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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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タサンオブザリング③


なんなんだと見ていると、馬車から誰か降りてきた。

メイド? メイドだ。白黒でお馴染みのメイド服を皴一つなく着こなしている。


腰下までスラリと流れる銀の髪。冷静な緑色の瞳。褐色の肌で耳が尖っている。

エルフ? それもダークエルフ!? ああいや、この世界、エルフはエルフだった。


凛として静寂な佇まい。クール系の褐色美人エルフメイドだ。オーラが違う。

僕を見た。なんだろうその瞬間、誰かに雰囲気が似ている気がした。


ああ、レルさんだ。銀髪でエルフだからか。

僕を見た。微笑む。


「ああ、うん。君がウォフ様ですか」

「えっと、ウォフです。はい」


話しかけて来る。僕を知っているのか?


「それでは乗ってください」

「いやいや、あの、なんで?」


ちょっと、どういう流れだ。

メイドさんは咳払いする。


「こほん。ああ、うん。説明していませんでした。ドヴァはタサン侯爵家の使いの者です。ウォフ様をお連れするように領主代行代理のド……の命で参りました」

「タサン……!?」


僕は戦慄した。ま、まさか。ジューシイさんのことがバレたのか。

昨日の今日でバレてしまったのか……!?


「ああ、うん。どうかしました?」

「いえ……分かりました。乗ります」


僕は覚悟を決めて乗車する。

車内は思ったより広かった。黒いシートの長椅子が向かい合っている。


4人か。詰めれば6人は座れそうだ。恐る恐ると僕は座る。

向かいにメイドが座った。ドアが閉められて馬車が出発する。


「これから、どこに向かうんですか?」

「中央の貴族街です。ああ、うん。ボレー伯爵の別邸です。タサン侯爵はハイドランジアに別邸が無く、タサン派閥の筆頭のボレー伯爵の別邸をご厚意によってお借りしているのです」

「そ、そうなんですか」


中央貴族街。豪邸ばかりがある特別区。

僕みたいなのが縁あるわけがなく、行くのは初めてだ。

まさかそこに行く事になるとは。


「……」

「……」


馬車、速い。窓から眺める景色。

まるで自動車から観る景色みたいだ。


「……」

「……」


馬車、さすが黒塗りの高級車。

黒いシートの長椅子のクッションにはスプリングが使われていた。

僕は思い出す。ハイドランジアに来るとき乗り継いだ乗合馬車は最悪だった。


座るのが何のクッションもない木の板。布を重ねて敷いて座っても効果が無い。

尻が死ぬかと思った。それに比べたらこの馬車の椅子は極楽天国だ。


「…………」

「…………」


それにしても、なんだろう。この空気。この緊張感。

すると向かいのクール系の褐色美人エルフメイドがいきなり言った。


「……ドヴァは26歳です」

「え?」

「ああ、うん。26歳の女ってどう思いますか」

「どうって……」

「ドヴァは結婚適齢期が過ぎてます」

「そ、そうなんですか」

「異性として、ドヴァ26歳はどう思いますか」

「13歳に尋ねるには重過ぎでは?」


僕は戸惑う。

いきなり何を言っているんだ、この褐色美人エルフメイド。

クール系が一気に無くなったぞ。ザンネンが付きそうだ。


「ああ、うん。焦っているとかそういうのではないんです」

「それならそれでいいのでは?」

「ただこの先、ドヴァは今のままで結婚できるかどうか不安なのです」


不安なのか。それって焦っているような。


「えーと、結婚はしたいんですか」

「ああ、うん。出来れば恋人が欲しいです」

「いないんですか」

「ああ、うん。いない、です」

「……美人なのに?」

「美人だからモテる。そうではありませんよ」

「ああ、うん」


僕は納得した。僕の周りの女性陣。美女と美少女だらけでも確かに恋人がいない。

だが、なんでだろう。探索者ってモテないのか。仕事柄なんだろうか。


結婚といえば魔女もして無―――あれは当然か。

そもそも恋愛という概念自体が無さそう。愛とか初めて知ったら泣きそう。

っとザンネン褐色美人エルフメイドが鋭い視線をする。


「ウォフ様。何故に納得したんですか?」

「知り合いの女性陣。美人ばかりなのに、そういえば結婚どころか恋人もいないなぁと気付いてしまったんです」

「ああ、うん………………そうですか」

「……はい」

「…………」

「……」

「……」

「……」

「…………」

「…………そもそも」

「は、はい」


まだ続くの、この話。そもそもなんなのこの話。

そしてまだ到着しないのか。中央貴族街は知らないんだよな。行く用事も無いから。


「そもそも、ドヴァには出会いが無いのです」

「あれでも執事とか男の使用人とか」

「ああ、うん。タサン家は女系ゆえに使用人の殆どは女性です」

「そうなんですか」

「はい。それにドヴァの普段は領主代行補佐。今は領主代行代理です。ああ、うん。確かに同じく独身の領主代行と一緒に派閥のパーティーなどは全て参加致します。タサン侯爵家はタサン派の派閥長ですから」

「そこで出会いは」

「ですがパーティーは『仕事』です。出会いの場ではありません。それにドヴァの立場的に言い寄ってくる男は居ないのです。もっとも、言い寄られてもドヴァに対してふさわしくなければ丁重にお断りします」

「……」


普段は領主代行補佐やって今は領主代行代理? はて妙だな?

