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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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101/284

タサンオブザリング④


ドヴァさんが優しい声で訪ねた。


「ああ、うん。それをどこで拾ったのですか」

「ダンジョンです。ちょっとワケありのダンジョンで、リザードマンの巣にありましたが……あの指輪がいったい?」


黄色の光でスーパーレアだったのは確かだ。


「あれはタサン侯爵家の者にとって大切な指輪なのです」

「そうなんですか」


そういえばジューシイさんも似たような指輪を持っていた。

似ているだけかなと思ったが、タサン侯爵家に縁があるモノだったのは予想外だ。


「おい。小僧。リザードマンの巣だと……」

「はい。落ちていたのを拾ったんです」


するとシェシュさんは寝転がる姿勢から正しく座り直した。

僕を鋭い眼つきで見る。


「拾ったか。小僧……探索者じゃないよな。雇い仔だったんだろう。なんで黙って持ったままだったんだ? 探索者じゃない小僧には所有権は無い。つまり窃盗だ」

「…………」

「シェシュっ!」

「ドヴァ姉は黙っていろ。おい。小僧。なんで雇い主に報告しなかった?」


僕を真っ直ぐ見つめてシェシュさんは言う。きつい言葉だが目線は睨んでいない。

鋭さもどこか安らいで、真剣に見ている。


「……軽犯罪にあたるのは認めます。報告しなかったのは忘れていたからです」

「あ? 忘れていただと……ふかしてんじゃねえだろうな」

「本当です。あのとき、指輪を拾ったとき僕は独りでした。拾おうと思ったのは苦労した駄賃代わりと考えていました。その後が色々あったので忘れていたんです」

「なんで独りだったんだ?」

「ダンジョンの異変に巻き込まれたんですよ。ランダム転移でバラバラに飛ばされたんです。だから全員が別れました」

「……ダンジョンの異変……」

「はい。黙っていて金銭にしようとしていたのは事実です」

「ああ、うん。確かにそうですけど」


ドヴァさんはシェシュさんを睨むように見ている。

シェシュさんは、笑った。


「―――まっ、報告していたら取られていただろうな。そうするともっと面倒なことになっていたかも知れねえ。小僧、よくやった」

「……僕を罰さないんですか」


呆気にとられる。正直、覚悟した。

それだけの出来事がついさっきあった。

ほんのちょっと照れた顔でシェシュさんは言う。


「最初からそんなつもりはねえよ」

「シェシュちゃん……っ!」

「おい。おまえ今なんて言った……?」

「シェシュさんですが?」


しれっと誤魔化す僕。やべっ、つい。

シェシュさんはジッと僕を見て、舌打ちした。


「チッ…………それと軽犯罪は確かだが、小物程度なら黙って持っていても罪になんねえんだよ。いちいちそんなんで捕まえていたら手間しか掛からねえ。罰金だって蟻の小便みてえなもんだ」

「シェシュ! 仮にも侯爵令嬢がそんな言葉を使うのは許しませんよ」

「仮にもじゃねえんだが」

「まったく、あなたというひとは……ウォフさん。ごめんなさい」

「あっ、いいえ。元は僕が悪いんですから。小さくても悪事は悪事です」


そう。例え小さくても罰せられなくても悪事だ。

僕はピエスみたいにはならない。しかし所有権は探索者のみ―――探索者か。


「ふーん……小僧。名前は?」

「名乗りましたが」

「おれは聞いてねえ」

「ウォフです」

「覚えた。ひとつ聞きてえ。なんであの指輪をガウロにくれてやったんだ?」

「……たまたまです。たまたま忘れて持っていて、たまたまガウロさんに挨拶したとき、子供たちのご飯代の事を思い出したんです。それなら足しになるならって思って、あげたんです」

