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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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ナ!①


どうやら、まだ僕は夢の中にいるようだ。

無理もない。疲れていたからな。

僕の顔を舐めクチャにしたのは残……もとい裸のジューシイさんではない。

当然だろう。当たり前だ。チクショウ。


さて、なんだろう。なんなんだろう。

この僕の膝の上に居る小さい―――生き物? 魔物? 魔物か。魔物? 

魔物? うーん。どうみても魔物。


大きさは猫ぐらい。

真っ白いフワフワとふわふわっした身体。

うっすらと紫の渦巻き模様と小さな翼があった。この時点で魔物だろう。

緩やかに長い白のクルッと弧を描く尻尾。

四つの細長い耳を生やし、外側の耳が羽みたいになっている。


斜めにアーモンド形をした猫みたいに大きな赤い双眸。

額に紫の涙滴型の宝玉があった。それが三つ目の瞳にみえる。


ハッキリ言おう。かわいい。魔物だけどカワイイ。とってもカワイイ。

小動物的な可愛らしさに神秘的な可愛らしさが相まってもうキャワイイ。


しかし全く見たことが無い魔物だ。

まあ夢だからそうだろう。


それは僕をジッと見て鳴いた。


「ナ!」

「な……?」


なんだそのナイフを連想させる鳴き声。疲れているからか妙な夢だ。


「ナ!」


うおっ浮いた。背中の翼と頭の耳の羽でうまくホバリングして浮いている。


「よく出来ているなあ」


しかし、白と紫……どこかで、うおっ!? 顔に着地して舐められた。


「こらこら、おおっ柔らかい」


冬場の毛布みたいな滑らかのある柔らかさだ。しかも生温かい。


「ん?」


舐められてもベタベタしていない。

そういえば、舐めクチャにされたのに濡れているだけで、しかも臭くもない。

夢だからか。


「ナ!」


僕を見て嬉しそうに鳴く。かわいいな。額の涙滴型の紫の宝玉が光る。

んんん? あの宝玉は、はて。どこかで……あ。


「……あ!」


僕はベッドから起き上がった。


「ナ?」


部屋を出て左の部屋に入る。

そこには一本足の丸いテーブルには―――なにも無かった。

白紫色のあの塊が無くなっている。


「……」


そこで僕はこれは夢じゃないと気付く。

あと巻物も全部無くなっていた。なんでだ?


「ナ!」

「……まあ、どう考えても状況的に……」

「ナ?」


これだろうなあ。僕に付いてきて、今テーブルの上に座っている。

ほぼ間違いなくあの白紫色の塊だろう、だよな。

生物だったのか。あるいは中に生物が入っていたのか。


「……卵だったのか」


いやでも殻とか欠片とかそういうの全く無い。あの塊がこれになったのか。

あの塊が生物だった? いや、そんな感じは全く無かった。

完全に無機質な物だったはず。


念の為にレリック【危機判別】をする。白だ。

一応、レリック【フォーチューンの輪】も使う。


このレリックは無機物専用だが反応なし。

つまり本当に正真正銘の生物ということか。ふうーむ。


あと巻物がひとつもない。この木箱の上に置いていた。

あの巻物はなんだったか。ええっと魔物の事が書いてあったような。


「ううーん。わからん」


なにもかもわからん。そう頭を捻ると腹が鳴った。急激に腹が減る。

そういえば食べずに寝てしまった。

とりあえず何か腹に入れるか。空腹だと頭が回らないからな。


「ナ?」

「なんだ。おまえも何か食べるか」

「ナ!」

「雑肉スープの残りとパン豆と、後は何があったか……干し肉か。漬物か」


買い物し忘れたからなあ。というか今は何時だ?

たぶん深夜だと思う。僕は部屋から出た。

見張り塔のある中庭からなら分か…………明るい。青い空!?