僕を呼んでいるのは領主代行代理だよな? 


このザンネン褐色美人エルフメイド……本当にメイドなのか。

メイドを偽っているんじゃないか。だが何の為に?


なんとなくサプライズ的なしょうもない理由な気がした。

段々とタサン侯爵家がどんなものか分かってくる。


ふとレルさんが話すどうしようもない姉妹に似ているなと思った。

まさか、ね。


貴族だから奥さん沢山いて子供が多いのは別に珍しくないだろう。

この世界の貴族よく知らないけど。

貴族って大体、子供多くて遺産相続で揉めたりするイメージが強い。


そして屋敷に着いた。おお、三階建ての真っ白い豪邸だ。

ボレー伯爵の別邸か。これで別邸なのか。凄いな貴族。


入って二階の部屋に案内された。ここで待機するよう言われる。

そういえばこの屋敷にジューシイさんも居るんだよな。

今頃、なにをしているんだろう。


「……」


待っている間、退屈だったので買ってきたナイフを確認することにした。

ちょうど一本足の丸い高そうなテーブルがあったので、使わせてもらう。


ナイフは全部で3本だ。

まず最初の1本目はシンプルな……あれ、1本目は?…………あれ、ない? 

なんでないんだっ? あっ、ああっっ!? 思い出した。


裏路地で……あのとき感電したとき落として拾っ……拾っていない。

あの戦いですっかり忘れていた。

火花は出たが刃は折れていなかった。つまりまだ使える!


「…………………」


帰りに探しに行こう。絶対に行こう。


2本目。片刃で上向きに曲がった変な刀身のナイフ。

柄は革を巻いていて頑丈だ。

刀身は分厚く上向きに曲がり、よくみると三角形になっていた。

握り手は柔らかく、少し重い。ソードガードが変わっていて四角い。


「変なナイフだな」


普段使いに向いてない。戦闘用だ。

さて最後の三本目。ソードガードが無く、柄が長い真っ直ぐに伸びたナイフ。

そう刀身よりも柄が長い。しかも色は黒だ。素材はなんだろう。表面が滑らかだ。


青色の鞘から抜くと、その刀身はギザキザだった。

まるで小さい三角形を繋げたみたいに変な刀身。直感する。


「これオーパーツじゃないのか」


だとしても何も感じない。どうやら適応するレリックは僕に無いみたいだ。

オーパーツに適応するレリックがもしあったならばだ。

オーパーツを見た。あるいは手にしたときすぐ分かると聞く。


だが何も感じない。ならば僕にとってこのナイフは単なるナイフだ。

これも戦闘用だな。


「うん。どれも悪くない感じだ」


5万は決して安くないが、それだけの性能という保証がある。満足だ。

満足だが、はあ、帰りに絶対探しに行こう。


こういうときの為に買ったナイフ用バトルベルトに僕はナイフを仕舞った。

最大十本もナイフを収められるが、そんなに居る?


仕舞ったそのタイミングでドアがノックされ、返事をすると開かれる。


「あの、失礼します。お客さ……ウォフ様!?」

「ジューシイさん!?」


ドアを開けた先にメイド姿の狼人族の黒髪の美少女が驚いている。

僕も驚いた。ジューシイさん!?


まさか、いや、タサン侯爵家に呼ばれたから居るのは別におかしくない。

だけどメイド姿なのは驚いた。それに雰囲気がどこか違う。

彼女は驚きつつも口を開いた。


「あの、ウォフ様がどうしてここに……いるのです?」

「帰ったら馬車があったんです。タサン侯爵の領主代理代行が会いたいということで、馬車に乗ってここに来たんですよ」

「あのあの、あたくし。昨日の事は何も話していません! ミネハちゃんが協力してくれて、うまく部屋に入れたので誰にもバレていません。バレてないはずです!」


これも驚いた。彼女のことだ。うっかり家族に話してしまったかも知れない。

そう思っていたが―――用件が違う? だとしたら僕に何の用なんだ?

