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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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死の墓④・ヨミドのサトゥルヌス


皆を守る為に死の王を倒す。死の墓を解放する。

皆を守る―――それで僕は極端だけどやる気が出た。


だが時間は待ってくれない。もう残り2日だ。

そろそろ焦りも出て来るが、どうしてか。そんな風にはならなかった。


やはり面子が強過ぎる。安定感があるからか。


「ん?」


ふと通路を右に曲がったとき、気になる曲がり角をみつけた。

妙に気になる。なんだかこの曲がり具合が似ている気がした。


「どうした。ウォフ」

「ちょっと気になる曲がり角がありまして」

「あのあの、あの、階段を見つけました!」


斥候していたジューシイさんが真っ直ぐ伸びる通路の先から声をあげる。

魔女も付き添っている。


ちなみにダガアはジューシイさんにさっきまで抱えられていた。

今はナイフになって僕のベルトに収まっている。まったく死の墓でも気紛れだな。


ふと、呪いのデバフレリック【死の供物】はダガアにも当て嵌まっているのか。

レリック【刀剣化】を使っているから、たぶんダガアにもあるんだろう。


「おっ、見つけたか」

「…………」


良かった。やっとここから抜けられる。けど……あの曲がり角。


「おう。どうした?」

「あの、すみません。ちょっと向こうを見て来ていいですか」

「おいおい。どうしたんだ」

「ちょっと見て来るだけです」

「おい。ウォフ」


僕は向かった。やっぱり気になってしょうない。

あの曲がり角がとてもよく似ていた。いやもしかしたら。


ドキドキして曲がり角を曲がると、この迷路に入って初めて入り口があった。

恐る恐ると入る。そしてそこは、ああ、やっぱりそうだ。


真っ白い床と真っ白い壁。無機質だ。それよりも僕は息を呑む。

そこには山高く積まれている鎧や剣や盾や瓶やらなどのお馴染みのガラクタ。

いいやゴミ。そうゴミだ。そのゴミ山がいくつもあった。


そこはゴミ場だった。間違いなくゴミ場だ。


「そりゃあ、あるよな。最深部があるダンジョンだから、あるよな!」


興奮する。死の墓のゴミ場。

他のダンジョンのゴミ場か。入るのは初めてだ。


「……似ているようで違うか」


見回す。人がいないことも不思議だけど、なんていうか空気が違う。

ああ、そうか。人の空気が無いのか


人が居なくても、人が居た形跡や匂いや雰囲気というものがある。

このゴミ場からはそれが感じられない。


「きっと一度も人が入ったことが無いんだろう」

「ナ?」

「こんなに静かなゴミ場は初めてだ」


だからこそ寂しいと思ってしまうのだろうか。

僕は探索者になる。もうゴミ場に入ることは出来ない。

ゴミ場は僕にとって命の糧で遊び場で大好きな大切な場所だった。


「…………」


僕はレリック【フォーチューンの輪】を使う。

緑の光がいくつか。黄色はない。青がひとつ。紫はない。


「ふむ。青か」


それだけか。え? 青!?


「青だって!?」


青。青だ。間違いない。青の光だっ!


「ナ?」

「ダガア。青だ。青の光だっ!」


僕は無意識に【フォーチューンの輪】を発動したまま青の光を追う。

すると緑の光と共に黄色の光もいくつか出てきた。なんだここは宝の山か。


でも今は青の光だ。こっちか。こっちだ。あのゴミの山の中心。

僕は【バニッシュ】で青い光に目掛けて殴る。ゴミ山の一部が削れた。


「バニッシュナックル!」


バニッシュナッコオォっっ!!

そのまま、殴る殴る殴る殴る。殴る。殴る。あっ緑が消えた。

構うものか。殴る殴る。おっ、あっナイフ見っ! しまっ消えた!?