「えっ、いや帰るとき夕方近くだったよな……」


それで明るいってことはつまり、つまり……朝だ。


「たはぁー、どんだけ寝てたんだよ……」


僕は苦笑する。

前世の記憶でブラック企業に勤めていたときのことを思い出す。

15連勤で次の日が休み。終電間際に帰り家に入った瞬間、意識が飛んだ。

起きたら朝だったが、《《それは明後日の朝だった》》ことがあった。


次の日じゃないその次の日の朝だ。

そのまま会社に行くことになってしまい、それがあったから会社を辞めたのもある。


さすがに明後日は無いが、夕方寝落ちして次の日の朝は、13年間で初めてだ。


「ナ?」

「それはともかく魔女のところに行く前に飯を食おう」

「ナ!」

「……人語を理解しているのか?」

「ナ?」

「まぁいいか」


さて腹が減ってしょうがない。自分の部屋に戻り、面倒だがしっかりご飯をつくる。

しばらくして出来た。

野菜多めの雑肉スープ。パン豆。僕特製の黒豆茶。

それと一昨日シードル亭に行ったときに貰った新作の試食ソーセージ3本。


これは茹でて食べる。後は、チーズの塊を軽く炙る。おっと干し肉を忘れていた。

洗い場の地下の貯蔵庫から取ってくる。


「……なんか肉が多い」


うーん。肉がダブついたな。

でも肉好きだし食べ盛りだし問題なし!


