中に酒場と宿屋と雑貨屋が数軒。
ああ、それと礼拝堂がひとつある。僕は見回しながら砦跡に入る。
「結構、人が居るんだな」
殆どが探索者だろう。露天商もいる。
ふと雑貨屋の軒先にある雑多に剣が入っている筒が目に入った。
「…………」
いいや。またの機会にしよう。僕の目当てはこの先だ。
砦跡の奥に桟橋があり、そこに水のダンジョンの入り口があった。
「あれか……」
桟橋に続く湖面にぽっかりと空いた大きな穴。
一応、周囲を囲ってはいるが何故か水が入り込まない不思議な穴だ。
「ナ?」
「ああ、そうだ。今からあの穴に降りる。門番が居るから黙っていろよ」
「ナ!」
「……」
入り口に近付くと四人の門番がいた。
僕をジロっと警戒するように見る。探索者タグを見せると頷いた。
入っていいってことだなと、僕は入り口を通った。
水のダンジョン。入り口は街のダンジョンに似ていた。
高い岩肌の天井。長く大きな階段が下に続いている。
ひとつ違うところは両端に小さな川が流れていた。それと水気を感じる。
1階に着いた。
「お、おおっ……」
水のダンジョン1階。
そこは鍾乳洞だった。幾つもの小さな穴と小部屋があった。
至るところから水が流れ、奥からは激しい滝の音が聞こえる。
少し進むと小川があり、少し進むと小池がある。水には困らないだろう。
遭遇した魔物は水のスライムと、水の塊の中に眼玉がある変なのだった。
あとコウモリ……魔物じゃないな。まだ1階だから手強い魔物は出ない。
地図を見ながら最初の回復の泉へと向かう。
やがてそれらしきところを見つけた。
粗末な橋を渡った先だ。斜めになった石像が点在し。その真ん中に泉があった。
石造りの泉で、なるほど。この辺なら休憩できそうだ。
おや誰かいる。ひとりだ。泉の縁に座って休んでいる。
しかも女の子って、あれ。もしかしてひょっとして。
「ビッドさん?」
名を呼ぶと彼女は振り返った。




