第Ⅵ級探索者①
街のダンジョンの入り口。
ガウロさんは僕の肩で偉そうにしているミネハさんを怪訝に見た。
「なによ」
ミネハさんは気に入らないと噛みつく。ガウロさんは苦笑した。
「……まっ、600オーロ払ってくれるなら別にいいけどよ」
「すみません」
僕は600オーロを支払ってダンジョンに入る。
「なんなの。あの門番」
「悪いひとじゃないですよ」
「そうは見えないわね」
「顔は確かに……」
苦笑してゴミ場に着く。ちらほらと子供がいた。多くもなく少なくも無い。
ミネハさんはゴミ場のゴミ山を驚いた顔で見渡す。
「……なんというか、この中から売れるモノを見つけるってことなの?」
「そうですけど、ミネハさん。ゴミ場は初めてじゃないですよね」
「ワタシが知っているダンジョンのゴミ場はこんなにゴミ山がたくさん無いし、こんなに広くないわ。ここは広すぎるわよ」
「そうなんですか」
「ダンジョン1階の半分以上占めているわよ。このゴミ場」
「そんなに……かなぁ」
でも死の墓のゴミもゴミ山はあっても……広くは無かったな。
周辺のダンジョンのゴミも集まっているからかな。
「それで、塔の絵と同じ場所。どこにあるの」
「それはこっちです」
「ナ!」
「ダガアは黙っててくれないかな」
「ナ?」
「ナイフが返事したらダメだろ」
「ナ!」
本当に分っているのかな。
ああ、でもダガアナイフのカタチは【ジェネラス】のとき一度変化したからか。
全体的に前よりナイフらしくはなった。まだ所々が歪だけど。
「そうだ。ミネハさん。『ドラゴン牙ロウ』って知ってますか」
「……知っているわ。そいつら」
あからさまに不機嫌になる。
咬まれそうになったので僕はノッポとデブに襲われたことを話した。
「あいつらは第Ⅵとか第Ⅴとかの最底辺の下劣な集団よ」
「下劣……」
「あいつらの幹部とボスが女好きでね。可愛い女性探索者とか綺麗な女性探索者とか、とにかく女性ばかりを狙うのよ」
「だから下劣か」
「ワタシ。ソロもあるけどたまにパーティーを組むわ。女だけでね。そのときしつこく絡んできたことがあったの」
「叩きのめしたんですね」
「先に手を出したのは向こうよ。フェアリアルは好事家の変態貴族に売れるってね。殺さないだけありがたいと思いなさい」
「……というかギルドは何もしないんですか」
明らかに良くないだろう。
ミネハさんは微苦笑する。
「クーンハントの現状から何かすると思う? 基本的に探索者同士の諍いやイザコザは当人同士で解決しろっていうスタンスよ。実害が出なければね」
「……出ていないんですか」
「どうかしらね。探索者は居なくなってもダンジョンでまだ探索しているか死んでいるって思われるだけだから」
「そういうので狙いやすさもあるってことですか」
嫌な話だ。ミネハさんは複雑な表情で答える。
「そうね。後は単純に女だからって舐めているところもあるわね。昔と比べて待遇も良くなって増えてはいるけど、男の探索者と同等っていうわけじゃないのよ」
「…………なるほど」
ミネハさんの異性嫌いと攻撃性な態度もひょっとして自衛の為なのかもしれない。
そう思ってすぐに訂正する。いいや。彼女は違うな。あれは地だ。
でも知らないことが多い。そんな連中がいることも知らなかった。
たぶん他にも色々パキラさんやミネハさんたちは苦労している事もあるんだろう。
話してくれたらと思うけど、それはお互い様だな。
そして着いた。
ゴミ場の西端の角。行き止まりになっていてゴミが積まれている。
「ここ?」
「はい。あれを見てください」
「……確かに汚れているけど変な輪が見えるわね」
ゴミで埋もれているが、確かに一部だけ見えている。
他は完全に埋まっていた。
「…………」
「どうする? 【スパイラル】で削る?」
「……」
「ウォフ?」
「ナ?」
