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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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野郎四人討伐旅②


クルッタ高原を抜け、サンザンナ洞窟を通り、今はオオボラ湿地帯にいる。

垂れ下がった不気味な木々が生い茂って薄暗く、足元はぬかるんで最悪だ。


「おまえら、気を付けろ。何かがいるぞ!」


マジか。アガロの警告に剣を抜いて警戒する。

ふとホッスの斜め横の沼水が僅かに盛り上がった。なにかいる。


「ホッス、隣だ!」

「なんだべっ! ぬわあっっ」


何かが沼から大きく口を開けて飛び出し、ホッスに襲い掛かった。

咄嗟にハルベルトで受け止め、俺が切る。弾かれたように沼へ落ちた。


「だいじょうぶかっ?」

「危なかったべ。助かっただ」

「こいつは沼ワニか」


大きさは普通のワニの半分ほどのワニだ。沼に潜むので沼ワニと呼ばれている。

しかも沼ワニは魔物じゃない。なんと動物だ。


正直、俺にはレリックを使わない魔物と動物の区別がつかない。

まあ目玉が沢山あったりしたら魔物だと思うことにしている。


「沼サメじゃなくて良かったな」


沼サメは魔物だったか。レルが聞く。


「ホッス。沼ワニは喰えるのか」

「泥吐きに時間が掛かるだ」

「おまえら。とっとと抜けるぞ。こんなところで一晩はごめんだ」


確かに、こんなところで夜は明かしたくない。

カンテラを掲げて進む。


「沼か。8番目の姉が5番目の姉のことを沼に嵌まっていると言っていたが、意味が分からなかったことがあるな。今も分からない」

「なんだべな。きっと、ろくなことじゃないべ」

「聞いた事があるな。趣味に没頭することを沼に嵌まるとか言うらしいぞ」

「なるほど。だが俺は5番目の姉の趣味を知らない」

「レルが知らないのは珍しいべな」

「ただ、薔薇が咲くとか百合が咲くとか」

「なんだべ。花?」

「花壇とか庭園とか?」


実に女の子らしい趣味でほほえましい。


「……俺も聞いたことがあるなぁ」


アガロがそう言う。


「知っているのか」

「メガディアが……男同士が薔薇で女同士が百合とか話していたのを聞いたことがあるが、何の事だかさっぱりだ。おまえら。なんか分かるか」

「まったく分らんだべ」

「分からない」

「花じゃないのか」


うーんと俺達は小首を傾げる。謎だ。これだから女ってわけがわからん。

それから沼ワニを何匹か排除して、沼ゴブリンとトロルの群れと遭遇し戦闘。

殲滅してさすがに休憩。日が沈みかけた頃にようやく湿地帯を抜けた。


湿地帯の先は森林。そして霧深い谷だ。

今夜はこの森林で野営をする。ほぼ昨日と同じ設置だ。


湿地帯は違って静かでうっすらと霧が漂っている。

谷が近いからだ。


「出来たべ。キノコとハーブのスープに肉焼きとパン豆だ」

「おお、うまそう」


しかも肉焼きは大きな葉に包んである。

キノコのスープは沢山の色々なキノコが入っていた。


「沢山つくったから、たんと食うべ。それとアガロが酒の肴が欲しいっていうから作ってみたべ」

「おっ、なんだなんだ」

「豆と木の実を砕いて調味料と混ぜて炒めたもんだ」

「ほお、カリカリしてうめえな」


アガロはさっそく摘まんで食べる。

ご飯も食べよう。


「肉焼きにも混ぜてあるべ」


パン豆と一緒に食べるとうまいな。この肉焼き。


「ホッス。この肉焼き。何の肉なんだ?」

「マッドエッジだべ」

「えっ……あのクルッタ高原の……兎?」

「兎肉とは違う味だな。豚肉みたいだ」


レルが自前のナイフとフォークで自前の高そうな皿の上の肉焼きを切って食べる。

こういうの見ると、育ちが良いというか貴族なんだなと思う。

まあマッドエッジの見た目は無視して、肉は美味い。そして肉に罪はない。


「もぐもぐっ、魔物はそういうのよくあるよな」


見た目と味が違うのは割とある。

ウォーターエルクという鹿の魔物を倒したらトマトの味がしたのは吃驚した。

レルがぽつりと呟く。


「見た目と違うか。6番目の姉は傭兵。今はタサン侯爵家の護衛をやっている」

「タサン侯爵家ってあの大貴族の」

「それは凄いべ」

「ほお。しかし傭兵なのか。珍しいなぁ」


アガロが呟く。確かに今の世は探索者だ。

傭兵という職業は残ってはいるが、殆ど形骸化されている。


「ああ、探索者にはならなかった」

「なんでだべ」

「それはダンジョンが怖いからだ。アンデッド全般も大の苦手だ。だから彼女だけ13番目の妹の自室《地下墓所》には行っていない」

「アンデッドが苦手だからダンジョンが怖いのか」


アンデッドはダンジョンにしかいない魔物だ。

ダンジョンに入らなければ遭遇しない。


「それもあるが、狭くて暗いからだ」

「子供かその姉」

「それで傭兵っていうのも面白ぇもんだな」

「戦うことは好きだからな。だから強い」

「そりゃあ、タサン侯爵家の護衛なんかやっているんだから強いよな」

「レルの姉妹は殆どが好戦的なの、なんなんだべ」

「いやいや、14番目の妹はそうじゃないぞ。大人しい性格で格闘が得意だ」

「格闘の時点で好戦的なのは変わらないべ」

「あと、そういうの俺達にバラしていいのか」

「問題ない。どうせお前たちは会わない」


レルは自信満々に言う。まあ確かに会う気はない。ホッスも同様だ。

そんな風に雑談しながら食べ終わり、レルが見張りに立とうとしたとき。


「よし。明日の話をするか。分かっていると思うが明日、霧深い谷に入って大魔刀サイを討伐する」

「……あの、ひとついいですか」

「なんだ。アクス」

「討伐する前に聞こうって思っていたんですよ。どうして俺達の為に大魔刀サイの討伐をするんですか」

「それは、おまえら。オーパーツを持った魔物や敵と戦ったことはあるか」


俺達は見合わせる。


「いやねえべ」

「無いな」

「無いです」


考えると、俺達はレリックを使う魔物や敵と戦ったことはある。

だがオーパーツを持った魔物や敵との戦闘経験は無い―――だからか。


「ここで俺達にオーパーツを持った相手の経験を積ませる為ですか」

「まっ、そんなもんだ。レリックに適応できるオーパーツを持った相手。これから階級を上げていくと、探索の階層も深くなっていくだろ。その中の魔物にオーパーツ持ちなんていうのもザラに居るようになる。人型の魔物とかな」