「ああ、うん。たまたま……ですか」


ドヴァさんが微苦笑する。特に深い理由は無かった。

あの場であげようとしたのもたまたまだから。

するとシェシュさんがニヤっと口の端を曲げた。


「……なぁ、ドヴァ姉。謝礼低すぎねえか」

「シェシュ? 400万オーロじゃダメだというんですか」

「400万!?」

「元々指輪の価値からすれば安すぎだろ」

「ああ、うん。それはそうですが……何か考えがあるんですね」

「おれに任せてくれるならうまくやる」

「……えーと僕は400万でも」

「ああ、うん。わかりました。シェシュに一任します」


なんか勝手に決められて、400万が消えた気がする。

シェシュさんは言う。


「ウォフ。これからちょっとしたゲームをするぞ」

「ゲーム……?」


なにする気なんだ。シェシュちゃん。


「簡単だ。おまえが見つけた指輪。それが一体どんなモノで、どれだけの価値があるか当てるだけだ」

「シェシュ?」

「難し過ぎませんか……」


おいおい。無理ゲーか。


「慌てるなよ。ちゃんとヒントは出す」

「もし当てられなかったら?」

「当初の400万オーロを渡す」

「!?……当てたら……」


シェシュさんは意地悪く笑って答えなかった。

だが確実なのは、400万より凄いってことか。


「ああ、うん。シェシュ。どういうつもりですか」

「こいつは指輪を知る権利がある。一任したんだから黙って見ていろよ」

「……わかりました。黙って見ていますよ」

「じゃあまず一つ目のヒントだ」


言うなりシェシュさんはいきなり手をシャツの中に下から入れた。

そして何か掴むと引き抜いて置く。


下乳、見えそうだった。えってかノーブラ?