「―――考えていたんですよ。ここは聖室かどうか」
「聖室じゃないの?」
「それにしては広すぎませんか」
「それもそうね」
このゴミ場が全て聖室というのはちょっと考え辛いと思う。
それなら聖室はどこか。そのヒントはこの9つの輪が描かれた壁にある。
あるはず。
「……」
壁はゴミで埋まっているなあ。
あっそうだ。一応確認の為、レリック【フォーチューンの輪】を使う。
壁は黄色に光った。間違いじゃないみたいだ。
「まずは壁のゴミをどうにかしないといけないわね」
「……そうですね」
【危機判別】をする。壁のゴミの殆どが赤い。黒も混じっている。
見事に白がない。つまり普通に取り除くと怪我をする。
【バニッシュ】で消すにはゴミが多すぎる。うーん。これはどうするか。
「ワタシが探るわ」
「え?」
「ワタシならあの隙間に潜り込めるわ」
確かにミネハさんなら潜り込める。
「危険ですよ」
「大丈夫よ慣れているわ」
そう言うと僕の肩から飛び立った。まずは真ん中から調べるみたいだ。
ゴミの中に入っていく。僕にはこのゴミが赤く見える。心配だ。
「ナ?」
「おまえも心配か」
「ナ?」
「……どっちなんだよ」
「ウォフ。あったわ。真ん中の輪に何かを填め込める跡が!」
「それは四角ですか。あと大丈夫ですか」
「大丈夫よ。ええっと、これ邪魔ね」
そのときゴミが崩れて落ちる。
「ミネハさん!?」
「だ、大丈夫。邪魔なの削ったら落ちてきたわ。なんなのこのボロ革鎧っこのナイフっ!」
「ナイフ? ナイフがあったんですか」
「危うく刺さるところだったから削ってやったわ」
「そうですか……無事で良かったです……」
「輪の真ん中にある跡は四角ね。あんたが手に入れたヤツが嵌まりそう」
「やっぱり、じゃあ戻ってきてください」
「こっちに渡してくれれば、填めるわよ」
「いえ、一旦考えます」
「そう?」
「気付いたことがあるんです」
「わかったわ。いま戻る」
少ししてゴミの隙間から出て来る。
服の埃を払って、近くの剣の鞘に腰掛ける。
「ご苦労様です」
「ねえ。填め込まなくていいの?」
「考えたんです。このままやってしまうと、たぶん大事になると思います」
「それはそうね。何が起こるか分からないわ」
そうだ。何が起きるか分からない。
ゴミ場が崩れるかも知れない。
「それに……何も知らないまま進んでいいのかどうか」
「それもあるわね。そもそもハイヤーンって誰? アブラミリンとかも関係あるし、ただの宝探しじゃないわね」
「はい。ですから色々と調べて考えてからのほうがいいと思うんです」
それに第一の塔から街のダンジョン12階に行くことになる。
でもまだダンジョンは閉鎖されている。
ミネハさんは僕をジッと見る。そして急に大きくなった。
「うわっ、どうしたんですか」
「水筒。お茶あるでしょ」
「ありますけど」
「ちょうだい」
「は、はい」
僕は三日月の器を渡した。
大きくなったミネハさんは年下だとは思えない。
それは普段からだけど、それ以上に身長も身体つきも顔も……10歳には見えない。
ミネハさんは水筒を口につけると、飲み干して僕に返す。
「ぷはぁっ、あんたも考えるようになったわね」
「そうでしょうか」
「帰るわよ。肉とお菓子が待っているわ」
「ナ!」
「はい」
とりあえず帰ったら魔女に連絡してみるか。
帰ると中庭に大きな黒い鳥が留まっていた。
あれは魔女の使い魔だ。
僕を見るとクチバシで脚に括り付けている巻物を落とす。
そして飛んでいった。僕は巻物を拾う。
「なんなの」
「えーと……探索者ギルドからの手紙です」
「ギルド? ウォフ宛て?」
「はい。明日、ギルドに来て欲しいと書いてありますけど」
「そういえば、あんた。例の森の調査に参加してたわね」
「ナ!」
「ダガアも活躍したわね」
「ナ!」
「たぶん。それのことかと」
まあ、行ってみるか。