「……それで金等級の中位なんだべ?」

「まぁーちょうどいい依頼だったからな。どうせなら上から見たほうがベンキョーになるだろ」

「ふむ。一理ある。それで7番目の姉は死にそうになった」

「まったく一理もないべ」

「とりあえず此処まで来たんだ。存分に学ぶか」

「そうだな。大魔刀ライノ。どんなレリックを持っているんだ」

「ああ、そいつは―――戦わないと分からん」

「決まっていないんだべか」


普通は魔物の種類によってレリックは決まっている。

サンダーホースは雷の属性レリック。ファイアベアは火の属性だ。


「大魔刀ライノが何のレリックを持っているかは直接カチ合ってからだな。金等級の魔物は大体、そんなもんだ」

「そんなもんって……」

「だべなあ」

「ふうむ」


さすがの俺達も困惑して不安になる。

アガロは酒を飲んで苦笑する。


「おいおい。おまえらがメインで戦うんじゃねえんだぞ。おまえらはあくまでも支援。サポートだ。しっかり援護しろよ」

「わかった」

「そうだな」

「やるしかねえべ」


いかんいかん。明日は気合を入れないとな。

そうして話は終わり、後は交代で見張りをしながら次の日になる。


森林に絶えず漂う薄い霧は、霧深い谷から流れ込んできていた。

この森林の先に霧深い谷はある。

伝説曰く至宝級の魔物ミストランダが支配する谷といわれている。


「よし行くぞ。警戒は怠るなよ」


アガロを先頭に俺達は谷へ入っていった。武器を手に警戒しながら進んでいく。

谷は濁った青い壁と岩しかない、妙な谷底だ。踏み締める地面も青く濁って硬い。


「なんだか濃くなってきてんだべか」

「段々と霧深くなっている」

「まあ霧深い谷だからな」

「……止まれ」


俺達は立ち止まる。

アガロが手で合図し、その方を見ると……居た。


ライノだ。異様な角をしたライノが佇んでいる。

その大きさは見上げるほどで、建物2階分ぐらいあるんじゃないか。

身体の色は鈍い青だった。そして角が凄まじい。


頭部の半分程も占めた白く光る分厚くそそり立つ直刀が角だ。

まるで埋め込まれた巨大な剣にしか見えない。


大魔刀ライノ。

その額の角はオーパーツで適応しているという。


「あれがそうなのか」

「金等級の中位……だべか」

「…………」


まだ気付かれていない。距離もある。

それなのに威圧を感じる。圧倒的な空気を放っているのが分かる。

これが魔物なのか。まるで鍛錬のときのアガロのようだ。


「雷撃の牙。俺が先陣を切る。おまえらはいつも通りやれ」


そう言って笑うと、アガロは大魔刀ライノへ歩きながらフレイムタンを抜いた。

舌のように膨らみ曲がったサーベル。

アガロの【滅】のレリックに適応したオーパーツ。【滅剣】そのもの。


その瞬間、ギロリと睨まれた。

大魔刀ライノのたった一つの黒い目が俺達を見る。


そのとき俺は大きな勘違いしていたことに気が付く。

大魔刀ライノは今、気付いたんじゃない。最初から俺たちのことを感付いていた。

警告を放っていたんだ。


『ヴモオオォォォ』


低く唸る。

大魔刀ライノはアガロに向き直り、その角……大魔刀を見せつけるように上げた。

なんだ? 大魔刀がブレて見える。


「じゃあ、殺るか」


アガロのフレイムタンがジワァァァっと赤くなっていく。


『ヴモオオォォ!!』


大魔刀ライノは吠えるとその巨体を震わせ上半身をあげた。

そのまま大魔刀を振り上げ、やや斜めに降ろす。

着地に地面が一瞬揺れ、弧形に斬撃が飛んだ。アガロは咄嗟に避けて転がる。

