表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/284

例の森へ③・廃村の教会。


アガロさんが二日酔いで少し遅れたが集合して森へ向かう。

そして特に何事もなく例の森に着いた。


妙に開けた場所で、枯れた川に小さく粗末な橋がある。


「……」


橋を渡るとき僕は振り返った。ここであの黒騎士と僕は戦った。

灰となって消えて、なにも残っていない。それでも確かにここで僕は。


「わふっ、ウォフ様? どうしました?」


ジューシイさんがひょいと下から僕の顔を覗き込む。


「あ、いや、なんでもないです。行こう」


橋を渡った先は廃村だ。

廃村というが家屋はもう殆ど崩壊していた。


唯一建物として残っているのは教会だけだ。

あの教会から笛の音が聞こえてきたんだったな。


笛じゃなかったけど。

アガロさんは大きなヒョウタン徳利に口を付けて飲み、見回してつぶやく。

というかこの世界にもヒョウタン徳利……あるんだ。


「なんもねえな。酒場もねえ」


あったとしてどうするっていうんだこのひと。


「ふむふむ、残っているのはあの教会だけだねえ」

「あのあの、あの、廃墟の教会。妙な感じがします」

「あそこは……」

「んじゃあ、行ってみるか」


これだけ何もないとそれしかない。

教会は青銅色でステンドグラスも色褪せていた。

軋む音を立ててドアが開いた。


入るとすぐ礼拝堂になっている。

女神聖母像の真下。赤く埃が積もった祭壇があった。

アガロさんがヒョウタン徳利を傾け、色褪せた女神聖母像を見る。


「邪神崇拝って話だが」

「ほうほう。これはまたまた立派な女神聖母様だねえ」


女神聖母。セイホウ教の御神体だ。

僕は祭壇を見る。ここに怨嗟と悲鳴が渦巻く杯があった。もうその痕跡もない。

エリクサーによって浄化されたと僕は解釈している。


「ん?」


視界の端にドアが映った。

礼拝堂の右端。木製の何の変哲もないドアだ。


周囲の壁と同化していてちょっと分かりづらい。

あのときはさっさと帰ったから気付かなかった。


「あのあの、ウォフ様。どうかしましたか」

「あそこにドアがあります」

「おやおや、本当だねえ」

「物置きだろ」


アガロさんがヒョウタン徳利を飲みながら言う。

しかしこうまでヒョウタン徳利が似合うのはなかなか居ないぞ。


「たぶん。そうでしょうけど」


僕はドアに近付く。


「そうそう。調査するにあたってだねえ。色々と調べてみたんだねえ。そうしたら解放された後でも、やっぱりね。探索者が来ているみたいだねえ」


急に魔女が言う。それはそうだろう。

解放されたと噂か何かで聞いたら、ちょっと行ってみるか。何か宝はあるか。

そんな感じで安心感を持ってやってくる輩もいる。


「ああ、俺もちらほら行ってみるか。みたいなのは酒場で聞いたな」

「それでそれで、見ての通りなにも無いからねえ。失望したり怒ったりしてすぐ戻ってくるんだけどねえ。一部の探索者が、実は戻って来ていないんだよねえ」


僕はドアを開けた。小さな部屋だ。

隅っこに空の棚があって、空の木箱が置いてある。


「戻って来ないって、解放されているんだろ」

「あのあの、わん。それは、どういうことでしょうか」

「さあてさあて。ねえ」

「そういえば、この案件。ギルドじゃないんだよな」

「うんうん。アブラミリンのジジイの案件だねえ」

「あのあの、それって元ギルドマスターですよね。今はグランドギルドマスターをしている」

「おいおい。なかなかに、きな臭いじゃねえか」


なんか話している。

しかしこの部屋なにもないな。

本当に何もない。アガロさんの言う通りただの物置か。


「…………」


僕は、なんとなく【危機判別】を使った。

何も反応はない。


「……」


それならと流れで【フォーチューンの輪】を使う。

ほら、なにも―――え? 正面の壁が……緑色だ。


「なんだ?」


この壁がレアなのか。珍しい材質で出来ているとか?

