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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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例の森へ④・死の墓。


グローボを片付けた後、僕達は探索する。

この広い空間は円形になっていた。壁はレンガだが妙に表面と隙間が白っぽい。

触ると変にヌルヌルしていた。


「なんかこの壁、変ですね」

「ああ、ああ、ウォフ少年。触らないほうがいいねえ。それは脂だねえ」

「脂?」

「うんうん。人の脂だねえ。正しくは死体の脂だねえ」

「は? うぇっ!?」


素早く離す。手にベッタリとしている。

死体の脂?


「おい。まさか」

「わふっ? あのあの、死体の脂ってこれ……死蝋ですか」

「おやおや、よく知っているねえ」

「あのあの、あの、ゼカトリアちゃんがよく使っています」

「ああ、ああ、あの地下墓地に引き籠っているというねえ」

「なにやってんだ。レルの妹」


死蝋って確か死体が蝋燭みたいになったやつだったな。

保存方法が良かったりすると腐らずにミイラにならずにそうなるとか。


その死蝋がこの壁全体に……? 

この見上げても暗闇で何も見えない……壁の全てに?


何千いいや何十万人分だ? そんな途方もないことを思ってしまった。

魔女は苦笑いをみせる。


「いやはやいやはや、参ったねえ。死の墓とはねえ」

「よりにもよってヨミドかよ。道理で大規模討伐されるわけだ。しかも呪いとはな」

「やれやれ、実に困ったもんだねえ」


ふたりとも何の話だ? 死の墓って確か【死の供物】の説明にあった。

こういうときは待つ。ジューシイさんがすぐ質問するからだ。


「あのあの、ヨミドと死の墓ってなんですか」

「死の墓は、アンデッド系ダンジョンの呼称だ。死の都。死の谷。死の島。死の塔。死の墓。死の城。死の山。死の牢。どれも最低最悪のダンジョンで最深部がある。ヨミドの信徒が崇拝地とする為、供物を使って召喚創造するんだとよ」

「召喚創造?」

「まあまあ、そういうレリックがあるんだねえ。《《供物の全てを使って》》死の墓が出来るんだねえ」

「それって……どういう意味ですか」


聞かなくても想像できた。供物の全てを使う。【死の供物】というレリック。

死蝋の塗られた壁。つまりはそういうことなんだろう。


「さあてさあて、どうやってだろうねえ」


魔女は静かに曖昧に答える。誰も何も言わない。

アガロさんが声を出した。


「ああ、それとヨミドは邪神だ。八体の死の王を従えている死の邪神ヨミド。邪教=ヨミドの信徒っていう風に使われているな。おまえらも探索者になるなら、それくらいは覚えておけよ。ヨミドの信徒は反ダンジョン主義者。探索者の敵だからな」

