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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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127/284

死の墓③・君のせいだねえ。


間髪入れずに何発もカーススライムを殴ると大きな穴が空く。

鉄板が剥き出しになった。

そのタイミングでアガロさんが半壊の塔の上から飛び降りる。


「―――一刀断魔―――」


まず何か投げてから、空中でフレイムタンを力強く横薙ぎに振った。

あれは聖水だ。魔女から貰った特製の聖水。


掛かったカーススライムの穴が少し拡がる。

斬りやすくする為に使ったのか。


コアを守る鉄板のひとつが真っ二つになった。

穴の所為で外気に触れた鉄板は外れて落ちていった。


かなり厚い鎧の鉄板だ。これを一振りで……凄い。

何か言ってたな。一刀なんとかって。レリックか。それとも技か。


どちらにせよ、カーススライムのコアが丸見えになる。


脈を打つ丸い黒の肉塊。ハッキリ言うと気持ち悪い肉の塊だ。

そのチャンスをジューシイさんは見逃さない。


矢が放たれた。

エリクサーの矢は白い放物線を描き、コアに吸い込まれるが如く深く刺さった。

するとコアは砕けて消え、カーススライムは蒸発するように溶けていく。


僅かの時間でアガロさんが言う様に一気にやって、そして倒せた。

勢いって大事だな。

後に残ったのは沢山の髑髏と骨と、宝箱だった。


「ふぅ、なんとかなったな」

「そうですね」

「あのあの、あの、やりました!」


ジューシイさんが駈け寄って来た。頭を撫でてあげる。

尻尾が千切れるぐらいぶんぶん唸る。風が吹いた。


「いやはやいやはや、皆、とても素晴らしかったねえ」


ダガアを抱っこしたまま魔女が称賛する。


「あのあの、魔女様が造った弓のおかげです」


ジューシイさんが恭しく弓を返そうとした。

魔女は首を横にする。


「いやいや、その弓は、わんこちゃんに合わせたからねえ。もうわんこちゃんのモノだねえ。大切に使ってねえ」

「あのあの、あの、わん。いいんですか!? ありがとうございます!」


ジューシイさんは全身で喜び、ウォフ様ウォフ様と満面の笑顔を僕に見せる。


「よし。じゃあ、こっちの宝も拝もうか」


アガロさんがヒョウタン徳利を飲んで言う。

宝箱というとミミックを連想させるが、これは違う。


黄色い光を放つ宝箱……それは白銀で豪奢に飾りが彩られた宝の箱だった。

むしろこの箱が宝と思ってしまうほどだ。


「ふむふむ。立派な宝の箱だねえ」

「あのあの、わん。豪華です」

「ナ!」

「いや立派過ぎでは」


これ箱だけでもかなりの金額になると思う。


「開けてみるか」

「待ってください。罠とかあるかも知れません。僕が調べます」

「調べるって」

「まあまあ、ウォフ少年にはそういうレリックがあるんだねえ」


レリック【危機判別】を使う。宝箱には何の反応も無い。


「危険はないです」

「んじゃあ開けるか。魔女。頼むわ」

「はいはい。開けようかねえ」


ダガアを僕に渡して魔女はしゃがんだ。

鍵穴に触れてカチャカチャっと動かす。


ダガアは僕の頭によじ登る。

なんだよ。


「あのあの、あの、開けられそうですか」

「うんうん。もう少しで出来るねえ。よしよし。開いたねえ」


宝箱の蓋が盛大に開く。

中に入っていたのは、魔女が取り出したのは金属の三角柱だった。

金色に光って幾つも線が入っている。


「なんだそれ」

「あのあの、あの、投げたらキャッチしたいカタチです!」

「いやいや、そういうのじゃないねえ。これはこれは、なんだろうねえ」

「分からないのか」