いやさすがにそれはないだろ。巨乳だぞ。


テーブルに置いたのは青銅製の指輪だ。


「これは……」

「おまえが見つけた指輪じゃねえ。おれの指輪だ」

「シェシュさんの?」

「そこの26歳も持っている」

「ああ、うん? なんで年齢で言ったんですかっ?」


ドヴァさん気の毒に……僕は確認する。


「えと、タサン侯爵家の者は全員が持っているんですか」

「ああ、ひとりを除いてな。そいつは男だから赤銅色の指輪を持っている」

「男は色が違うんですね」


ジューシイさんが出した指輪も同じヤツだったか。

そういえばあのとき、ジューシイさんは間違えて指輪を出した。


あれはえーと……あっ、タサン侯爵家の証だ。

それと間違えて思わず指輪を出した。この辺に答えがありそうだ。


「次のヒント。こいつは渡すもんだ」

「えっ、渡すんですか」

「そうだ。この指輪は渡す為にある」


ど、どういうことだ。

大切だけど渡すって意味が分からない。


「最後のヒントだ。指輪は黒月の騎士ルドトと光輝姫ニニヴァの関係だ」

「え?」

「黒月の騎士ルドトと光輝姫ニニヴァの関係だって言ってんだろ」


なにそれ。一番最後に一番意味不明なのぶっこんできたぞ。

僕は抗議する。


「いやさすがに意味が分かりませんよ」

「もうヒントは出した」

「いやいやこんなの」

「ああ、うん。それって巷で有名な恋愛小説のキャラですよ」

「恋愛小説…………」


シェシュさんがどうしてその恋愛小説のキャラを知っていたかはさておいて。

整理しよう。


ひとつめはタサン侯爵家の者は皆、持っている。

ふたつめはこの指輪は渡すモノ。

みっつめは指輪を渡すのは、恋愛小説のキャラの関係。


黒月の騎士ルドトと光輝姫ニニヴァ。黒月が男で姫だから女だろう。

恋愛小説。男と女で関係だから恋人同士だと推測する。違ったら猛抗議だ。


ひとつめはタサン侯爵家の者は皆、持っている。

ふたつめはこの指輪は渡すモノ。


みっつめは指輪は恋愛小説のキャラの関係。恋人同士。

つまり指輪を渡す関係は恋人同士。


恋人同士で渡す指輪。それって……。


「婚約指輪だ」


僕がぼそり呟くと、シェシュさんはニヤリと笑って犬歯をみせる。


「正解だ」

「ああ、うん。おめでとう」

「どうも……いやいや、最後のヒントが酷すぎますよっ!」


なんだあの暗号文以下みたいなの。電波かと思った。そんなの分かるか。

シェシュさんはムッとした。


「あ? しゃあねえだろ。よく考えてそれぐらいしか思いつかなかったんだよっ」

「大体、指輪の真価を僕が知ってても意味ないですよ」


このひと。ただ遊びたかっただけでは疑惑が浮上する。

ジューシイさんといい。どうなっているんだタサン侯爵家。


それにしても婚約指輪か。それをタサン侯爵家の女性陣が全員持っている。

なんともロマンチックな話だ。ということはシェシュさんも持っているわけか。

へえー。


「拾ったんだ知っておけ。ちなみにその指輪は祖母のモノだ」

「えっ、お祖母さんですか」


それはまた驚いた。


「祖母が探索者をしていたときに落としたモノだ。昔、祖母が話してくれた失敗談に出てきた。その指輪だ」

「ああ、うん。まさかその実物をお目に掛かれるとは思いませんでした」

「それはそれで良かったです」

「祖母の元へ送ったから近日中に届くだろう。さて勝者の権利だ」


それだそれ。待ってました。

400万オーロよりも価値のあるモノ。黄金のナイフとか?

いやでもそれって切れ味とかどうなんだ?


シェシュは胸元に手を入れ、一枚の青いカードを取り出した。

あのシャツの中どうなっているんだろう。興味がある。


「これはタサンエンブレムカード。おれ名義でタサン侯爵家の力を一度だけ使うことができる行使権利のレガシーだ」

「シェシュっ!?」

「え」


青いカードには、タサンの紋章が黒く浮かぶように彫られていた。

小さな狼を抱いたフードを被った少年の上半身。

少年の上には古代文字でタサンとある。

カードの裏側にはシェシュの名前が刻まれていた。


「何かどうしようもなく困ったことがあれば、このカードを手にして、こう唱えろ。【タサンの祝りよ】―――これでタサン侯爵家の力を一度だけ使える」

「タサン侯爵家の力……」


よく分からないが、なんだか凄いことだけは理解した。ドヴァさんが呆れる。


「ああ、うん。シェシュ。あなたっていうひとは」


シェシュさんは目を閉じ、ゆっくりと開けた。


「―――ただ偶然に指輪を拾ったとしても、それを善行に使うよう善なる者に渡したことは、誇りある立派な行いだ。こうして指輪は数十年ぶりにタサン侯爵家に帰還できた。その報酬として、タサン侯爵家の力の行使を一度でも与えるのは、タサン侯爵家の者として当然の行為である―――っだろ領主代行代理どの」


