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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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141/270

第V級探索者⓪


質問に答えようと詳しく僕は説明しようとした。

だが魔女が掻い摘んで話してねえと言ったので色々と省略した。

3人は納得する。


「あらん。そんなところにハイヤーンの遺産の手掛かりがあるなんてね」

「ハイヤーン。驚いた。実在していたのね」

「実在?」


シロさんは頷いた。


「ボクの故郷ではお伽話に出て来るのよ。ウォフくんは、『三つのたまご』を知っている?」

「いえ……知りません」

「おやおや、懐かしいねえ」

「魔女も知っているんですか」

「あらん。アターシのところだと聞かないわね」


アランスさんは知らないのか。

シロさんは意外みたいな目をしてから語り、いや歌い出した。


「ハイヤーンはアルケミスト~~誰とも知らない夢のアルケミスト~♪ ハイヤーンは三つのたまごを持っている~♪♪ 不思議な不思議な不思議な~たまご~♪ どんな生き物も治して邪悪を退ける聖なるたまご~♪ どんな生き物も永く生きる生命のたまご~♪ どんな生き物も生き返らせる魂のたまご~♪ ハイヤーンはアルケミスト~~誰とも知らない夢のアルケミスト~♪ ハイヤーンは三つのたまごを持っている~♪♪ 不思議な不思議な不思議な~たまご。三つのたまごはいまいずこ~~♪ 三つのたまごはいつかえる~~♪」


可愛い声でよく透って上手かった。僕達は思わず拍手する。

こほんっとシロさんは恥ずかしそうに咳払いした。


「あらん。歌うまいのね」

「うんうん。素晴らしい歌声だったねえ」

「素敵でした」

「恥じ入るわ」


シロさんはぷいっと顔をそむける。それにしても気になる童謡だった。

どんな生き物も治して邪悪を退ける聖なるたまご~ってエリクサーの神聖卵だよな。

こんなところでエリクサーの神聖卵が出て来るとは。


他のふたつはなんだ? 永生と蘇生? まさかな。

それにアルケミスト。錬金術師か。


意外な繋がりにちょっと驚くと、僕は思い出した。

聖樹。エリクサーの神聖卵が入っていた木の箱の表に彫り込まれていた。


「さてさて、ハイヤーンが実在するかはともかく面白いことになったねえ」


魔女は楽しそうだ。アランスは微妙な顔をする。


「あらん。こっちは第Ⅴ級のタグを急遽用意しないといけなくなったわ」

「すみません」

「あなたが謝ることじゃないわ。タグはすぐ出来るから待っててねん」


そう僕にウインクする。ははは。

アランスさんは職員に指示する。僕は、シロさんと魔女にお茶を入れる。


「おいしいわ」

「ありがとうございます」

「うんうん。またひとつ腕を上げたねえ」

「ありがとうございます」


もう三日月の器でお茶しかつくっていない。

ポーション造りは諦めていないけど、でもお茶つくりは楽しい。

それにこれがポーション造りに役に立つような気がしないでもない。


「あらん。いい匂いねえ」

「良かったらどうぞ」


アランスさんにもお茶を入れる。


「美味しいわね……そうそう。依頼を受けるのはいいけれど条件があるわ」

「条件ですか」

「パーティーを組むことよ。正式じゃなくてもいいわ。そうねえん。最低でも4人。あなたを抜いて3人いるわね」

「3人……」

「ウォフ少年。ウォフ少年。今回はコンは参加できないねえ」

「そうなんですか」

「でもでも、本当は参加したいんだけど仕事が溜まっていてねえ。いやもうほんと」

「そ、それは、仕方ないですよ。わかりました」


魔女は無理か。するとシロさんと目が合った。


「残念だけどボクも無理ね。書状と伝達の役割があるわ」

「は、はい。仕方ないです」


何も言ってないけど、そ、そうかぁ。シロさんも無理か。

メンバーなら雷撃の牙を誘ってみよう。

それと、ミネハさんとパキラさんに報告しよう。


「あらん。いけない忘れるところだったわ」


アランスさんが執務机にある書類から一枚取り出して僕にみせる。

なんだろう。


「報酬受領書よ。5番の受付に渡してね」


すっかり忘れていた。

いかんいかん。報酬を忘れるなんて探索者失格だ。


「は、はい。わかりました」

「前回のダンジョンの異変討伐の分も入っているわ」

「あっ、はい。どうも」

「さてお茶も堪能したしボクの用件は済んだようね」


そう言うとシロさんは水晶玉を回収して白いティーテーブルと椅子を畳む。

椅子はテーブルの裏にカチっと嵌まった。なんか前世の記憶で見たことがある。


次に白いティーテーブルをベルトで固定して縛る。なんだなんだ。

そしてよいしょっと、その小さな背で白いティテーブルを背負った。ん?


