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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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猫と狐と犬⓶


少しして3人は冷静になった。

しばらく三者三様で顔どころか全身を真っ赤にして黙り込む。

そして魔女は口元に手をあてて、わざとらしく咳をした。


「こんこん。さてさて、冗談はここまでにしておこうかねえ」

「そ、そうじゃのう」

「わふっ、あのあの、わん。しておきましょう」

「……まぁいいですけど」


ふう、どうなるかと思った。

魔女は改めてという感じで尋ねる。


「さてさて、君たちはどうしてここに居るのかねえ」

「そういう魔女こそ、どうしてここに居るんですか?」


僕は聞き返した。

あの万年引き籠り魔女が心折れそうになっても鍛冶屋に来た。

それ程の理由。気になる。


「それはそれは、この懇意にしている鍛冶屋で使っている大型レジェンダリーがあってねえ。主にオーパーツ修復に使っているんだけど、それの調子が悪いと連絡が来たから確認しに来たんだねえ。持ち運び出来ないから仕方なくねえ」

「そうだったんですか」


思ったよりまともな理由だった。

魔女はこうみえてレジェンダリー修復のエキスパートだ。


「あのあの、レジェンダリーを修復できるのは凄いです。さすが魔女様です!」

「おやおや、良いわんこだねえ」

「わふっ」

「それでそれで、君たちはどうしてここに居るのかねえ」

「それは……カクカクシカジカで」


僕は一連の流れを説明した。アクスさんから貴重な素材を貰ったこと。

それで篭手をつくろうとしていること。

費用が足りなく、そうしたらヴェレントさんから採取依頼を受けたこと。


「マルマルウマウマだねえ。なるほど。なるほどねえ」

「それで魔女。魔金って知っていますか」

「おやおや。それはまた随分と珍しいモノの名を聞いたねえ」

「希少性が高いことは知っています」

「じゃが価値は低い」

「あのあの、あの、三つ目ウサギの目みたいに役立たずなんですか?」


質問攻めする僕達を魔女は興味深く眺める。

その翡翠色の眼差しが細くなると、やや黒く映えた。

紅色の唇を軽く舐めてから開く。


「ではでは、この魔女がすばり答えてあげようねえ。魔金は魔銀よりもねえ。レジェンダリーやオーパーツの適応伝達率が倍以上に高く、魔銀を溶かすよりも遥かに低い熱で様々な形状に変化して、レジェンダリーやオーパーツの修復だけでなく他にも様々な用途に魔銀よりも優れて役立つ、大変に希少な代物だねえ」

「それなのに価値が低いんですか」

「そうだねえ。価値は魔銀よりも低いねえ。ただし価格は魔銀より上だねえ」

「はて、それは面妖なことじゃのう」

「あのあの、不思議です」


いわば魔銀の完全な上位互換だ。それなのに価値は低い。


「価格は上なんですか」

「うんうん。そもそもねえ。魔金を使おうという者があまりいないんだねえ」

「ふむ。使うひとが少ないとな」


それだけ高性能なのに?


「あのあの、わん。わわん。それはつまり使う人が限られているってことです?」


魔金を使う人が限られる?


「おお、おお、わんこちゃん近いねえ」

「わふっ」

「さてさて、聡明なる我が弟子ウォフ少年。答えは分かったかねえ?」


魔女がどこか挑戦的な視線を僕に向ける。

そしてモノを教えるときの師匠の顔になった。

弟子への試練か。面白い。師匠、受けて立つ。


魔金は魔銀の完全な上位互換だ。高性能だが使う人が限られる。

だから価値は低くみられている。でも実際の価格は魔銀より高い。


価値は低くても価格は高い。

価値よりも、使う人が限られていることが鍵のような気がする。


「うーむ。高性能なのに使う人が限られることか」

「ウォフ……」

「わふっ、わん。ウォフ様……」


ふたりが心配そうな顔で僕を見る。だいじょうぶ。

ひとつ気になることがある。魔女は魔金の説明で―――そうか。

それってつまり。そうか。そういうことか。


「わかりました。魔金は魔銀よりも扱うのがとても難しい。希少性があるのに価値が低いのは、それを扱える人がとても少ないからじゃないでしょうか」

「そうなると価格も低くなるはずじゃが?」

「価格が高いのはやはり希少性だと思います。その価値が低いというのは一般的な価値が低いを意味するんじゃないでしょうか。つまり扱える人が殆どいないから、一般的な価値が低いんです。それと魔女は説明で扱いについては何も言ってませんでした。普通は扱いも魔銀よりも簡単みたいなことを言うはず。それなのに性能だけしか言っていない。魔女。魔金の唯一の欠点は、その扱いの難しさなんですか」