「は、はい」

「あのあの、わん。覚えました。ヨミドは探索者の敵です」

「よし。ここからが本題だ。ここに入る前、おまえらレリックを感じただろう」

「は、はい。レリックが勝手に」

「あのあの、あの、これはひょっとして呪いですか」

「ああ、そうだ。呪いだ」


呪い。ようはデバフだ。デバフレリック。

そういう類があるのは知っていたが、探索者になる前に掛かるなんて思わなかった。


【死の供物:死の墓から出ると死の供物となる。また4日後、死の供物になる】か。


死の墓からは出られない。4日後、死の供物になる。

それはダンジョンの一部になると考えていいのか。この死蝋みたいに……嫌だな。

エリクサー飲んだら解呪されないかな。後でやってみるか。


「もちろんもちろん。解く方法はあるねえ。この死の墓を解放する。つまり最深部のダンジョンロード。死の王を倒すことだねえ」

「……その死の王のランクはどのくらいですか」

「正確なのは分からないが至宝じゃないのは確かだ」

「おそらくおそらく、宝石級の中位だねえ」


宝石級の中位……どのくらいの強さか検討がつかない。

確か宝石級1体で都市を滅ぼせるんだったか。


「ちなみに俺ひとりだと絶対に勝てない」

「アガロさんが!?」

「まだまだ俺は弱いんだよ」


自嘲する。マジか。僕の中だと最強の男なんだけど。


「あのあの、魔女様は?」

「うーんうーん。そのランクだと、『剣の剣』や『破壊の崩者』とかは普通に倒せて、『七属公』や『烈聖』に『ジェネラスの再来』がなんとか互角ぐらいかねえ」


結構いるんだな。全員、第Ⅰ級だろうか。さりげなく『ジェネラスの再来』もいる。

アガロさんはヒョウタン徳利を傾け、一滴の雫が落ちたのを確認してから言う。


「まあまあ、他に方法はないわけじゃないねえ」

「倒す以外にあるんですか」

「それはそれは簡単だねえ。ヨミドの信徒になることだねえ」

「えっそれは」


さすがにそれはどうかと思う。


「あのあの、それはやめたほうがいいです」

「俺もヨミドはなぁ……探索者としてごめんだ」

「まあまあ、コンもさすがにねえ」


じゃあなんで言ったんだ。

とりあえず僕達は最深部を目指すことにした。


円形の広間にはいくつか通路が空いていた。

どの通路がいいかなんて分からない。


一応【危機判別】と【フォーチューンの輪】は使った。

ジューシイさんが右から二番目の通路を指差す。


「あのあの、あの、この通路がいいと思います」

「じゃあそれにするか」

「そうですね」

「あのあの、いいんですか?」

「ふむふむ。いいんじゃないかねえ」


困惑するジューシイさんをよそに僕達はその通路に入った。

なんか僕もそうだけど深刻さが無いな。


なんでだろうな。

ここから出られなく4日後に死の供物になる。


それを阻止するには4日間で死の王を倒さないといけない。

死の王は宝石級の中位だ。第Ⅰ級が相手するランクだ。


それなのに緊迫感が漂っていない。僕も妙に他人事感覚だ。

不思議だなと思う。

そんな感じで、錆びた剣と盾を持つスケルトンを僕はエリクサーナイフで一閃した。


「こいつら大規模討伐のときの連中か? 兵士っぽいぞ」

「うーんうーん。どうだかねえ」

「あのあの、あの、骨を見ると興奮します」

「咥えるなよ。それ本物の人の骨だからな」

「わふっ?」


本物だったのか。

いや本物じゃなくてもジューシイさんにも骨は咥えて欲しくない。


その後もスケルトンが通路に現れ、倒す。グローボも現れて、倒す。

半透明で頭蓋骨が入ったブラッドスライムも現れ、倒す。


死蝋まみれの城の壁みたいなところで、首無し騎士の一団と遭遇し、倒す。

血の川に巨大な骨の橋がかかっていてゾンビの大群が呻いていた、倒す。


「……なんか順調ですね」

「浅い層だとこんなもんだろ。第Ⅰ級と第Ⅱ級が居るんだぞ。それにおまえらも強さなら探索者として文句ねえ。特にタサンの嬢ちゃんは並みじゃねえな。にしても魔女のやつ、なにを考えているんだ」

「どういうことですか」

「あの魔女が死の墓のことを知らないわけねえだろ。それなのにこの人選だぞ。弟子のおまえも巻き込むなんてよ」

「……やっぱりそう思いますか」


僕も変だなとは思っていた。魔女が死の墓を知らないのは、おかしいと感じていた。

魔女は見たとおり、いい加減な性格だ。


しかしそれは要所要所をしっかりと締めるからいい加減に出来るという。

楽するために苦労するタイプだ。


その魔女が例の森の調査で、事前に何もしないわけがない。

裏で色々としているのは間違いない。


ただまあ今回ばかりは真意を計りかねる。

【死の供物】なんていう呪い。このデバフレリックを知っていたのか。


ちょっとこれは何が何でも理由をきかないといけない。


階段を見つけて下る。似たような死蝋の空間に着く。

色々なアンデッドを倒して階段を見つけ、また似たような死蝋の空間に降りる。

それを何階か繰り返すと、唐突に枯れた草原に着いた。


空は地下なのに常に夕焼け空。不安を煽る逢魔が時だ。

枯れた草が広がっていて、それもなんだか不安を募らせる。


枯れた草原に現れる魔物は骨だけの狼ボーンウルフや骨だけの羊ボーンシープ。

それに骨だけの牛ボーンブルや骨だけの猪ボーンボア。


そして骨だけの熊ボーンベアだ。あと骨だけの鰐ボーンクロコダイルもいた。

骨しかいないのか。それらを適当にあしらうと、家屋がちらほらと見えた。


村だ。


村か。



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