硬い濁った青い地面が裂けた。


「なるほどなぁ。そういうレリックか」


アガロは立ち上がると、真っ赤になったフレイムタンを両手で持つ。

大魔刀ライノは今度は首を軽く振った。大魔刀が揺れて小さな斬撃がいくつも飛ぶ。


「しゃらくせえぇっ」


アガロがフレイムタンを振ると炎が壁のように展開された。何かが弾ける音がする。

斬撃が炎の壁に当たった衝撃音だ。


『ヴモモォォォオオォッッ!』

「雷撃の牙! 援護は頼んだぞ!」


アガロが叫んで跳躍し、大魔刀ライノの真正面からフレイムタンを振る。

黒い炎が舞った。滅却の炎だ。大魔刀とフレイムタンが激突する。


「ぬおおおぉぉっっっっ!!」

『ヴモオオオオオォォォォッッ』


フレイムタンの滅却の炎が大魔刀にヒビを入れた。

押している。勝てるぞ。いやなんだ。大魔刀が強烈に光った。


「うおぉっっ!?」


アガロが目を閉じ、その隙をついて大魔刀が大きく振りかぶった。

刀身に当たってアガロは弾き飛ばされた。

高い位置で壁に激突して落ちた。見えなくなる。


「アガロさん!?」

『ヴモオオオォォォッッッッ!!』


大魔刀ライノは上半身を高く上げ、大魔刀を高く高く振り上げた。マズイ。

振り下ろす瞬間、一本の矢が大魔刀の刀身の側面に当たり、衝撃が起きた。


『ヴモモオオォォッッ』


大魔刀ライノが揺れる。驚いて振り返るとレルが二の矢を放つ。

大魔刀ライノの頭部に当たり、衝撃が発生する。


衝撃矢か。

レガシーの衝撃を起す衝撃石が鏃になった矢だ。威力は高いが高価で扱いが難しい。

だが二発の衝撃波でも大魔刀ライノはダメージはあるが、上半身をあげたままだ。


これが金等級中位か。


「たああぁっつっっ」


いつの間にか背後に回ったホッスが大魔刀ライノの脚をハルベルドで狙う。

その刃は大魔刀ライノの脚に傷を負わせた。


『ヴモモオオオォッッッッ!!!』


大魔刀ライノはグラついた。


「アクス。アガロを頼む」

「お、おう!」


レルが衝撃矢を放つ。大魔刀に当たって更にグラつかせた。

ホッスもハルベルトで脚に傷を負わせる。大魔刀ライノが大きく揺れた。


ふたりが相手している隙に俺はアガロを探す。


「おーい! おーい!」

「アガロさん!?」

「アクス、ここだ!」


声のする方を見るとアガロは瓦礫に埋まっていた。

激突した壁が割れて崩れ、それに巻き込まれたらしい。


幸いにも瓦礫は俺にも退かすことが出来た。

それにしても壁に亀裂か。辿ると上まで続いていた。うっすらと壁上が見える。

これって……ひょっとすると。


ある程度まで瓦礫を退かすと、アガロが這い出た。壁際に座り込む。


「ふう、ふうぅ、助かった。ありがとよ。それで大魔刀サイは?」

「ホッスとレルが相手しています」


それもどのくらいまで相手できるか。

アガロもそう感じたらしい。身体の異常が無いのを確かめると立ち上がった。


「よし。急ぐぞ」

「待て―――アガロさん。俺に考えがあります」

「お? なんだ。聞かせろ」


俺が思いついたことを話す。聞き終わるとアガロは笑った。


「どうですか」

「面白いし確かにうまくいきそうだが、その間はアクス。大丈夫か。アイツの相手を時間稼ぎとはいえ、おまえたちだけでするんだぞ」

「大丈夫です」


俺達、雷撃の牙が必ず成し遂げてみせる。


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