「あのあの、あの、あの、投げたらキャッチしたいカタチです!」

「いやいや、そういうのじゃないからねえ。これはコンが預かってもいいかねえ」

「ナ!」

「ちょっ、ダガア。顔を尻尾で叩くな! 僕はいいですよ」

「まっ、俺もそんな物騒なもん持ちたくねえからな。好きにしろ」

「あのあの、あの、あたくしも異論ないです。どうぞです。でも投げたくなったら言ってください。必ずキャッチします!」

「いやいや、投げないねえ」


どんだけキャッチしたいんだ。

そうして僕達は下の階に降りる。


次の階は石壁が延々と続く通路だった。いかにもダンジョンって感じだ。

部屋もなく通路だけ。それも右や左と分岐して複雑な迷路になっていた。


その迷路に出て来る魔物は―――スケルトン。ゾンビ。スケルトン。デュラハン。

グローボ。ファントム。シルキー。這い寄る女。パペット。ゾンビ。スケルトン。

スピリット。グール。マミー。ゾンビ。グローボ。スケルトン。デュラハン。

カーススライム。グローボ。シルキー。スケルトン。彷徨う女。ゾンビ。

グール。スケルトン。スケルトン。スケルトン。佇む女。スケルトン。

スケルトン。スケルトン。見る女。スケルトン。スケルトン。ゾンビ。


ああ、もう。アンデッドだらけで吐き気がする。

あとたまにいるゴーストの女が怖い。なにもしないから余計に怖い。


「いくらなんでもスケルトン多すぎねえか」

「僕もそう思います」


例の森のスケルトンもこのくらい多かった気がする。


「あのあの、あの、大きな骨が欲しいです。小さいのは要りません」


ジューシイさんが苦言を呈する。

大きいのでもダメです。


「やれやれ、死の墓の浅いところはこんな感じなんだねえ」


魔女が嘆息する。深いところだとどうなんだろう。しかし順調だな。

メンバーが凄いから当然か。このまま死の王も倒す勢いだ。


だが死の王の強さは推定で宝石級中位……低位でも1体で都市を滅ぼす。

それを4日間で倒す? 少なくとも残り2日で最深部に辿り着かないといけない。


いいや魔女が倒せると言っているから倒せるのだろう。

でも……なんか引っ掛かる。なにか引っ掛かる。


夜になった。

部屋は無く通路だけなので、どこかの通路を完全に封鎖して休むことにする。

魔女が出したやたら大きなシーツで区切り、リヴさんから貰った光球を浮かばせる。

それぞれ個室のようにしていた。


1つ目のシーツ。焚き火だ。その前に黒いソファ。

アガロさんは黒いソファに座り、焚き火を見ながら酒を飲んでいる。

焚き火にはキノコと肉とタマネギとネギが串に刺さったモノが3串、置かれていた。


キノコは通路に生えていたもので、食用キノコだ。

タマネギとネギは魔女のポーチに入っていた食料だ。

アガロさんはちゃんと野菜も食べるんだな。


2つ目のシーツ。

ジューシイさんは赤いソファに寝転がり、ダガアと遊んでいた。

仰向けでダガアを放り投げてキャッチしたり抱き締めたりしていた。


「あのあの、あの、わん。わわん。わん。わわん。わんわんっ」

「ナ! ナ! ナ! ナナ! ナ! ナ! ナナ! ナ! ナ!」

「わんわん。わん。わわん。わん。わぉーん」

「ナ!」


何をやっているか分からないけど、楽しそうだ。

あとジューシイさん。あんまり脚は動かさないほうがいいかな。

生足をバタバタさせ、赤いスカートがチラチラしているから。


3つ目のシーツ。黒いソファがぽつんとある。僕の個室だ。

ソファには粗末な寝袋が置いてある。僕の愛用品だ。

他のみんなはどうか知らないが僕はソファで寝る。


4つ目のシーツはなにもない。

荷物とか置くようだったけど、その必要は無くなった。トマソンだ。


5つ目のシーツを開けると、魔女の後ろ姿が見えた。

ソファではなく椅子に座って作業している。作業机からカチャカチャッと音がする。

音が止まった。