おお、それっぽい理由。ドヴァさんは溜息をつく。


「ああ、うん。わかりました。一任もしたので好きにしてください」

「というわけだ。ウォフ。受け取れ」


そうカードを勢いよくテーブルに滑らせて僕の元へ渡す。


「は、はい。ありがとうございます……」


僕は複雑な心境でタサンエンブレムカードを手にしてポーチに仕舞った。

確かに凄いものだけど、400万より遥かに上なのは理解するけど。


400万が良かったです。なんかよく分からないのよりゲンナマが欲しかったです。

硬貨だけど。さすがにそれは言えないので、これでいいか。

あっそうだ。忘れるところだった。


「ひとつ聞きたいことがあるんですけど、いいですか」

「あ? なんだ」

「質問はドヴァさんにです」

「ああ、うん?」

「なんで送り迎えのときメイドなんて偽装やっていたんですか」

「……あ、ああ、うん」

「おまえ。そんな馬鹿なことやっていたのかよ」

「……ああ、うん」


恥ずかしくて顔を赤くし、声が小さくなるドヴァさん。

しかも僕が驚かなかったからスルーしようとしていたんだよなぁ。


「ほら答えてやれよ。領主代行代理26歳」

「せめて名前で呼んでくれますかっ!」

「……」


『領主代行代理ドヴァ=タサン26歳』


うーん。なんかあれのタイトルみたいにだな。

でも僕、子供だからよく分かんない。

ドヴァさんは顔を真っ赤にしたままぽつりぽつりと言った。


「ああ、うん……その、サプライズ…………的な」

「…………は、はあ」


うん。しょうもない理由だった。


「お、おまえ……」

「ああ、うん。ドヴァも馬鹿だと思いました。浮かれていたなと思いました」

「浮かれていたんですか」

「なんでテンション上がってんだよ」

「……十代の……男の子と話をするのが……とても久しぶりだったんです……」

「ええぇ……」

「ええぇ……」

「……ああ、うん。だからメイドになって……でも恥ずかしいこと……つい話して」

「ああ、うん」


あれは確かに恥ずかしい。

ドヴァさんは耳先まで真っ赤にして両手で顔を隠して身悶える。


「……おう。ウォフ」

「はい?」

「その、なんか悪りぃな……」


シェシュちゃんに謝られた。

そうして僕はなんだかこう煮え切らない気分で部屋を出た。


「あのあの、ウォフ様! わんっ、ご苦労様です!」


メイド姿のジューシイさんが走り寄ってきた。尻尾ぶんぶんと風を切る。

見上げる瞳はキラキラとして僕をまっすぐみつめる。ああ、犬だ。

なんかそこまで喜ばれると、つい彼女の頭を撫でてしまう。


「出迎えありがとうございます」

「わふっ? あのあの、嬉しいです!」


うーん。圧倒的実家の犬感。っといかんいかん。

撫でる手を止める。恍惚顔からハッとするジューシイさん。


「すみません。つい」

「あのあの、撫でられるの好きなのでとっても嬉しいです。わんっ。お送りします! あの、ウォフ様。こちらです!」


ジューシイさんの案内に付いていく。お耳ぴくぴく、尻尾ぴょこぴょこ。可愛い。


「あのあの、お婆様の大切な指輪を見つけてくれたのは、わん。ウォフ様だったんですね」

「そうみたいです」

「あの、わんわん。恩人様です! お婆様。とても喜ぶと思います。お爺様に渡したのは急遽作成した複製の婚約指輪でした。だからそれだけが心残りだったんです」

「無事に渡せて良かったです」

「わん。あの、この婚約指輪はタサンの女の誇りなんです」


ジューシイさんが青銅色の指輪を懐から取り出す。


「とても大切なモノなんですね」

「はい。あの、とっても大切なひとに、わんっ、渡すんです。あたくしも」


愛おしそうに婚約指輪を撫でて仕舞う。そして僕を見て微笑んだ。

こうして僕は屋敷を出た。


馬車で家に送ってもらう途中、あの路地裏に寄ってもらった。

ナイフを回収しないといけない。ところが路地裏に続く細道の前に衛兵がいた。


他にも周辺に無数の衛兵が忙しなく動いていた。

ああ、封鎖されている!? なんでだ。衛兵に尋ねてみた。


えっ、周辺に異様な黒雲と落雷? 裏路地の悲惨な有様? 

少年ふたりと中年ひとりの目撃例。あーはい。はい。なるほど。わかりました。


うん。無理だ……諦めるしかない。

ああ……ナイフ、シンプルなカタチのナイフ…………ぐすん。帰路へ。


二度目の到着。

もう辺りは薄暗くなり日が沈む頃になっていた。

馬車の御者に礼を言って今度こそ家に入る。


疲れた。ああ、もう……今日はホント色々ありすぎて疲れた。

部屋に戻るとベルトとポーチを外して机に置いて、ベッドに倒れた。

ごろんっと仰向けになる。


「あー腹が減った。まずはなにか食べてから…………」


パスタ……ナポリタンが食べたい。いや味噌ラーメンにしよう。

味噌は街中華が…………――――――Zzzzz……ZzzzzZZzzzzZzzzzZZzzzzzz。








「………」

「んー……むにゃむにや……ナ」

「ナ」

「……ナ、ナイフ……それは嘘だろ……ナイフがまた……」

「ナ?」

「魔女……ナイフが……なんで……またせっかく……ナイフが……パキラさん……」

「ナ!」

「えっ……ジューシイさん? あ、あの……ナイフは……なんでそんな……真っ裸で首輪して笑顔で……ハッ、ナンデ全裸!??」


何で裸!? ぺろ、ぺろぺろぺろぺろぺろぺろっっっっっ!!


「や、やめっ、ジューシイさん! いきなり顔を舐めるのは!」


ぺろぺろぺろぺろぺろぺろろろぺろろろっっっっ!!


「やめっやめってやめてっ! やめえっっっ!!」


がばっと僕は起きた。そこですぐに気付く。顔が濡れている……?


「えっ、あれ、なんで……?」

「ナ!」

「え」


なんか、フワフワしたものが目の前にいた。

ふわふわしている。


ふわふわ。え?



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