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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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120/284

例の森へ⓪・サイレントムーヴ。


助けた帰り道。突然、激しい筋肉痛になった。

立てなくなるほどで肉離れしていた。急いでエリクサーを使う。


「……なんだったんだ……」


いや覚えはある。おそらく【サイレントムーヴ】だ。


次の日。

僕は検証を始めた。そう【サイレントムーヴ】だ。

初めて使ったとき、頭の中に流れた説明と何か違う気がした。


「それにしてもあんたって本当に変なヤツよね」

「そうですか」

「ナ!」


僕の肩に座るミネハさんは軽装でスラリとした生足を動かす。

ダガアはナイフになってベルトに仕舞っている。ホント気紛れだな。


「探索者じゃないのにこんなところに住んでいるとか、ダガアとか、レリックとか、それで今回はそのレリックに適応するオーパーツ。それも製造されたものとか。これで変じゃなければ、レルの姉妹は普通ってことになるわよ」

「ナ?」


ミネハさんは溜息をつく。

言われると確かにその通りだなと苦笑する。


ミネハさんは今も見張り塔を不法占拠している身だが、いやもう居候でいいか。

ダガアの件もあって彼女には僕の事をある程度は話している。


元々【静者】は知っていた。だから【サイレントムーヴ】のことも教えた。

それとダガアナイフのエンチャントも伝えた。


他のレリックの事も、少なくとも【バニッシュ】は折を見て話そうと思う。

さすがに【ジェネラス】や【エリクサーの神聖卵】は秘密のままだ。

【フォーチューンの輪】はどうしよう。


つくづく自分は秘密だらけで厄介だなと自嘲する。

なんだろうな。前世の記憶でこういうのを思い出した。


金持ちになれば金は集まってくる。それは金が沢山あるからだ。

それと同じで秘密を抱えていると、秘密が集まってくるのだろうか。


「それでなにをしようとしているの?」

「精密さといえばこれです」

「ナ!」


ここは棲み家の左側の部屋だ。倉庫代わりに使っていて木箱が積んである。

一時期ダガアを置いていたところだ。


そしてダガアを置いていたテーブルに木のボールと皿がある。

ボールの中には大小様々な水洗いされた沢山の豆が入っている。

しっかり水気は切ってある。


そして箸だ。この世界にも箸はある。

その中でも料理用の長箸を用意した。それと約1分の砂時計。


10分や5分は長すぎる。3分が欲しかったが無い。というわけで1分だ。

ミネハさんは僕を睨む。


「だからなにをしようとしているのよ」

「あれ、知らないんですか」

「ナ?」

「このボールの中に入っている豆を素早く箸で皿の上に移すんです」

「はあ? 箸で?」

「それも1分間にどれだけ移せるか計ります」

「ナ!」

「なんか面倒そうね。イライラしそう」


ミネハさんなら数秒でボールをひっくり返しそうだな。


「それを【サイレントムーヴ】でやります」

「ふーん。肩から退いたほうが良さそうね」

「はい。おねがいします」


ミネハさんはあまり興味なさそうに飛んで木箱に着地する。


「ダガア。来なさい」

「ナ!」


ミネハさんが呼ぶと、ダガアは勝手に抜けて変化してミネハさんの元へ。

木箱の上に座り込むとミネハさんが寄り掛かって座る。専用クッションかな。


すっかり僕より扱いが上手くなっている。飼い主はどっちだろう。

ミネハさんは偉そうにして大仰に足を組む。どこのマフィアの女だよ。


「ほら、始めなさい」

「へいへい」


 【静者】になって砂時計を引っ繰り返し、長箸を手にした。


「【サイレントムーヴ】」


【静聖の篭手】で【サイレントムーヴ】を発動させる。

別に唱える必要はないが、なんかこれだけは口に出したほうがいい気がした。


行動はボールの豆を長箸で皿に移す。

そう決めると目の前にノイズがはしって揺れた。


「ウォフ! ウォフ! ウォフ!!」

「っ!?」


ミネハさんの声でハッとすると、ボールの豆が全部無くなっていた。

隣の皿の上に大量の豆が置いてある。


ぜんぶ移動していた。

砂時計は終わっている。


「まったく無視しているんじゃないわよっ」

「いや無視は、痛っ……?」


長箸を持つ手が攣ったように痛い。腕も痙攣して痺れている。


「凄い気持ち悪い動きをしていたわよ。その【サイレントムーヴ】ってなんなの」

「気持ち悪い……僕は全く覚えてなくて」


目の前にノイズがはしってから呼ばれるまで何も覚えていなかった。

首筋が汗びっしょりだ。箸を持つ腕も手も痛い。


「その【サイレントムーヴ】はレリックね。自動系のレリックだわ」

「レリックですか……」

「前に師匠から聞いた事があるわ。レリックに適応するオーパーツの特徴は大きく分けて2タイプあるの。アタシの槍みたいにレリックの威力や効果を高めるAタイプ。適応したレリックに関連したそのオーパーツを持っているときだけしか使えない、限定的だけど全く新しいレリックが使えるBタイプ。あんたのはBタイプね」