「んーんー、誰かねえ。たぶんウォフ少年だねえ」

「はい。僕です」

「うんうん。ふむふむ。それで何の用かねえ」


振り向かずに魔女は尋ねる。


「どうですか。それ」


宝箱から手に入れた金属製の三角柱をいじっているのは知っていた。


「うんうん。もう少しで解明するねえ。まあもう何なのかは分かっているけどねえ」

「そうなんですか」

「これはこれはねえ。鍵なんだねえ」


魔女は椅子をずらして振り返った。

得意気な顔をする。ふふんっと鼻を鳴らす。


「鍵?」

「そうそう。特殊な鍵だねえ。どこかにこれを刺し込んで開く何かがあるんだねえ」

「ああ、そういう……ひょっとして集めないといけない系の鍵ですか?」


嫌だな。面倒くさいなぁ。そういう集める系、大嫌いなんだよな。

漫画とかアニメとかゲームでも引き延ばしかよってうんざりする。

実際に引き延ばしだからイラッとする。


しかもこの死の墓。妙に広いし複雑だしアンデッドばかりだし陰気だし暗いし。

ぶっちゃけもう帰りたい。


「そうだそうだねえ。おや、ウォフ少年。実にいい顔をするじゃないかねえ。ところで本当に尋ねたい事はそれなのかねえ」


魔女は見抜いていた。やっぱり魔女だ。僕は本音で尋ねる。


「……どうやって死の王に勝つんですか」

「ちゃんとちゃんと秘策はあるねえ」

「―――【ジェネラス】ですか」


ハッキリと僕は言った。魔女は何も言わない。

疑似化神レリック【ジェネラス】。


僕の第四のレリック。エッダの信仰する神ジェネラスに疑似化神する。

その力は凄まじい。ただし活動時間5分でクールタイムは1日だ。

更にこの形態だけ使えるレリックもある。


黒騎士を倒したのも【ジェネラス】だ。

まぁ利用するだろうなっていうのは分かっていた。


だがそれが最初からか。それとも偶然で仕方なくか。その違いは大きい。

例え師匠でもやっていい事と悪い事がある。


「それもそれも選択肢にはあるねえ」

「最初からそれをあてにしていなかったとは言わないんですね」

「ふむふむ。ウォフ少年は自分のレリックの力を信じているんだねえ」

「それは……そうですね。でも盲目的には信じていません」


少しはレリックに対する考えは前よりは柔らかくなったと思う。

それでもレリックは技術という考えは変えていない。


「うんうん。過信するのは良くないけど、適度な距離でレリックと付き合うのは良いことだねえ」

「どうして魔女はこの調査を引き受けたんですか」


魔女の性格なら絶対に断る。だって厄介過ぎるし面倒くさ過ぎる。

ニヤニヤと魔女は意地悪く笑って顎に手をあてる。


「おやおや、張本人からそう言われるとねえ」

「なんのことですか」

「コンがこの依頼を受けたのはねえ。ウォフ少年のせいなんだねえ」


そう言って脚を組んだ。

どゆこと? 僕のせい? どういうことだ。いや、あー確かにそうだ。


「うんうん。いい反応だねえ」

「僕のせいというのは、それは、確かにそうです」


僕が知らずに防衛機構を壊して例の森を解放した。

それで死の墓が活性化し始めている。


活性化は具体的によく分からない。

とにかく物凄くマズイことなのは確かだ。


「ん? ん? ああ、ああ、うんうん。そういう意味じゃないねえ。コンはウォフ少年が解放したことを知らなくても、死の墓の解放依頼を引き受けたねえ。そしてそれはウォフ少年の影響があるからだねえ」

「僕の影響?」


なんのことだ。きょとんとする。

魔女は銀色の髪をいじりながら恥ずかしそうに話した。


「コンはコンはねえ。生来からヒトがあまり好きじゃない性分でねえ。出来れば独りで生きていきたい。独りで生きていけるヒトなんだねえ。それでもこの世界で生きるには最低限、ヒトと関わらないといけない。それは仕方ないけど、だったら最低限でも自由に生活できるように、だから第Ⅰ級探索者という名声を得たんだねえ」

