ウォフ13歳⑩
それなり気を付けて生活していたつもりだった。
でもいつかはこういうことも起きるだろうとは思っていた。
僕は自分が普通じゃない自覚はある。
そんなに大した事じゃないけど一応。
前世の記憶がある。前世の知識がある。
何故か同年代と比べて身体能力は高い。
前世の経験があるからか覚えも悪くない。
それからこれが一番脅威だろう。
四つもレリックを持っている。
どれも有能で、特に【バニッシュ】は危険だ。
だが更に危険なのは四つ目のレリックだ。
これでいえいえとんでもない。そんなんじゃないです。
ごく普通ですって謙遜は嫌味にもほどがある。
僕の力は自分が一番良く知っている。
だが完全に使えていると傲慢じゃない。
僕は自由に好きなように生きたい。
たまにゴミ場へ行って宝を見つける。
それをアリファさんのところで売る。
ちょっと高く売れたら少しだけ贅沢をする。
自分へのご褒美だ。それが今の生活。
この生活を続けていきたい。
1年後に探索者になる。
それでも似たような生活を続けていきたい。
別に将来の夢で探索者になりたいとか、そういうわけじゃない。
探索者になるのは生活の為だ。大半がそうだろう。
第1級の探索者に成り上がりを目指すわけでもない。
英雄になりたいわけでもない。
地味でつまらない生活と思うひとは多いはずだ。
それでもこれがマイライフだ。
今も苦労はあるし生活も豊かじゃないが、それでも悪くない。
だから僕は決めていた。
もしこの生活を悪意をもって邪魔する者が現れたら。
その者の態度でどうするか決めよう。
そう。どうするか。決める。
僕には覚悟がある。
それはこの世界で生きていく為の決意と意志だ。
僕は大人しく彼等の言う通りに従った。
そして着いたのは路地裏の袋小路だ。
ここに連れて来られた想像ができて溜息をつく。
ボブビスがニヤニヤと汚く笑って話しかけてきた。
「おめええ。カネ持ってんだってなぁ」
「そうです。コイツ。数十万も持ってます!」
「それより、とっとと殺しちまいましょうっ!」
「殺して奪う!」
「ちょっと……殺すとか」
短絡的過ぎる。
穏やかじゃないな。
「うっせえぇぇ、てめえぇぇぇっっっ。この前はよくも!」
「ゆるさねええええっっっっ!!」
「今更ビビッても、おまえは死ぬんだよっ」
「ボブビスさん。いいんですか」
僕は冷静に尋ねた。
ボブビスが怪訝にする。
「なにがだ?」
「殺すとかいくらなんでもそこまでやります?」
「だったらカネよこせ。全部だ」
「もう一度だけ聞きます。僕を殺すんですか」
「あ?」
「んだてめえはよぉっっっ」
「ボブビスさん。もう殺してくださいよこいつ!」
「本当に殺すんですか?」
「うっぜえガキだなあぁ。もういい。死ね」
ボブビスは剣を抜き、火の球を僕に放った。
レリックか。当たったら焼け死ぬぐらいの威力はありそうだ。
確認した。警告した。最終通告も出した。
それなら仕方がない。
僕は火の球を消し、瞬時にボブビスの前に現れる。
バスケットボール大の【バニッシュ】で彼の顔から右肩まで撫でた。
その部分だけがごっそり無くなる。
血を噴いた肉の塊が、生々しい嫌な音をたてて落ちた。
「えっ……」
「へ……」
「な、ななっ、ぼ、ボブビス……様?」
3人が固まる。
その視線はボブビスだったモノに注がれる。
赤黒い肉の塊。お世辞にも綺麗とはいえないモノだ。
僕は彼等の方を向いた。
「うわあああああぁぁぁぁぁっつっっっ」
一人目が逃げようとした。
咄嗟に僕はナイフを投げた。
逃げる彼の背中に割と深く刺さる。
蛙みたいに倒れて動かない。それなら無視してもいい。
固まって震えている二人目のヤツの腹部を消した。
「ごぼおぉっっ」
血を吐いて崩れ落ちて死ぬ。
それから背中にナイフが刺さって動けない一人目を楽にする。
三人目は腰を抜かしていた。
号泣して過呼吸に陥って失禁する。
「た、た、た、たた、たたたた、た、頼む。た、頼む。悪がっだゆるじで」
「確認した警告はした。最終通告した」
僕は必死で命乞いする三人目の顔から頭部を消した。
勢い余って首が落ちる。目障りだ。
後は死体を消していく。
その前にボブビスの探索者のエンブレムを確認した。
「……ハッタリか」
第Ⅴ級だった。
呆れてエンブレムも無に帰す。
僕は見渡して、ぼやいた。
「悪意を捨てなかった」
この結末を選んだのは彼等だ。
僕には前世の倫理観がある。
人を殺すことはしてはいけない。
それは最悪の罪だ。
僕も好きじゃない。
いや人だけじゃない魔物だってそうだ。
殺すということに僕は一生、慣れないだろう。
だから殺さない選択肢は必ず残す。
それでもその選択肢を選ばなかったら、僕は眼を閉じる。
嫌でも……躊躇うことは無い。
前回、見逃したのは慈悲でもあった。
だけどそれが分からないのは、それでも牙を向くなら容赦しない。
甘さは時に自分を追い詰める。
そして死ぬ。
僕は死にたくない。
だから決めたなら覚悟する。
ここは前世じゃない。
僕はこの世界で生きているんだ。
あれから1週間が過ぎた。
彼等が消えたことは全く騒ぎにもなっていない。
まるで最初から居なかったかのように誰も気に留めていない。
それはそうだろう。
この世界で死んで気付いて悲しむのは友人と恋人と身内だけだ。
彼等には居なかった。それだけだ。
僕にも何もない。
守りたいモノはこの命だけ。
だから僕がもし死んだとしたら。
彼等と同じ誰も知らず覚えてなく終わるのだろう。
それは少し寂しいかもしれない。
悲しいかもしれない。
でもそれでいい。
それが僕の最期だ。望んだ終わりだ。
だからといってそう簡単に死ぬようなことはしない。
僕ウォフ13歳の日々はこれからも続く。
それなりに。