あるいはこの壁が珍しい。


「あのあの、ウォフ様? なにかあったんですか」

「酒か? 酒樽でもあったか」

「おいおい。アガロ。あっても飲めないと思うねえ」


皆やってきた。

アガロさんがグビっとヒョウタン徳利で酒を飲む。


「なんもねえが……なんか怪しいな」

「あのあの、この小さな部屋。なにかあります」

「ふむふむ。あの壁だねえ」


魔女はレアの壁を面白そうに指差す。

凄いな。皆、分かるのか。


「んじゃあ、燃やしてみるか」


アガロさんの左手が真っ赤に燃える。

振りかぶって、壁を殴った。壁がへこみ燃え上がると壁が消える。


「おやおや、隠し壁だねえ」

「階段です」


壁が消えると階段が現れた。地下へ続いている。


「暗いな」

「あっ僕、リヴさんから貰ったのがありまして」


ポーチから光球を出す。スイッチを入れると浮かんで光った。

するとジューシイさんの瞳がキラキラと光って尻尾がワイパーみたいに激しく動く。


「あのあの、あの、あのあのっ」

「ジューシイさん。ダメですよ」


飛び掛かろうとしたのバレてますよ。

わふっとしょんぼりしてもダメですよ。魔女が光球をジッと見ている。


「ほうほう。これはこれは、とても面白いねえ」

「おう。便利だな」


そんなやりとりをして階段を降りると、似たような白い部屋があった。

ここには何もない。


「あのあの、床に何かあります」

「床?」


そのとき、床が青白く光った。あっこれ転移陣。






身体が何かドクンっと感じた。


【死の供物:死の墓から出ると死の供物となる。また4日後、死の供物になる】



え?




次の瞬間、転移した場所は真っ暗だった。すぐに光球が浮いて照らす。


「ここは?」


光の照らす範囲から何かとても広い空間だったのは分かった。

そして遠くで赤と青と黄の球体が無数に浮いている。淡い幽火のように揺れている。

その数は……百は軽く超えていた。ウソだろ。


【危機判別】を使わないでも分かるが一応使う。赤。真っ赤だ。敵だ。

僕の隣りにいたアガロさんがヒョウタン徳利を傾け飲んで言う。

こんなときでも飲めるのかこのひと。


「ん。ありゃあ、グローボか」

「魔物ですか」

「ああ、アンデッド系のゴーストだったか。それぞれの色は属性レリックだったな」


つまり火と水と雷のグローボってことか。それが数百近く。


「あのあの、つまりここはダンジョンなんですか」

「うんうん。そうだねえ。どうやら一部の探索者はここに入ったみたいだねえ」


そして戻って来なかったか。


「にしても多いな。グローボ」


魔女が虚空から何か取り出す。瓶だ。ああ、そうか。


「はいはい。コン特製の聖水だねえ。しばらくの間、光の効果が発揮するねえ」

「おう。ありがとうな」

「あのあの、あの、ありがとうございます」

「あっ僕は大丈夫です」


真っ白いナイフを抜く。対アンデッド最強にして切れないナイフ。


エリクサーナイフだ。

アガロさんが僕のナイフを見て言う。


「そういえばよぉ。ウォフの戦いを見るのは初めてだな」

「そういえばそ」

「わんっ、わわんっわんわんっ。わおぉーんっっ!!」


ジューシイさんは雄たけびを上げ、青色のグローボの群れを殴り飛ばした。

聖水効果で水のグローボはどんどん掻き消えていく。

どうやら我慢できなかったみたいだ。


ジューシイさんの奇襲を皮切りにグローボたちが僕達に襲い掛かる。

ゆらりと浮遊しながら火を飛ばし、水を飛ばし、雷撃を放つ。


1体ずつなら大したこと無いが、こんなに沢山居ると厄介過ぎた。

いいや、そうでもなかった。ぜんぜん厄介でも無かった。


まずアガロさん。酒を飲みながら片っ端から襲って来るものを雑に滅却する。

滅却はアンデッドを完全に焼き尽くしていく。


魔女から貰った聖水は使っていない。

じゃあなんで貰ったんだろう。


次にジューシイさん。片っ端から殴っていく。

身軽で素早く、グローボは追いつかない。聖水が付いた拳は白く輝いている。


そして魔女。高らかに指パッチンするとグローボが数十体ほど消えた。

なにをしたのかは分からない。まるで手品みたいに消失した。


それを3回ほど繰り返し、グローボの数を一気に減らしていく。

後は聖水瓶を逆さに指で三本ほど挟んで、ぼいぼいっと投げている。


最後に僕。近付くグローボをエリクサーナイフで切っていく。

一撃でグローボは霧散する。属性レリックを放つだけでそんなに強くないな。


殲滅するのに特に何事もなく終わり、そして何も残らない。

あるのは奇妙な静寂のみだ。


アガロさんがヒョウタン徳利をイッキ飲みして言う。

ホントよく飲むなあこのヒト。


「なんもねえと思ったんだがなあ」


僕もそう思いました。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