「その為だけにですか」

「うんうん。端的に言えばその為だけだねえ。それにウォフ少年もコンと同じように考えていたよねえ。君もあまりヒトが好きじゃないからねえ」

「……それは否定しません」


僕は秘密が多くて、それは全部話せる師匠がいるから少しは心が軽くなった。

そういう意味でもあまり人と付き合ってこなかった。

でもそれを抜きにしても、僕はあまり人が好きじゃない。


「でも、でも、ウォフ少年はコンと交流して弟子になったねえ。それに色々とヒトと触れ合って知り合いも沢山増えたねえ」

「ここ最近そうですね。自分でも急に知り合いが増えて、驚いています」


ここ数か月で随分と増えた。思えばきっかけは、なんだったか。

瀕死のトルクエタムに手に入れたばかりのエリクサーを使ったときか。


「うんうん。コンも同じように昔そうやって知り合いが増えて、今も交流は年単位だけど続いているねえ。それでもコンはあまりヒトが好きじゃないんだねえ。だから頼まれることはあっても、家から出る仕事は極力断っていたんだねえ。だけどウォフ少年という弟子を初めて得て出来て、コンは自分でも驚くほどなにかに積極的になったり誰かの為に行動したり、今までにないコンだったんだねえ」

「……それが僕の影響なんですか」

「そうそう。そうだねえ。君のせいだねえ」


ビックリする。思いもしなかった。

僕が誰かに影響を受けることはあっても、誰かに影響を与えることがあるなんて。

それが魔女だなんて、まったく考えもしなかった。だから呆然とする。


「そういわれても」

「ねえねえ、ウォフ少年。死の墓は間違いなく活性化しているんだねえ」

「急に何を? 活性化ってどういうことですか」

「まずまず、死のダンジョンというのは発見次第、即座に破壊しないといけないんだねえ。何故なら死のダンジョンは供物によって成長する。そして活性化すると、その死は地上にまで影響するからねえ」

「地上にまで、ですか」

「うんうん。疫病や事故や天災などで死を増やすんだねえ。そして死のダンジョンはそれらの死で得た魂を供物にして成長し、やがて死の邪神ヨミドが復活するといわれているねえ」

「……だから魔女が動いたんですか」

「ううん。ううん。コンが動かなくても死が地上に影響を与えるまでかなりの猶予はあるねえ。だからコンは断っても良かったんだねえ。だけど放っておけなくなった。ウォフ少年に出会う前のコンなら放っておいたか。この辺境から、いいやこの大陸から逃げていたねえ。だけどもうコンにとって、ハイドランジアの人々は……そんな事が出来ないほど、もうコンの心の中でとても大きくなってしまったんだねえ。それもこれも気付かせてくれたのは、コンの愛弟子なんだねえ」


魔女はにやりと優しく慈しむように微笑んだ。

僕は微苦笑する。


「なんて言っていいのか分からないです……」

「それでそれでいいんだねえ」

「でもそういうことなら僕も魔女と同じぐらい皆を守りたい」


正直、漠然と僕は死の墓を進んでいた。呪いでタイムリミットが2日しかなくても。


やらなければいけないけど、あまり気が乗っていなかった。

倒せるかどうか分からなかったし不安だらけだった。


唐突過ぎて不明瞭過ぎてイマイチ自分が死に直面している現実感も無かった。

それは前世の記憶にあるゲームという感覚が悪さしているのもある。


だけど決まった。いま決まった。僕の心の中で目標と目的が定まった。

残り2日で最深部に行って死の王を倒す。死の墓を解放する。


これで例の森に関係する全てを終わらせる。

僕が終わらせなければいけない。終わらせるんだ。


「魔女。死の王を必ず倒しましょう。僕も全力を惜しまないです」

「ふふ、ふふ、そういうところまったく君のせいだねえ」


魔女は嬉しそうだった。



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