なるほど。Bタイプか。


「【サイレントムーヴ】は……自動系のレリックですか?」

「ええ、そうね。自動系は使うと特定行動を行うレリックね。【オートムーヴ】っていうの。アタシも詳しくないけど、確か意識があって行動するのと、意識が無く行動するのに別れているわ。あんたのは後者ね」

「ですね……そんなに気持ち悪かったですか?」


気持ち悪いはショックが大きい。ミネハさんはくすっと笑う。


「なんていうのかしらね。カクカクした動作はまるでパペットみたいだったわ。何度呼んでも無視されていて、腹立ったから【スパイラル】をぶつけようかと思ったわ」

「やめてください。死んでしまいます」

「失礼ね。手加減してギリギリ死なないようにするわよ」

「手加減してそれですか」

「なによ」

「ナ?」


ダガアは顔をあげて僕を見て、あくびするとそっぽを向いた。

まるっきり興味ないみたいだ。


「ウォフ。あんた。その【サイレントムーヴ】。ソロならいいけど、誰かとパーティーを組んだりしたとき、使うのは控えた方がいいわよ」

「そうですね。僕もそう思います」


いやソロでも使いたくない。

普段使いでも、使いどころが難しい。まだ長箸を持つ手と腕が痙攣して痛い。

あれだな。昨日の筋肉痛も肉離れも、かなり無茶な移動をしたからだろう。

後でエリクサーを使おう。


ん? ミネハさんが顎に手をあてて、僕を厳しい視線で見ている。なんだろう。


「―――ねえ、あんた。もう分かっていると思うけど、いつまでゴミ場漁りなんてするつもりなの?」

「どういうことですか」

「まさか本当に来年まで探索者にならないわけじゃないわよね」

「……どういうことですか」

「特例で探索者になんでならないの?」

「…………」

「あんたの実力なら特例で探索者に余裕でなれるわ」

「余裕はさすがに」

「あんたの師匠の魔女はそのことについて何も言わないの?」

「何も言ってくることはないですね」

「ふーん。あんたはどうなの?」


僕は……どう思っているか。

探索者になること―――以前の僕なら微苦笑して即答で断っていただろう。

でも今は……息を小さく吸って、口を開く。


「僕は…………ずっと14歳で探索者になればいいと思っていました。僕にとって探索者は生きる為の単なる職業で仕事です。だからそれでなにかやりたいとか第Ⅰ級になりたいとか、そういう夢も目標もありません」

「まぁ生きる為っていうのは多いわね。別に否定しないわ」

「でも色々と学んで経験して知って、今は14歳じゃなくても、なれるなら探索者になりたいと思っています」

「なんでそう思うようになったの?」

「一番の動機は所有権ですね」

「所有権?」

「ダンジョンで手に入れたモノは探索者しか所有権がない。あれです」

「そういえばダガアもそうだったわね。アタシ名義にしたけれど、あんたの場合は次から次へと厄介な宝を持ってきそうね」

「はははっ、否定できません……」

「それと夢や希望とか言わないところ。いかにもあんたらしいわ。それで魔女にも言ってないのよね」

「はい。初めて誰かに言いました。ミネハさんだけです」

「ナ!」

「ああ、ダガアもだね」


どうせ聞いていないだろう。

ミネハさんは僕をまっすぐ見つめて言う。


「それなら、あんた。今すぐ魔女のところに行ってなりたいって言って来なさい」

「これから行きますけど……」

「じゃあすぐに行きなさい。それと帰りに肉を必ず買ってきてね。たくさんよ」

「ナ!」


たまには野菜も食べて欲しい。まあ買って来るけど。

ふとダガアを見る。


「ダガア。一緒に行かないのか」

「ナ?」


そっぽを向いた。行かないんだな。わかってた。

いずれダガアのエンチャントも検証しないとなぁ。

僕は準備して魔女の森へと向かった。



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