くっ、ぐっ、殴る殴る。殴る。殴る。ああっ青い光が落ちた。


崩れたゴミ山の中から青い光を探す。これじゃない。これでもない。これじゃない。

これか。いや違う。この下の、この下の、この下の……これだ。これか。


「この布袋か」


汚れた布の小袋だ。青い光は袋じゃない。

この中に―――わんっという声が聞こえた。


驚いて振り返るとジューシイさんの姿がある。魔女とアガロさんも居る。

あっしまった。忘れていた。


「あのあの、あの、わん。ウォフ様。ここは、ゴミ場ですか」

「ほう。ゴミ場かよ」

「おやおや、これはこれは驚いたねえ」

「すみません」


僕は謝った。夢中になっていて皆のことを忘れていた。

ジューシイさんが僕の元へまっしぐらに駈け寄る。


「あのあの、ウォフ様。心配しました」

「すみません」

「まあ、心配したが、これを見つけたらそれはなぁ」

「まあまあ、夢中になってしまうのはコンも同じだねえ。それでも連絡は欲しかったねえ。ここは危険なところだって忘れていたのかねえ。ウォフ少年」

「ご、ごめんなさい」

「さてさて、それでそれで何を見つけたのかねえ」

「これです。ただ、まだ中身は見ていなくて」


僕は汚れた布の小袋をみせる。

アガロさんは怪訝にして、ジューシイさんは瞳を輝かせて尻尾をフリフリと振った。


「あのあの、あの、ウォフ様。中身は何が入っているんですか」

「なんでそんな汚ねえ袋なんか」


アガロさんは僕のレリックを知らないから不思議がる。

魔女とジューシイさんはそれを知っているからなあ。


どうする。別にアガロさんなら言ってもいいか。

アガロさんもなんだかんだ付き合いも長くなったし、信頼も信用も出来る。


「実は」

「ああ、ああ、それはそれはねえ。コンが渡したレガシーなんだよね」

「レガシー?」

「うんうん。【フォーチューンの紋章】という使えばランダムでお宝が見つかる紋章があるんだねえ。それをウォフ少年に持たせているんだねえ」

「へえー、それで見つけた宝ってことか」

「は、はい」


アガロさんにはまだ話すなってことか。師匠に従う。ただアドリブは苦手だ。

後はジューシイさんがうまく意図を分ってくれるかって、なんか掘ってる。


「わんわん。わわん。わんっわんっ!」


いつかのようにゴミ山を両手で掘っている。ここ掘れワンワンだ。


「犬だな」

「犬ですね」

「わんわんだねえ」

「ナ!」


ああ~~まさに実家の犬って感じで見ていると、ハッとジューシイさんが止まった。

僕達を見て顔を真っ赤にする。あたふたする。


「あのあの、ごめんなさい。つい掘りたくなってしまいました。わん」


恥ずかしくなって座り込むと両手で顔を隠す。耳も尻尾もヘニャっとする。

僕とアガロさんは見合わせてなんともいえない微苦笑をする。

こんなときどんな顔をすればいいか分からない男ふたり。


「さてさて、名残惜しいけど、そろそろここを出ようかねえ」

「なんか色々ありそうだが、しゃあねえか」

「あのあの、わん」

「はい」


布袋をポーチに仕舞って死の墓のゴミ場を出る。

そして階段を降りた。


カタコンベに入り、その真下に着く。

もちろんアンデッドはわんさかとついに銀等級まで出てきた。

それでも敵じゃない。


この調子で案外、簡単に死の王も倒せるかもしれない。

そんな感じで僕達は巨大な石棺が居並ぶ巨人墓所に到着した。


青白い光が天井から等間隔に差し込み、見事な壁画の巨壁に囲まれていた。

何百もある見上げるほどの巨柱には巨像が一体ずつ刻まれている。

そしてビルの3階ほどもある石棺が大量に置いてあった。


石棺の真下。赤と黒い線が引いてある白フードを被ったゾンビがウロウロしている。

何体もいた。ヨミドの信徒の成れの果てとアガロさんは呟いた。なるほど。


「いよいよ。底って感じだな」

「さてさて、コン達が目指すは最深部。そしてこの辺りは死の城と似たような造りだねえ。だとしたら最深部は死の王の墓にあるねえ」

「あのあの、あの、このまま真っ直ぐに豪華な祭壇みたいなのがあります」


ジューシイさんの言う通り、巨柱の並ぶ先に見事な社があった。

祭壇といわれればそう見える。あれが死の王墓なのか。


「よし。あそこを目指すぞ」

「うわああぁぁっっっ」

「ぎゃあああぁぁぁっっ」

「助けて助けてっ!!」

「やめてやめてっっっ!!」

「なんでこんな目に、ぐああっっ」

「ふざけんなふざんなっ! あんなのがいるなんて、聞いてねえ!!」