「ナ!」

「よし。食べよう食べよう。いただきます」

「ナ!」


いちおう同じのを別皿で用意してこの魔物っぽいのに与えてみた。

おお、食べてる食べてる。雑肉スープは子犬みたいにガツガツと食べている。

ただソーセージは器用に手にしてソセソセと咀嚼する。


良く見るとちっちゃい爪で5本あった。チーズも干し肉も爪で掴んで食べてる。

小動物いや小魔物的な食べ方に癒される僕。黒豆茶もコップで飲む。


ただ雑肉スープだけガツガツに食べる。

もうガツガツだ。なんでだよ。


「ナ! ナナ! ナーナー!」

「うん。分からないが、お代わりいるか?」

「ナ!」


ミネハさんほどじゃないがよく食べるなあ。

さて僕は食べ終わると着替えた。さすがに昨日のままっていうのは良くない。

汗臭いし。洗い場で軽く体を拭いて流した。


下着姿で、クローゼット備え付けの引き出しから黒シャツと白ズボンを出して着る。

クローゼットから黄色い上着を出して羽織る。

ジャケットみたいなヤツで黒い線が沢山入っていた。


ナイフ用のバトルベルトを巻いてナイフを入れて、いつものポーチを付ける。

ナイフ確認よし。準備良し。


「ナ!」


パタパタと飛んで僕を見ている。


「おっと忘れていた。こいつをどうするか」


まぁ連れて行くしかないだろうな。

ポーチはさすがに入らないから、確か使っていないバックがあったはず。


「ナ?」

「あった。これだこれ。えーと、入ってくれるか?」

「ナ!」


バッグの中にすんなり入った。くるまった姿、かわいい。

それにしても。


「やっぱり人語理解しているだろ」

「ナ?」


きょとんと、とぼける顔をする。かわいい。

仕方がない許そう。ようし。出発だ。




魔女の家の前。

意外なほどコイツは大人しかった。それもそのはずバッグの中で寝ていた。


「のんきだなぁ」


くすっと思わず笑ってしまう。

呼び鈴を鳴らすと、魔女がドアを開ける。

いつもの黒いちょっと露出がある服装で出迎えてくれた。


「はいはい。ウォフ少年。いらっしゃいだねえ」


魔女はニコニコだ。大きな狐耳はピンピンで三つの尻尾が仲良く並んで揺れている。

妙にご機嫌だ。


「なにか良いことがあったんですか?」

「ほうほう。さすがはコンの弟子。よくよくわかったねえ」

「それはまあ」


耳と尻尾が教えてくれるし、魔女もいつもよりマシマシな笑顔だ。


「おやおや。そのバッグはなにかねえ。珍しいねえ」

「ああ、これはその」

「ナ?」


ガサっとバッグが動いて鳴いた。

魔女は目を見開く。


「えっえっ、ウォフ少年。いまバッグが……蠢いた気がするねえ」

「それも含めて話します」

「うんうん。色々とありそうだねえ。さあさあ、中へどうぞだねえ」


魔女の家の居間へ通される。

まあ、いつもの居間だ。相変わらず色々とごっちゃでもう慣れた。


いつもの赤いソファに座り、いつものテーブルの上にバッグを置く。

そして魔女がいつものハーブティ……えっ持ってない。


その代わりに黒いプレートを手にしていた。あれはレリックプレート。

テーブルの上に置く。魔女は僕の対面に座る。


「さてさて、まずはコンから話そうかねえ。このウォフ少年のレリックプレート。そこに込められているレリックが判明したねえ」

「ほ、本当ですか!」

「うんうん。このレリックプレートにあるのは【刀剣化】だねえ」

「【刀剣化】……ですか」


聞いた事が無いがどんなレリックかは分かる。

刀剣化するんだろう。きっとそうだ。


「これはこれは、とても珍しいレリックだねえ。その効果はずばり刀剣化するねえ」

「それはそうですね」


そうとしか言い様がない。


「まあまあ、でもでも、ねえ。コンも初めて見るレリックだからねえ。ウォフ少年は疑問に思わないのかねえ」

「なにがですか」

「それはそれは、レリック【刀剣化】は変化系なのかどうかだねえ」

「変化……ですか」

「ふふ、ふふ、生身の身体が変化して刀剣になるのかだねえ」


愉快そうに魔女は目を細める。


「それって身体は大丈夫なんですか……」


うわぁー想像してグロいって思ってしまった。

魔女はニヤニヤする。


「たぶんたぶん。金属になっているから平気かもしれないねえ」

「……それって自分じゃ動けなくなってませんか」

「それはそれは、剣だからねえ。もちろん動けないねえ」

「……イヤだなぁ……」


素直に言うと魔女は声を出して笑った。なんだよ。嫌だろう。


「うんうん。でもでもねえ。ウォフ少年。もし、もしもしコンが刀剣化で剣に成ったら、そのときは扱ってくれるかねえ?」

「えっ、それは大切にしますよ」

「ではでは、いつも毎日コンだけを使って使って使ってくれるんだねえっ?」


言いながらテーブルから身を乗り出し、魔女が接近した。ちょっ、顔が近い。


「も、もちろんです。あっだからってプレート使わないでくださいよっ!」

「もちろんもちろん。ちょっと迷ったけど、さすがにコンは―――おやおや?」

「どうしました?」

「おやおや、おかしいねえ。レリックプレートが無い」

「えっ、本当だ」


テーブルの上に置いてあったはずのレリックプレートが確かに無い。

魔女がテーブルから離れると、ふいにバッグが落ちた。

落ちた? 立ち上がって見るとバッグの中身は空だ。ちょっ、アイツどこ行った!?


「ふむふむ。どこへいったのかねえ」

「どこへ……」


本当にどこへ行ったんだ。いやどこへ行くとかあるわけない。

周囲を見回す。

ん。なんか聞こえる。ガジガジガジガジ?


「おやおや、なんだろうねえ。妙な音が聞こえるねえ」

「いったいどこから……あっ!」


居た。テーブルの真上、宙に浮いて何か食べている。


「は? は? えっえっ、なになにっ、なにかねえ!? 魔物だねえ!?」


魔女は大いに驚いていた。耳も尻尾も総毛立つ。さすがの魔女も驚くか。

それにしてもなにを食べているんだ?

なんか黒くて四角くて側面が赤く光―――って、あれってまさか!?


「しかもしかも、レリックプレートを食べているねえ!」


そうアイツはレリックプレートを食べていた。というか食べ終わる。食べ終わった。

僕を見ると笑顔で元気よく鳴いた。


「ナ!」


そしてクルッと回ると姿カタチが変化した。

ボトッとテーブルの上に落ちたのは―――白紫色をした奇妙なナイフだった。

ウソだろ。


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