僕の回答に魔女は静かに拍手した。


「うんうん。正解だねえ。いくら魔金が魔銀より優れていて高性能でも、その扱いが極めて困難だと価値も低くなるんだねえ。一番難しいのは、魔金は魔銀よりも低い温度で溶けることだねえ。絶妙な温度調節を要求されるからねえ。ほんの少しでも温度を間違えたら完全に溶け切ってしまうからねえ。他にも繊細なところがある。昔は魔金も今よりは扱えるひとが居てねえ。技術も代々受け継がれていたんだよ。でもそれが色々な要因で途絶えてしまってねえ。今じゃ大陸でも魔金を使える者は指で数えられる程しかいないねえ」

「そういうことじゃったのか」

「あのあの、わん。凄いです。さすがウォフ様。名推理です!」

「いえいえ。ジューシイさんのおかげですよ」

「うむ。ジューシイのお手柄じゃな」


ジューシイさんが気付いたから導き出せた。

そして続きがある。


「魔女は魔金を扱えますよね」

「うんうん。もちろんもちろんだねえ。むしろコンは魔金の方が得意だねえ。それでそれで、ウォフ少年たちは持っているんだよねえ。魔金」

「はい。持っています」

「あるのう」

「あの、はい。あります」

「やはりやはりねえ。話からすると魔銀の採取依頼で見つけたみたいだねえ。それにしてもあの鍛冶屋がねえ。費用の為に採取依頼を出すとはねえ」

「出して悪かったな」


ぶっきら棒な声に振り向くと、ヴェレントさんが居た。







帰ってきたヴェレントさんに魔女はニヤニヤする。


「おやおや、これはこれは鍛冶屋。気を悪くしたかねえ」

「なんだ。おうよ。随分親しそうじゃねえか。魔女らしくねえな」


フッと笑うヴェレントさん。

魔女はそっと僕の肩に手を置いた。軽く引き寄せ、胸が頭に当たる。

マシュマロクッション!?


「それはそれは、当然だねえ。なにせウォフ少年はコンの愛弟子だからねえ」

「ボウズがおめえの弟子!?」

「これ狐。くっつき過ぎじゃ。離れよ」


ムッとしてパキラさんが引き離す。助かった。

胸が柔軟に弾む魔性のクッションでどうしようかと思った。


「あらあら、だねえ」

「まったく油断も隙もないのう」

「あのあの、魔女様。ダメです」


その様子にヴェレントさんは苦笑する。

僕はなんだか恥ずかしくなった。おのれ魔女。


「魔女に弟子がいるとは聞いたが……ボウズだったとはな。魔金も納得だ」

「それでヴェレント。魔銀のほうじゃが」

「おうよ。その魔銀三本。100万オーロでどうだ」

「うむ。それでよい。それをウォフの為に使ってくれ」

「パキラさん。いいんですか」

「元々その為じゃ」


パキラさんは微笑んで頷く。


「あのあの、あたくしも賛成です! ウォフ様の為に使ってください!」

「ふたりとも…………」


僕は胸が熱くなった。ヴェレントさんは僕の肩に手を置く。


「おうよ。ボウズ。良い女たちじゃねえか」

「は、はい」

「おうよ。オレもやる気が出てきた。最高の篭手を造ってやるよ」

「よろしくおねがいします!」

「良かったのう」

「あのあの、ウォフ様。おめでとうございます!」

「ありがとうございます。ふたりのおかげです」

「そうじゃ。ウォフ。例の刃のことを話してみよ」


パキラさんに促され、僕はポーチから慎重に布の包みを取り出す。


「は、はい。ヴェレントさん。実はもうひとつ頼みたいことがあるんです」

「おうよ。なんだ?」


包みを丁寧にひらいて、ナイフの刃をみせた。


「こいつは?」

「これの柄を造って欲しいんです。またナイフとして使いたいんです」

「……触っていいか」

「は、はい」


ヴェレントさんは刃に触れる。難しい顔を浮かべた。

どうだ。ダメなのか。ダメなのか? ヴェレントさんはニッと笑った。


「おうよ。なかなか悪くねえ刃だ。いいだろう。ナイフにしてやる」

「ありがとうございます!」

「あの、良かったです。ウォフ様」

「うむ。良い良い。ところで魔金のほうじゃが、それはどうするつもりじゃ?」

「そうだったな。おうよ。こいつの範囲を確認してからそれに見合った金額を払う。それでどうだ?」

「だったら、その金額はパキラさんが貰ってください」

「なんじゃと」

「あのあの、あの、あたくしもそれでいいです。あたくしは報酬以上の経験を貰いました。パキラさんにあげます」

「おぬしら…………ならば、ありがたく貰おう。礼を言うぞ」


パキラさんは照れ笑いをする。

そこで何故かずっと遠巻きに見ていた魔女の事が気になった。


「どうしたんですか。魔女。黙ってて」

「いやいや、セーシュンだなあと思ってだねえ」


微笑ましく見守る魔女。

セーシュン。青春か。これ青春かな。

青春か。

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