「んん?」

「それでは皆さま。ごきげんよう」

「えっ、ちょっ」

「なにかしら」

「あの、ポーチに収納したりは?」

「ボク。このティーテーブルをポーチから取り出すのは生理的に嫌なのよ」

「そ、そうですか」


さらりと即答される。その言葉には嫌悪感が含まれていた。

よっほど嫌なんだな。まったく気持ちわかんないけど。


「じゃあ、また機会があったら会いましょう。ウォフくん」

「は、はい」


白いティーテーブルを担いだ彼女は優雅に去っていった。

パタンと扉が仕舞う。


「あれ、やめて欲しいのよね。前にぶつけて壁を削ったことあるのよ」


去った後、ぽつりとアランスさんが言う。ああ、よく引っ掛けそう。

僕は無意識に言う。


「色んなひとがいるんですね」

「まあまあ、確かに色んなのがいるねえ」

「第Ⅰ級は変人奇人怪人の見本会みたいなものよ」

「でも全員がそうだってわけじゃないですよね」


アランスさんはフッと笑い魔女を目線で示す。

僕はあー……と納得した。


そして待つこと数十分後、第V級探索者のタグを貰った。


タグは特殊加工された金属で出来ていた。

表に名前と階級。裏に製造年月日が刻まれている。


「それじゃあ色々と説明するわね」

「あの、ええーとその、ひとついいですか」

「あらん。なにかしら」

「……ええっと、僕は探索者になったんですよね」

「そうね。特例でなったわね。それがどうしたの?」


僕はハッキリと言った。


「そこから既に僕は何も聞いてないんです」

「なんですって?」


アランスさんは魔女をジロリと睨んだ。

魔女は眼を逸らす。アランスさんは溜息をついた。


「そもそも特例で探索者になるには試験があると聞いてます」

「そうね」

「でも僕は試験を受けていません」

「あらん。本当に何も聞いてないのね」

「まったくなにも」


アランスさんは魔女を再度、睨む。

魔女はまた眼を逸らす。深いため息をついた。


「はぁ、まずは特例というものについて話すわ。特例は条件も厳しいの。その全てに当て嵌まる必要性ないけれど、様々な条件があるわ。例えばお金ね。探索者に特例でなる為に通常の倍以上のお金が必要になるわ。他にも困難な条件ばかり。ねえ、不思議に思わない? 大人になれば簡単になれる探索者。でも子供がなるにはあまりにハードルが高くなっているのよ」

「確かに……」


詳しくは知らないけど、大人になれば登録できるだけの探索者。

それが大人じゃないだけという理由でこんなに厳しいのは、変な話だ。


「なんてことじゃないわ。優秀な人材を確保する為よ。だから特例の探索者は最初から第Ⅲ級なのよ」

「最初からですか」

「そうよ。それだけに厳しい条件と試験があるの」


なるほど。だからミネハさんは第Ⅲ級なのか。あれ、でも。


「僕は第Ⅵ級からですけど」

「それはそれはねえ。コンがお願いしたんだねえ」

「魔女が?」

「まずはまずは、黙っていたのは悪かったねえ。驚かせたかったんだねえ」


そんなことだろうと思った。

実に魔女らしい。


「それはもういいですよ。なんで僕は第Ⅵ級からなんですか」

「うんうん。それはウォフ少年が第Ⅲ級だと納得しないと思ったからねえ。それにコンとしても探索者として師事していないから、飛び級はどうかと思ってねえ」

「なるほど」


いきなり第Ⅲ級探索者といわれても僕は……戸惑うだけで喜ばないだろう。

探索者のことを何も知らないし経験も無いのに階級が上なのは納得できない。


それに目立つのもある。僕は知らぬうちに魔女の弟子というので目立っている。

これ以上の目立つ材料は欲しくない。


「でも僕、試験を受けてませんよ」

「あらん。受けたわよ」

「え?」

「ほら今回の例の森の調査よ」

「あれが?」

「それに今回の魔女の功績を全て無しにする代わりっていうのもあったわ」

「えっ? 魔女。それは本当ですか」


功績無し。つまり報酬もないってことだ。いくらなんでもそんな馬鹿な。

魔女は笑った。


「これくらいこれくらい。弟子の経験の糧になれば別にいいねえ」

「……アランスさん。本当に魔女の報酬はゼロなんですか?」

「あらん。さすがにゼロは有り得ないわよ。今回の特例の代金にあてたわ。残りは言われた通りレリック王都研究所に寄付したわよ」


それってつまり報酬ゼロだ。しかも。


「特例の代金って僕の為に?」

「うんうん。これで黙っていたことを許して欲しいんだねえ」

「それはもちろん許しますよ。ありがとうございます。でも」

「うんうん。ハイヤーン探索。頑張るんだねえ」

「は、はい……」


また貸しが増えてしまった。参ったな。まだひとつも恩を返していない。


その後、僕は探索者についての簡単な説明を受ける。

第Ⅵから第Ⅴ級になったので、本来受ける基本依頼をしなくて良いことになった。


それとアルハザード=アブラミリンが僕を第Ⅴ級にした理由もすぐ分かった。

ハイドランジアは古の法で第Ⅵ級だと街のダンジョンの10階以下は探索できない。


なので第Ⅴ級にしたという。なんか変な制約だな。

それから仕事終われる魔女と別れ、受付で報酬を受け取り愕然とする。


えっ、なにこの金額……? 160万!?

いやちょっとさすがに……えっと、どうすれば。


「あの、探索者ならばギルドに預けることが出来ますよ」

「本当ですか」

「はい。タグを作成して登録した時点で口座が出来ております」

「それならお願いします」

「こちらの報酬を全額、預金致しますか?」

「はい。あっ、いや……15万オーロだけ持っておきます」

「わかりました。145万オーロ。お預かり致します」


15万だけポーチに入れた。


ふう、今日から僕は第Ⅴ級探索者か。



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