それも疑問だがもうひとつの疑問を僕はジューシイさんに問う。


「どうしてメイド姿なんですか」


メイド姿のジューシイさん。

着ているのは先ほどのザンネン褐色美人エルフメイドの衣装とほぼ同じだ。

白と黒を基調とした格式高そうなメイド服。カチューシャもしっかり付けている。


どこに出しても恥ずかしくない立派な美少女わんこメイドだ。


「あのあの、これは、あたくしがハイドランジアに同行する条件なんです。メイドになってふたりに仕える。そうドヴァ姉さまとシェシュちゃんと約束したのです」

「シェシュちゃん?」


可愛い名前だけど言い辛いな。シェシェとかシュシュとか言いそうだ。


「あの、はい。あたくしの姉ですが、とっても可愛らしい方です!」


へえー、ゆるふわ系かな。今までにいないタイプだ。


「……ドヴァって、ひょっとしてザンネ……26歳の褐色美人エルフ?」

「わんっ、はい。そうです! あのあの、ヴォフ様。どうしてドヴァ姉さまを知っているんです? しかもご年齢までピッタリです!」

「ひょっとして領主代行代理ですか」

「わんっ、その通りです!?」


ジューシイさんは栗色の瞳をキラキラさせて尻尾をぶんぶんっと振る。

尊敬の眼差しという態度。

ああ、その様子。前世の記憶の実家の犬が、じいちゃんに見せていた態度だ。


それと、その領主代行代理。

何故かメイド姿でついさっきまで馬車の中で何故か結婚話していたんだよなぁ。

それもほぼ愚痴みたいな感じで、いやホントなんでメイド姿だったんだ?


「僕を呼びにきたんですよね」

「わふっ? あっそうでした! あの、失礼しました。すぐご案内します!」


ジューシイさんはドアを開けて僕を角の部屋に案内する。

そのときは尻尾を振らず澄ました顔で、いかにも出来る美少女メイドだ。

部屋をノックする。


「ああ、うん。入ってどうぞ」

「あ?」


ついさっき聞いた声とドス効いた低い女性の声がした。

僕は不安になる。


「あの、失礼します。ウォフ様をお連れしました」


ジューシイさんがドアを開ける。


そこに居たのは、ふたりの美女。

ひとりは、メイド姿から白いスーツに着替えたザンネン褐色美人エルフ26歳。

何故か左目に片眼鏡モノクルをしている。


とても高級感溢れる執務机に座っていた。

ドヴァというのは名前だったみたいだ。一人称が自分か。リヴさん以来だ。


もうひとりは……荒々しい美女だ。

赤いメッシュが目立つ短く荒々しい金髪。黒い角。フォーンだ。

フォーン……か。青い瞳で眼つきがゴロツキみたいに鋭い。

小柄な顔立ちで、右耳と左耳にピアスを三つずつしている。


こぼれるような山盛りの歪曲が更に目立つ赤黒いシャツ。


左脚が剥き出しになったジーンズっぽいズボンを履いて、腰に鎖を巻いていた。

ソファを占領するように行儀悪く寝転がっている。


傍らには二振りの剣があった。ロングソードとサーベル? 変な組み合わせだな。

僕を一瞥すると身体を起こす。胸が揺れた。巨乳だ。

魔女よりやや小さいか。それでも巨乳だった。

僕はちらりとドヴァさんの胸を見る。うん。比べても巨乳だ。


「それでは、あたくしは失礼致します」

「ああ、うん。ジューシイ。ご苦労様」


会釈してジューシイさんは退室した。

なんか別の犬を見ている気分だ。


「ふわああぁっ」

「シェシュ。客人の前でみっともないですよ」

「えっ!」


僕は思わず声を上げた。大あくび後に僕を睨む。


「あ? なんだ。小僧」

「……シェシュさん?」

「ああ? なんかおれに文句でもあんのかよ」

「いえ、文句は」


これが《《シェシュちゃん》》? 可愛らしい?


「シェシュ。黙りなさい」

「チッ……」


苛立ったようにドカッとテーブルにカカトを叩きつける。

うわぁ……たまにスラムで見かけるイキりチンピラそのものだ。可愛い要素どこ?


「ああ、うん。すみません。自己紹介を致します。ドヴァは、ドヴァ=タサン。領主代行代理として、ハイドランジアに来訪しております。こちらのスラムに居そうなゴロツキみたいなのは、ドヴァの妹で護衛をしているシェシュ=タサンです」


シェシュ=タサン。これが侯爵……令嬢? 貴族? これが? これで?

そして可愛らしさはどこ……ここ? シェシュさんは悪態をついた。


「ケッ……シェシュだ」

「は、はじめまして。僕の名はウォフです。ここハイドランジアで暮らしています」

「よろしくおねがいします」

「よろしくな。小僧」

「こちらこそよろしくお願いします。それで僕に要件とは?」

「指輪です。ガウロさんに渡しましたよね」

「……あっ、あれですか」


確かにあげたな。青銅色の指輪。

もうとっくに換金したと思っていた。


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