なんだ。僕達は咄嗟に石棺の後ろに隠れた。

少年と少女が必死に走っていく。


僕と同い年か年下ぐらい。探求者に見えない。

なんでこんなところに? しかもここは立ち入り禁止だ。


背後から何か大きく青白い長いものが伸びて、ああ、あれは腕だ。

逃げている少年と少女を巨大な手が鷲掴んだ。


それからヌッと現れたのは青白い肌をした異形の巨体だった。

まず鹿の頭をしていた。雄々しい角をしている。


十字型に四つの眼をして、真ん中に割れ目のような口が縦にあった。

長く太い四本の腕が生えた身体はひどく痩せて所々腐っている。脚は偶蹄目。

まさに異形だ。


少年と少女をガッチリ捕らえると、顔の真ん中の口を大きく開いた。

食べ物のようにふたりを入れて咀嚼する。苦痛の絶叫が響き渡り、鮮血が飛び散る。


「……」


僕は黙って見ていた。いや黙ってみるしかない。

目を逸らせなかった。


「サトゥルヌスか」

「え?」


ゴヤの? 


「魔女。そうだろう」

「そうだそうだねえ。あれは腐った巨人ヨミドのサトゥルヌス。アンデッドの銀等級中位の魔物だねえ」


銀等級の中位か。


「あのあの、あそこにいるヒトたちは何者なんでしょう。かなりの大人数です」

「あいつらは探索者。それもクーンハントだ」

「えっ、連中がこんなところに?」

「ああ、何人かが噂していたからな」


ここからでも逃げ惑う数十人が確認できる。

ギルドの警告を無視して死の墓にいるのは、さすがにクーンハントだな。


「おやおや、まあまあ、こんなところにご苦労だねえ」

「……」


次から次へとサトゥルヌスに捕らえられて喰われている。

まるで菓子を食べる感覚で食べられていく。


大人も居たが、多くは僕と同い年か年下の子供。

クーンハントの雇い仔だ。


なんて悲惨で、なんて滑稽な光景なんだろう。

さすがの凄惨さにいくらクーンハントでも助けたくなるが、留まる。


銀等級中位の魔物なんて今の僕には【ジェネラス】抜きに倒せない。

【ジェネラス】になれば倒せるが、あれは切り札だ。


「ぎゃあああぁぁぁぁつっっっ」

「燃えろ。燃えろ。燃えろ。くはぁっ、このゾンビがぁぁっっ」


ヨミドの信徒の成れの果てに襲われているクーンハントもいた。


「やめてやめてやめてやめてっっっ!」

「あああああああああぁぁぁぁっつっっっつ」

「…………」

「あのあの、あの、どうしますか。わん」

「どうもこうもねえよ。先に行くぞ」

「……」

「助けて助けて助けて助けてっっっ」

「もうやだよおぉぉっっ、お母さぁああんんっっっ」

「あのあの、あの、でも」

「そうだそうだねえ。一刻も早く死の墓を解放する。それが今のコンたちが出来るねことだねえ」

「俺達にも時間は無いんだ」

「死にたくないいぃぃぃっっっ」

「ぎゃああああっっっっ」

「ちくしょうちくしょうちくしょうっっっ!!」

「すまないすまないねえ。コンたちは急がないといけないんだねえ」

「あのあの、あの……わん」

「……」

「やめてやめてごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ!!」

「いでええぇぇがああぁぁぁっっっ」

「お願いお願いお願い……おねがい」

だれか誰か誰かぁぁっっっっったすけて」


僕は気付くと飛び出していた。

走りながらエリクサーナイフを手にして【静者】を発動させる。


「お、おい。ウォフ!?」

「わんっ! ウォフ様っ!?」

「いやいや、いやいや、さすがにそれはコンも真似できないねえっ」


サトゥルヌスがこちらに気付く。

腕を伸ばした。回避しようとするが素早くてあっさりと捕まる。


速いっ! 速過ぎる。まるで蛇みたいに伸びて正確に捉えられた。

これは並大抵の速さじゃ避けるのは不可能だ。


サトゥルヌスは僕を掴んで持ち上げる。

十字型の四つの幽火の瞳を怪しく光らせ、割れ目のような血だらけの口を開いた。


口の中にはギザギザの赤い滑った歯が蠢いていた。

その隙間に肉片と布がこびりついている。怒りでふるえた。


僕は唱える。


「サイレントムーヴ」


その行動は―――【ジェネラス】を使わずにサトゥルヌスを倒す。

視界にノイズが奔る。






パキンっと音がした気がする。何かが折れた音だ。






なんだろう。






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